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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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順調すぎる祭は、少しばかりの恐怖を与える

「あの人が、第2位⁉︎」

 ウォルレスのことを聞いて驚くフィリア。

「どうやって知り合ったのか、気になるところね」

「話が進まなくなりそうだから割愛するぞ?」

「一番気になるところをお預け……いい趣味してるわね」

「よく言われる」

 ティンダロス事件のこと、それをイギリスが問題視していること、その対処にウォルレスが来たことを話した。

「これ以上ないくらいの助っ人ね」

「そうだな。頼れる助っ人だ。不特定多数の人員を送り込むのではなく、信頼のおける個人を送り込んでくれたことはありがたい」

「誰が敵か分からないのよね?」

「まあな。敵組織も強大だからな。それを判明させるために、あいつや夢花に調査してもらっているんだ」

 夢花に関しては、しばらくは行動不能になるけどな。

 俺とフィリアが個人戦に出場するから、仕方ないな。

「私辞退しようか?」

「なんで?」

「調査を進める必要があるわよね?」

「そうだな」

「じゃあ辞退してくるわ」

「いや。今日の調査は終わりだから、そんなことする必要はないよ。急いでやっても、敵に気付かれて逃げられてしまう。何より重要なことは、調査していることを対象に知られないことだ」

 それを知られただけで、一気に危険性が増してしまう。

 ティンダロスなら殺さないかもしれないが、夢花とフィリアが調査している相手は、第四研究所の爆発から逃げた博士たちを殺したやつだ、その可能性は十分ある。

 慎重に動くべきところ。

「そう」

 俺たちは放送で呼び出され受付に行く。

「この対戦以降、あなた方は赤と闘わなくてはならなくなります」

 まあ、組み合わせを見ればそうなるよな。

 今勝ち残っているのは、俺たち2人を除けば緑のみ。

 青と緑の切り替わりは、緑の参戦と同時に行われたし、緑のほとんどがここで落ちるだろう。

 だからおそらくこれからは赤を相手にすることになる。

「紫、青の両名は、二階級以上離れてる相手と闘うことになりますので、2人でそのまま以降の戦闘に出場することができるようになりました」

「個人戦じゃなくなるな」

「能力に差がつきすぎれば、まず勝ち目はないでしょう。それでは退屈な試合展開になってしまうので、ここまで勝ち残っている点を考慮した上で、下された結論です」

 まあ、ここまで勝ち残るのには一つ上の階級連中を倒さなくてはならないからな。

 それだけの力があるものなら、2人で赤と同等くらいに闘えると、そういうことだな。

 実際は1人でも赤くらいなら倒せるんだがな。

 まあ、フィリアが一緒に来てくれるのなら、力を隠せるからありがたい。

「お前はどうしたい?」

「闘いたくはないわね」

「なら決まりだな。この先は2人で参加だ」

「了解しました。それでは、対戦相手はもう入場しておりますので、控え室にお進みください」

 対戦相手はもう控え室にいるのか。

 赤は別の会場ではまだ参加していない。

 そもそも今日は対戦がない。

 それでも来ているということは、俺たちが続けた勝利にこうなることを考慮して呼び寄せたんだ。

 赤以降の対戦表は明日の公開になっているから、呼べるやつを呼んでみて、対戦表は組み直してしまえばいい。

 さて、誰が来ているんだろうな。

 日溜が参加していないから、おそらく負けないだろうとは思う。

「いいの?2人で組んでいて」

 控え室に入るとそんなことをフィリアが訊ねてくる。

「構わない。どうせ今日の活動はもう終わりだ」

「明日からはどうするの?それとも今日ここで負けるつもり?」

「どうにもできない相手が出たら負ける。それまでは勝つ。負けてやるつもりはない。とりあえず明日は休憩になるな」

「き、休憩って……そんな悠長に構えていていいの?」

「いやぁ……ちょーっと面倒なのが来てるみたいでな。そいつがいなくなるまでは動かない方がいい」

 フィリアに納得してもらい、それからは試合の準備を進める。

 武器どうしようかとか考えているうちに時間になる。

 こっちは2人がかりだが、卑怯だとは思わないでくれよ?


『選手は入場してください』

 この声、委員長か。

『今回から、対戦相手との間に階級の差が開いているということで、派世、フィリア両選手はタッグで出場することになります。対するは階級赤、勝川(かちがわ)選手。人数不利ですが、階級赤でしたら倒してほしいところです』

 倒してほしいところですって、その台本、明らかに肩入れしてるだろ。

 倒されてやるつもりないからな!

『赤相手にどう立ち回るのかが見ものだね』

 やっぱり実が解説なのか。

『頑張ってもらいたいな。赤だからと、己の階級に胡座をかくことなく、負けても日々精進して次に活かしてほしいものだ』

『最初は派世選手に向けた言葉かなって思ってたけど、とんでもない手のひら返しだよ。もう勝つこと前提になってるもん』

 予想外のことを言い出したな。

 今の委員長の言葉が加わるだけで、意味合いが変わってくる。

 入場は済んだがなかなか開始されない。

 扉閉めろよ、それが開始の合図なんだから。

 と思っていると、扉から一振りの太刀が運ばれてくる。

 ああ、あれを待っていたのか。

『ようやく運ばれてきたか。これで試合を開始できるな』

 何かが口に入っているような話し方だ。

『私にも喋らせてほしいのさ!』

 輝咲(きさき)もいるのか。

『これでも食べて落ち着いてくれ』

『甘くて美味しいのさ』

『みたらし団子だ。解説も食べるか?』

『仕事中だから遠慮するね』

『真面目だな。私は食べるが』

 あいつら何やってんだ……

 いや、気にしていたってしょうがない。

 とりあえず、対戦相手だけ気にしていよう。

『扉が閉まったら試合開始です』

 俺は会場で棍棒を借りた。

 長く太さ均一でカーボン製のやつだ。

 太刀に対してこれというのは頼りないように思えるかもしれないが、剣は刃のある場所でしか攻撃できないというデメリットがあり、対して棍棒はどこでも攻撃できるため、その分小回りが効く。

 殺傷能力の高さは向こうが上だが、むしろそれは向こう側のデメリットとして機能する。

「お前、無能力者なんだって?」

 敵さんから話しかけられる。

 バカにしてるとか、そんな様子はないな。

「ああ」

「ここまで勝ち残るなんてすごいな。相当の努力をしたんだろうな。だから、そんなお前に敬意を表して、俺の全力で闘ってやる」

 太刀を手に持ち鞘を投げ捨てる。

 剣を活用した能力なのか?

 まあ、なんでもいいや。

 俺の棒術、見せてやろう。

「フィリア、勝つぞ」

「ええ」

 棍棒を体の周りで回して、かっこいい構えをとる。

 特別な意味はない。

 ただかっこいいからそうしてるだけだが、これでも相手への威嚇にはなる。

「すぐに終わらせてやる」

「そう簡単には決着つかないと思うぞ?」

「さて、それはどうかな!」

 扉が閉まると同時に駆け出す勝川。

 振り下ろしが早い。

 それじゃあ俺には届かない。

 それでも届かせる何かがあるのか?

 なんて、暗技で丸見えだが、暗技で躱してはいけないよなぁ。

 棍棒を振り、太刀の側面にぶつける。

 それで軌道が逸れる。

 ぶつかった衝撃で少しよろけてしまったから、それで続けて攻撃はできなかったが、こちらは2人、俺が攻撃できなくても、フィリアがいる。

 剣を鞘に収めたまま振り、勝川の背中にぶつける。

 加減したな、威力が弱すぎて大して通っていない。

「体を叩いた感触じゃないわ」

「見えない壁のようなものがある。剣もそれを纏っているみたいだ。見えている以上に攻撃範囲は広い」

 そんなことは当然気付いていたフィリアは、しかし知らなかったフリをする。

 当然だ。

 そうすることで、相手は能力に気付かれていないと思い込む。

 実際は能力の正体はほぼ掴めている。

「畳み掛けるぞ」

「了解」

 俺が連続で突きを繰り出すと、それを下がりながら躱す勝川。

 背後に回ったフィリアの剣を剣で受け止めた勝川は、俺の突きを体に受ける。

 硬い感触に弾かれた棍をその弾かれた勢いのまま体の周りを回転させて、リーチを伸ばしている剣を叩き落とす。

 武器さえ剥がせれば、倒すことは容易になる。

 武器の近くにフィリアが剣を振り下ろしたので、勝川はそこから離れるしかない。

 邪魔な剣はどけて置いてもらう。

 フィリアにアイコンタクトを送ると、それに頷き返して落ちている剣を拾い遠くへ運ぶ。

 勝川はそれをとりに行こうとするが、俺がその進路を塞ぐ。

 まさかここまでの実力だとは思っていなかったようで、その瞳は戸惑いに揺れている。

 しかし残念、すぐにプラン変更をする。

 ここらで降参してくれると助かったんだがな。

 まだまだ闘う気満々って感じだな。

 姿勢を低くして、今にも駆け出すような様子を見せる。

 違うな、これは仕掛ける準備段階だ。

 能力、その備えだろう。

 地面に両手を触れて、勢いよく駆け出した。

 普通に走るように腕を振り上げ、しかしその手に集まっているものにすぐに気付く。

 なるほどなぁ……

 ただ腕を振り上げたんじゃない。

 同時にその手に集まっていたものが放り投げられた。

 それは曲線を描き、俺に向かって落ちてくる。

 当然それを棍で打つ。

 真っ直ぐ向かってきていた勝川だが、俺がそれを攻撃するとは思っていなかったようで、止まろうとして足を滑らせ、後ろに倒れ尻餅をつく。

 俺が叩いたそれは破裂し、叩かれた反対側へと大量の土を撒き散らす。

 圧縮か。

 能力の全貌が掴めたぞ。

 空気を圧縮し壁にしていた、だから攻撃にあまり手応えがなかった。

 だが、よろけはしていたし、攻撃が全く通らないわけじゃなさそうだ。

 尻餅をついた状態から砂団子を連続で投げてくるが、それを全部叩き落としていく。

 ふむ、これ全部追い詰められた演技か。

 地面をこっそりと転がってくる団子。

 気付いている。

 それは勝手に破裂して、それまでとは比較にならない砂を巻き上げる。

「大丈夫?」

「ああ。助かった」

 フィリアに引っ張られてそのまま後退することでそこから逃れた。

 気付いていたが、自分で躱せばさすがに注目を浴びすぎるからな。

 親父にも目立つなと言われているし、力を過剰に見せる必要はない。

 そんな俺が個人の力で抜け出せば目立ってしまうというほどの高い土煙の立ち込める中、勝川は疾走し剣を拾うためにすぐ隣を抜けていく。

 空気を圧縮して壁にすることで、そんな中を抜け出したのか。

 使い勝手のいい能力だ。

「また剣を持たれたけど、これからどうするの?」

 またあの剣を落とさせるのか、それともこのまま勝ってしまうか。

 だがフィリアも、もう剣を落とさせる必要はないと知っている。

 能力を見るために丸腰にさせただけだからな。

「このまま勝つぞ」

「分かったわ」

 剣を取り戻した勝川は、どうにもここから勝つつもりのようだ。

「中々強かったが、まだ俺には勝てないな。来年の挑戦を待っている」

 剣を持てば勝てると、そう思っているようだな。

 それに、俺たちの攻撃が届かないとも思ってるらしい。

 たしかに俺たちが今まで見せただけの力なら、それで十分倒せるだろう。

 そんな推測で勝川は勝利を確信して、通常の身体能力では出せない速度で迫ってくる。

 後ろで圧縮した空気を破裂させ、自身を加速させているんだな。

 フィリアに視線を送ると、すぐに俺から距離を置く。

 あとは勝手に倒すための配置についてくれる。

 勝川は加速しその勢いを乗せた一撃を、大振りの一撃を振り下ろす。

 しかしそんなものが俺たちに当たるはずないだろう。

 これだけの勢いがついていれば、側面に当てて逸らすことはできないが、その剣を棍の上を滑らせて逸らすことができるんだよ!

 圧縮された空気と棍がぶつかる。

 当然逸らすことに成功し、まだ勢いの残っているその体を少し蹴り上げて、空中に軽く押し出す。

「下手したら人が死ぬな。だから初めから少し逸らして仕掛けてきた。だが、それが仇となったな」

 空中、身動きのとりづらいそこでフィリアの振り回す剣が何度もぶつけられる。

 圧縮した空気を解放して、それに体を押させてさらに上方へと逃れた勝川。

 身動きが取れないものだと思っていたが、そんなことはなかったな。

 まあ、もう終わりだけどな。

 フィリアにばかり注意を向けていたから、今俺がすることには気付けない。

 くらえ!投げ棍棒!

 それが俺に向けていた勝川の背にぶつかる。

 どうよ、独学の棒術は?

 勝川、その手を離れた剣、それぞれが落下してきて、そんな落下する勝川を明確に捉えて準備していたフィリアが、剣の位置からズレて構え直す。

 落下してきた勝川にフィリアは、八田月の動きをマネた俺の動きを写した、回転して威力を上げ続ける動きを使い、タイミングを合わせて剣をぶつける。

 能力の防壁がなければ死んでいるであろう、そんな高火力の一撃に、体を吹き飛ばされた勝川は、地面を何度か転がり俺の足下で止まる。

 よろめきながら立ち上がろうとするそいつの側頭部、そこを程よい加減で殴って気絶させる。

「お疲れ様」

 届かないが労いの言葉をかける。

 これはさすがに、相手が悪かったとしか言いようがないな。

「広人」

「ああ。気絶させた」

「私たちの勝ちね」

 ハイタッチして勝利を見せつける。

『勝者、派世、フィリア選手』

『まさかの結果?なのさ〜』

 いやそこ疑問にしたらダメだろ。

『見事な闘いだったね。あそこまで棍棒を投げるなんて、あの体のどこにそんな力があるんだろう……』

『フィリアの能力が強化能力だとか、そんなところだろ』

『2人は息ぴったりだったね。打ち合わせでもしたのかな?』

『同じユニットだからな』

『え⁉︎嘘⁉︎』

 委員長、勝手に個人情報ばら撒いてるけど、俺が注目を浴びるようなことしないよな?

 まあ、そんなことより俺たちは退場だ。

 医務班が担架を運んできたので、俺は彼らを手伝い、勝川を担架に乗せる。

 フィリアが持って来た剣を最初に剣を運んできた運営委員に渡し、棍棒を拾って俺たちが入ってきた方の入り口へと向かう。

『しかし、見どころ満載の闘いだったね』

『そうだな。フィリアと派世広人の連携が凄かった。片方がうまく注意を引きつけて、その間にもう1人が相手のとるであろう手段への対処にあたる。信頼があるからこそできる連携だ』

『これ解説の私いらないね』

『見事な棒術だが、それよりも恐ろしいのは戦術だ。武器を落とさせたのは、相手を丸腰にして能力の詳細を確認するためだったんだろうな』

『うん。これ私いらないやつだ。それじゃあ私は、今回活躍した派世選手フィリア選手の両名にインタビューしてくるね』

『私も行くのさ〜』

 インタビューに来るらしい。

「うーん……インタビューかー……」

 乗り気じゃなさそうだな。

「よっぽど変な質問はしてこないと思うがな」

「それでも気乗りはしないわね。新人類のことは隠さないといけないから、実力について聞かれたら終わりよ」

「そんなもの、日々の鍛練とでも言っておけばいい。紫の俺がそれで説明している以上、それで説明するのは不自然じゃない」

「それで納得してくれるのか……?」

「する。させる。問題はない」


「インタビューに来たんだけど、2人ともいる?」

 ノックの後に実の声が続き、俺はそれに応えるように扉を開ける。

 ユニット用の控え室を使っている俺たちは、広い室内に実を迎え入れる。

 後ろで待機していたカメラさんとマイクさんが入る前に扉を閉めて、すぐに言うことを言って扉を開ける。

 実にはあまり深掘りしようとするなとだけ言ったが、多分その通りにしてくれるだろう。

 しっかりと頷くのを確認した。

「いきなり閉めないでくださいよ」

 そうカメラさんが笑って言う。

 実が来るだけだと思って閉めたら、実はカメラや音声も来たと、それで誤って閉めてしまったと思っているようだ。

 まあ、またすぐに開けたからな、そう思い込んでくれるように。

「それではインタビューさせてもらいます。本日の対戦はどうでしたか?」

 実がマイクを受け取ると、まずそう訊ねてマイクをこちらに向ける。

「初戦から上位の階級が相手だからな。ポイントがうまい対戦だった」

「勝てる自信はあったということですね」

「まあ、青は能力があろうとなかろうと、体さえ鍛えていれば勝てる相手だしな。緑も意外にそれでどうにかなるものだ。そうなると、やっぱりポイントがうまいな」

 生徒が出場し、戦闘に勝利した場合、その生徒が通う学校にポイントが入ることになっている。

 そのポイントは個人戦においてはクラス単位でつけられ、最終的にその合計が高いクラスにはいくつかの特典が渡される。

 狩人(ハンター)雇って合宿に行くとか、そのクラスポイントに応じた何かしらの支給を申し出ることができるとか、本当に様々な恩恵がある。

 まあ、俺が欲しているのはその中に含まれるものではないが。

 なにせ、担任の給料アップ、これが俺の欲しているものだからな。

 これはクラスが活躍すれば勝手に付与される。

 八田月の家を(仕方なかったとはいえ)破壊してしまったんだ、その分はなんとか返そうとするさ。

 これなら現金を受け取らない八田月でも、受け取ってくれるだろうからな。

「フィリア選手はどうでしたか?」

「わ、私?私は、そうね……うん。日々の鍛練を実感したわ」

「その鍛練の結果、赤を突破したと、そういうことですね。あの闘いは見事でした。それでは最後に、明日への意気込みをお願いします」

「相性が悪い相手と当たりませんように」

「まさかの神頼み⁉︎」

「ということで、個人戦初日のインタビューでした」

 落とし所を作りインタビューを切り上げさせる。

 空気を読んでくれて助かった。

「お疲れ様でーす。実さん。初日の打ち上げこれからどうっすか?」

「すみません。家事が溜まっちゃってるので……」

「そっか。そういえば一人暮らしだったっすね。それじゃあうちらはここらで失礼しまーす」

「お疲れ様です」

 家事が溜まってるっていうのは嘘だな。

 微塵も帰ろうって気配がない。

「お疲れ様なのさー!」

 扉が勢いよく開かれて、そこから輝咲が叫びながら飛び込んでくる。

 自分の背後で急に叫ばれて、実は驚き肩を跳ねさせる。

「あれ?みのりんまだいたのさ?」

「うん。広人くんと屋台回ろうと思って誘いに来たんだ」

「知り合いだったの?」

「まあな」

「あの人、アイドルのみのりんよ?よく知り合えたわね」

「今更だな」

「それもそうね」

 ウォルレスと知り合いだったことを思い出しているのだろう。

 ティエラを知ったらまたさらに驚くことになるだろうな。

 さて、屋台を巡る前に……

「輝咲の持ってるそれ、たこ焼きか?」

 匂いでそう判断して訊いてみたが、実際にその通りだったらしい。

「さっきそこでもらったのさ」

 もらったって、それは食べていいものなの?

「魚屋さんが、『坊主が勝った祝いだ!嬢ちゃん、渡してくれ。頼んだぜ』って渡してきたのさ」

「知り合いだったのか……」

 商店街で知り合ったのなら、その時八田月が一緒だったのだろう、俺と知り合いだと考えるのは不自然ではないな。

「まあ、それならありがたくいただくとするけどな」

 熱々のたこ焼きをはふはふと食べながら、俺はティエラのことを考える。

 せっかくの日本の祭、案内してやりたかったが先にやってもらうことがあったから、ここにはいない。

 順調に進んでいればいいんだけどな……


「考えごとかな?」

 覗き込んできた実が笑顔でそう訊ねてくる。

 答えようとして口を開くが、それを途中で止める。

 周囲の警戒、盗聴器の可能性、それらは当たり前にしている。

 しかしなんだ?なぜか今話してはいけないような気がする。

「どうしたの?」

 消えた……

 なんだったんだ、今のは……

「フィリア」

「誰かに観察されてたような気がするわ」

 フィリアでも感知できないのか。

「2人だけで話さないで」

「そうだな。今悩んでいるのは、大観覧祭が予想外に静かだってことだ」

「結構騒がしいと思うけど……」

「祭自体はな。ここで言う静かってのは、あまりにも組織に動きがないってことだ。こちら側でもある程度潰してはいるが、それでも静かすぎる」

 親父や本殿の連中が動いていたとして、それでもここまで何も事件が起きていないのは不自然だ。

 初日だからっていうのもあるかもしれないが、裏社会に巣食う組織の数はそれだけで対処できるものじゃない。

 いくらどちらも強力な力を有しているといっても、敵に上級悪魔がいれば、階級白がいれば、或いは暗技使いや闘技使いがいれば、こう静かにはならない。

 本殿連中はどうかは分からないが、少なくとも親父は手こずる。

「何か巨大な組織が裏で糸を引いている可能性がある。だが、狙いはなんだ?」

「あれじゃないのさ?ほら、リーラちゃんの故郷の里」

「いや、今あそこを狙うのは得策じゃない。組織が巨大になればなるほどな。ことがバレれば悪魔と人間の両方を敵に回すことになるからな。だが、そこが狙われていないとも限らない。なにせ、国家の監視の目がかなり緩んでいるからな」

「何の話をしてるのか分からなくなったんだけど……説明してくれる?」

「黒騎士の村」

「あーうん。これ以上ないくらい的確な教え方だね」

「だが、もしそこが狙われているのなら、それこそ第8位の腕の見せ所だ。なんとかしてくれてるだろう」

 しかしいかんな……

 悪い予想ばかりしてしまう。

 不安ばかりが浮かんで残る。

 それが積もりに積もって大きなしこりとなっている。

九鬼仙(ジゥグゥシィェ)、研究所だけじゃなく、ティンダロスにも関わっているのか?」

 あれは中国の組織だ、そしてティンダロスも中国で起きていた事件、どうにも繋がっているように思えてならない。

 そこに研究所の襲撃が九鬼仙によるものだという情報が重なった。

 第11位を殺そうとした組織、その戦力が怖くなったのか、それとも必要なくなるような力を手に入れたのか。

 何が狙いだ?

「……裏で巨大組織が動いているとしたら、九鬼仙が一番疑わしいか」

 途中から声を小さく呟くようにして、実や輝咲に聞こえないようにする。

 話して余計に警戒させるのでは、かえって危険にさらすことになる。

 そんな思考を妨げるようにして、部屋の扉がノックされる。

 当然気付いていた。

 だが、気にする必要はない。

 扉が開くと、少し怒った様子の委員長が入ってくる。

「さっき放送したはずだろう?片付けるから控え室から出ておけと」

「悪い、音量ゼロにしてた」

「お前なぁ……」

 委員長はいつも通りルールに厳しい委員長なので、さっさと部屋を出ろと言ってくる。

「なんだかいつもより厳しい感じがする。たこ焼き残さなかったこと怒ってる」

「そんなことで怒ったりしない。私はお前が、また危険なことに首を突っ込んでいることに怒っているんだ」

「どこでそれを?」

「放送室で音声を切ってる時に、そこのアイドルが言っていた。詳細は伏せられたがな」

 実が話したのか。

 委員長の強さを感じとっての判断かな?

 勝手に話されると困ることもあるから気をつけてほしいが、まあ当然そんなこと理解しているだろう。

 詳細を伏せたらしいしな。

「派世広人、私に手伝えることはないか?」

 片付けを始めながらそう訊ねてきた委員長に対して、その言葉を予測していた俺はすぐさま答えを切り返す。

「ないな」

「即答……」

「これは……うん。予想外の反応だよ」

「私は用無しか」

「街中でぶっ放すわけにもいかないだろ?」

「まあそうなんだが…」

「それに、人手は十分足りてる。優秀な後輩が手を貸してくれることになったからな」

「優秀な後輩?」

「それって……?」

 フィリアはすぐに想像できたようだな。

「もしかしてあの子?」

「え?また女の子?これ以上ライバル増えるの?」

 すぐに恋愛に還元するな。

「ティナか。たしかに優秀だが、取り扱いに難ありのそいつに頼むのか」

 もう頼んである。

 電話して何も言わずに手伝えと言ったら、コンマ数秒でうんと返してきた。

「たしかにお前じゃ手に負えないだろうな。俺だからこそだな。それにだ、ティナと組むことは適当に決めたわけじゃない」

「考えた上での人選なら、なおのこと疑問が残るな」

「そうか?個人的には妥当なところだと思っているんだが」

「だってあいつ、すぐに血を吸おうとしてくるだろう?」

「そうだな」

「普段からお前にぴったりくっついて、ずっと吸血してるだろ?」

「まあそうだな」

「調査に支障をきたさないのか?」

「ティナはあれでも鋭い。昼間でも他者より聡く、頑丈だ。そして過剰なスキンシップが心地いい!」

「ああ、やっぱり本音はそれか」

「う、ううぅ……さすがにそれは、アイドルの私にはハードルが高いよぅ」

「つまらないことを言うのなら、一番生き残る可能性が高い人選だ」

「それは分かってるつもりだが、それなら日溜優日でもいいんじゃないのか?」

「ダメだな。俺やお前のような力の持ち主相手の可能性も考慮すれば、日溜の能力は任せるには不安が残る。その点ティナなら、素でそれだけのポテンシャルがある。やはりここは譲れない」

「妹には頼めないのか?それとももう何かしているとか?」

「奏未は勝手にさせる。今回は別行動してもらう必要があるからな」

 委員長が片付けを終えると同時に、俺たちは部屋を追い出される。

 部屋を出たのでこの話は終わり。

 話すつもりのないことまで話してしまったな。

 俺の口も軽くなったものだ。



 これだけ距離があっても気付くんだね。

 新人類、中々面白いものだね。

 派世広人くん、君もいい勘しているよ。

「なんだ、やっぱり面白くなるじゃないか」

 会場から2キロほど離れたビルの上でそれを確信する。

「僕はじっくり鑑賞させてもらうよ。君というエンターテインメントを」

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