本能 -黒百合の花-③
ヴァッツの事を思って甲斐甲斐しく身の回りの御世話をする部分だけを考えると確かに侍女というより母親に近いかもしれない。
更に十歳以上年の差がある異性との交流も初めてだったのが原因だろうというのはレドラの考察だ。
「そ、それだけわ、私めに親しみを感じて頂けているのですね。とても光栄ですわ。」
しかし一人だけ笑えない状態であったにも拘らず、目一杯の苦笑いを浮かべて何とか取り繕う姿には素直に感心する。
「と、年上・・・はあまり好みじゃない・・・かもしれません?」
他にもリリーがよくわからない部分で不安を覚えていたようだがそれを言い出すと同い年である時雨も戦線から離脱という事になりかねないのでやめて欲しい。
「好み?オレはみんな好きだよ?」
最後は誰もが良く知るヴァッツらしい答えが返って来たので周囲も朗らかに笑い合う。
時雨も我儘を言うつもりは無い。彼の寵愛さえ受けられれば、その中の一人に加えて貰えればそれでいいと自分の心に言い聞かせてきた。だが今の生活に慣れてきたからか、己の中の承認欲求が肥大してきたのか。
独占欲らしいものを意識し始めるとリリーとはまた違った焦りを感じてしまう。
(もしかしてこれが欲望というやつなのか?)
質素倹約、質実剛健を胸に従者として、今までそういったものを極力避けるようにしてきた。何故なら一度それに染まると謙虚さや我慢強さを失うとよくよく聞かされてきたからだ。
ヴァッツや友人を困らせるつもりは無い。
ハーラーがどういう立ち位置なのかも理解出来た今は、自分を必要としてくれるその時までゆっくり待とう。
そう心に決めた時雨はその夜、皆で楽しく夕食を済ませると満足感を胸に深い眠りにつく。
なのに朝目覚めると何故か自身の部屋で、しかも並んで眠っていたので恥じらいよりも先に混乱が脳内を埋め尽くす。
「あ、おはよう時雨。昨夜はちゃんと眠れた?」
「え?!あ、おはようございます!はい・・・よく、眠れました。」
何も覚えていない程に眠っていた。それをどう伝えればいいのか、もしくは伝えない方が良いのか。
衣服はしっかり着用していた為何もなかったとは思うが、酔って暴走した訳でもない凶行には心の奥底で眠る欲望にただただ憤るしか出来なかった。
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