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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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63/312

悪魔と人間の村

「軍は任せる」

「ああ。分かってる」

 八田月の運転で帰っていく二人。

 俺たちはそれを見送ると、怪我人が集まっているらしい村長宅を訪ねる。

「おう、元気か?」

「これが元気に見えますか?」

 人間悪魔問わず怪我人が、軍医による治療を受けている。

「副隊長さん、であってる?」

「あっていますが、もうすでに職務外です。私は(きざし)栄一(えいいち)。兆とお呼びください」

「ああ。それで、兆、飯持ってきたけど食べるか?」

「ありがたくいただきます。忙しく食事を口にしていなかったもので」

 焼きそばを渡して、室内を見回す。

 みなさんぼろぼろだが、そこにはどこか清々しい気分のようなものが感じられる。

 痛みに喘ぐ者もいない。

「手当ては一通り済んでるみたいだな」

「はい。私自身無傷でよかったです。私の能力は無傷でなければ使えませんから」

「どんな能力なんだ?」

「無傷の時に他者の傷をある程度癒す能力です。まあ、条件付きで完全回復でもないですし、階級は青なんですがね。そんな能力でも、今回は役に立てました。これだけの数ともなると、持参していた薬品では足りませんから」

「隊長さんも無事か?」

「死者は一人も出ていませんよ」

 それは良かった。

「お主も無事だったか」

 その声、村長さんか。

「森で三匹の人狼に襲われたと聞いておったが、よもやそれを無傷で退けるとは」

「まあな」

「しかし、エリアの首筋のその傷はなんだ?」

 エリアの首筋、そこにある俺の噛み跡を指摘する。

 エリアは手で隠し、困ったように笑う。

「ドジったか。情け無いやつよ」

 自分だって怪我負ってるだろ。

 それにエリアのはドジじゃない。

 まあ、そんなことはどうでもいいや。

「はい、飯。食べるか?」

「……それでは、もらおうか」

 ここに入った時から気付いていたが、どうも双方の物腰が柔らかいように感じる。

「う、くぅ……ふぅ……」

 痛む体を起こす兵士が一名。

 隊長さんだ。

「飲み物はありますか?」

 食事していて喉が渇いたらしい兆の要求。

「ああ。エリアがクーラーボックスでもらってきたからな。全員分あるはずだ」

 エリアが抱えていたボックスを開き、そこから適当に一本取り出し渡す。

 飯が足りないか?

「お待たせしました」

 換気の為に開け放してあった玄関から、淡青の髪の悪魔と、もう一人黒髪の悪魔が入ってくる。

「足りるかは分かりませんが、食事を持って来ました」

「人の料理なので口に合う合わないはこちらでは分かりかねますが、これでよろしいでしょうか?」

 黒髪のお袋さんに似た雰囲気の女性悪魔さんは、大きめのボックスを置いて、そこから食事を一人一人に手渡しで渡す。

「リーラに広人さん、エリアさんも一緒でしたか」

「おう」

 換えの包帯を持ってきたお袋さんが、それを兆に渡しながら、室内の様子を確認する。

「そういえば、条約案は持ってるか?」

「はい。私が」

「今も実現不可能だと思うか?」

「いえ、今でしたら可能だと思います」

「村がこの条件を飲めばな」

 隊長さんが痛む体を動かし、俺たちのそばに腰を下ろす。

「気付かれてた?」

「村長から話を聞いた」

「なるほど。んで、どうするよ、村長?」

「今更断れるほど頑固ジジイになっとらん」

 決定だな。

「しかし……君は何者だね?この条約案、黒騎士の登場が前提になっている。予測できない出現を予測してみせたのかそれとも……」

「黒騎士と繋がっているか、ですね」

「人狼が来ることも知っていた、そんな口ぶりであった」

 黒騎士のインパクトが大きすぎて、それが前提だと思ってしまっている。

「俺は人狼が来ることは知らなかったし、黒騎士の出現を前提になんてしていない」

 俺が前提にしていたのは何かの到来と人間悪魔による共闘だ。

「さて、村長。お前に言っておかなきゃならないことがあってな。いいか?」

 俺は村長への用事を済ませるべく、本題へと移ろうとする。

 村長はもう、何を言われるのか分かっているんじゃないだろうか?

 覚悟は決めていただろう。

 俺はそれを切り出す。

「村長をやめろ」

 やはり何を言われるのか、分かっていたみたいだな。

 それをしっかりと受け止めて、頷く。

 怪我人悪魔たちからどよめきが起こるが、こうなることは仕方がなかった。

「次の村長はムバラクか?」

「さすがに分かるか」

「あの騎馬悪魔か」

「たしかに彼は、風格や言動から威厳を感じられましたね」

「分かるやつには分かるよな。あいつと他の悪魔とでは、器ってものが違いすぎる」

 お袋さんもなかなかの器だが、あれは側近止まりがせいぜいだ。

 しかし親父さんは違う。

 家で行ったやりとり、あれは俺を一目で完全に計ってみせたからこそできるものだ。

 さらには村の端に住みながら、村の中心に近い位置に誰も使っていない民家を作り、さらには地下に空洞を築いてみせた。

 その手腕もそうだが、明らかに他の悪魔とは一線を画している。

 悪魔王の部下でなければ、組織を率いるリーダーになっていただろう。

「なんだ?ワシの話か?」

 開けっ放しの扉から、親父さんが顔を覗かせる。

「そこで全部聞いてたくせに、今さらなんて白々しい」

「気付いてたか。貴様、見所があるな。だからといってリーラはやらんが」

「いや、俺と一緒に帰るし。俺と一緒に暮らしてるし。もう俺の家族だから」

「家族なんてものはそう簡単にはなれんものだ。つまりリーラの家族はワシらだけ。お前にだけは絶対やらんぞ!」

「はっ!ただの負け惜しみか!」

「ああ?」

「なんだ?」

 もはや当たり前になりつつある光景。

「やってくれるか?ムバラク?」

「仕方ないか。お前の思惑に乗ってやる」

「就任おめでとう、です」

 リーラに祝われ見るからに機嫌の良くなる親父さん。

 ほんと、どうしてこんなにリーラに甘々なのか。

「お前が悪魔たちの代表になるのか。私は人間の代表をするだろうこの部隊の隊長、道尾(みちお)快季(かいき)だ」

「ムバラクだ。よろしく」

「忙しくなるが、覚悟はできているかね?」

「できとらんなら引き受けんよ」


「さて、今後の方針は村の連中と相談して決めていくということで、ひとまずこの話は終わりにしよう」

 俺が話を切り上げると、親父さんはお袋さんに飲み足りないと言って出ていく。

 お袋さんもお袋さんで、素直に従い屋台の待つ方へ。

「隊長と、兆だったか?ちょっといいか?」

「構わないが」

「移動しますか?」

「ああ。ここで話せることじゃない」

「そうか。それでは出よう。できれば座れる場所か寝られる場所があるといいが、他者のいない場所となると、場所も限られてくるだろう。贅沢も言ってられん」

 兆が隊長に肩を貸し、監視は必要ないはずだが、エリアもついてきて、リーラ含めた五人で場所を移す。

「ここは……?」

 村の中心と畑のちょうど中間あたりの家に入る。

「ここなら誰の邪魔も入らないわ」

「だな」

 それには俺も賛成の意を示す。

「少し待ってて、布団出してくるから」

「もうその必要はないのだがね。心遣いだけ受け取らせてもらおうかね」

 隊長さんは、玄関先で腰を下ろす。

 段差になっており、背もたれはないが、それでも気にしないと優しく笑う。

「エリア、もう一人暮らししてたですか」

「もうって……私もう17よ?一人暮らしして当然の年齢なの」

 若いとは思っていたが、まさか俺と同い年とはな……

 悪魔の年齢はやはり、なんとなくこれくらい、にしか分からないな。

「研究するのに邪魔になるからだろ?」

「本音を読むのやめて」

「仕方ないさ。研究内容が研究内容だからな」

 エリアは布団ではなく座椅子を持ってきて、それを隊長さんの近くに置く。

「ありがたく使わせてもらおう」

 隊長さんが座り直し、楽な姿勢を探して、落ち着いて溜息を吐く。

「さて、本題に入らせてもらうぞ」

 俺はスマホを隊長に渡す。

 エリアに撮らせた動画を再生させて渡すと、その映像を食い入るように見る二人。

「これがなんだと言うんだ?」

「よく撮れてるだろ?」

「だからなんだと言うんだ?」

「黒騎士の登場、それは口じゃ信じない者が多いんじゃないか?黒騎士の偽物だって何人も出ているし、実物を見たという実例はあっても、実物が撮影された実例は少ない」

「……なにが言いたいのかね?」

「分かってるだろ?黒騎士を使うんだよ」

「使う?どうやって?」

「簡単なことだ。その動画を見せればいい。軍がメディアに送り、同時に黒騎士が倒した敵の写真も送ってやるんだ。実物だって腐る程あるわけだし、それをそのまま送ってやってもいいかもな」

 誰も俺のしようとしていることが分からないらしく、首を捻って考えている。

「黒騎士の登場で、今この地に黒騎士が関心を向けているということが分かる。黒騎士という不確定要素がそこにある以上、お互いに干渉できず、干渉するかもという懸念のもとに監視する。相互監視により他の組織も迂闊に手を出せない。さらには黒騎士の登場で、俺の出した条約案が最適になる。お前ら兵隊の保身、この村の安全、どちらも同時に確保できる」

 黒騎士が俺である以上、兵隊の保身含めたこの村でのほぼ全ては、俺の管理下にあるわけだ。

 徹底した統制まで行って、なぜこれほどまで慎重になって村を守るのか。

 それはこの村が、今後の世界にとって非常に大きな役割を果たすから。

 遠くない未来、俺はこの村を拠点として、様々な行動を起こしていくだろう。

 そこまでの未来を見据えている俺だが、そんなことを毛ほども知らずに隊長さんたちは頷いている。

 知られなくてもいい。

 むしろ知られたくはないな。

 世界のどこよりも安全なこの村を、安全じゃないと思ってしまうかもしれないしな。

「お前のしてほしいことは分かった。この動画はこちらが撮影したものだと報告させてもらおう。報道陣に対しても問題はない。だが……」

「軍内部にいる人狼の協力者、それについては八田月に任せておけ」

「信用していいのかね?あれもまた人狼のはずだが」

「ああ。あいつは母の意志を継いでるからな」

「母の意志?」

「八田月は特殊な生まれでな。穏健派と過激派、両者のリーダーたちの子供だ。その穏健派のリーダーだった母の意志を、あいつ自身は継いでいるんだよ。あいつが俺のことを恩人だと言ったのは、俺があいつの親父を一度、撃退したからなんだ」

「……だからといって、信用していいのか?」

「ああ、構わない。むしろ、あいつを信用できないなら誰も信用なんてできなくなる」

「……そうか。まあ、君が信じろと言うのなら、私は信じる価値はあると思うがね。君ほどの策略家はそうはいない」

「それじゃあ任せた」

「任された」

「ついでにもう一つ、お前にやってもらいたいことがあるんだが」

「なんだ?」

 やってもらいたいこと、それは本当なら必要ないはずのことなんだが、黒騎士の名が出る以上はそれをする必要がある。

 俺がそれを伝えると、なるほどと納得する隊長さん。

 さて、これで一つの組織の動きは潰れるかな?


「ねえアンタ」

 そう話を切り出すエリア。

 スマホを受け取った隊長さんたちが去って、家に三人になって切り出した言葉だ、きっと黒騎士関係だろう。

「っと、その前に」

 俺はエリアが何かを話そうとしたので、一旦その口を手で塞いで言葉を止める。

「んぐッ!ふがふが!」

 何言ってるんだか。

 まずはリーラに確認を取るのが先決だ。

「リーラ、俺が人狼との戦いでどうしたのか、分かるか?」

 おそらく知っているであろうことを確認する。

「大きな魔力を感じたです。あれが広人さんです?」

「分かっていたか」

「イギリスで見たです。感じたです。あの時は確信はなかったですが、同じ魔力をここで感じて確信したですよ」

 俺はエリアの口を解放する。

「プハッ!ちょっと!アンタ急に何すんのよ!」

「いや〜、黒騎士のことについて、俺はリーラに一切を語ってなかったからな。確認を取る必要があったんだよ」

「いや、なんでアンタ、リーラに何も話してないのよ!」

「リーラといえど、簡単に話せることじゃない。リーラ以外の仲間にも、俺が悪魔であるということは伏せている」

「そう、それよ!私が疑問に思ったのはそれよ!」

「どれだ?」

「アンタが悪魔だってことよ」

 疑問に思っても仕方ない部分だな。

「アンタは人間のはずでしょ?そのアンタがなんで、黒騎士なんて悪魔になってるのよ?」

「悪魔になったんじゃない。俺は元から悪魔なんだ」

「はあ?じゃあ、人間に化けてるってこと?」

「違うな。化ける必要もなく、俺は人間だ」

「???」

 分からないか。

 契約のことを知らないんだろうな。

 まあ、知っているのは、実際にその契約が結ばれた二人とその子供くらいだろうし、仕方ないよな。

「母は人間、父は悪魔。最高契約“(ちぎり)”によって、人間と悪魔でも子供が残せるようになるんだ」

 口を開けて固まるエリア。

「俺は人間でも悪魔でもあるからな。契約は交わせないみたいだが、どちらとも必要ないのかもしれないな」

「契約を交わせない、そんなことがあるですか?」

「ああ。夢花と実験してな。悪魔の契約というものを俺たちで結べるのかってな。人間同士で結べるのかの実験だと、夢花は思っているだろうな。だが、実際は俺という悪魔が、他者と契約を結べるのか、という実験だ」

「……って、アンタもし結べたらどうするつもりだったのよ!その夢花?って子が死んじゃうかもしれないのよ?」

「それはない。俺が結ぼうとした契約は、“契”を除けば最高の繋がりを持つ契約だ。その契約に代償はない」

「“契”を除けば、ということは、“(ちかい)”ですか……」

「ああ」

「それも簡単に結んでいい契約じゃないわよ!」

 エリアの言う通りだ。

 代償はなくとも、面倒な契約であることは確かだからな。

「しかし、悪魔ならどうして普段から魔力を保有していないのです?」

「さあな。俺の知るところじゃない」

 持っていた方が楽なことは多いが、もし魔力感知できる悪魔がいたら少し面倒なことになるし、なるべく目立ちたくない俺としては、こっちの方が都合がいい。

「でもアンタ、なんで悪魔だってこと、私や村のみんなに隠してたのよ?教えた方がみんな素直に言うことを聞いたし、私だってアンタの監視につく必要はなかった」

「教えられないな。誰がどこと繋がっているか分からない以上、黒騎士の正体は隠し続ける必要がある。その方が俺も動きやすいしな」

「それならなんで、私に教えてくれたの?」

「信用したんだよ」

「仲間にも教えてないんでしょ?」

「そうだな。お前は悪魔だから俺が悪魔であった方が、俺個人を受け入れやすいだろうけど、人間であるあいつらは違う。輝咲のような特例を除けば、悪魔をすんなりと受け入れられる者はいないだろうな」

 関係を壊すのが怖いんだ。

 そうならないかもしれない。

 でも、そうなるかもしれないのが怖いんだ。

 だから、俺からは言えない。

 気付いてほしいとは思っている。

 だから、ヒントはばら撒いているが、それでもやはり怖い。

「気付いているやつがいるかもしれないとは思っているがな」

 夢花やティナは気付いているかもしれない。

 八田月は俺が悪魔であるということを、出会った時に知ってしまったが、あの時ばかりはしょうがない。

「それは置いといて、だ。俺が黒騎士であることは内密に頼むぞ。誰が相手でも、だ」

「分かってるわよ」

「リーラもいいな?」

「もちろんですよ」

 エリアとリーラ、二人とも素直に言うことを聞いてくれて嬉しいね。

「そうだ、一つ相談があるんだが……」

「なんでも言いなさい」

「です」

 俺の目的のための相談。

 このご時世、情報が何より物を言う。

「連絡とれる手段ってないか?」

 この村には電波が届かないし、届いたとしても、この村と電話するのはリスクが大きい。

「電話じゃない、人間の技術じゃない、悪魔の魔法の技術で、俺たちの間でやり取りする手段がほしい」

「それなら……」

「ですね」

 二人は顔を見合わせて頷く。

 なんだろ?

「ちょっと待ってなさい」

 待つこと数秒、持ってこられたそれは小さな植物の種だった。

「これは?」

「ふふん!」

 胸を張ってドヤ顔かますエリア。

 リーラもどこか誇らしげだ。

「これ、なんだと思う?」

「種だろ」

「それが違うのよ」

「は?」

「これは同じ魔力を持つ植物に声を届けることができるのよ」

 ああ、なるほど。

 つまりはあれだ。

 電話だな、うん。

「……」

「……」

「お前なんてもん作ってんのッ⁉︎」

 驚かす側のはずの俺が、エリア相手だと何度も驚かされている」

「え?いや、これ、え?」

「ふふん!」

「いやだから、革新的すぎて意味が分からんのだが?」

「それは私が育てたから、私の魔力を保有してるのよ。だから、私の魔力を持つ植物に声を届けることができるの。電話ほど便利なものじゃないけどね」

 電話と違い、機械的干渉ができず、干渉するにはエリアの魔力を持たなければならない。

 これは電話なんかよりよっぽどありがたいものだ。

「私はその過程で生まれた副産物をもらったです」

 見せてくれるリーラ。

「これは?」

「私にだけだけど、居場所が分かるのよ」

 GPSみたいなものか。

「いや、もうさ……他の限定した誰かしか使えない魔法よりよっぽどすごいことしてるから。お前とんでもないことしてるから。黒騎士よりよっぽどすごいことしてるから」

 そんなことを成し遂げたエリアはすごいな。

「ああ、一緒に研究できないのが残念でならないな」

「これからならできるわよ?」

「この村で俺が暮らすなら、だがな」

「私がそっちで暮らしてもできるわよ」

「俺と一緒に暮らしたいのか?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

 丸くなったと思ったが、そんなことはなかったな。

「割と傷つくな」

「傷つく?アンタ、もしかして私のこと……」

「気に入ってるな」

「そうでしょうね!ふん!」

 機嫌が悪くなったな。

 お望みの回答ではなかったようだ。

「んで、これはどう使えばいいんだ?」

「そ、そうよね。使い方教えないと渡してもしょうがないわよね」

 重要なこと教え忘れてどうするんだ。

「土に埋めて水をかけて。そうしたらすぐに大きくなるから。花が咲いたらそこに声をかければ相手に届くわ。使い終わったら根元から引き抜いてね。そうしないといつまでも通話状態になるから」

「使い捨てなのか」

「引っこ抜いたら花から種が落ちるから、そうやって何度も使用できるわよ」

 なにその機能!

「いやでも、なんで引っこ抜く必要があるんだ?」

「管理が大変だからよ」

「それに成長させたとして、お前の方で種のままじゃあ届かないだろ?」

「種が成長したら、種に振動が届くようになってるわ。だから、気にしなくていいわよ」

 抜かりないな。

 初級悪魔だが、こういった植物自体に魔力を持たせるという方法で、魔力の少なさをカバーする。

 人狼との戦いの時もそうだが、魔法に初級悪魔であることを補う工夫が施されている。

「なに笑ってんのよ」

「いや、お前と出会えて良かったと思ってな」

「は、はあ⁉︎き、急になに気持ちの悪いこと言い出してるのよ!」

「だな」


 昨日はあの後、隊長さんたちの手順の確認を終えて、スマホを返してもらい、リーラの家に泊まった。

 なぜ二人分しか布団を用意しないのか、と疑問に思ったが、魔力を使った疲れもあって、イギリスでリーラと寝た時のような苦労もなく、すぐに眠りに落ちることができた。

 朝起きた時には、俺より先にリーラとエリアが起きており、遅れて起床した俺は帰り仕度の済んだ荷物を持って家を出る。

「帰るのか」

 玄関先で親父さんが壁にもたれかかりながら、そう声をかけてくる。

「ああ」

 仕事山積みの親父さんは、大欠伸をして、俺の隣を歩く。

「リーラたちは?」

「車の確保だ。軍に話をつけにいってる。軍も軍で報告があるとかで、車を動かす予定があるからな。ガソリンも量がないのだ。なるべくなら軍のを利用したい」

 たしかに、悪魔に燃料の入手は困難だろうな。

 貨幣制度を敷いていない悪魔にとっては、1円だって非常に高価だ。

「しっかし、まさかこんなことになるとはなぁ…」

 親父さんの心の声が漏れる。

「こんなこと?」

 どれを指して言っているんだ?

「どこからか現れた黒騎士に、村を救われたことだよ。ワシはてっきり、貴様が手を打つものだとばかり思っていたんだがな」

 割と鋭いっていうか、多分気付いてるな。

「それにワシが村長まですることになるなんて、面倒が増えるなぁ……」

 そうやって面倒くさがっていたから、リーラは村で不要な存在な存在だと言われていたんだろうが。

 騎手だってことを言えば、誰だってその力を認めざる他なかった。

「まあ、これでリーラの実力が知れ渡っただろうし、これまでなりを潜めていた甲斐があったってもんだがな!がはは!」

 騎手であることを知らしめれば、実力くらい簡単に認めてもらえるだろ。

 こいついったい何を見据えていた?

「ふっ……ロッカに頼んだ甲斐があったってものだ」

「ロッカ?頼んだ?何を?どういうつもりで?」

 ロッカって……俺の親父の六火(ろっか)のことか?

 頼むって何を?

「ロッカはすごいやつだよ。頼んだ通りに、悪魔の秩序(レッドポリス)を滅ぼしてくれたんだからな」

 なんだと⁉︎

 どういうことなんだ!

 俺はてっきり、ブルグルフが滅ぼしたものだとばかり思っていたが……

 どうなっているんだッ⁈

「リーラが逃げ切れたのは、騎手だからではない。見逃してもらったからだ。非戦闘員全て見逃したらしいが、ワシはリーラが無事ならそれでよかった」

「それで、どうして滅ぼさせたんだ?」

「決まってる。そこにリーラがいるべきではないと、ワシが判断したからだ」

 そんな、勝手だ!

「全てはロッカから伝え聞いた話、悪魔と人間の子、その存在を信じたからこそだ。実際会ってみて驚いた。こうも切れ者だとは思わなかったからな」

 そのロッカなる人物は、間違いなく親父だな。

 それに今の口ぶり、俺が悪魔だって気付いている。

「驚いたよ。ここまでお前の計画通りだったってことか」

「ワシのかどうかは分からんな。ロッカのやつに誘導された可能性だって否めん。やつは暗技使いだしの」

「誘導されていようと、それは間違いなくお前の意思だと思う。こうなることを意図していたならなおさらな」

 俺とリーラが出会ったのは、大阪に行く際の運転手としてリーラが連れてこられたからだ。

 となるとそれまでに準備が必要になる。

 まず必須となるのは、黒白凰が組織から抜けていることだ。

 黒白凰だけじゃない。

 リーラも抜けていなければ、まず俺たちが出会うことはなかった。

 だから組織を滅ぼしたのは分かる。

 だが、そこから先、滅ぼした後に黒白凰が取る行動、それを理解していなければ、俺とリーラが出会う未来は起こり得なかった。

 それに、黒白凰たちとリーラの関係も知っている必要があった。

 リーラが持っていたのは、GPS機能付きの種のみ。

 リーラから情報が入ってくることはまずない。

 ならばなぜ、そんな思い切った選択が取れたんだ?

「不確定要素だらけの賭けだな」

「そうでもない。定期的にリーラが組織の者を連れてきて、我々の近況を把握する。そんなことが行われていた。だから、組織内の関係も伝わってきたし、ブルグルフさえ殺されずに大阪に逃げ帰れたのなら、十中八九なると踏んでいた」

 そう言わしめる何かを、親父さんは知っているってことか。

 村に近づくにつれ、騒がしくなっていく。

 屋台、片付けてあるな。

「屋台ってどこから出したんだ?」

「さあな。軍が悪魔に人間の文化と親しんでもらおうって持ってきたものらしいから、軍がどこかで保管してるんだろう。それより、貴様、ワシがいないからって、ウチのかわいいリーラに手ぇ出すんじゃねえぞ?娘は絶対にやらん!」

「善処する」

「それやるやつだろ!」


 村が騒がしいと思っていたが、なぜか村の悪魔、そのほとんどが集まっていた。

「何が起きているんだ?」

 一台の迷彩柄のジープが広場につく。

 降りてきたのは、隊長さんと昨日村長の家で会った悪魔、リーラのお袋さんと一緒にいた黒髪の悪魔だ。

「おう、隊長さん」

「君にそう呼ばれるのは複雑だ。道尾(みちお)と呼んでくれ。下の名前で快季(かいき)、と呼んでもらっても構わない」

「それで、隊長さん、この騒ぎはなんなんだ?」

「呼ばないのかね……まあ、構わんがね」

「お前なら分かるか?」

 助手席に乗っていた悪魔に訊ねると、頷くが教えてくれはしないようだ。

「見ていれば分かりますよ」

 荷台から後部座席から降りてきたリーラとエリア。

 悪魔たちは姿勢を正し、元村長が前に出る。

 リーラが驚いて縮こまる。

「いったい何が始まるというんだ?」

 親父さんも気になる様子。

 元村長の視線の先には、いや、集まった悪魔たち全ての視線の先に、リーラが据えられている。

 元村長が、悪魔たちが、地面に膝をつき、三つ指をついて、頭を下げる。

「今まですまんかった!」

 リーラは驚いた様子で、キョロキョロと悪魔たちを見回す。

「黒騎士が言っていた少女、それって、お主なんだろう?我々は、黒騎士と、そこの人間のおかげで、今こうして生きておる。それもこれも、お主がこやつらを連れてきてくれたおかげだ」

「それなのに俺たちは……」

「役立たずだと罵った!」

「厄介者だと責め立てた!」

「あんたは何も悪いこと、してないのにねぇ……」

「だから謝らせてくれ!」

「許してほしいなんて言わないわ!」

「ただ、謝らせてもらいたい!」

「「「ごめんなさい(申し訳ない)(すまんかった)(大変失礼致した)」」」

 様々な謝罪がリーラに向けられる。

 黒騎士や親父さんの活躍、俺が元村長を誘導して行わせた行動。

 そういったものが、村人たちの意識を変えたのか。

 本当に土下座して詫びるとはな。

「えっと、その……あ、頭を上げるですよ」

 無表情な困ったさんのリーラは、困った困ったと俺に助けを求めるように視線を向ける。

 え、なにそれ、かわいいんだけど?

 だが、俺は親心で接する。

 俺がなんでもかんでも手伝えばいいってものじゃないしな。

 それに、これはお前と村の問題だろ?

「その、なんとも思ってない、です。だから、もう気にしないでほしいですよ」

 お前こっち来てから親父さんと俺とで励ますまで、かなり気にして落ち込んでたじゃねーか。

 さらっと気遣い嘘を吐いたリーラだが、村のみんなはリーラがそのことを気にしていたことを知っている。

 じゃなきゃ組織を渡り歩いたりしない。

「本当に、申し訳ないことをした」

 エリアの怒りが爆発しそうなので、そろそろ俺が入っていった方がいいかもしれないな。

「悪いが、こっちにも予定がある。リーラもこう言ってることだし、そろそろ俺たちを帰らせてくれないか?」

 しばらく土下座していた彼らは、顔を上げずに今度は、俺に対して謝ってくる。

「反省しているならそれでいい」

 俺は自分の荷物を車に運び込む。

 リーラが荷物を持っていなかったからな、この車を使って送ってってくれるらしいと判断した。

 荷物を降ろしてもいないしな。

「ムバラク、我々で報告に行ってくるが、本当に君が来なくて良いのかね?」

「人狼の襲撃で、いくつか家が壊れてしまってな。それに、貴様らの家を建てんとならんだろ?」

「そんな雑用、村長なんだから他の者に任せれば良いだろう?」

「そうもいかんよ。ワシは村長になったが、村長とて一人の住民にすぎんのだから」

「こちらの方が面倒な仕事だと思うがね?」

「挨拶くらい誰にでもできる。よってワシがいく必要はない!」

「……そうだな」

 話終えて隊長さんが運転席に座る。

 助手席に黒髪の悪魔が座り、俺たちは後部座席に。

「学校まででいいかね?」

「ああ。それでいい」

 エリアは村でお留守番。

「じゃ、また会おう、エリア」

「リーラ、いつでもいらっしゃい」

「です」

 俺まだ嫌われてるのかな?

「ついでにアンタも」

 そんなことはなかったようだな。

「ああ。また来る」

 車が走り出す。

 後ろの窓から村を眺めていると、エリアは見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。

 きっと見えなくなっても、ずっと手を振っていただろう。

 また会おう、エリア。

 また会おう、お前ら。

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