35話 聞き慣れた通知音
ピコン。
小さな電子音で目が覚めた。
耳に残る、聞き慣れた音。
トゥルースはゆっくりと目を開けた。
天井が視界に入る。
見慣れたはずの異世界の部屋。
だが、音だけは場違いだった。
「……なんだよ」
まだ眠気が残っている体を起こす。
視線を横に向けて――止まった。
枕元。
そこに、見覚えのあるものがある。
「……は?」
手を伸ばし掴む。
馴染む感触。
見間違いじゃない。
「スマホ……?」
画面が点いている。
時間は――6時ちょうど。
「……早ぇな」
今一度ベッドに倒れようとして――また鳴る。
ピコン。
違和感が遅れてくる。
「いや待て」
もう一度画面を見る。
確かに、自分が使っていたものだ。
顔でロックを解除する。
中身も、そのまま。
見慣れたホーム画面。
アプリの配置。
全部一致している。
「……マジかよ」
ピコン。
送り主は――女神。
『通常配信に必要だから用意した』
「なるほどな」
『寝ないでよー!』
「寝るだろ普通に」
『私の直通連絡先入れておくね』
「……いるかどうかは後で考える」
その時、また通知が鳴る。
『これ、充電も必要ないし、壊れない、無くしてもトゥルたんの元に戻ってくる神アイテムだから』
トゥルースは一瞬だけ黙る。
「……雑だな」
だが、悪くはない。
軽く息を吐く。
「とりあえず――他も確認するか」
7時。
「……行くか」
部屋を出て階段を降りる。
朝の空気が少し冷たい。
食堂に入ると、匂いが広がる。
焼いたパン。
スープ。
人の声。
いつもの朝だ。
トゥルースは軽く見回す。
すぐに見つかる。
ダグが先に座っていた。
「遅ぇぞ」
パンをかじりながら言う。
「早ぇだけだ」
トゥルースは向かいに座る。
「何時だと思ってんだ」
「7時だ」
「十分早ぇよ」
ダグが笑う。
少しの間、何も言わない。
(結局、なんにも出来なかったな)
配信は出来る。
物も届く。
だが、それだけだ。
(女神と配信以外、電波は圏外……ってとこか)
小さく息を吐く。
「で」
ダグがスープを飲む。
「どうする」
トゥルースは顔を上げる。
「ああ」
「今日出る」
ダグが口元を緩める。
「やっぱりな」
それだけで話は終わる。
トゥルースはパンを口に運ぶ。
余計なことは言わない。
ただ――
少しだけ、ポケットに意識が向く。
スマホがある。




