ぶつかり合う『もの』
「頼むぞリーラ。お前に何かありそうだったら転移魔法で逃げる。俺が向かったら俺に飛び込んでこい」
「了解ですよ」
リーラが建設途中のビルの隣のビルへと入っていく。
そして俺は建設途中のビルを見上げる。
あの屋上にいるらしい。
リーラはいざって時用の撤退用転移魔法を準備するために上階の俺たちが見える位置に行く。
「さてと、俺たちも行くか」
「そ、そうですわね」
緊張するティエラを連れて、建設途中のビル(当然進入禁止)へ入り、業務用のリフトに乗ってそれを最上階目指して動かす。
俺はウォルレスの能力を知っている。
脅しのつもりだったのか、ヒントのつもりだったのか、それは分からないが、あいつは俺に教えてくれた。
第2位だが、その能力はおそらく俺にほとんど効果を持たない。
残るは敵のボス。
16位だったな。
なに、問題はないだろう。
二人合わせて二段開門で倒す。
最悪右目まで入れれば倒せるだろう。
リフトが最上階につく。
大量の銃を各方位から向けられる。
「お兄様……」
そんな兵隊たちの後ろで、動きやすそうな服の写真で見た顔と同じ顔の男が、俺たち二人を哀れむような悲しむような、それが激しい怒りで覆い隠された瞳で睨みつけてくる。
「その様子だと、犯人が余であると分かっていたようだな。犯人が余であるとよく気付けたな。褒めてやろう、愚妹よ」
「気付いたのは俺だ」
「そうか。前言撤回させてもらおう」
「どうして教えますの⁉︎」
「どちらにせよあいつがお前を殺そうとするのは変わらない」
「その通りだ。貴様、頭が切れるな」
さて、どう動くか……
一応鬼門を開くが、すでにリフトの周りを電気の壁で覆われている。
俺一人なら突破は簡単だが、ここにはティエラがいるからなぁ……
ティエラを連れてきたのは失敗か?
しかし、ティエラとウォルレスの間にはなにかがあるようだし、それでウォルレスは弱体化するだろうと予想してのことだ、仕方ない。
「さて、どうして余が犯人であると気付けた?参考までに教えてもらおう」
「何をバカなことを……自分でも気付いているんだろ?ティエラが攫われたあの日、自分の行動が、そして緑服の行動が、あまりにも不自然だったことに」
「そんな些細なことで気付いたか。本来なら気にもされない点なんだがな」
こいつの能力はあの時見た。
その速さ、その火力、そして感じた、戸惑い。
その瞳は語っていた、お前は誰だ、と。
予定と違ったんだろうな。
あの火力なら、簡単に敵を殲滅できただろう。
あの速さなら、簡単に敵に追いつけただろう。
敵も敵でおかしかった。
王家同士の会議なんていう極秘情報を知っていて、しかもあれだけ手際よく運べたのだ、兵隊の配置なんかも詳しく知っていないとできない。
暗技使いがいれば話は別だが、あの時暗技は見られず、昨夜戦った中にも暗技使いはいなかった。
さて、それらを全て満たして王子を振り切るには、王子の協力はほぼ不可欠だ。
ウォルレスの協力があれば王子を抑えることはできるだろう。
しかしそれでは、王子が俺を追って来たことの説明がつかない。
だから答えは当然王子に辿り着く。
「なぜ攫おうとしたのか、理由は聞かないでいてやるよ。第2王子、ルーリック・ヴァーミリオン」
「聞かない、ではなく、予想ができてる、ではないのか?」
「そうだな」
「予想できているのなら、そこの愚妹をこちらへ差し出してほしいのだが?当然聞いているのだろう?そいつの持つ異常性は」
「だから?」
「差し出すつもりはない、か」
周囲を覆っていた電気の一部が俺にティエラに向かって飛来する。
俺はそれが動くより早く行動を起こす。
ティエラを伏せさせ、しかしそこで時間切れだ。
ティエラの上を通過した電撃は、俺の首筋に見事に当たる。
それと同時に電気の囲いが消えて、俺はコンクリートの床を転げ回る。
ティエラはすぐに何が起こったのかを理解する。
俺の体は動かない。
脳から発せられた信号が全て首で遮断される。
鬼門も強引に解かされた。
ティエラは理解した、自身の敗北を、自身の死を。
「さて、邪魔者は消えた。いやはや、よもや電撃に反応してくるとは思わなかったが、どうやら貴様の存在が足を引っ張ったようだな」
そう責め立てられ、ティエラは悔しそうに歯噛みする。
ティエラ、粘れ。
俺が戦えるようになるまで、粘れ!
今俺は動けない。
しかし体が危機を覚えている。
これは兆候だ。
俺はまだ、戦える!
「さあ愚妹よ。余の下へ来い。そして死ね。安心しろ、そいつの頭の動きまでは止めていない。貴様の死はその男に、バッチリと刻まれることになる。貴様を守ろうとしたそいつに、守れなかった現実を刻みつけてやる。我ながらいい配慮だと思うが?」
「……わたくしが行けば、ヒロトを助けてくれますの?」
まずいな、まだこちらの準備が整っていない。
「ああ、助けるとも」
いけない、このままでは間に合わない!
「そうですの……それなら、行きますわ」
ダメだ!行くな!
「ヒロト、ありがとうございますわ」
まだか!
まだ力は満たないのか!
もっと早く!
黒く、黒く染まれ!
両目が紅く染まる。
ティエラが一歩踏み出す。
両目では足りない!
もっとだ!
「主、俺が殺すか?」
早く!
「いや、余が殺す。それがせめてもの手向け」
黒く!
「お兄様……」
早く!
「終わりだ」
成った!
俺は解錠を使い電気を払い駆け出した。
ティエラに触れようとしていた王子の腕を払いのけ、ティエラを左に抱えて飛び上がる。
空気の流れを魔力で統制、暗技と魔力で滞空する。
「俺がついているんだ。簡単に諦めてんじゃねーよ」
「ヒロト……?」
俺が能力から抜け出せるなんて誰も思ってなかったようで、唯一反応していたウォルレスですら、その表情に驚愕を浮かべている。
「さて!絶望を知れ!お前ら!」
「待ち伏せか、ロッカ」
「そうだ。待ち伏せだ」
最悪の悪魔との対峙。
ピリピリと伝わってくる圧力。
やつは力を向けているわけではない。
ただそこにいるだけでこの圧迫感。
わしでも気圧されるほどの魔力量、実力。
「やめておけ。死ぬだけだ」
「殺せねぇくせによく言うぜ」
「そうだな。俺がどんな力を使ったところで、お前を殺すには至らない。実に面倒な相手だ」
やつがどれだけ強かろうとも、わしとさしでやりあうのは不利、やつにわしは殺せない。
どんな術式も、未来が見えるわしは結果が見え、それに対処することができる。
いくらEXコードと言えど、未来視の力をどうにかしなければ、な。
「いいのか?相棒のことは?」
「あれのことなら心配するだけ無駄だ。殺しても死なないようなやつだからな。お前の方こそ、のんびりしていていいのか?未来を見たからこそ、今この場に術式を止めるために来たんだろ?」
「そうだな」
「ならばせいぜい足掻けよ」
そう言ってどこかへ向かおうとするそいつに対し、わしは行く手を阻むように回り込む。
「どこに向かうつもりだ?」
わしを無視して通ろうとするその悪魔の動きを抑制するように迫撃で牽制しておく。
「止まれよ、『名もなき悪魔』さん?」
止まるはずがないか。
「止まって欲しいのなら、この俺を止めてみるんだな、ロッカ」
それは一瞬、閃光のようにわしの隣を光が抜けようとして、それを止めようと、迫撃を連発して動きを制限する。
「くっ……厄介なやつだ。だが、それもじきに終わる」
「俺の前にのこのこと出てくるとは、いい度胸だな」
「……」
「だんまりかよ」
俺を舐めてるのか?それとも怯えて声も出ない?
どうだっていいことだ。
こんな気迫も殺気もやる気もないようなやつに負けるほど、俺は弱くない。
「とりあえず、死んどけ」
火球を飛ばして炸裂させ、そいつの体を焼き尽くす。
第5位『死神』、この程度か。
六火の方がよっぽど骨があったな。
「その油断が命取りになるのだよ」
いつの間にッ⁉︎
俺の体に触れて何かをしようとする『死神』だが、能力を貫通できず特に何が起こることもなく、俺は裏拳で『死神』を粉砕する。
今のは間違いなく入った。
しかしそこには違和感があった。
砕いたのではなく、砕けたのだ。
「おいおい、なんの冗談だよ……」
俺の前には複数体の『死神』が立つ。
「やがて全ては静寂するのだよ」
「何?」
「術式はすでに発動しているのだよ」
「術式?なんのことだ?」
「そして神は、それにより恩恵を受ける人間は、死を迎えるのだよ」
「何を言って……」
不気味なことを言っている。
六火と優日が当たっていた案件がこの術式のことだったのか?
術式ってなんだよ……
何がなんだって言うんだよ……
急に街の各地から光の柱が立つ。
何がなんなんだ?
「何が起きているのだ?」
「自分でも分からないのか?」
「こんなの聞いていないのだよ。何かがおかしい……」
「光の柱……いったいこの街で何が起きようとしてるってんだ!」
マキナが優日に並走しながら怒りをあらわにする。
「あれは俺たちが準備してたことだぜ」
優日がそう言うと、二人が視線を向ける。
「おっちゃんが言うには、この魔法は対象の魔法使用者の魔力を使用して、対象の魔法を破壊する、対魔法魔法術式らしいぜ」
「他者の魔力を使う魔法……そんなことが可能だってのかい?」
「そうらしい。おっちゃんだからできるのかもしれねーけどな」
「なんだよそれ、俄然興味が湧いてきたぜ!」
「俺に訊かれても分からないぜ」
「あの柱、調べに行ってもいいのか?」
「たしかに気になるが、俺には分からん。調べると術式が崩壊するかもしれないからな」
残念そうにするマキナ。
優日はこの馴れ馴れしい感じに、どこか懐かしさを感じていた。
「繋がりませんね」
「やっぱりか。いつも無線壊すなって言ってんのに、ほんと学習しねぇなぁ〜フォーコの旦那は」
「参りました、今の状況を伝える手段がありません」
優日から聞いたことを伝えようとしたセーシンは、現状を伝える手段を模索する。
その答えを優日が持っていた。
少し速度を上げる優日。
それに驚いたように続く二人。
「急に速度を上げないでくれませんか?」
「俺は別に構わねぇけどな!」
しかし二人に構わず速度を上げ続ける優日。
向かい側は優日が鎖をばら撒き始めたその始点が近づく。
徐々に速度を落としていく優日。
「上げたり落としたり、あなたは何がしたいんですか?」
「速度を上げないと、先に鎖を飛ばせねーからな」
速度を乗せた鎖を前方へと飛ばし、あらかじめ置いてあった輪っかになっている鎖の輪を広げる。
その中を優日が通り、それで準備がようやく完了する。
そして優日は徐々に落としていった速度を落とし続けてついには停止する。
「準備終了ですか?」
「ああ。ようやく終了だぜ。あとは俺を上空へと運んでもらえれば、それで完成するぜ」
「おうよ!任せろってんでい!」
「頼むぜ、マキナ」
マキナは優日を両手で抱え、翼からシールドとジェットを展開すると、それらで空気を防ぎながら空高くへと登っていく。
そして優日が腕を力強く引くと、キュッと口が閉じ、鎖の檻は完成する。
「無限の牢獄、完成!」
鎖の監獄をほんの一瞬可視化させる優日。
「お前の階級って赤だったよな?」
「赤だな」
「だよな?」
「どうかしたのか?」
「いや〜とても赤には見えなかったんでなぁ……」
「ああ。友人には黒相当だって言われたぜ」
「いや、どう考えても白だぜ?それもかなりの高順位だぜい。この能力なら30位は硬いってんだ」
「あ、そうなの?まじめに能力テスト受けたことないからなぁ〜」
「この実力ならたしかに、おいらたちでも何人かはやられそうだぜ」
六火の言葉の実感が今更湧いてきたマキナ。
鎖の上に優日が降りると、寝そべり中を観察し始めた。
「これは安全なのですか?」
「俺の鎖はほとんどのものを遮断するぜ」
「それは……すごいですね」
鎖の上に立ち、腰につけていた双眼鏡を手に取って中の様子を見るセーシン。
優日はその双眼鏡を羨ましそうに眺めて、再度内側に視線を向ける。
マキナも鎖の上に降り、必要もないのに双眼鏡を取り出す。
「使うか?」
「見たらアウトだぜ?そんな自殺行為はしないぜ」
「こいつはそれ用に改良が施されてる。だから見ても害はないだ。おいらが保証するぜ」
「改良?」
「赤外線搭載」
「ふーん」
「カメラ同様ズーム機能搭載」
「ふむふむ」
「暗視機能付き」
「なるほど」
「ビームも出るぜ」
「うおおおおおおおおおお!!!」
「何ビームで騒いでいるんですか⁉︎子供ですか⁉︎」
仲良しな会話をする二人とそんな二人に驚くセーシン。
そんな二人の様子は、今日初めて会ったとは思えないほどに、とても親しい間柄のように、セーシンには写った。
星の並びから、今日でなければ術式が発動しないことは分かっていた。
だからそれを利用させてもらった。
今日という星の並び(まだ空には写っていないが)は、わしの術式を使うのにも有用だった。
相手の魔力を利用する術式、さらにそれにわしの能力も内包させてもらった。
「あの柱はなんだッ⁉︎」
「お前の知らない力だ……よッ!」
流水制・滅慟を撃ち込もうとして、しかしそれはさらりと受け流される。
「くっ、俺の知らない力、つまりは能力だ。それではこの俺が術式に気付けなかったのも頷ける。しかしなんなんだ、あの光の柱は、あまりにも、異様だ。あの白い光は何か嫌な感触がする」
「だろうな。あれは『天国への階段』だ。わしの対悪魔最高術式だ。こいつをかけられた術式は、未来永劫使用が不能になる!」
「なん、だと……?」
「これでお前たちの目的は果たせなくなったんじゃねぇかぁ?」
「くっ、それでもまだ、セカンドプランはある」
「だろうな」
どちらも気になっているようだな。
そしてお前が出す答えも、わしは知っている。
「……仕方ない。起こってしまったものは諦めるしかない。それがお前の新たなる力なら、俺には防ぎようがない」
「そうだな。こいつはわしの新たなる力、対処法は皆無だ」
「それなら俺は諦めがつく。さて、興味の対象に専念させてもらうぞ」
「やっぱそうなるよなぁ?」
「この莫大なる魔力、お前だって気になって……そうだったな。お前は誰が黒騎士か、分かっているんだなぁ?暗天の王?それとも、希望という称号でよんだ方がいいか?」
「六火だ」
「なんでもいいさ。お前はここでリタイアだ」
「できると?」
「できるさ。俺の称号を忘れたか?」
やつの称号だと?
そんなものはなかった、はず、だが……
…………………………
………………
あれ?わしは何をしていたんだったか……?
唐突に輝き出すわしの瞳。
それはわしの凄惨な未来を映す。
どこからともなく飛来したその刃を、わしは紙一重で躱す。
「やっぱり殺せない、か。俺の魔法、“忘却”も、お前の眼の前ではあまり意味をなさないな」
「お前は!そうか、そうだった……お前の称号は」
「忘れろ」
心臓がドクンと脈打つ。
何かが歪んだような気がする。
誰もいない。
わしはなぜこんなところに?
たしかリヴァプールで捕食者を止めようとして、それで……
再び瞳が輝き出す。
再び?
そうだ、思い出した!
わしはなぜか忘れていたそいつの存在を思い出し後を追いかける。
あと少し、足止めできれば……!
「なぜだ!なぜ動ける!」
「構えろ!」
叫ぶウォルレスと、すぐに対処に移るルーリック。
それはその対処が無駄であると理解しているからこその違いだ。
「ティエラ、俺に電気を流してくれ」
「え?大丈夫ですの?」
「力の温存のためだ」
俺が魔法を撃ったのでは、おそらく兵隊さんたちを殺してしまうからな。
ティエラの電気を増幅して拡散させる。
それがベストかな?
「分かりましたわ」
「全力で頼むぞ」
体の流れをあやつり、電気の通り道を作って、右の指先に電気を集める。
そして右手を銃の形にし、兵隊たちへと向ける。
自由落下は流れの操作でかなり緩やかなものになっている。
まず、外さない。
銃がこちらに向き、引き金が引かれようとする。
増幅、拡散、打ち壊せ!
指先から放たれたいくつもの電気の弾丸が、兵隊たちの銃を破壊する。
「壊れろ!」
ウォルレスが能力を使用したようだが、何も起きないな。
それもそのはず、普通を壊すウォルレスの能力では、異常性の塊であるこの俺は壊せない。
「残念だが、存在事態から普通じゃない俺を壊すことは、お前にはできない」
「ならば!」
「ティエラを、壊すのか?」
「うぐっ……」
「ならん!あれは余自ら、この手で殺すのだ!」
その発言がティエラを傷つけるが、その言葉の本当の意味を、理解していないということだな。
手際の良すぎる俺から距離を取る兵隊たち。
俺は床に着地し、ティエラを下ろす。
「まずは俺を殺すことをお勧めする。ティエラを殺した後で、お前たち二人とも死ぬのは、お前たちとしては御免だろ?」
「殺す?」
「俺たち二人を?」
王子、ウォルレスの順で、俺に訊き返す。
「改心してくれればその必要はないんだがな」
そんなことを関心がないような様子で答える。
かなり遠くで物凄い魔力の波動を感じたから、そっちが気になるんだよ。
何かが向かってきているようだな。
親父、ちゃんと止めてくれるよな?こいつら二人をぶっ飛ばす時間ぐらいは稼げよ?
「どこを見ている?」
「リヴァプールの方角?」
「仲間がいるのか」
「どうだかな」
「くだらないことを考えているな。死にたいように見える」
「俺は死なない」
「その強がりが、いつまで保つかな?」
強がりではなく事実なんだがな。
それに、今の俺に負けはない。
紅に染まった瞳に二人を捉える。
兵隊たちからは敵意を感じない。
兵隊さんはひとかたまりになって俺たちの戦いを傍観するつもりのようだな。
まあそうだろう。
武器だけを無力化した俺が殺すようなことはしないと想像するのは容易だし、それを抜きにしても武器なしで戦おうとは思わないだろう。
見たところ一般兵のようだし、階級は高くはないはずだ。
「王子はたしか16位だったっけ?」
「そうですわよ」
「そうか。なら問題ないな」
舐めてるわけじゃない。
ルーリックの攻撃で俺を倒すことはできないという確信があるからこその、冷静な分析故の余裕。
慢心ともとれる発言に、嘲笑うかのような表情を向けるルーリック。
「ティエラ、お前は隅で震えてろ。なるべく早く終わらせるから」
「わ、分かりましたわ」
ティエラが安全な場所まで移動するのを見送って、俺たちは再びいがみ合う。
「くだらない理想像なんざぶっ壊してやるよ」
「なんのことを言っているのかは分からないが、余を倒すことは不可能だ。余の大義のために、終わらせてやろう」
兄妹だからかどうかは知らないが、似てるな、ティエラとルーリックは。
鎖の、檻?
そうして一瞬だけ見えたものはすぐに見えなくなってしまう。
しかしそれだけで十分だ。
今の俺ならそれでも理解できる。
それはあえて可視化された。
つまりは俺に何かを伝えるために、だ。
理解したぞ、お前の言葉。
あの光の柱は気にする必要がない、ということ。
何体もの『死神』が群がってくる。
「やめとけよ、俺に触れるのは」
そうして触れた『死神』たちの体は、たちまち燃え上がり灰になる。
「やけどじゃ済まないぞ、と触れた後に言っても仕方ないか」
さて、これで『死神』は片付いたか……っ!
そこで不思議なことに気付く。
さっきまでとは比較にならない数の『死神』だ。
なぜだ、確実に焼却処分している!
増えるはずがない!
これがやつの能力だと言うのかッ⁉︎
「街には静寂が降りている。それは敗北の静寂。騒音は戦火が絶やし、荒廃した土地にはやがて緑が広がるだろう」
「何を言ってるのか、なんとなく分かる。分かりたくはないんだがな。そしてその目的にもなんとなく共感できてしまう俺がいる」
「理解する、か。お前も人間を心底恨んでいるようだな」
「それでも俺は忘れない。人間として生きていた頃のことを、人間をやめてから出会ったあの少女のことを」
「人間を恨んでいるのなら俺とともに来るべきなのだよ。きっと美しい世界が見れる」
「共感はできると言った。だが、賛同するとは言ってないな」
目前の『死神』を燃やして、辺り一帯を火の海に変え、捕捉した『死神』の本体らしきものに、ゆっくりと歩みを進める。
一歩また一歩。
『死神』たちは姿を見せない。それはきっと誘っているからだ。
角を曲がるとそこには、一本の大木があった。
異様な存在感だ。
これが『死神』本体か?
もともとここには木なんてなかったはずだ。
しかしおかしいな、『死神』は最初に発見された時は人間の姿をしていたはずだが、どうにも納得できないな。
木に姿を変えることができるのか?
その木を燃やそうとして、手を止める。
声が聞こえた。
複数の人間の悲しみ嘆き救いを求める、そんな、地獄に落とされた人間が上げるような声が。
なんなんだ、これは……
「それは騒音。数多の騒音を掻き集め生命の糧とした結果だ」
その言葉に余裕を奪われる。
人間を植物に変えることは知っていた。
だが、それがこんなにも恐ろしいものだとは思っていなかった。
『我々を、殺してくれ……』
そんな声が聞こえた気がして、再びあの日を思い出す。
その声は何度も何度も頭の中に響き続け、俺に痛みを思い出させる。
「う、うああ……」
壊そうとして、その行動が俺に、さらに鮮明に地獄を見せる。
「風に木々に大地に、耳を傾け声を聞け」
辺りの地面が盛り上がり、タイルを突き破り木の根が俺に襲い来る。
「そんな攻撃が効くか!」
あらゆる攻撃は効かない、そう思っていた。
それは能力と能力のぶつかり合い。
能力に干渉する『死神』と、それを跳ね除けようとする俺のぶつかり合い。
今まで見てきたどんな能力よりもタチの悪い能力だ。
俺よりも、多分他の新たなる可能性よりも。
何としてでもここで倒すべきだ。
勢いを殺さなければどこまでも広がっていく。
それがこいつら捕食者だ。
俺と木の根の間に火花が散る。
これが能力同士の本当のぶつかり合い。
どちらが優先されるのか、どちらが相手の能力を喰い潰せるのか、そんな戦い。
当然勝つのは、この俺だあ!
そう思っていた矢先に、俺は木の根に圧され体を建物へと激突させる。
これは、かなり厄介な能力だな……
「助けた方が良さそうか?」
「助ける?あなたが?冗談にしてはユーモアのかけらもありませんね」
「助けるって、どうするつもりでい?旦那はたしかに強力な能力を持ってるが、自分で攻撃が届かねぇように塞いじまったじゃねぇの?」
「まあ任せろって。俺の数多ある切り札の一つ、とっておきを見せてやるぜ☆」
優日は自分用に作られたアイテムを取り出す。
イギリスに来てからは敵の注意を引くために使われた二つのカプセル。
それを鎖で繋ぎ、無限の牢獄の上に置く。
すると鎖が音を立て始め、カプセルが内側へと落とされる。
鎖で繋がれたカプセルが空中で踊りながら、鎖が小さな人の形を模していく。
「まずは鎖人形。そしてそこから派生する」
トリガーは引き金だ。
そこから続く技があるからこそのそのネーミングなのだ。
「全て喰らいつくせ!八岐大蛇イイイィィィ!!!」
優日の鎖はどこまでも長くすることができる。
優日の能力は学校には同調のみが評価されているが、優日自身は能力の真価はこの際限なく伸びることと、並大抵の攻撃では通らない硬さにあると思っている。
それを最大限に活かせるのがこの戦い方だと信じている。
閉じ込められればもう抜け出すことはできない。
その中では大蛇が暴れ、壁に近づけば壁が攻撃してくる。
そんな、敵は絶対殺す戦法。
空中で人形が回り続け、だんだんと巨大な鎖の球体となっていく。
それが地面に落ちた時、かなりの振動が響き渡る。
その球体から一つの首が起き上がる。
それはあらゆる建物を破壊し始めた。




