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最下層階級の絶望騎士  作者: ぶい


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交錯する想い

 彼は大丈夫だろうか?

 僕は自身に働く力の時間を操り、宙をゆっくりと移動していく。

 僕が目指す場所は当然、ブルグルフがいるらしい死者の領域、そこにある病院だ。

 そういえば、彼はバスから降りた時、寒いと言っていたね。

 この季節にそれはないだろうと思っていたが、あの時情報をくれた母親悪魔は厚着をしていた。

 今こうして空中から街を眺めているが、他の悪魔も似たような格好をしている。

 本当に寒いのかな?

 僕は止めていた熱伝導の時を動かすと、急に襲いくる冷気によって、慌てて再び時を止める。

 寒いなんてものじゃないね、これは。

 これを寒いだけで彼は済ませていたのかな?

 なんて……そんなはずがないじゃないか。

 ここが大阪内部で、どこかに冷気を発している場所があるはず。

 なぜそんなことをしているのか、その理由は僕には分からないね。

 彼、派世広人なら分かるかもしれないけど、僕の頭ではブルグルフの操る死体が腐らないようにとか、そんな予想しか浮かばない。

 ブルグルフの操る死体が腐るのかどうかすら分からないけど、それぐらいしかこれほどまで冷やす理由はないからね。

 冷やしているのはあの時彼らに使っていた死体の能力かな?

 そんなことを考えていると、壁に身を隠して警戒している紅髪の少女を見つける。

 ブルグルフは少し置いておこう。

 派世広人君という存在をなんと思っているのか。

 僕は彼と戦った。

 そして僕は、彼を怖いと思ってしまった。

 なぜか、それは僕が彼と戦い、そして彼に負けて、その時彼は、僕の心理を盗みとっていた。

 拳を合わせれば相手のことが分かるなんて言われるけど、心理を読み取れたのは一方的で、僕には彼が見えなかった。

 そんな彼だ。

 他人の評価が気になるのは仕方ないと思う。

 一旦ビルの屋上に降りると、悪魔に気付かれていないことを確認して、その少女、フィリア・ユスティリアの傍に降りる。

 こちらに気付いているようで、辺りを確認した後に僕に振り向く。

「彼を倒したんだ?」

 僕がここにいることで、あの男を倒した可能性が最初に思い浮かんだのか。

「倒してないよ。派世広人君に任せたのさ。僕の攻撃は一度も入らなかったからね。仕方ないね」

「そうなんだ……」

 彼を心配しているようだね。

 やはりこの少女も、僕同様に彼に毒されているようだね。

 彼には謎の魅力がある。

 だから自然と彼を信用してしまうし、彼を心配もする。

 不思議と信頼できる存在。

 そして同時に不気味な存在でもあると、僕は考えるけどね。

「彼を心配しているようだね。彼とはどんな関係なんだい?」

 この少女はユスティリア。

 組織の情報だと、アメリカの閉鎖的な一族である。

 そして、こうして日本で暮らしていることは、本来なら起こりえないことだったらしい

 しかし、アメリカで起きたあの事件、四年前のライトマン失踪事件によって姿をくらます羽目になった。

 あの時何があったのか、新人類に、ユスティリアに何があったのか、様々な見解が存在するが、真実は未だ不明。

 しかし、今ここにこの少女がいるのは、間違いなくあの事件が影響していると言われている。

 さて、そんな事件を経験した少女が信用するなんて、いったいどんな魔法を使ったのか……

「うーん……なんて言ったらいいんだろう?私と広人の関係かぁ……深く考えたことなかったわ」

 出会ってから大して月日は経っていないはずだ。

 それでも彼は、この少女のために命をかけて僕に向かってきた。

 だからきっと、この少女と派世広人の関係は、命をかけてもいいと思えるような間柄なんだと思っていた。

 しかし、その認識は改めなくてはいけないね。

「君は彼に心と命を救われた。僕と同じように。きっとそんな関係だね」

「ざっくりと説明すればそうなるわね」

 ざっくりと説明すればってことは、もっと他の何かがあるんだろうね。

 僕には知るよしもないし、そんなことが知りたいわけでもない。

「そんな関係の君から見て、彼という存在はどんな人間だい?」

 回答に困る質問だよね。

 それでも真剣に考えてくれるのは、この少女が僕がそれだけ気にしていることに気付いているからか、それともただ聞かれたから答えるだけなのか、いずれにせよ、この少女は真摯に質問に答えてくれる。

「そうね……広人は自分を犠牲にして誰かを助ける、アニメや漫画の主人公のような、そんな存在?……少し違うわね。彼は感情だけで動いていないから」

 それはまるでアニメや漫画の主人公たちが感情だけで動いているみたいな言い方だね。

 僕は見てないから分からないけどね。

 しかし、彼は感情だけでは動かないのか。

 僕はこれまで、輝咲のためだと殺しを必要な犠牲だと考えて自分を守ってきていた。

 それを彼なら、納得して受け入れてしまえるのか?

 感情だけでは動かないって、どこからどこまでの範囲だろう?

 冷静でいること?

 自分の利益まで考えること?

 全く分からない。

「その、感情だけじゃないって、いったいどういうことかな?」

「広人がどうしてあなたを殺さなかったと思う?」

 質問に質問で返された。

 しかし、たしかにそうだ。

 自分の身近な人を殺そうとしている人がいて、そいつを簡単に許せるなんて、同情や哀れみでできることじゃない。

 彼には始めから僕を殺す気なんてなく、始めから恨みも怒りもなかったのだ。

 じゃあどうして、僕は彼を恐れていたんだろう?

「あなたはどうして私が広人を信頼しているのかが聞きたいのよね?」

 僕の意図なんてお見通しか。

 彼もこの少女も、まったくどうしてこうも考えを見透かしてくれるのか……

「彼は嘘を吐かない。たしかに隠し事は多いわ。でも、彼は常に自分の言葉を守ってきた。あなたとの戦いの時もそう」

 嘘を吐かないからは、信頼しているからそう思うのでは?と思うが、彼が有言実行し続けた結果なのだろうと、フロストを思い出してそう考え直す。

「あの時の彼はどこか不気味なものがあった」

「私は感じなかったわ」

 それほど純粋なのだろう。

 利害の一致がなければ人を信用できない僕とは、どうやら根本から違うようだ。

「君が羨ましいよ」

「どういうこと?」

 そろそろ日溜優日が死者の領域に入った頃合いだろう。

 僕は少女のことなど忘れたかのように飛び去る。


 なんだったんだろう?

 聞くだけ聞いて質問には答えずに帰っちゃうし。

 それにしても寒いわね。

 新人類の力を使えばこの程度なら凌げるけど、ここで力を使ったら悪魔に居場所を教えているようなものよね。

 私は何をしたらいいんだろう?

 特に目的もなく来てるから分からない。

 考えても思いつかない。

 広人は非戦闘員を殺さなかった。

 だから悪魔を無闇に殺す必要はないはずだ。

 でも、どの悪魔が戦闘員かなんて見分けがつかない。

 悪魔がいない間に道を横切る。

 上級悪魔に見つかったら大変だ。

 私では倒せないから。

 倒されることもないけど、倒せなければ戦いは長引き敵の仲間が駆けつけて終わりだ。

 私はどうしてこんなところにいるんだろう?

 飲食店の陰に身を隠して道路の様子を観察する。

 この寒さの原因は分からないけど、この寒さの影響で出歩く悪魔は少ないだろう。

 それは有り難いわね。

 どこかで寒さをやり過ごしたいけど、裏口は閉まっているわね。

 飲食店の裏口のドアノブを回してみるも、鍵がかかっていて開くことはない。

 中にはたしかに人がいるはずなんだけどな。

 新人類の力を使わなくても3,4メートルくらいなら感知できるから、それで中を探っていたんだけど、人がいてもこんな街じゃあ開けてくれないわよね。

 声をかけるのは論外だし、体が冷えてきたから温めたいんだけど……

 すると、扉が内側から開けられる。

 そしてその人は顔を覗かせて、私に笑いかける。

「え?」

 純粋に驚き疑問を呟く。

「早く入ってー」

「あ、うん」

 驚いていたこともあり、流されるままに店内に連れ込まれる。

 室内は多少はマシだけど、やはりまだ寒い。

「夢花がどうしてここにいるの?逃げた方角違ったよね?」

 私とは90度違う方角を目指しいたはずなんだけど。

 私って結構足速いんだけど、まさか先回りされていたなんて思わないわよ。

 たしかに警戒しながら移動していたから普通に走れば先回りできるけど、この街で普通に走れるはずがない。

「ちょっと待っててねー」

 夢花が床のタイルとタイルの隙間に細い棒のようなものを挿しこみ、一枚のタイルを押し上げると、それと同時にいくつかのそれに連なったタイルがひっくり返る。

 そうして開いたそこの下には地下へと続くはしごがあった。

「ここを通ってきたんだよー」

 その裏側には持ち手がついており、そこを掴んだ夢花が中に入れと促してくる。

 はしごを降りていくとハッチが閉められ、内部で明かりがつく。

 予想外に地面が近く、さっさと降りると夢花がそれに続いて降りてくる。

 こんな空間が広がっていたなんて……

「どうしてこんな場所を知っていたの?」

 夢花はその質問に答えることなく、真っ直ぐどこかへと向かっていく。

「どこに行くの?」

「ここは逃げ遅れた人たちが暮らす場所。今のところは悪魔に見つからずにいるよー」

 普段通りの調子でそう言う夢花は、いつも通り過ぎて大した説明もしてくれない。

 本当にいつも通りね!

 いや、きっと最初にここを見た時は驚いていたはず……

「私の居場所が分かっていたのよね?」

「そうだよー」

「どうやって?」

 しばらく上機嫌に鼻歌を歌いながら歩いて、ようやく答える。

「私の能力は、声を聞き声を届けること。それがどうしてか変化したんだー」

 しれっと驚愕の事実を発表する夢花。

 しかもすごいマイペースだ。

 常識や普通なんてものは、夢花から蒸発してしまってるらしい。

「私は精霊さん?妖精さん?の声が聞こえるようになったんだー」

「は?」

 驚きのあまりちょっと威圧しちゃったけど、夢花に気にした様子はない。

 なんだか、広人と出会ってから驚いてばかりいるような気がするんだけど……新人類の私が何度も驚かされるってどうなってるの?

 能力が変化するなんて話は聞いたことがないわよ?

 おそらく新人類より希少であろう夢花の話を続けて聞く。

「その精霊さんがね、新人類さんがあっちにいるよーって、私を引っ張ってきたんだよー」

 私は新人類のことを話してないんだけどなー?

 どうして私が新人類だって知っているんだろう?

「えっと……広人から聞いたの?」

「ヒロ君は知ってたのかー」

 この様子だと違うようだけど……じゃあ誰から?

「私は精霊さんに聞いたんだー。普段からうるさいんだよー」

 精霊をうるさいって、すごいこと言うな、この子。

 しかし……私の秘密が筒抜けかぁ……

 誰にもバラしてないようだから、そこは安心できるんだけど……こんなに簡単に秘密がバレるなんてことある?

「夢花、あなた、プライバシーって言葉は知ってるわよね?」

「知ってるよー。だから誰にも言ってないよー」

「広人に聞かれたら?」

「教えるー」

 広人>プライバシーなんだ……

 まあでも、夢花なら知られてもいいかな。

 新人類について詳しく知らないのかもしれないけど、特に何か言うわけではないし、基本的に広人の意向に従うから、新人類だからどうとかはないと思う。

 今も接し方に特に変化はない。

「夢花は新人類について、何を知っているの?」

「完成した人間。その血を悪魔が飲むと完成に至るとかなんとかー?」

 重要な質問だったが、夢花はなんでもないように答えてしまう。

 それはさもどうでもいいことであるかのような答え方だった。

「あとは……紅と銀の二種類存在することくらいかなー?」

 なにそれ私知らない。

 紅は私たちユスティリア一族だと思うけど……銀?

 銀の新人類なんて、聞いたことないんだけど?

「銀って何?」

「さっきプライバシーの話したばかりだよー?」

 そうだったわね。

 どこぞの新人類さんのことを勝手に知るのは、たしかに失礼な行為ね。

「そのうち会えるよー」

 そんな未来を予知したようなことを口走る夢花。

 今の言葉に嘘偽りは、ない。

 この子はいったい何を知っているの?

「銀の新人類、会うのが楽しみね」

 その時を望んでいるかのように返すことで余裕を見せる。

 怯えて心配かけるといけないから。

 本当は少し怖い。

「ごめん。さっきの適当に言ったー」

「えー」

 真面目に考えた私はなんだったんだ。

 新人類の嘘探知は当てにならないなー。

 いや、嘘じゃないから見分けられないのは当然なんだけど。

 夢花はその鉄の扉の前で止まる。

 中には人の気配、それも、自分がよく知る力が感じられる。

 夢花が扉を叩くと、内側から返事が返ってくる。

 そして夢花は、扉を開けるためにドアノブを回す。

 しかし夢花はなかなか開けない。

 押して引いてとしているが、パントマイムの練習か何かだろうか?

 しばらくそれを繰り返して、夢花はドアノブから手を離しわたしに場所を譲る。

 ドアノブは簡単に回ったが、力を込めても扉が動く気配はない。

 どうしてだろう?

 ドアノブや壁が歪んでいるわけではないし……

「開かないわね……」

「ねー」

 ねーって……ここにいる人に会わせるために夢花はここに連れてきたはずなんだけど……

 のんびりおっとりしてるなあ。

「おじいさーん。開けてくれませんかー?」

 中にいるのはおじいさんらしい。

 私たちで開けられない扉をおじいさんに開けさせるのはどうかと思うけど、私の感じている力が私のよく知る力と同じなら、この程度の扉なら蹴破れるだろう。

 そしてどうやら、私が感じていた力は私がよく知る力のようで、扉が無理矢理引き剥がされ、おじいさんはそれを部屋の隅に投げ捨てる。

「扉ってなんだろねー」

「まったくよ」

 おじいさんが椅子に腰を下ろすと、夢花が部屋へと入っていく。

 夢花は中にいるのがおじいさんだって知っていたから、あの扉は少し前までは開いたってことよね?

「夢花はこの部屋に扉を開けて入ったことあるわよね?」

 続いて歩く私は、声を潜めて夢花に訊ねる。

「ないよー。内側から話しかけられたから連れて来たんだよー」

「じゃあどうしておじいさんだって分かったの?」

「精霊さんが言ってたんだよー」

 便利に使ってるわね。

 私たちがおじいさんから少し距離を置いて立つと、おじいさんは呼んだわけを話す。

「わしがお主を連れさせたのは、お主とどうしても話したいことがあったからじゃ」

 それは分かっていた。

 白い髪のおじいさんは、私を哀れむような目をして、しかし穏やかな表情で、話しを続ける。

「儂がお主と話したいのは、お主のこの先のこと。新人類であるお主が、この先どう生きるつもりなのか、じゃよ……」

 おじいさんはそうであることを決定づけることを口にした。

 新人類という言葉を。


 浅かったか。

 俺は男が起き上がる様子を見て舌打ちする。

 今ので倒したかったな。

 この男の能力は奇妙だ。

 黒白凰の回避不可能と思われる攻撃を避け続け、俺の不意打ちをこうもあっさりと受け流した。

 黒白凰の回避不能技を躱せて、タカが俺の不意打ちを受け流したとはいえ避けられなかったのを、奇妙と言わずになんと言う?

「よくもやってくれたな」

 タカが一度や二度の攻撃で、よくもやってくれたな、だと?

 こっちは不意打ちで片腕を斬り飛ばされ、数多の剣に串刺しにされたんだぞ?

「それはこっちのセリフだと思うんだが?」

「そうかな?オマエは大した力を持たない、攻撃に打たれ続けてきた者だ。それに対して俺は、圧倒的力が故に攻撃を受けたことなどほとんどない。一撃の重みが違う」

 受け続けてきたって……まあその通りなんだけどさ。

 しかし、俺が大した力を持たない、か。

「なぜ俺に力がないと思うんだ?」

 確信をもっているようだから聞いてやろう。

「気付いてないのか?」

 気付く?いったい何に?

「はぁ〜。無能なオマエに教えてやるよ。オマエの今の姿、それは弱者が力を得るために使うものだ。俺はそれのさいだいかいもん?とかいうのと戦ったことがあるが、大したことはなかった。所詮は弱者のささやかなる抵抗といったところだ」

 最大開門と戦って、それを大したことなかっただと?

「オマエの使う力は、己が弱者であることの証。ひどく無様であり、人間を捨てるというひどく無駄な行為だ」

 無駄だと?

「訂正しろ」

 鬼門を愚弄することが、俺にはどうしても許せない。

「何を?」

 分かっていてそう返す男は、どうやら俺を弱者だと、自分を強者だと思い込んでいるようだ。

「お前は無駄な行為だと言った。無様だとも言った。それらを全て訂正しろ」

「そうだな……訂正してやる。愚の骨頂だとな!」

 許せなくとも憤りはしない。

 しかし、やはりここまで言われると、少し感情的になってしまうのは、心あるものなら仕方ないことだろう。

「鬼門は、人が鬼を倒すために生み出した切り札だ!人の誰かを守りたいという思いの結晶なんだ!それを、愚の骨頂だと?ふざけるな!」

「説教ならあの世でしてろ。俺はそんなものに付き合うつもりはないんでな」

「どうやらお前は、この力をバカにしているようだ。この力の、人々の思いの力がどれほどのものか、お前にとくと見せてやる」

「その力は命を削る。割に合わないその力が人の思いの結晶だと言うなら、人の思いってやつは随分とちっぽけなものだなあ!」

 俺と男は張り合うように声を荒げる。

「ちっぽけだと⁉︎笑わせるな!こいつは人の作り出した力だ!能力のような一個人のみしか扱えない不平等の塊とは違う!代償は重いが、それはたしかな力となる!誰かを守る立派な力に!」

「俺の力なら守ることも壊すことも容易い!当然代償もない!俺一人の思いの方が人々の思いより大きな力を発生させる!」

「能力は思いによって強くなる。だが、必ずしも強力な能力になるとは限らない。お前はたまたま恵まれただけだ!それが人々の思いより大きな力を発生させた?バカな!力に恵まれたお前が、弱者に思いで勝てるはずがない!」

「弱者は強者に守られるだけの存在だ!そんな者の思いで何がなせる?弱者たちは強者の一振りでその命を落とす。どんな思いを持っていようと、その思いが強者を倒すことはありえない!」

「なら俺が証明してやる!お前が弱者だと言った俺が、研究し研鑽を積んで、代償を払って得た力を持ってして、お前を倒す!」

「諦めろ雑魚が!オマエら雑魚がどれだけ足掻こうと、新たなる可能性(ネクストステージ)には勝てないんだよ!」

 能力こそが全て。

 それは、人間における共通認識だ。

 だったらどうした!

 俺は能力を持たないが、ここまで戦ってきたんだ!

「常識は絶対じゃない!お前は俺が倒す!見せてやるよ!能力を持たない者の戦い方ってやつを!」

「能力を持たない者の戦い方?そんなものは戦いって言わない。おままごとって言うんだよ!」

「そうか。それではお前は、そのおままごとに傷つき尻尾を巻いて逃げる事になるな」

「ありえない!」

「いいや、そうなる。そうする。お前は人間の思いと怒りに倒されるんだ」

「怒り?」

「そうだ。俺が持つ技能は、鬼門だけではない。人間の生み出した力全てで、お前を叩き潰してやるよ」

 俺と男が対峙する。

 男は不敵な笑みを浮かべる。

「やってみろよ!オマエごときでは遠く及ばないってことを、この俺が証明してやるからさあ!」

 今のやりとりで、この男が俺のみを狙うことが決定された。

 力比べに人質をとれば、己の弱さを認めることになり、強さにこだわる男にはそんな行為はできない。

 さて、俺はでかい口を叩いたわけだが、どうやって戦ったらいいんだろうな?


 使われなくなった学校の体育館。

 それは悪魔の領域に存在している。

 その建物に巫女服の少女、奏未が入っていく。

 それは奏未が心配していたこと。

 扉を開けて入っていくと、全ての暗幕が閉じられて、ところどころ破けたそこからの光のみが入る薄暗い空間だ。

「気付いていたようだな」

 体育館の上側、ギャラリーから声がかかる。

 奏未はその声の人物を見上げ、がっかりしたように溜息を零す。

 それは奏未の予想していた人物。

 奏未が一度敗れた人物。

 奏未が嫌う人物だ。

「そんな怖い表情をしないでくれ。私は今回、敵ではないのだから」

 その男の紅い髪が、光を浴びて輝きを放つようにも見える。

 暗幕の破れ目から溢れる光だからこそ、その髪は一等輝いて見えるのだ。

 しかしその輝きは、多くの人にとってはどう映るだろうか?

 きっと多くの人にとって、そんな不思議と輝く髪をもつ男を、神にかけて崇めるだろう。

 多くの人にとっては畏敬の対象となり、その者の力を知っているなら畏怖の対象となる。

 ましてや奏未は一度敗れているのだ。

 それと対面した時、はたしてどんな感情を抱くだろうか?

「私に無様にも敗れたあなたが、まさか私の前に姿を見せるとは思わなかったがね」

 無様にも敗れた。

 その通りだ、と奏未は思った。

 能力を使っても為す術なく敗れた。

 そんな、一方的な戦いだったのだ。

 無様という言葉こそがふさわしいと言えよう。

 そんな相手の前にのこのこと現れる、そんな行為は誰にだって愚行だと理解できる。

「お前にお兄ちゃんの邪魔はさせない」

「さっきも言ったが、今回は敵ではない。あなたのお兄さんを殺すつもりはないよ」

 そんな言葉を信用できる奏未ではない。

「ふむ。納得していただけないようだ」

 やれやれと額に手を当て首を振る男。

 奏未は最大の警戒をその男に置く。

「そんなに私のみを警戒していると、奇襲でやられてしまうだろう。もっと周囲に気を配るべきだと注告しておくよ」

「お前がここにいなかったら、周囲に警戒する余裕があったんだけどね」

「おや?これは失礼。だが、ほら。私はこの通り力を使ってはいない。これで周囲を警戒する余裕ができたのではないかね?」

 暗幕を動かし自分の髪が輝いていないことを見せつける男。

 しかしそれで警戒を解くには至らない。

「新人類の力を例え今使ってなくても、使えば行動にすぐにでも移れる。その時警戒を緩めていたら反応できないから」

「そうだろう。それは分かってはいるが、あなたはどうやら私の予想以上に、私を恐れてしまっているようだ」

 恐れてなんか、奏未はそう言いかけて、その通りだと反省する。

 奏未ではどう足掻いたところで勝ち目はなく、その男がその気になれば奏未など瞬殺できるのだと、奏未はよく理解している。

 それでは警戒するだけ損だ。

 奏未は少し冷静になり、周囲に注意を向ける。

 そして気付いた。

 慌てたように反対側のギャラリーに体を向ける。

「およ?気付かれちゃったぜ?アニキ」

「そうだな、弟よ。それはつまり、我々が戦うにふさわしい相手だということだ」

「おー!なるほど!それほどの実力者ということか!これはオレ達も楽しめそうだな!アニキ!」

「騒ぐな、弟よ。さあ、話を続けるといい。我々は話が終わるまで待っていてやる」

 奏未はその二人に気付かなかった。

 気付けなかった。

 奏未が男に気をとられていたこともあるが、それでも奏未の探知を逃れるのは至難の業だ。

 それをやってのけた二体の悪魔、その力が本物だと奏未は瞬時に理解して、注意を男から悪魔へと移す。

「話はもういいのか?」

「アニキ!さっさとやっちまおうぜ!」

「弟よ、お前は落ち着きという言葉を覚えた方がいい」

 その悪魔たちを知っている様子の男は、レンズの割れたスポットライトを手に取り、ギャラリーから飛び降り奏未の前に背を向けて立つ。

「自己紹介がまだだったな。私はグレイン。新人類、グレイン・ユスティリアだ」

「あたしは奏未。派世奏未だよ」

「我々は……名乗らなくても構わんな?」

「アニキ!名乗りをあげた方がカッコいいぜ?」

「そんなことをしては彼らが逃げてしまうかもしれないだろう?弟よ」

 その悪魔たちを知っている男が、悪魔たちのやりとりをつまらなそうに見つめる。

「彼らはヴァイス兄弟。(いくさ)の悪魔王率いる理想郷(コミュンテルン)の幹部だ。気をつけ給え」

 その男、グレインの目は真っ直ぐにその兄弟を捉えている。

 そして奏未は、その情報でグレインの行動に合点がいった。

 奏未は、彼が自分と戦いに来たことでさえもこの時のための準備であり、こうして奏未をここにおびき寄せ、自分と共にヴァイス兄弟を倒す協力者とするためだと気付いた。


 息を潜めて時を待つ者、これから戦おうとする者、そしてすぐにでも戦いに移る者。

 戦いは、激化していく。


 死者の領域に入って見えてきた異様な光景。

 能力で寒さを感じない僕では、この土地の気温がどれほどのものかは分からないけど、辺りの様子を見るに、その寒さはかなりのものだろう。

 僕は確実に寒さの根源へと近づいていた。

 それを視界に捉えた時、僕はそのあまりにも異様な光景に、言葉を失った。

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