タイムリミット
「あれは、俺がやる!」
ウォルレスがそう言って飛び出すと、次の瞬間には俺の死角へと潜り込んでいる。
しかし暗技使いである俺にとって、死角とは死角たり得ない。
その攻撃に合わせて滅慟を構える。
そして死角からの攻撃に、呼吸を合わせて一撃をぶつける。
暗技音境・満月。
黒白凰を倒したこの技だが、さすがは第2位というべきか、これでは倒れてくれない。
まあ、黒白凰もフルヘルスでは倒れないだろうし、おかしくはないか。
しかし、痛みさえも感じていないように見えるのはなぜだろう?
体の当然の機能である痛みも壊れているのか?
ん?当然?
そうか……当然のように存在する痛みだから壊せてしまうのか。
なんで能力はこうも不平等なのかなぁ……
なんで俺には優秀な能力がないのかなぁ……
予期していなかった反撃に仰け反るウォルレスに追撃をしようと体の向きを変えた俺の背後に、今度はルーリックがバチバチと雷を瞬かせながら、その雷を纏った殺す気満々な腕を振るう。
その動きに気付いていた俺は、すでにウォルレスの腕を掴み、準備は万端だった。
息を合わせて流れを揃え、お互いの位置をすげ替える。
これも暗技、暗技流水制・転牢。
敵が多い時に便利なとっておきの暗技だ。
相手の動きに合わせるようにして移動するのが普通だが、今回は多少強引にいかせてもらった。
呼吸を合わせた後で相手と自分とで腕の接点を支点とし、くるりと回って位置を変えた。相手に違和感はない。
だからこそ、今なぜ自分がルーリックの攻撃の直撃をもらっているのかが分からない。
瞬時に雷を破壊したのか、やはりそれがウォルレスに与える影響はない。
人間離れした速さも力も、読みきればなんてことはない。
俺はウォルレスを蹴り上げて、二人を同時に遠ざける。
流石に至近距離に二人を置いて、それに対処しきれるほど俺の性能は高くない。
俺があまりにも圧倒すれば、ウォルレスの全力が飛んでくるだろうしな。
しかしそれも術式に魔力を通しきるまでだ。
二つの術式を同時に仕込むのは至難の業、それが完成するまではウォルレスに本気を出させてはいけない。
「お前は近づかれるのを嫌っているな」
「違うな。近づいてきたから攻撃をしたら遠ざかったんだ。近づかれたらそれはそれで対処できる」
俺にもそれくらいの力はある。
それでも近づかれれば、今のままの対処では追いつかないから、して欲しくはないがな。
さて、さっさと術式を仕込むに限るが、ダメだな、まだ魔力を通し終わらない。
今度は二人同時に向かってくる。
やはり二人ともかなりの速さだ。
今回は転牢が追いつかないか。
ならば、別の暗技で対処するしかない。
俺は腕を交差させ、その時には二方向からの攻撃が届こうとしている。
暗技流水制・響体、内側から外側へと力を発し、相手の攻撃にぶつける。
全身で行うせいで威力は下がり、俺にも多少のダメージは返ってきてしまうが、相手の予測の外の行動であればそれでいい。
敵の意表を突くのが目的。
とりあえずはウォルレス邪魔。
よろけたウォルレスに滅慟を叩き込み、ビルの床から弾き出す。
ウォルレスはそのまま落下していってしまう。
あれで倒せたかな?無理かな?
まあいいや。
これでルーリックに専念できる。
ルーリックの放電を距離をとって安全に躱し、雷の鎧を纏ったそいつに、魔力砲をぶち込む。
吹き飛んだルーリックに迫ると、ビルの下から飛び上がってきたウォルレスが、俺の懐へと潜り込む。
残念だが、それはあまりにも近すぎた。
ルーリックからウォルレスへと狙いを移し、腹を蹴ってその額に滅慟を撃つ。
その間にルーリックは攻撃を仕掛けてくるが、死角からの蹴り上げで簡単に退けられる。
ウォルレスには滅慟を入れたが、目立った外傷はないな。
なぜだ?
滅慟はそんな優しい技じゃない。
受けたら無傷じゃ済まないはずなんだが……
まあいい。
術式は仕込めた。
決着は、もうつく。
「悪いなウォルレス。有言実行するのが主義だが、今回は確約できない」
「俺にもう誰も殺させない、だったな。それはつまり、俺を殺そうとしていた、ということだろ?」
「そうだな」
ティエラはその意図を組めていなかったので、今更驚いた顔をしている。
「初めて会った時に感じた既視感、やはりお前は、人を殺したことがあるな?」
「あるよ。誰もが悪魔を当たり前のように殺す。人間を殺すことなんてそれと何も変わらない」
「人の命を随分と安く見ているんだな」
「違うな。悪魔の命を重く見ているんだ」
「?」
「分からないか」
発動まで5分。
それが可能だった発動までの最短時間。
今の魔力でできる最長発動時間、1分。
さて、後5分だがどうやって全力を出させないラインを保つか……
それが問題だな。
ティエラが不安そうな表情でこちらを見ている。
ルーリックを殺せば手っ取り早く済ませられるが、それをすればティエラは悲しむ。
かといって何もしなければティエラは死ぬ。
さて、残された選択肢は、ルーリックを意識不明の重体にするか、俺がティエラを連れ帰るか、ルーリックの説得かぁ……
発動までの時間潰しにもなるし、ルーリックの説得でも試みるか。
「ウォルレス、あれを使え」
何か言い出したルーリック。
あれ、とは何だ?
「主、あんたは仮にも王子だろ。こんなところであれを使ったら、あんたの兵まで巻き添えだ」
うん?
すっごい不穏な言葉が聞こえてきたが?
まさかとは思うが、もう新たなる力を使うことを決心したのか?
ふざけんなよ?
今時間稼ごうと思っていたところなのに、なにちゃっかりとんでもないことおっぱじめようとしてるの?
まずいまずいまずいまずいまずい!
術式起動まで、残り4分。
さて、魔力の尽きた今、どう対処していくか……
「どうだ?敵の正確な位置、分かったか?」
「もうめちゃくちゃだぜい。だが、おかげで『死神』の正確な位置はつかめたぜい。そのまま大蛇の首を伸ばしてくれ!」
「任せろ!」
「なんだか、息、ぴったりですね……」
リヴァプールの街を見下ろす3人。
街は今、鎖でできた巨大な蛇が暴れ回っている。
建物は壊され、光の柱なんかも臆さず進む無機物の蛇は、その一つの首を真っ直ぐ伸ばしていく。
その進行を阻むように数多の木々が絡みつくも、その程度で大蛇が止まるはずもなく、破壊してそのまま進んでいく。
襲ってきていた木々がパタリと止む。
「あれ?木が出なくなったぜ?」
「人間をリソースにしてんだ、あんな使い方したらマッハで尽きて当然だってんだよ」
相手に向けた怒りの言葉のはずだが、優日にはそれが自虐的に聞こえた。
(なんだろう、この感じ……)
「相手を責めても何にもなりません。彼らの理念に人間は不必要ですから」
「そうだったな。全く、反吐が出るぜい」
「ん?何だあれッ⁉︎」
突如として街に出現した複数の何かが集まってできたような腕が、大蛇の体に掴みかかる。
それで大蛇の動きは止められてしまった。
さらに続けて無数の腕が出現する。
「だーックソッ!首一本じゃ足りねーじゃねーか!」
追加で6本の首を出現させ、それぞれが腕に対抗する。
「フォーコの旦那を『死神』のとこに送ってやれねぇかい?それでもあの腕は抑えていてくれねぇと困るから、お前には頑張ってもらわなきゃならねぇけど」
「それなら任せろ。一位の場所を教えてくれ」
「がってんでい!」
「『死神』が移動しようとしています。急いでください」
「分かってるぜ!」
俺は鎖の大蛇に飲み込まれる。
間違えて俺を飲み込んだ、なんてことはないはずだ。
調節はマキナがしてくれているはず。
鬱陶しかった『死神』の分身体から離れられたのはありがたいな。
このまま『死神』本体まで真っ直ぐ、だといいんだがな。
大蛇が動き始めたところで、何度もぶつかってくるものがある。
『死神』の時間稼ぎと見るべきか。
それなら今は移動していると見るべきだな。
揺れのひどい乗り心地最悪の大蛇だが、強い揺れの後に完全に動きが止まる。
能力の影響を受けた、というわけではないらしい。
大蛇の頭を構成していた鎖が、形を変えて腕と組み合う。
まだ『死神』には到達していないな。
巨大な腕に足止めされているのか。
首は全部で……8つ?
かなり優秀な能力者のようだ。
『死神』という新たなる可能性と能力で張り合うのは並大抵の能力者ではできない。
しばらく硬直状態が続き、やがて俺を乗せた首が腕を押し切り歩みを進める。
よし!そのまま『死神』まで一直線だ!
と思った矢先に、数多の巨大な腕が立ち塞がる。
参ったな、と俺が突破方法を模索していると、何かが視界の端にちらつく。
これは?
それは鎖でできた剣の柄のようなものだ。
握れ、ということか?
鎖の剣であれを斬れ、ということだな?
優日のことはよく知らないから合ってるのかが心配だが、合ってることを祈ってそれを握る。
強く握って、それから……どうしたらいいんだ?
とりあえず鞘から剣を抜くように引いてみる。
すると大蛇が変形を始め、足場がバラバラと組み変わっていく。
「足場崩すなよ!」
慌てて翼を広げ、羽ばたかせて高さを保つ。
翼を広げたせいで服は破れてしまったが、それは致し方ない。
そうしてできた剣はあまり大きなものではない。
重量はそれなりにあるだろう。
腕を抑えていた蛇がなくなったことで、今度は腕が俺を狙う。
なんでもいい。
とにかく振ってみる!
後は彼が何とかする!
「蛇消えちまったぜい?」
「八岐大蛇は倒れた後で一本の剣が出てくるんだ。色々な呼び名はあるが、俺はこの形態を、草薙の剣、と呼んでいるぜ」
「切り札だな?」
「当たり前だよなぁ!」
本来なら優日が鎖の巨人となって使う技だが、それをフォーコに使用させる。
フォーコが振るうその動きに合わせ、その剣は音を立て高速で刀身を構成する鎖を動かしながら、どんどんと大きくなっていく。
それをフォーコが振るい、全ての腕がその剣が触れた場所から形を保てなくなり、粉となって霧散する。
フォーコは剣を捨て、切り開かれた道を進む。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐに。
「たしか、見てはいけない、だったよな?」
「おうよ!」
「大丈夫なのか?」
「さあな。異常性の研究はほとんど進んでないかんな。旦那の耐性次第ってことだな」
「その双眼鏡のような何かはつけてないのか?」
「それがつけてねぇんだなぁ〜。旦那、インカムだって破壊しちまうんだぜい?」
「それはまた、随分な問題児だぜ」
「まあ、殺されることはねぇだろうし、気楽に見ていようぜい?」
「敵はそんなに甘くないと思うぜ?」
「言い方が悪かったぜい。フォーコの旦那は殺されないってこった。あんなナリだが尋常じゃないくらいの固さだかんな」
「なるほどなー」
話半分に聞く優日。
優日の懸念は防御どうこうのものではない。
見ただけで起こる事象、そちらの方を懸念していた。
しかしそれは言わないでおく。
もしそちらにも対応できるという意図で言っていたのなら優日の認識違いという話で終わるが、もしそうでなかったのなら、精神汚染という可能性を考慮していなければ、撤退も計算に入れなければならなくなる。
もちろん資料には精神鑑定のことも書かれていたが、それをクトゥルフ神話のSANチェックが行われたから、狂気に陥っていないかの確認、と捉えている可能性もある。
どれほど考えたところで、優日に答えが分かるはずはなく、六火は答えを知っているはずだが、その六火が何も言わなかったということもあって、優日も何も言わない。
「しつこいぞ!」
「当たり前だ!わしは諦めが悪いからなあ!」
リヴァプールから少し離れた場所で、わしらは追いかけっこをしていた。
「迫撃」
「このやり取りにもいい加減飽きてきたぞ!」
しつこく食らいついていたら飽きられてしまった。
しかも暗技も通じていない。
これは結構まずい状況だな。
「失せろ!」
広くに渡って透明な壁が生成される。
空気を滅慟で蹴って進んでいる都合上、簡単に静止などできない。
未来が見えていても、こればかりはどうしようもない。
流水制も魔法も通らないようだし、流石に諦め時か……
なんて、諦められるわけねぇんだよなあ!
流水制が通らないのなら別の暗技を使えばいいだけだ!
そう、例えば、わしの体に最適化された暗技、とかな?
壁があるにもかかわらず、わしはさらに速度を上げる。
多くの者はそれを愚行と呼ぶだろう。
しかしこれは必要な準備。
わしの最大の技でぶち抜くための準備。
まずはさらに速度をつける必要がある。
暗技一文字・爆!
最適化された暗技、わしの暗技を使う。
体の無駄は全て省かれているが、人によって体の構造が異なることには変わりない。
だからこそ、流水制という基本形があり、それを自分の体に合わせて変化させるのだ。
わしの体は力を貯蓄するのに向いている。
体の各部位が従来の人間より固くできており、従来の人間より大きい圧力に耐えられるからだ。
だから細かく刻むより、一気に爆発させた方がいい。
足から発生した巨大な衝撃で、人間の体が持つか持たないか分からないような風の抵抗を受けるくらいには加速し、あとは腕の肩の胸の腹の、それら全ての力を注ぎ込んだバカ火力を叩き込む。
未来へ向けて一直線、どんな壁もぶっ壊す。
「希望は常に隣にある!」
これが極式じゃない技での最高火力。
「暗技一文字・龍!!!」
体内に蓄積させた力を拳の一点から放ち、壁の一点に集中させる。
力は本来拡散していくものだがわしはそれを収束させて、そんな力に耐えきれなくなった壁は意外にあっさりと壊れる。
力が拡散されることを考慮に入れた術式だったか。
砕ける未来は見えていたが、見ていたほどの耐久ではなかったような実感がある。
これが観賞時と実践時の違いか。
壁とぶつかった衝撃で、わしに乗っていた速度が削がれた。
わしのは同じ部位を使う技は連発できないんだよなぁ……
滅慟で空気を蹴って、速度を戻しながら徐々に力を蓄えていく。
かなり距離を離され、今ややつは点にしか見えない。
追いつくには、使うしかない!
術式構築、展開、飛燕!
体が軽くなり、気流が味方する。
周囲の風がわしを運ぶ。
すぐに速度が戻り、徐々に距離が詰まっていく。
しかしこれではやつが向こうに着くのが速い。
やはり使わざるをえないか。
術式構築、展開、頼むぜぇ、縛弾!
投じた弾丸をやつは躱す。
が、それだけで終わりじゃねぇんだよ!
弾丸が爆発し、そこに霧のようなものが立ち込める。
それが何かも分からず突入した『名もなき悪魔』は、多分すぐにそこを抜けた。
そしてその霧が晴れ、わしは悠々とそこを通過する。
かなり距離が詰まっている。
わしを侮り過ぎたようだな。
やつはさっきまで広げていなかった翼を広げ、それまでとは目に見えて遅い速度で飛行する。
縛弾が一時的だが魔力の活性を抑えているんだ。
直撃すれば縛り上げて取っ捕まえることができたんだがな。
まあ、そのことを嘆いても仕方ないし、今は追いつくことを第一に考える。
「やってくれたな!」
声が届く範囲まで近づいた。
わしの声は流石に届かないとは思うが、それでも着実に近づいていることを視覚以外で実感できた。
それは対悪魔においては重要なことで、視覚に頼っていると、なんらかの魔法で惑わされている可能性があり、それによって取り逃がす場合は起こり得る。
さらに距離を詰め、わしは声を投げかけてみる。
「気分はどうだ?」
こちらをちらりと見て、再び翼を羽ばたかせる。
一応声は届いている、のか?
「……最悪の気分だ。かなり魔力を縛られて、持っていかれて、今では魔法さえも封じられている。まさかここまでの術式を使えるとはな。さすがは希望か」
英雄と呼ばれるわしに与えられた称号、希望。
わしには似合わん称号だよなぁ?
わしの見る未来のほとんどは、絶望で溢れ返っているのになぁ……
「わしを見直したところで、行くのは諦めてくれねぇかなあ?」
「諦めてほしいのなら諦めさせてみろ。この俺を倒して、止めてみろ。俺はお前を倒してから向かうことにした」
「へ〜やっと思いが伝わったって感じかあ?」
「随分としつこく追ってきたのでな。ストーカーはさっさと始末するに限る」
そう上手くはいかせねぇけどなあ!
今のうちにそっちの問題を片付けておけよ、広人!
早く倒したいけど時間が来ないと倒せないジレンマ。
ウォルレスの存在が邪魔すぎる。
「お前、目が元に戻ったな」
そりゃ気付かれるか。
もう俺は魔法を仕込んだ。
しかしそれによって魔力はそこをついた。
右腕まで入ったのに、莫大な魔力があったはずなのに、それがたった二つの術式で蒸発するなんて、まったく、大した燃費の悪さだな。
そのせいで、こっからの攻撃に対応できない。
「その能力は厄介だが、発動条件がかなり厳しく、時間経過で切れると見た」
残念、大ハズレだ。
「生半可な技ではお前を殺し損ねて、再びその能力の発動条件を満たしてしまう可能性がある」
たしかにまたあの力が呼び起こされる可能性はあるな。
条件を満たすのだって、ウォルレスの技なら簡単だろう。
「今度の技は全力の一撃をお見舞いする」
「そう焦るなよ。もしそれで俺を殺し損ねたら、お前ら両方死ぬことになるんだぞ?」
今どれだけ時間が経った?
分からないが、それほど長い時間は経っていないように思える。
「あの能力には、まだ何かあるのか?」
「そうだな、教えてやる。俺は俺の体が危険を認識した時に莫大な力を得る。危険が大きいほど、より強い力をな」
それでも一撃で屠る自信はあるだろう。
そしてルーリックも、それを信じてやまないだろう。
一撃で屠る自信のある者にそんなことを言ったところで、何の意味もない。
俺は意味のない発言はしない。
これはルーリックの失敗だ。
俺の脅しに、ウォルレスの手小刻みに震えている。
「どうした?貴様はやつに撃てばいいだけだ。愚妹は余が殺す予定だったが、今回ばかりは果たせそうもない。一緒に殺しても構わない」
しかしその指示に従う様子はない。
おそらくルーリックの指示で俺の選択肢を奪うために行われたであろうことが、俺とティエラを一直線に並べてしまったことが、ウォルレスの判断の妨げになっている。
そして、俺の言葉が刺さるのもそれが理由だ。
まず外すことはないだろうが、しかしティエラの影響でもし無意識に外してしまったら、その時は間違いなく殺される。
そのことをウォルレスは考慮している。
無意識の表出だけは、どれほど意識したところで予期できないものだからな。
さっきまでの俺にも通じなかった二人だ、俺の力を警戒するのは当然。
ウォルレスはそれまで考慮に入れた上で、停止を余儀なくされている。
「ウォルレス、どうしてお前は、ルーリックに従って戦っているんだ?」
葛藤するウォルレスの思考を遮るように、俺は言葉を投げかけてやる。
これも時間を稼ぐため。
「聞くな!」
ルーリックの叫びを聞くはずもなく、ウォルレスはその思考を止める。
「どうして、か。どうしてだろうな?」
それはきっと理由があるはずだ。
だが、それを語る気はないようだな。
「逆に訊ねさせてもらうが、お前はなぜ、そいつを守る?」
嬉しいことに、あちらさんから質問をくれる。
なるべく長く会話していたいが、ルーリックの気が立っていて、もうすぐタイムリミットだろう。
「俺が守りたいからだ」
「何のために?」
「俺自身のために」
「そうか」
「そうだ」
沈黙するウォルレス、それに指示を飛ばすルーリック。
やはりタイムリミットか。
さて、俺も覚悟を決めないとならないようだな。
俺はティエラのそばまで下がる。
「なんだか嬉しそうだな」
「あなたが守りたいなんて言ったからですわ」
俺の株も随分と上がったものだな。
「まったく、こんな状況で喜ぶなんて、随分と肝が座ったものだな」
「大体あなたの影響ですわよ?」
「知ってる」
ティエラに逃げるつもりは見られない。
ティエラはリーラの転移魔法で逃そうとも考えたが、これならここにいたままの方がいいな。
「報酬を弾んでもらわないと割に合わないな」
「見返りを求めますのッ⁉︎」
「当然の権利だと思うが……まあもらえたらいいな、ってくらいだ。俺は報酬ほしさに戦っているわけではないからな」
「うーん……頑張ってはみますけど…用意できなかったら申し訳ありませんわ」
「気にしなくてもいいぞ」
俺はティエラの頭を撫でる。
そんな至近距離にまですでにいる。
いざウォルレスが撃って来た時、すぐに突き飛ばしてティエラを巻き添えにしないように。
「ヒロト、死ぬ時は一緒ですわ」
「それは無理だな。俺死なないし」
「断られましたわ⁉︎」
覚悟を決めたようだな。
俺もティエラもそれを感じ取り身構える。
「行くぞ!」
「来い!」
ウォルレスの全力の殺意が俺たちに向く。
時間はまだか!
震えるティエラの隣で、俺はまだ諦めずにいた。




