石見先生
それが始まり。
んで俺は高校に入って何だかんだ人気が出て喜美花の希望通り生徒会入りしたってわけ。
周りに俺はチャラ男でセフレ沢山ってことで通ってる。
ちなみに俺はセフレなんていない。男を相手にする趣味はないし。
俺が部屋に篭ってるのは勉強しているからだ。こういうとき一人部屋って便利。
あ、俺は生徒会役員なので一人部屋を貰っている。
――ってどうでもいい話はこれくらいにしておいて。
今俺には悩みがある。
それは噂の転校生についてなんだけど。
見事に生徒会役員を落とした転校生くんのおかげで役員の皆はみな転校生くんの尻を追っている状態であること。
しかも時折転校生を生徒会室に呼んでは騒ぎ放題していること。
……本当勘弁して欲しい。
全然仕事が進んでいない今日この頃だ。
俺は最近生徒会室に行ってない。転校生と絡むの面倒臭いし、五月蝿いのだって本来嫌いだし。
まぁ、俺が生徒会室にいかなくたって会長とかはどうせまたセフレとよろしくやってんだろって思ってるくらいだし。
ゆったりと読書したりするのが好きな人間なんだ。俺は本来。
そんな俺だけどちゃーんと仕事だってやってる。
「いわみーん書類チョーダイ」
「ああ、甲斐くん」
俺は人があまりいない時間帯を狙って職員室へと足を運び、こうやって生徒会顧問の石見 宏先生に書類を貰っている。
うちの学校は自主性を重んじてるからか生徒会の活動が活発で仕事量も多いらしい。
だから先生も最近、仕事が進んでいない会長達に困り果ててるみたいだ。
自分で済ませられる仕事は自分でこなしてるみたいだし。先生だって色々仕事があるってのに。どんだけお人よしなんだ。
「はいこれ」
「ありがとー」
先生は俺にクリップで留められた書類の束を差し出し、俺はそれを受け取った。
俺は石見先生から数日分の書類を一気に貰い部屋で地道に終わらせて提出している。
勉強の時間も取らなくてはいけないので結構スケジュールはきつきつだったり。
けど、だけど。
「これだけじゃ、ないでしょー?いわみん」
目に隈まで作ってる先生を見たら俺も頑張らないわけいかないでしょうが!
しかも先生なんだかげっそりして……痩せた?
俺はにこっと笑い頂戴の意味を込めて書類を持っていない方の手を石見先生に差し出す。
石見先生は目を見開き、困惑した様子だったが遠慮がちに俺を見て
「でも……いいのかい?これは甲斐くんの仕事じゃないんだよ?」
「だってしょうがないでしょー?会長とか仕事しないんだから、誰かがしないとねー」
そう。連帯責任ってやつだしな。
それに生徒の仕事であることを先生にやらせるのも悪いし。
石見先生の言葉に俺が笑顔のままで答えると、先生は口をギュッと引き締め眉をハの字にした。
何だか泣きそうに見えるぞ、先生!
「ありがとう……甲斐くん君はいい子だね」
でも石見先生は泣かず、表情を微笑へと変え俺の頭を撫でた。
俺別に撫でられるのは嫌いじゃないけど、先生の前では一応チャラ男だからなーってことでその手を退かせ、人差し指を自分の唇に当てた。
「でしょー?皆には内緒ねぇ」
「あはは……分かってるよ」
こんな外見でこんな言動している人間が、いい子なんてなんか笑えるじゃん?
先生はこくりと頷くと笑みを深くし、書類の山ではなくUSBを俺に渡して来た。
え、まさかそこまで仕事溜まってんの?紙にしたくないくらいに?
「提出期限はデータ毎に書いてあるから……無理そうだったら僕がなんとかするから言ってくれる?」
「それはないでしょー俺ちゃんと終わらせるからさぁー」
俺はUSBの中を見るのが怖いなぁなんて思いつつそれを受け取り、
心配そうに俺を見る石見先生を横目に見つつ、俺は先生に背を向け手を振りながらも職員室を出た。