本懐 -止まった世界-①
「すまんな、ルー。無理をさせてしまって。」
「・・・・・いいえ、イルちゃんの為ですから。むしろこんな事しか出来ないのが悔しいです・・・」
元々気の強いイルフォシアだったが、まさか自身の顔にあの大きな長刀を、しかも自分で突き立てるとは思いもしなかった。
だがそれで己の尊厳と想いを護れたのならきっと冥府では納得している筈だ。
ルルーはあれだけ美しかった彼女の顔に遺る深い縦傷に心を痛めつつ、『緑紅』の力を解放してそれを出来る限り治癒するとスラヴォフィルも少しは救われたらしい。
「・・・イル・・・お前は誇りが高すぎた・・・今度生まれ変わる時は、もう少し融通が利くようにな。」
生まれ変わる・・・
いつの間にか浸透し、誰しもが知る言葉だが果たしてそんな事は可能なのだろうか?
ふと気になって思考を巡らすも、それは今までずっと我慢していたスラヴォフィルの涙によってすぐかき消された。
彼は次期国王であるクレイスと義娘のイルフォシアを立て続けに失っているのだから悲壮感から動けなくなってもおかしくないだろう。
それでも立場上、人に弱みを見せる事無く『トリスト』の国王として振舞い続けなければならないのは辛いところだ。
「ルー。お前も気を付けるのだぞ?恐らくア=レイは本当にヴァッツと親族関係であるはずじゃ。となると何をしてくるか想像もつかん。」
「はい。出来る限りずっとショウ君の傍にいようと思います。」
世界は今、不気味な動きによってセイラムの予言していた未曽有の危機に晒されている。
なのにアルヴィーヌは一体何処までヴァッツを探しに行っているのだろう。
もうこれ以上誰にも死んでほしくない。もし何かあったとしても大怪我までに留めて欲しい。それなら自身も何とか役に立てるから。
そんな気持ちを胸に綺麗な顔で眠るイルフォシアへ別れの挨拶をすると、ルルーは落胆に沈む王城内を静かに歩いてショウの待つ執務室へ向かう。
「お疲れ様です。スラヴォフィル様の御様子は大丈夫でしたか?」
そして彼が心配そうに声をかけてきたのだが、ルルーは言葉よりも先に小走りで近づくとその胸に飛び込んだ。
「・・・ショウ君は無茶しないでね?何よりも生きる事を選んで・・・」
「・・・それはルーも同じですよ。例え何があっても生き延びて下さい。」
ほんの少し前まではクレイスの次期国王に世界が期待していたのに。ヴァッツという絶対的な存在が大将軍でいる事に確かな平和を確信していたのに。
それが今では、いつ襲われるかわからない不安から誰も満足に前を向けなくなっていた。
もちろん自分が襲われたらという恐怖もあるが、少し考えると何も出来ないまま死んでいく後悔の方が心を埋め尽くす。
恩を返したい。大切な人を、ものを護りたい。
戦う力を持たないルルーですらそう感じているのだから他の人達はもっと強い決意を抱いている筈だ。
しかし破格の存在はそういった人間の気持ちを全く汲み取ってはくれないらしい。
「ショウ様、お客様が来訪されております。」
静かに抱き合う2人を他所に、扉の向こうから意外な言葉が聞こえてくると2人は顔を見合わせて体を離した後、その人物を部屋に招き入れるのだった。
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