『桜の精と、はじめてのピクニック』
『桜の精と、はじめてのピクニック』
### 1. 桃色のカウントダウン
「見て、コタロウ! 咲いたわよ!」
サチコさんの弾んだ声が、静かな朝の空気に響いた。
庭の真ん中、あのミミズクが止まっていた古い桜の木の枝先に、たった一輪、恥ずかしそうに開いた花びら。
僕は、その小さなピンク色の旗印を見上げて、大きく一つ鼻を鳴らした。
「チビ、ルーク! ついに『ピンクの警報』が発令されたぞ!」
生垣の向こうから、ルークが白い毛を桜色に染めながら顔を出した。
「ついに来たか。僕の嗅覚センサーによると、今後48時間以内に庭全体の色彩濃度が80%上昇する見込みだ」
### 2. 警備保障、花見の場所取り任務
サチコさんは、あの「料理上手な男性」と、アーサー先輩を招いてお花見をすることにしたらしい。
「庭でお花見なんて、贅沢ね」と笑いながら、大きなブルーのシートを広げるサチコさん。
ところが、ここで問題が発生した。
桜の香りに誘われて、近所の「荒くれスズメ」の軍団がやってきて、シートの上に落とし物をしようと企んでいるのだ。
「ここは僕の出番だね!」
チビが桜の木の低い枝へと駆け登る。
「こらー! ここはサチコさんの特別席だよ! あっちの電柱で会議して!」
チビが猫パンチ(の構え)を繰り出すと、スズメたちは驚いて、隣の家の屋根へと退散していった。
一方、僕はルークと協力して、シートの四隅を「重石」として守ることにした。
僕が右下、ルークが左下。ビシッと座って動かない。これぞ、世界で一番贅沢な重石だ。
### 3. 五匹(+一人)の宴
やがて、アーサー先輩と男性がやってきた。
男性が持ってきた重箱を開けると、そこには春の香りが詰まったお弁当。
そして、僕たちのために用意されたのは、**「桜の葉の香りをつけた特製ササミ巻き」**だった。
「コタロウ、アーサー。お前たちのおかげで、この庭はいつも平和だな」
アーサー先輩が、ゆっくりと目を細めて言った。
「主人がこうして笑っているのは、お前たちがこの庭に『陽だまり』を繋ぎ止めてくれているからだ」
僕たちは、ひらひらと舞い始めた桜の花びらを鼻先で受け止めながら、豪華な食事を味わった。
カメくんも、自分の池から首を長くして、不思議そうに空を舞うピンクの蝶々(花びら)を眺めている。
### 4. 桜の木の下の「約束」
宴が落ち着いた頃、サチコさんと男性は、並んで桜の木を見上げていた。
「この木には、なんだか不思議な力がある気がするわ。コタロウが来てから、もっと元気になったみたい」
サチコさんがそう言って、僕の背中を撫でる。
僕は、土の中の「松ぼっくり」のことを思った。
そして、あの夜に現れたミミズクのことも。
この木は、僕たちの友情と、サチコさんの幸せをずっと見守ってくれているんだ。
「ねえ、来年も、再来年も……ここでみんなで集まりましょうね」
サチコさんの言葉に、ルークが短く「ワン」と答え、アーサー先輩が静かに尻尾を振り、僕はサチコさんの足元に顎を乗せた。
### 5. 陽だまりの春
夕暮れ時、庭は一面の桜色に包まれた。
風が吹くたび、僕たちの背中には小さな花びらの勲章が降り積もる。
「先輩……春って、お腹も心もいっぱいになるね」
チビが、アーサー先輩のふかふかの耳の横で丸くなって眠っている。
僕たちの「陽だまりの警備保障」は、今日も異常なし。
新しい季節が来ても、守るべき笑顔がある限り、僕たちの任務は終わらない。
桜の香りに包まれて、僕は最高の気分で目を閉じた。
夢の中では、きっとミミズクが、僕たちの素晴らしい働きを褒めてくれているはずだ。
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