第12話
時は少し遡る。
◇常春◇
人生の大半を親友として、盟友として過ごした友人達が旅立って行った。
もう二度と会うことのない旅路。
少なくとも今世では永遠の別れとなる。
「まったく、歳を取ると涙もろくなっていけねぇ…」
宮崎常春は片方だけ残った瞳から止め処なく涙を流しながら、友人達を見送った。
全員が異世界へと渡った。
この地球で全員が揃って再会することはもう決してない。
天文学的な回数の人生を繰り返したとのろで、常春が彼らと再会することは二度とないのだ。
いや、会おうと思えば会えるだろう。
しかしそれは再びその世界にイレギュラーを起こすということだ。
第0象限世界の裏側。
カリヤによって創り出された、全ての中心の裏側の世界。
数え切れないほどの鏡が埋め尽くすこの世界は、全ての世界と繋がっている。
今ならば旅立って行った友人達を追いかけることができるかもしれない。
しかし異世界飛ばされた彼らはすでに向こう側の神々、管理者の手に渡り、そちら側の輪廻の輪に合流していることだろう。
見つけ出すことは困難を極める。
まだ大海原の底に紛れた一粒の砂を見つける方が容易いと言える。
常人ならば半世紀と精神が保たないだろう。
しかし常春ならば。
4人の中で唯一万物の書と契約している常春ならばあるいは…。
踏み出そうと力を込めた足は、しかし、その場から動くことはなかった。
すでに常春は一度神々との契約を反故にしている。
それでもなお人の身で万物の書を宿し続けている以上、これ以上勝手な行動を取ることはできない。
「常春。最後はお前だ」
「分かってるよ。ったく、若気の至りで無茶しなきゃ、チャンスはあったかもしれねぇのによぉ」
「お前がした選択だ」
「分かってるって。それにこんな未来があるとしても、どうしても叶えたかったんだ。忘れちゃいない。けど、どうしたって後悔はあるんだ…」
「…………。新たに創られた世界の管理者が、魂を求めている」
「……そこがおれの転生先か」
「テストプレイのため、とことん染まった魂を必要としているそうだ。記憶のみを消した魂を」
「そうかい。どこに飛ばされようが一緒だ。こいつは、預かっていてくれ」
常春は本の形をした神器、万物の書をカリヤに手渡す。
カリヤはやや表情を変え、万物の書と常春の顔を交互に見た。
「どうせ没収するんだろ?ならお前がしっかり管理していてくれや。また会った時、返してくれりゃいい」
「……もう二度と会うことはあるまい」
「それはねぇよ」
「…………。」
管理者の言葉を飄々と否定する常春。
常春に未来は分からない。
しかし誰よりも不幸と幸運に愛された人生を歩んできた老人には、未来予知にも似た予感があった。
「またな」
ただ一言、そう言って常春は旅立っていった。




