表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/287

最高クラスの能力者

 その男は逃げる仲間には目もくれず、俺たち二人を静かに見据える。

 どうやら、今の攻防で俺に過剰に警戒されてしまったようだ。

 俺はただ不意を突いただけなんだがな。

「黒白凰、お前に任せたいんだが?」

「バカを言わないでもらいたいね。僕はこんなのに構っている場合じゃないんだよ。君に任せておきたいね」

 敵は、壁の外を眺めていることから、おそらく俺たちの移動手段に気付いている。

 これはまずくないか?

 今はまだ二段階。

 その先には入ったことはないが、鬼門は三段階まで入れると、もう二度と立って歩くことすらできないような体になる、とまで言われている。

 それほどの代償付きの力を、使わなければならないかもしれない。

 能力や心情を知ってようやく黒白凰と五分に戦える程度の力しか、二段階にはない。

 その程度の力で対応できるような相手ではない。

 今は黒白凰がいるからなんとか戦えるかもしれないが、二人がかりでも多分倒せない。

 ということは、倒すためになんらかの力を使うんだろうな。

「とりあえず今は」

「みんなを追わせないための足止め、だね?」

「分かってるじゃねーか!」

 俺は鬼門の脚力で駆け出し相手に飛び込むが、その男は既に俺の後ろにいる。

 剣が振られ防ごうと腕を当てると、それは腕には届かず、俺の体の内側を斬り裂く。

「は?」

 俺から気の抜けた声が漏れる。

 その間に黒白凰が砕けたアスファルトを手当たり次第に蹴って……足当たり次第かな?

 どっちでもいいか。

 とにかく、黒白凰は俺が砕いたアスファルトをひたすらに蹴り回っている。

 遊んでいるわけではないとは思うが、何をしているのかは分からない。

 しかし、何か考えがあるのだろうと信じて、俺は敵の足止めに徹する。

 俺の攻撃は悉く躱され俺は内側を斬り刻まれる。

 内側だけを斬るとは、なんて器用なことを……

 外側なら鬼門のおかげで硬くなっているが内側は変わらない。

 口から血を排出して、既に治った体で再び男に向かうが、今回のは一味違う。

 暗技流水制・流潜(るせん)!!!

 流れに潜り俺を認知させない。

 そして俺の拳は、空を切る。

 滅慟(めつどう)を仕込んでいた俺は、不発に終わった滅慟の反動を地面に流して、すぐに男に向き直る。

「俺の気が逸れた一瞬の内に消えるか。オマエ、なかなかやるな」

 初めて男が口を開く。

 いつの間にか信号の上に立っていた男。

 逃げ足の速い。

「平然と躱しておいてなかなかやるなって……お前、自分が格上だとでも思っているのか?」

 明らかに余裕がある。

 だが、どうにも分からない。

 ついさっきの、俺たちを殺そうとした一撃。

 あれはどこか無理したような流れを感じ、しかしその斬れ味は確かなものだった。

 こいつは何を企んでいる?

 奏未がこいつの存在を知っていたのなら、きっと俺に伝えていただろう。

 つまり、こいつは奏未の心配していたことではない。

 他にも何かがある。

 しかし、こいつを倒さないことには、それが何かは調べられない。

 奏未はきっとそれの調査だか討伐だか確認だかに行っているだろうな。

 俺は手伝えそうもない。

 全く、面倒なやつがいたものだ。

 男はどうやら本気で俺たちを格下のように見ているようで、信号の上から消え去ると、次の瞬間には俺の目の前にいる。

「俺とオマエが同等だと思うなよ?」

 男が俺にそう言った次の瞬間には、男は俺の背後にいる。

 そして同時に、黒白凰の攻撃が始まる。

 宙に浮かび上がった黒白凰、そして嫌な予感がした俺。

 男は今まさに俺に攻撃をしようとしていたが、その攻撃をキャンセルする。

 しかし、それよりも早く、黒白凰の攻撃は始まっていた。

 砕けたアスファルトが高速移動を始め、俺を中心に渦を巻く。

 男は避けるタイミングを失い、その渦の中へと飲み込まれていく。

 これが黒白凰の仕込んでいた技か。

 黒白凰は時を操る。

 砕けたアスファルトを蹴っていたのは、様々なベクトルに力を働かせるため。

 そして、それらを制御下に置くことで、自在に飛び回り外部に何があろうと問答無用で貫く弾丸、としているのだろう。

 力の働く時間を制御なんて、そんな細かいところまで制御できるのか。

 問答無用で貫くのは、時間を制御しているため、外部からの力の影響が遮断されているから。

 銃弾よりも早く、いかなる壁も意味をなさない。

 そして本人はどれだけ攻撃を受けようとも、すぐに体がそれより前の時間に戻って、傷をなかったことにしてしまう。

 どんな兵器より恐ろしいな。

 そんなことを制御をミスったアスファルトに体を貫かれながら考える。

 結構頻繁にミスるのやめてほしい。

 薬を仕込んである右手へ飛んできたものは全て躱すが、基本はほとんどこの身で受ける。

 攻撃のあまりの激しさに、男を確認できなかったが、気配からしてどうやら生きているらしい。

 この弾幕の中で無事とか、俺勝てる気しねーよ。

 とかなんとか思いつつも、勝つために思考を巡らせる。

 最優先は能力の分析だ。

 やつが常に能力を使っているせいで判然としないが、瞬間移動と透過(?)が扱えるようだ。

 一人につき能力は一つまで。

 それらを同時に扱える能力なんて、俺の頭には思いつかない。

 黒白凰はこの攻撃ではやつを仕留められないと判断し、アスファルトの制御を手放す。

 上から見てるから効果がないことが俺より鮮明に見えていたのだろう。

 俺ばかりがダメージを受けていたのでは、それは意味がないと思うのも仕方ないな。

 時間稼ぎという目的は充分に果たせただろうし、全く意味のない攻撃というわけではないんだけどな。

 みんなも充分離れただろうし、そろそろ黒白凰にも離脱してもらいたい。

 すっかり警戒されてしまった俺は、常に男の視界の中心に据えられて、動くには苦しい状況にある。

 視線で黒白凰に指示を送るが、これで何度も意思疎通できるほど、俺と黒白凰は互いを理解し合ってない。

 黒白凰は地上に降り立ち、俺と黒白凰とで男を前後から挟むような立ち位置になる。

 こうして並ぶのは好ましくない。

 双方から同時に攻撃を仕掛けた場合、同士討ちになる可能性があるからだ。

 二人の息がぴったり合っていれば問題はないが、俺と黒白凰が組むのは初めてだ。

 そして、俺は黒白凰の流れを読めない。

「なぜオマエ等はここに来た?」

 男は何やら話し始める。

 この隙にリタイアしてほしいのだが、黒白凰は俺の意図を読み取ってくれない。

「俺はここに来た人間に常に同じ質問をしている」

 不意打ちで殺そうとしてきたやつが何を、と思ったが、どうやら嘘はついていないようだ。

 男が本気でそう思っているのなら、それが事実に反していてもそれを見抜くことができないのが暗技だが、それでも少しでも疑問のようなものを感じていれば聞き分けられるのだがな。

「そしてその答えは様々だ」

 黒白凰が地面のアスファルトを静かに蹴り飛ばし、それは急加速して俺の腹を貫く。

 男のいる場所も通ったはずだが、男に当たった様子はない。

「故郷を取り戻すため。金のため。仲間の仇討ちのため」

「何が言いたいんだ?」

 俺がそう訊ねると、その男は薄っすらと笑みを浮かべる。

「分からないか?この俺が対峙してきた者はそんな思いを秘めて来た。だがそれが、今も果たされていないんだぞ?この意味が分からないとは言わないよな?」

 要するに、俺たちでは勝てないと言いたいわけだ。

 全滅の未来しかないと言いたいのだろう。

「分かるが、お前が今まで戦ってきた者と俺たちとは、全くの別人だ。お前は俺を殺せない」

「笑わせるなよ雑魚が。オマエを殺せない?この俺がそんな根性無しに見えるのか?」

 今まで人を殺してきたお前を、そんな風に見るわけないんだよなぁ。

 俺が死なないことを知らないからそう捉えてしまったのかもしれないな。

「そうか。ならば俺の最高の一撃をもって、オマエたちを終わらせてやるよ」

「それでも殺せないけどなー」

 そうして余裕を見せてやる。

 どうやら怒りっぽい性格のようだからな。

 そうして、無駄に体力を使わせてやろう。

 三段開門でも勝てるか分からないからな。

新たなる力(ネクスト・ドア)!!!」

 その一言で俺たちは悟る。

 この技は、避けられないと。

 何もない空間に突如として出現した数多の剣によって、俺たちは細かく斬り刻まれる。

 内側からも外側からも剣は生まれ、それらは俺たちを苦痛の中へと誘う。

 こんな時でも右手を守る。

 俺は慣れているが、黒白凰には厳しいか。

 黒白凰は声を上げようとして、しかし喉を突き破る剣のせいで声が出せず、体の各所から血を吹き出して瞳がグリンと白目をむく。

 俺も俺であまりの痛みに意識が飛びそうだ。

 気絶なんてしてる暇ないんだけどな。

 鬼門には時間制限があるし、そんなことをしていたらこの男に退路を断たれる。

 もっとも許せないのは、リーラとの約束が果たせなくなってしまうこと。

 俺は嘘を吐かない。

 俺はこんな所で、眠ってなんていられないんだ!


 その男は俺の予想通りに、リーラたちの待つバスへと向かった。

 おそらく、俺たちの出現したポイント、そこから一番近い狩人(ハンター)以外の者の使える侵入経路を逆算し、そこに俺たちのキャンプがあると予測した。

 俺たちが狩人ではないことは一目瞭然だしな。

 やはりあちらを気にしていたようで、そうなると俺は急ぎ戻らなくてはならない。

 剣が消えると、ようやく解放された俺はまず黒白凰の安否を確認する。

 白目を向いた黒白凰からはまるで力を感じられない。

 流れ出る血は止まらず、再生する気配もない。

「心配して損したな」

「それは僕に向かって言っているのかい?」

 建物の陰で息を潜めていた黒白凰が俺の方へと歩いてくる。

「俺があれを追う」

 せっかくの戦闘服がすでにボロボロだが、そこから覗く肌には傷一つない。

「そうだね。お願いするよ。あれとはできれば戦いたくないからね」

 倒れていた黒白凰のその体は、次第に色が薄くなり、やがては透明になって消えていく。

 これも能力なんだろうけど、どうして黒白凰がこんなことをできるのかは分からない。

 操れるのは時間だけだったはず。

 考えるのは後だ。

 今は戻る方が先決。

「ご武運を祈っているよ」

「祈られておこう」

 二段開門を開いてから、まだあまり時間が経っていない。

 これなら今回を指標にできそうだな。

 三段開門、それはいったいどれほどの力で、どれほどの時間使っていられるのか。

 開け!さらなる門よ!

 三段開門!

 黒白凰が飛び上がると同時に、俺も鬼門を開く。

 角が立派に育ち、体に力がみなぎってくる。

 強く地面を蹴って飛び上がると、それだけで地面が砕け散り、俺の体は数十メートル上空まで上る。

 遅れて音が届く。

 それだけで大体の力を把握した。

 空気を蹴ってその方角へと駆け出す。

 音の置いてけぼりの世界なんて初めてだな。

 俺が空気を蹴るたびに、空気中を衝撃が走る。

 すぐに壁を越えて、街の上空を駆け抜ける。

 何時間かかけて歩いた街だが、今の俺の足なら数分で走破できる。

 それでも男が見えてこないのは、それだけ男が速いのか、それともこっちへ来たのは俺を外へ出すためのブラフで、壁の内側の仲間たちを狙っているのか。

 予想ならいくらでもできるが、実際あれがどう動いているのか、俺には知る術がない。

 それなら直感で行動するしかない。

 大丈夫。

 きっと俺の選択は、間違ってはいないのだと。

 俺はそう信じる。


「悪魔、か」

 リーラが一目で悪魔だと分かる姿になって、バスから降りる。

「どうかしたですか?」

 その男は、もう既にバスの前へと到着していた。

「これが人間たちが利用したバスか?」

 その男は、広人の予想したようにキャンプとしての機能を持つ、バスを破壊しに来ていた。

 リーラは思考に思考を重ね、冷静に回答する。

「バスは人間が利用するために作られる物ですよ。だから、このバスも人間に使われていたかもしれないです」

 悪魔であるリーラが対応する。

 悪魔がわざわざレッドゾーン奪還に協力することは普通では考えられず、男は行動に移せない。

 そしてリーラは、それを明言しようとしない。

「仕方ない。とりあえず壊す。もしこれが悪魔の物だったなら、後で俺に言え。手配してやる」

 焦ったリーラ。

 広人たちのためにも、このバスを破壊されるわけにはいかないのだ。

「待つですよ。まだバスに乗ってるです」

「ならさっさと降ろせ」

 バスが破壊されるのも時間の問題だ。

 それを悟ったリーラは少し時間をかけて、しかし急いでいるように見せかけてフロストを呼びに行く。

 男を恐れているが、いや、恐れているからこそ、こうしてギリギリの賭けに出ているのだ。

 もしもそれが演技だとバレれば、バスは壊され自分たちは死ぬ。

 しかし、演技抜きにするとすぐにバスが破壊されるか輝咲が見つかり殺される。

 時間を稼いでどうにかなるとは思っていないが、リーラにはこれくらいのことしかできない。

 もしかすると広人が来るかもしれないとは思っているが、その可能性はほとんど見限っている。

 大阪の街からここまで戻るのにはかなりの時間がかかるのだ。

 リーラの指示でフロストも悪魔らしい姿になる。

 これは男に誤解を招かないようにと思ってのことだが、そんな姿になったとしても輝咲を見られれば一発で終わりだ。

 フロストがバスから降りようとしたその時、その男の体が真横に大きく撥ね飛ばされる。

「なんとか追いついたな」

 その人は男を横から強く蹴り飛ばした。

 土煙が巻き上がり姿が隠れてしまったが、リーラにはそれが誰なのか分かった。

 ほとんど見限っていた可能性。

 しかし、その可能性は無ではなかった。

 そしてリーラはその名を恐る恐る呼んでみる。

「広人さん、ですか……?」

 土煙が収まり、その全貌が明らかになる。

 そして彼はリーラに笑いかける。

「間に合って良かった」

 それは鬼のような姿をした広人だった。

「言っただろ?何かあれば駆けつけてやるって」

 リーラは広人のことをほとんど知らない。

 しかし、自分を必要と言ってくれたこと、それだけで、たったそれだけのことで、リーラは広人を信じると決めた。

 だから……

「広人さん……遅いですよ……」

 その言葉は、広人にその少女の恐怖を伝えるには十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ