そして敵を知る
それは人間なのだろうか?
魔力は感じられない。
地域が地域なため、一応吸血鬼の線も疑っておく。
しかしそのどれでもないような気がしてならない。
その人影には人間味がなさすぎる。
そこにあるのが当然のような気がして、しかし不自然なような気がする。
そいつが木に触れると、その木は瞬く間に生気が吸われていくように葉が枯れ枝が垂れ、その木はぼろぼろと崩れ砂になる。
あれが原因なのだろうか?
それは再び歩き出すと、一つの建物へと入っていく。
外観からしてカフェのようだが、それを理解して入っているのかは謎だ。
異常過ぎるその生物(?)に気付かれないように少し近づいて、中の様子を遠巻きに観察する。
言葉は通じるのだろうか?
俺はヨーロッパの言語ならほぼ話せるが、あれが人間の文化内に含まれないのなら、全く別の言語を持ち合わせているかもしれない。
もしかすると、言語なんていう人間の作り出した枠組みでは測れないような何かを、扱うかもしれない。
人間は人間の言語を尺度として利用し、悪魔も同じように言語を共有しているため、尺度は言語となる。
しかしあれが言語を持たないのなら、この尺度では測ることなんてできない。
危険かもしれないが、行ってみなければなにも理解などできない。
ゆっくり歩いて近づいていくと、それの全貌が見えてくる。
それは椅子に腰掛けて、淹れたてのコーヒーを優雅に嗜んでいた。
見てくれは人だが、全く様子が見えてこない。
「これが俺の作り出した世界なのだよ。気に入っていただけたかな?」
その言葉は明らかに俺へと向けられていた。
バカなッ⁉︎
気付かれただとッ⁉︎
全く予期しておらず、全身に動揺が走る。
「気付かれていたのか」
そう声をかけながら俺は前へと出て行く。
そうして気付いた。
彼の前の席には、もう一つコーヒーカップが置いてあることに。
俺を誘っているのか?
何よりもまず疑問が来た。
「ほう?」
その人物は驚いたように眉を上げる。
「お前は相当な手練れのようなのだ。いや、審美眼が欠如しているだけか?」
なんだか失礼なことを言っているが、それは挑発か。
疑問は解消されず、逆に増え続け頭の中を埋め尽くす。
俺はそいつに攻撃の意思があろうとなかろうと、術式でどうとでもできるだろうと踏んで、店内へと足を踏み入れる。
店内には何もなく(外観から分かってはいたが)、ビルのような悲惨な状態にはない。
「お前は、誰だ」
そう訊ねると、コーヒーを啜り俺を一瞥し、その人物は、若草色の髪の少年の見た目をした誰かは語る。
「名前などないのだよ」
『名もなき者』は淹れたてのコーヒーを飲むと満足げに笑い、向かいの席に用意されたコーヒーを進めてくる。
「いや、あったのだよ。しかしそれはお前の求める回答ではないのだ。それを名乗る必要があるのなら、名乗るのもやぶさかではないのだ」
そう訂正を入れる『名もなき者』。
「それでは聞こう。お前の呼び名を」
「俺は『Object−254』又は題名『静寂の歌』と呼ばれていた」
聞いたことのない名前だ。
情報を集めるにはそう呼んでいた機関から情報を持ち出すのが一番手っ取り早いか?
こいつが全て話すとも思えないしな。
「どこから来たんだ?」
「答えるのだよ。国際連合 異常物質研究所 ルーマニア支部 第2研究所なのだよ」
やはり、か。
この街から一番近い研究所。
それがその異常物質研究所だ。
異常物質研究所では、基本的には悪魔の研究を行い、弱点や新しく見つかった特性などの報告を目的としている。
しかしいくつかそれから漏れる研究所があり、そこでは悪魔に対抗しうる者を作ったり、危険なものの捕獲や保護、研究及び破壊を行っている。
こいつのいた場所もそういった施設だったのだろう。
これ以上の情報は期待するだけ無駄か?
とりあえずは研究所に行って情報を集めるべきか?
しかし……街をこうしたのは自分だと言っていたが、こいつの目的は何だ?
「さて、それでは今度は俺が質問する番なのだよ」
俺がコーヒーを飲まないと判断したらしい『名もなき者』は、それを啜って静かに置いた。
「この街は気に入ってくれたか?」
始めの質問だ。
これに嘘をつく意味はないだろう。
もし見破れるのなら逆効果だ。
こいつを刺激するのは得策ではない。
「ああ。気に入ったよ。かなりな」
この街は気に入った。
俺の理想そのものだからだ。
「それは良かったのだよ」
そいつは笑った。
「ここを気に入ったのなら、俺に協力するつもりはないか?」
「協力?」
「そう、協力。俺の理想のための協力なのだよ」
「お前の理想は?」
「この世界だ」
それは分かりきっていた。
そのつもりがあって接近したわけではないが、俺の理想の近道となる以上、協力を拒む理由がない。
「この世界をこの街のようにする」
「そうなのだよ」
感情の感じられない少年は、ただ静かにそこにいる。
「いいだろう。俺はお前に協力する。今ここに誓いを立てよう。俺とお前は契約者だ」
俺が指に小さな切り込みを入れ、その血を机の上に垂らす。
『名もなき者』は何をすればいいのか分からず、感情のない瞳で俺を見上げる。
「そこに手を置き俺が言った言葉に対して何か答えればいい」
そしてそいつは警戒することなくそこに手を置く。
「ならば誓うのだよ。俺は世界を作り変えるのだ」
「契約成立だ」
俺たちはこうしてパートナーとなった。
「なんだか今日の街は異常なほどに騒がしいぜ」
六火の横で周囲を警戒する優日。
辺りが騒がしく車が多いことから、優日は警戒を強める。
「問題ない。これはあいつらが行動してくれた結果だからなあ」
あいつら、1位の仲間か。
「軍の車両なんかも見かけるが、あれはほっといていいのかよ?」
「構わねぇよ。あんな鉄くずで戦おうとはやつらも考えねぇからなあ」
「いやいや鉄くずって……」
「そうだそうだ。狼破の嬢ちゃんに資料を送らせたんだった」
六火はスマホを優日に渡す。
その画面に映された詳細を見て、優日は血の気が引いていく。
「なあ、おっちゃん?まさかとは思うけど、これって敵さんの情報じゃないよなぁ?」
「そのまさかだ」
「こんなの勝てるのかよ……」
半ば諦めのようなトーンで話す優日。
「こっちには第1位、フォーコ・ディベローナがついてる」
「だがこれはいくらなんでもなぁ……」
「そいつ、第5位だ」
「…………はあッ⁈」
今世紀最大の驚きを見せる優日。
これで5位なんて、という表情だ。
「いい驚きっぷりだなあ」
作業を終えた六火は落ち着いた優日を連れて次の目的地を目指す。
「肝が座りすぎなんだよなぁ」
「わしはわしで苦労してきたからなあ」
声を上げて笑う六火に冷ややかな目を向ける優日。
しかしどんな目を向けたところで状況が好転することはない。
諦めて作業を急ぐ優日。
「一応奴らの組織『捕食者』に属しているであろう人物もピックアップしてあるから、そいつも見ておけ」
「りょーかい」
狼破はどこでこんな情報を仕入れたのか、と疑問に思う優日であった。
「彼から情報が届きました」
ファックスされたそれは、何枚もの紙に簡潔にまとめられている。
フォーコはそれを手に取って、その情報を確認する。
情報次第では仲間たちに隠すべきものであるかもしれない。
そうして確認した内容は、みんなで共有すべき敵の特性だった。
そこには『死神』とは書かれてはいなかったが、それが第5位『死神』であることは容易に判断できた。
これは危険だ。
瞬時にそう判断した。
「マキナ!」
仲間の一人を呼ぶと、その人物はすぐに顔を見せる。
「どしたい旦那?」
そうして現れた機械仕掛けの少女、マキナに、一枚目の紙を飛ばす。
「コイツァひでぇな」
「対策は任せるぞ」
「すでに臨戦態勢か。張り切ってんねー旦那っ」
「ま・か・せ・る・ぞ!」
「おうよ!」
「お前ら!『死神』と思しきものを見かけたらすぐに俺に連絡しろ!俺が向かうまで絶対に見つかるな!」
マイクを持って建物内の仲間たちに伝令を済ませると、フォーコは立ち上がりブラインドの隙間から外を見る。
戦車やジープが走る街中で、それらは住民の避難を誘導しているのが見える。
「セーシン!戦場のやつらに伝えろ」
「了解しました」
退室したセーシンと入れ替わりに、マキナが入室する。
「どうした?」
「試作機のテストだぜい。おいらのラボには人がいねぇのよ」
「作業が速いな」
「別の目的で考案してたやつなんだが今回使えんじゃねぇかなと思ったんで試験中なんでい」
「何も装置を持ってないように見えるが?」
「今おいらが付けてるコンタクトがそれなんでい」
「コンタクトにそんな機能を搭載できるのか」
「おいらの体あってのモンだけどな」
「それで?」
「オールクリア。あとはこの機能をゴーグルにでも搭載すれば完成よ!」
「頼む」
「ガッテンでい!」
一人になったフォーコは、腰を下ろして資料を眺める。
『捕食者』の構成員である可能性の高い人物リスト。
それはあまりにも現実離れしていて、しかし自分なら倒せると思っていた。
「現実離れした化け物リストかな。それなら僕の収容難度は、間違いなく“白”だろうね」
美しい長い銀髪の少女が雷光を纏い戦場を駆ける。
なんだここは?
悪魔と人間が争う中で、俺はぼんやりとそんなことを考える。
体がふわふわと浮かんでいるようだ。
ああ、これは夢だ。
俺はそう認識する。
しかし夢と認識していながら、俺の体は自由には動かない。
明晰夢、というやつとは違うのかもしれないな。
俺は仕方なく戦場を眺め続ける。
光り輝く銀髪、周囲でパチパチと弾ける雷。
手に携えたその剣は、刀身が雷の影響か青白く発光している。
あの髪、この感触、どこかで……
…………
……
俺はそこで目が覚める。
「ようやく目を覚ましましたわね」
俺の目を開けて最初に、俺を覗き込むようにするティエラの顔を確認する。
その顔は何か出っ張りのようなもので一部隠れているが、あれはなんだ?
寝ぼけていて頭の回らない俺。
俺はどこで寝ていたんだろう?
頭が何か柔らかいものに乗っていることに気付いて、そして段々と頭が冴えていく。
顔と顔との距離、頭の下の柔らかいもの。視界を遮る膨らみ、そしてこの香り。
あれだ、膝枕だ。
しかしなんで俺はこんな状況に?
俺はなぜかは分からないが一応ティエラに謝って、それから体を起こす。
ああそうだった。
ティエラを止めた後で俺は倒れたんだ。
そして俺は何か奇妙な夢を見ていたことが頭をよぎる。
あの夢はなんだったんだ。
服装は朝のままの、つまりは俺が攫った日と同じ格好のティエラに、なんでもないことのように質問する。
「ティエラ、お前って戦えるのか?」
「わたくし?戦いは苦手ですわね……運動は人並み以下ですわ」
おや?傷口に塩をかけてしまったか?
しかし、ティエラじゃないならあの夢の人物は誰なんだ?
そして思考は加速する。
ティエラから感じた美しさ、それはフィリアに似ている。
だからなんなのだ、という話だが、俺は夢で見た何かが頭の中に残り続けていた。
あれはティエラではない。
しかしティエラやフィリアに似た、美しさを持っていた。
戦場で人間の使っていた武器、悪魔の使用していた魔法、それらから時代背景を探ると、大体17世紀頃か?
フリントロック式のマスケット銃の使用や、まだ未発達の初級魔法を大人数で協力して放つ。
おそらく第一次境界大戦頃だから、17世紀で合ってるだろう。
その時期にあれだけの能力を持つのは珍しい。
今でも階級黒や白に匹敵するのではないだろうか?
あれの能力は雷を操るものだった。
確かどこかで……
……そうだ。
ティエラを攫った日、あの日に俺は雷を見た。
「えっと……ヒロト?」
考え込んでいた俺を、一度倒れたこともあってか心配してくれるティエラ。
「お前の兄、だったよな?」
「……何のことですの?」
色々省きすぎた。
「あの日お前を追ってきた、雷を使っていた人物だ」
「そうですわよ」
それならと、一つの仮説の確認を取るため、俺はティエラに質問する。
「お前の能力は、なんだ?」
「急にどうしましたの?」
「いや、少し気になってな」
「わたくしのことが知りたいのですわね!」
「知りたいは知りたいが、その言い方は誤解を招きそうだな」
「わたくしは電気を操れますわ。と言っても、本当に微弱なものですけど……」
電気を操る。
うーん……どうやら気のせいではないみたいだな。
「受け継がれる能力に発光する髪、だけだとまだ根拠としては弱いな……」
「発光する髪?根拠?あなたは何を言っていますの?」
「初めて会った時から気になっていたことなんだが、お前は少し不思議な感じがしてな。それを今考えているところなんだ」
「不思議な感じ……ですの?」
不安そうに訊ねてくるティエラは、やはり何かを隠しているようだな。
誰にでも隠し事の一つや二つや三つや四つは……俺基準だと隠し事が多すぎる気がするが、誰にでも一つはあるという認識でいいはずだ。
とりあえず、俺にあるんだから誰にあっても不思議じゃない。
昨日全てを吐き出してなかったってことではないだろうし、今回のことはティエラの中ではまた別のことだと判断されているのかも。
「お前の能力ってどれくらいの出力なんだ?」
「あ、質問は無視しますのね」
ティエラが俺の手を取ると、そこからパリパリとした触感を感じ取る。
流れを読み解く暗技だから分かるのかもしれないが、それが電気の流れる感触だとも分かる。
そしてそれが体の中に拡散して消えていくのも。
「全力?」
「まだ少し出力を上げれますわ。ほぼ全力ではありますけど」
予想はしていたが、ここまでとはな。
あまりにも出力がなさすぎる。
それに対してあの日見た雷光は、間違いなく白クラスのもので、奏未の雷霆にも届くほどの出力だった。
夢で見たあの少女の出力は相当なものだったが、これほどまでに差がつくものなのか?
「他の王族も電気を操るのか?」
訊ねられたティエラは、不思議な顔をして、そしてすぐに合点がいったように頷く。
兄が能力を使うところを俺が見たことを思い出したようだ。
「そうですわ。二人の兄も二人の姉も、お父様もみんな電気を操る能力ですわ」
うーん、分からん。
俺や奏未のように、血筋で受け継がれる力があるのは知ってるが、能力が受け継がれるなんて聞いたことがない。
夢の少女が今のイギリス王室の祖先なら、そうした技術を開発した、もしくは自身の血に受け継がれる力の方式を当てがった、ということになる。
しかし、そうした性質を持つ血なんて、そう簡単には、特に当時の技術では難しいはずだ。
だがこうして能力は受け継がれ、銀髪だって一部には受け継がれている。
まさか、まだ完成していないだけなのか?
「分からないな」
「何がですの?」
「お前たち王族のことだよ。どうして共通の能力を持つのか、どうしてティエラだけが銀髪なのか」
「……ヒロトは今どう考えてますの?」
俺の考えか。
俺は嘘を見抜ける。
だから口にして相手の反応を見るようなやり方はするつもりはなかったんだが、訊かれたのなら答えるしかない。
「お前から感じる流れ、受け継がれる力、発光する髪、それらは俺の知る、新人類の特徴だ」
ティエラは少しだけ戸惑う。
なんだその反応は?
読めなかったんだが?
「流れと発光する髪のことは分かりませんわね」
「流れのことは気にするな。髪の発光は夢で見たんだよ」
多分この目の力だな。
親父の能力の逆の能力が備わっている可能性のある目に不思議な感覚を覚えた。
だからおそらくこの目の力で見た過去だ。
「夢……ですの?」
「あれはお前自身ではないが、間違いなくお前と同じ特性の持ち主だった。その特性は新人類に見られるものに類似する」
「その夢を信じていますの?」
「ああ。俺にはそういう力があるからな」
力と言えば大抵のことは納得する。
勝手に能力を、夢で過去や未来を見るもの、であると考えてくれる。
「そうでしたの。それでは、隠し通すことはできませんわね」
諦めたように笑うティエラは、寂しいような悲しいような光を、目に内包している。
「そうですわ。わたくしは新人類ですわ」
新人類。
俺はそうじゃないかと予想していたと同時に、それを否定してもいた。
神に近づく力を持つのが新人類だ。
そしてその体には一切の無駄がなく、暗技の無駄のなさとは違う、人間の体とも違う、そんな存在であるはずなんだ。
しかしティエラは無駄だらけの、ザ・人間という体だ。
「分からないことだらけだな」
「わたくしもよく分かりませんわ」
「一応特性くらいは理解してるか?」
「詳しくは理解していませんが、悪魔を完成させることは理解していますわ」
「他にそれを知っているやつは?」
もしかしたら敵のボスに繋がるかもしれないこと。
親父は教えてくれなかったが、思わぬところから敵の素性を知れる可能性が出てきた。
「お父様とお兄様が知っていますわ」
「誰から聞いたんだ?」
「お父様様が教えてくれましたわ」
父が敵、とは考え難いな。
もしそうだとしたら、とっくに殺しているはずだ。
兄は?
情報が少なすぎるな。
「兄は二人いるよな?どっちだ?」
「あの時わたくしを助けようと追ってきた、第2王子ですわ」
あの時追ってきた、疑いが晴れるわけではないが、警戒は薄めた方がいいかもな。
「また考え事ですの?」
「そうだな。また考え事だ」
敵は悪魔か人間か。
情報はどこから漏れるか分からない。
とりあえずは保留だな。
今日の内に確認しにいくか。
「手伝い行くか」
「そうですわね」
立ち上がった俺に続いて立ち上がろうとするティエラ。
しかし立ち上がろうとして四つん這いになる。
足がプルプルと震えている。
俺に膝枕をするために正座をしていたから、足が痺れてしまったんだな。
俺が原因でこうなっているのだから、俺が面倒を見るべきだよなぁ。
ティエラの態勢を変えて、壁にもたれさせ足を伸ばさせる。
苦悶の表情を浮かべていたが、そこまで気にすると何もできないので我慢してもらおう。
「足触るぞー」
「…………ッ!」
手が膝から付け根のあたりまで上っていく感触に肩を震わせるティエラ。
これは決してやましい行為ではなくてだな……
ピリピリと張り詰めた筋肉、それをほぐし、一時的に無駄を省く。
俺には荒療治しかできないんだ。
腰と腿の境の関節に手を置き、もう一方の手を膝より少し腿よりの位置に当てる。
「少し痛むだろうけど我慢してくれ」
「……へ?」
ただでさえ痛む足に刺激を加えられ、あまり声は聞こえていないだろうけど、気にする必要はないな。
暗技流水制・紡脈!
触診して強張り方は分かった。
あとはそれを解かせるような衝撃を加えてやればいい。
両方から腿の筋肉に衝撃が加わり、腿の筋肉からそのまま力が伝って爪先へと走っていく。
膝が力の合流地点だ。
そこで力は弱めあい、その先で強め合うことで、凝ったふくらはぎをほぐし、爪先から力は体外へと流れ出る。
「痛ったああーーい!!!」
かなりの激痛が走ったようだが、それは一瞬のことだろう。
「悪いな。それで、調子はどうだ?」
「…………もう片方もお願いしますわ」
足を動かしてみてそう判断したティエラ。
触られることや一瞬の痛みはあるが、メリットがないわけじゃないからな。
「任せろ」
反対の足にも同じようにする。
「痛っっっっっったああああああい!!!」
「お疲れ」
「あなた、楽しんでません?」
「何を?」
「…………」
「手伝いに行こう」
「……そうですわね」




