『小さな泣き声と、五匹の騎士(ナイト)の誓い』
『小さな泣き声と、五匹の騎士の誓い』
### 1. 嵐の前の、あまりに静かな朝
その日の朝、庭は不思議なほど静まり返っていました。
ソラはモミジの枝で羽を整え、カメくんは池の縁で石のように動かない。
僕は、サチコさんの寝室のドアの前で、かつてない「空気の震え」を感じていました。
「……来たわ」
サチコさんの短い、でも凛とした声。
男性が慌ただしく準備を始め、車が玄関に止まります。
サチコさんは家を出る直前、玄関でうずくまる僕の頭を、一度だけ強く、愛おしそうに撫でました。
「コタロウ、お留守番お願いね。……すぐ、新しい家族を連れて帰ってくるから」
車が走り去った後、僕たちは言葉を失ったまま、遠ざかる音をいつまでも聞いていました。
### 2. ルークの「遠隔モニタリング」
「コタロウ、落ち着け。心拍数が上がっているぞ」
生垣の隙間から、ルークが声をかけてきました。
「僕の主人が、病院の近くまで様子を見に行っている。情報のアップデートがあり次第、すぐに僕が『遠吠え』で君に伝える。君の任務は、主のいないこの家を、完璧な状態で保つことだ」
僕は深呼吸をしました。そうだ、僕たちは警備員だ。
サチコさんが安心して赤ちゃんを連れて帰ってこられるよう、一粒の埃も、一匹の不審なハエも許してはならない。
チビはサチコさんの匂いが残るソファを毛繕いし、アーサー先輩は玄関の叩きにどっしりと横たわり、不動の門番となりました。
### 3. 三日目の「ファンファーレ」
そして、三日後の昼下がり。
ソラが空から、狂ったように喜びの鳴き声を上げました。
「ギィーッ! ギィーッ! 帰ってきたぞ! 小さな、とびきり小さな命を乗せた車だ!」
車から降りてきたサチコさんの腕には、白いレースに包まれた、小さな「桃色の塊」がありました。
家の中に、これまでに嗅いだことのない、ミルクとお日様を混ぜたような、圧倒的に清らかな匂いが広がります。
「みんな、ただいま。……ほら、この子が『ハル君』よ」
サチコさんが膝をついて、僕たちにその小さな顔を見せてくれました。
僕は、息を止めて鼻を近づけました。
(……なんて、小さいんだ)
### 4. 鼻先で交わした「秘密の契約」
ハル君が、ふにゃふにゃと小さな手を動かし、僕の鼻先に偶然触れました。
その瞬間、僕の体の中に電流が走ったような気がしました。
先代のクロさん、ミミズク、松ぼっくり、そしてこの庭のすべての記憶が、この小さな手に受け継がれていく……そんな確信です。
「……ワフッ(任せろ)」
僕は短く、でも誓いを込めて鳴きました。
チビはハル君の足元にそっと寄り添い、アーサー先輩は大きな尻尾をゆっくりと振って風を送りました。
ルークはフェンス越しに、誇らしげに空を見上げていました。
### 5. 陽だまりの警備保障、第三章
その夜、ベビーベッドの周りには、僕たちの新しい陣形が敷かれました。
僕がベッドの右側、アーサー先輩が左側。チビは足元のカーペット。
窓の外ではソラが月明かりの下で警戒し、ルークは隣の庭から夜風の温度をチェックしています。
ハル君が「ふえぇ……」と小さく泣きかけると、アーサー先輩が低く鼻を鳴らしてあやし、僕がサチコさんを起こしに行く。
完璧な連携。僕たちの警備に、もはや隙はありません。
「先輩、ハル君って、小さな太陽みたいだね」
チビが眠そうな目で囁きます。
「ああ。僕たちが全力で輝かせておくべき、一番大切な太陽だ」
陽だまりの警備保障。
今日から僕たちは、ただの犬や猫ではありません。
この家に新しく舞い降りた、小さな王子のための「五匹の騎士」になったのです。
春の終わり、庭のスズランが、祝福の鐘を鳴らすように揺れていました。
---




