No.20
王の生誕祭。
謁見の間には、国内外から多くの王族・貴族が集まる。
「このたびは…………」
「ますますのご繁栄…………」
「王子殿下のご回復、心から………」
はい、列席者の長い長い祝辞が続いております。
そんな眠い口上すっ飛ばしてくださいよ。
ちょいちょい、ぼやきを入れつつ、物陰からフィエナが出てくるのを、じっと待つ。
「おい、何をするつもりだ?」
何も聞かされていないルキナが、心配そうに尋ねてくる。
「聞くと止めなきゃいけなくなると思うので、沈黙することをお勧めしますよ」
すかさずアルスが助言する。
「聞きたいなら言うし、止めたいなら止めてもいいわよ。自分達でどうにかしてくれるんなら」
むしろその方が大歓迎。
自ら進んで敵を作らなくていいのだから。
しかし……というか、やはり黙り込むルキナとアルス。
「陛下」
聞き覚えのある澄んだ声。
待ち人登場だ。
形式上の祝辞を述べ、一度深呼吸をしているフィエナ。
「陛下、わたくしは力及びませんでした。約束ですので、これ以降、ブラキオ殿下の領地へと赴き、内政に関わることは無いでしょう」
力ない微笑みと共に紡がれる言葉。
ここでいったん言葉を切り、真顔になる。
「ですが、一つだけ。セレナ様にはお気を付けください」
真摯なまでのフィエナの訴え。
「はい、そこまで」
こんな大勢の前で黒歴史を刻むとか勘弁なので、止めさせてもらいます。
「セレナ様……」
うん、結構怖い目で睨らまれる。
そんなに嫌悪しますか。
ああ、でも、腐女子は結構肩身狭いですから。
仕方ないか。
「貴女はこの国をどうするおつもりですか?」
怖い顔で、予想外の事言ってきたよ。
どうするって……どうもしないし。
そもそも何で、こんなこと言われるんだろう。
「貴女の持ち物に、あるリストを見つけました」
それが指すのは楽園計画のスケッチだろう。
「先日、内乱の企てにより、捕縛された刺客が多数描かれています」
私のスカウト基準がそこだからね。
うん、仕方ない。
「残念ながら、似顔絵以外は、暗号のようなので、わたくしに解読はできませんでしたが」
悔しそうに、唇をかむ。
「解読できない?」
あれ、もしかして、セーフ?
BL用語はこの世界の人には通じない。
異世界万歳!
思わず心の中でガッツポーズ。
楽園計画の候補者達をスケッチして、脳内設定をBL用語であれこれ書いてたから終わったと思ったけど……
知らないんですね。
よくよく考えれば、そりゃそうか。
「姉様、なにか喜びに浸っているところ、申し訳ないのですが、フィエナ様放置は気の毒です」
遠慮がちにアルスが聞いてくる。
ああ、そうだった。
「えっと、それ、ただの趣味だから。暗号とか大層なものでもないし」
さらっと真実告げると、意味を理解できない顔をされました。
「きれいな子が好きなだけ」
簡潔にまとめると、そこに至る。
ああ、目が点とは、こういうことか。
美人だと、そんな姿も様になるのは不公平だな。
フィエナが私の後ろにいるルキナ、アルスを見て、改めて紙に描かれた似顔絵を見る。
うん、きれいな子しかいないでしょう。
他意など無いのだから、当たり前だ。
「えっと、誤解が解けたなら、私の要件済ませちゃっていいかな」
黒歴史回避は俄然やる気に繋がります。
「陛下、僭越ながら、王位問題に口を挟ませていただきます」
小細工する日にちもないし、面倒になったので、正面からぶつかることを選択した。
「第二王子は少々人格に問題ありと見受けられます。王の器ではない」
ルキナやアルスからは呆れたような気配。
領分侵犯とでも言うのか、私の態度に怒る者多数。
とっとと決着付けちゃいたいので、総無視します。
「サナの国へ留学させていただけませんか?母様が根性を鍛えなおしたいと言っておりましたので」
これは本当。
自分の甥がここまで馬鹿なのは許せないと、張り切ってましたから。
「それに伴い、フィエナ様との婚約は解消していただきます。何年かかるかわかりませんから」
タウが父様の遠縁から歳の合う姫を選別してた。
こっちも弟に跡継ぎできない場合を心配して、保険をかけとこうと言う魂胆見え見えですね。
なので、現在の婚約者は破棄して欲しいと懇願されました。
みんな好き勝手言ってくれるよ、本当に。
「フィエナ様の手腕は、この国にとっての大きな力になる。王太子との婚約が叶えば、その未来は明るいでしょう。サナ国としても、それを望みます」
その婚約は他国の後押しあるものとする。
「ちょっと待ってください。先ほどから聞いていれば、随分と好き勝手を申される」
誕生祭の列席者である某国のお偉い貴族様が出てきました。
まあ、出て来るよね。
「貴殿のご令嬢が王太子の婚約者ですものね。文句も出てくるのは承知していました」
自分の娘の婚約者を、別の娘にと推されればいい気はしないだろう。
「でも、自業自得と言うものです」
ここで言葉を切ると、カイが分厚い本を運んでくる。
それをパラパラとめくっていく。
「えっと、ああ、これこれ」
本から目当ての頁を見つけると、挟んであった手紙を抜く。
「婚約者のある身で、弟にこんな熱い恋文を送るのは、問題ですよね」
1通ではないんですよ。
何通も送られています。
弟が女性恐怖症になった原因ともいえる手紙。
直筆、家紋入りの封筒、日付付き。
言い逃れできないですよね。
私から手紙をひったくる様に持っていくと、その内容を見て青ざめている。
何とかアルスに想いを伝えるために、婚約者である王太子を比較対象にして悪口綴ってありますからね。
いやあ、親の心、子知らず。
「婚約破棄は仕方ないのではないですか?無礼にも程がありますよ」
はい、反論できません。
一丁上がり。
「他国の問題に出過ぎた真似ではないのですか、セレナ様」
別の貴族登場。
ああ、内乱企てて、小物過ぎたから放置していた人だ。
えっと、この人は……本をパラパラめくって、ちょうどいいの見つけた。
「出過ぎた真似だとは思うのですが、こうでもして、自己防衛をしないと物騒ですからね」
詰めが甘いとの指摘により、カイと密偵が名誉挽回とばかりに集めまくった悪事の証拠。
数枚の紙があるが、とりあえず1枚を渡す。
それを見て、やっぱり絶句。
まあ、言い逃れできないくらいも証拠付けてますからね。
残りの紙は近くにいた警備隊長にでも渡しておいた。
これでこの貴族、何を言っても負け犬の遠吠え。
二丁上がり。
「さて、お次はどなた?」
いくらでもネタあります。
昨晩、風の精霊・ウィルを呼び出し、超特急でサナの城へ行ってもらって持ってきた手紙達。
アルス宛の恋文やら、私宛の信者からの手紙やら使えそうなの根こそぎ集めました。
さらにこの国来てからの密偵使った報告書もある。
通称・閻魔帳。
昨晩寝ずに作りました。
「身にやましいものが無ければ、いくらでも反対意見を言ってくれて構わないのに」
寝不足でかなりのハイテンション。
怖い者無いですよ。
スパッとなんでも切ります。
静まり返る謁見の間。
残念、根性ある人はいないらしい。
「陛下、私の提案、聞き入れていただけるでしょうか?それとも聞きいれざるをえない状況にした方がいいでしょうか?」
どちらにしても聞き入れるという選択肢しかない。
引きつる国王陛下。
うん、これで良し。
この決定に不満を持つ者が出ても、それは私へ向く。
国王の独断でもないし、フィエナの我儘でもない。
あくまで私の意見の押しつけだ。
王やフィエナに反感持って、国が割れるとかは無いだろう。
その前に、私が標的になる。
標的にしようと思うだけの根性ある者が居ればだが。
「フィエナ様、これで貴女は私の義姉様。身内は全力で守る主義なんですよ」
前世では家族を悲しませたからね。
黒歴史と言う名の薄い本により、その心情はどん底へと叩き落した。
その償いと言うわけではないけど、今生では身内は大切にします。
父様と母様と弟は守る必要もない程に強いが。
「ふふ、そういうわけですので皆様、よろしくお願いしますね」
これ見よがしに閻魔帳を胸の前まで持ち上げると、そこに視線は集中する。
「これだけ独壇場だと、フォローのしようもないな」
ルキナのつぶやき。
うん、そうみたいだね。
国王様の誕生祭。
お祝いモードぶった切りました。
是非ともこのままお開きにして、私は安眠したいんです。
「…………地味に生きたい」
国王の誕生祭からひと月ほど経ち、不本意な状況に追い込まれています。
「自業自得だろう。受け入れろ」
次期国王に王太子、王妃にフィエナ。
国民が望んだ未来。
それをスパッと決めたあの謁見の間での出来事は、尾ひれを付けて瞬く間に広がっていった。
只今、新興宗教の教祖に祭り上げられ中。
守護神だとか、導き手だとか、神だとか。
なんかいろいろ言われている。
「セレナ様、聖地巡礼者が増えてきたので、教会立てていいですか?」
キルギスが楽しそうに提案してくる。
この領地の発展ぶりは、私が起こした奇跡の象徴として、聖地巡礼なる物が流行り出したそうです。
「却下に決まってるでしょう」
認められるわけない。
「領地で空いてる場所に作ってくれ。ついでに街道の整備も頼む。おのずと人が集まり、街ができるだろうから」
私の意見を無視して、ルキナが許可出したよ。
おい。
「睨むな。実際問題、人が増え過ぎて、今ある街だけでは収容しきれないんだ」
アリスベル街の市長・アトヴィルはかなり喜んで、かのお年寄りの街は休む暇なく奔走しているとか。
当初目指したのとは異なり、お年寄りに優しくない街になりつつある。
当人たちが喜んでいるのだからいいのかも知れないが……
「セレナ様、あたしゃ、もう限界ですよ。後生ですから、安静にしていてください。流産されたらどうするんですかぁ」
黙らせていた治療師、ここきて暴露しました。
まあ、連日、忙しく動き回っていたので、ずっとハラハラしながら見守ってくれてましたからね。
胃痛薬増えたの知ってるし。
「は?」
ルキナが固まっている。
ああ、懐妊は報告したけど、濁してたから、ずっと嘘だと思ったままっだたか。
「教会建設を急ぎなさい。まずは礼拝堂だけでもいい。一番最初は教主様の結婚式で箔をつけるんです」
キルギスが部下に指示を飛ばしている。
商売根性たくましいな。
「のんびり田舎暮らしは……無理か」
この先も忙しい日々が続くのだろう。
でも、まあ、自分の領地の事に専念できると言うのは、平和な証拠かな。
完結させました。
巻き過ぎて事務的な完結になってしまい、申し訳ありません。
最後の最後まで迷走した挙句、まとめられなくなりました。
……とりあえず、ここ一週間ほど考え過ぎて寝不足だったので、早く寝たい。
そんな一心から、ここでギブアップです。
現段階で、これ以上の完結が思いつきませんでした。
すみません。
来週あたりから、もう一方の連載を再開できたらと思っています。
ご拝読ありがとうございました。
2016/02/21
「ご拝読」は使い方、違っていました。
「お読みいただきありがとうございます。」
これが正解ですね。
最後の最後までポカやってます……
すみません。




