天神 -手の平で踊れ-③
今の攻撃はあくまで建物を狙ったものだった。故に国民もいくらかは生き残っているだろうが、それでも一瞬にして国家が崩壊した事実に変わりはない。
「あ、あなた?!何してくれるのよっ?!」
「さぁ出てこいヴァッツ。わしが相手をしてやろう。」
「馬鹿じゃないの?!何も出来ないまま力を奪われた事を忘れるなんて・・・だから低能とは関わりたくないのよ!!」
「その意見には同意だな。」
唯一話の分かるソ=ノ=フォウドも同意こそしてくれるが止める気配はないらしい。全く、何なのだこいつらは?何故あの衝撃的な出来事を忘れてしまっているのだ?
「これが『神族』か。なるほどなるほど、ヴァッツが御灸を据えるのもよくわかるな。」
そこに傍観していたフロウが口を挟むと彼らの敵意はそちらにも向けられ始める。
「何か馬鹿にされたようでむかつくわね。たかが『悪魔』の分際が話に入ってくるのもむかつくわ。」
「うむ。大いに馬鹿にしているのだ。貴様らはヴァッツにばかり気を取られているがこの世界には人間でも十分に強い者達がいる。その辺りも調べずにこんな派手な事をしては必ず狩られるぞ?」
恐らくクレイスの事を言っているのだろう。確かにイェ=イレィにもリセイといった例外に思い当たる節はあるので彼の意見には同意せざるを得ない。
だが自分達こそ生命体の頂点だと信じて疑わない『神族』達は顔を見合わせると各々が馬鹿にしたかのような表情を浮かべる事で無言の否定を返してきた。
「ま、いいか。それよりこれで戦いやすくなったでしょ?一応抵抗はしてよね?一方的過ぎると面白くないから?」
「言ってくれるじゃない。」
実際彼らはア=レイの手によって全ての力を取り戻していたがイェ=イレィの強さはは以前の半分程度に落ちている。
それでも不満が生まれなかったのは全ての『神族』が人間と同じ条件に堕ちた時、成す術もなく奴隷のような扱いを受けていた彼女を救ってくれたのはヴァッツだからだ。
もちろん第三者が冷静に判断すると奪われなければ酷い目に合う事もなかったという前提条件に行き着くだろう。しかし傲慢過ぎた自分達はいずれこうなっていたのかもしれないとも思えるのだ。
「行くわよっ!!」
『モ=カ=ダス』という国家のお陰で彼との縁が生まれたのも大きい。この地の王を任された事も全てがヴァッツの慈悲であるのだからそれに応えない道など最初から有り得ない。
どっぱぁぁぁあんっ!!!
だから負けるとわかっていても戦うのだ。そもそも海神がその気になれば大陸など一瞬で沈める事が出来る。それをしないのは目的がイェ=イレィの命を取る事だからだろう。
「あれ?前からそんなに強くなかったけど・・・手を抜かれてるのかな?」
突然イラの右手からクレイスが展開する以上の渦潮が現れると流れに飲まれた彼女は後方にあった森林地帯に叩きつけられた。あまりにも絶望的な水量と水圧に体中がみしみしと音をたてたがまだ動きはするらしい。
「ええ。貴女如きに本気を出したらヴァッツ様に笑われてしまうもの。」
抵抗しないのも間違っている。せめて一矢報いねばと体中の痛みをおくびにも出さず軽口を返すが体が海水で出来ているイラに傷を与えるのはとても難しいだろう。
がぶりっ!!!
「・・・これは海水か。しかし・・・一度食した記憶もあるな。」
なのでフロウが突然噛みついた所でその牙が届く事はない。ただその味から以前大量の悪感情を摂取していた根源が『神族』なのだという答えには行き着いていた。
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