34話 ズレ
コメントは流れ続ける。
『で、どこなの』
『ロケ?』
『設定?』
トゥルースはそれを眺める。
少し考える。
(どこまで話すか)
一拍。
「……まぁいいか」
軽く呟く。
「さっき言った通り、知らない場所にいる」
『雑すぎる』
『説明しろ』
『意味わからん』
「最後に覚えてるのは――」
視線が少し落ちる。
記憶をなぞる。
「マンションの部屋の前だ」
短く言う。
「ドア開けた直後に」
一拍。
「刺された」
コメントが止まる。
次の瞬間――
爆発する。
『は???』
『ちょっと待て』
『ガチ?』
『ネタだろ』
トゥルースは淡々と続ける。
「で、気づいたら今だ」
それだけ。
さらに荒れる。
『いやいやいや』
『通報案件だろ』
『どういう設定だよ』
「信じるかは任せる」
短く切る。
コメントは止まらない。
その中で――
一つ、色が違う。
トゥルースの目が止まる。
拾う。
「……“部屋には死体なんて無くて、また温泉にでも行ったのかと思ってました”」
読み上げる。
空気が一瞬で変わる。
『は?』
『死体ない?』
『どういうこと?』
「……マネージャーか」
ぼそりと呟く。
視線を落とす。
自分の体。
動く。
問題ない。
(死体は無い)
一拍。
「なあ」
短く言う。
「今の俺、どう見えてる」
『顔出してないから分からんけど』
『いつもと変わらん』
『普通に配信してるだけ』
「……そうか」
小さく頷く。
(ズレてる)
こっちと、向こう。
完全には一致していない。
視線を横に流す。
机。
硬貨。
(こっちは来てる)
一枚、手に取る。
重さを確かめる。
『説明してくれ』
『意味わからん』
『怖い』
トゥルースは答えない。
思考を優先する。
(映像と音は共有)
(でも状態は違う)
小さく息を吐く。
「……面倒だな」
*
だが――
口元がわずかに上がる。
「使えそうだ」
『何に使う気だ』
『怖いこと言うな』
トゥルースは肩をすくめる。
「冗談だ」
一拍。
「……半分な」
視線を切る。
コメントは流れ続ける。
だが――
十分だ。
「今日はここまでだ」
『え?』
『終わるの?』
「またやる」
短く言う。
意識を切る。
静寂。
部屋に戻る。
机の上。
硬貨が残っている。
「……」
一枚、手に取る。
現実だ。
トゥルースはベッドに倒れ込む。
天井を見上げる。
「……」
小さく息を吐く。
「配信用のスマホでもあればな……」
ぽつりと呟く。
目を閉じる。
そのまま――
意識を手放した。




