天神 -手の平で踊れ-④
「この野良犬っ?!あたしに噛みつくなんてほんと躾がなってないわねぇ?!」
イラが忌々しいといった非難の声を上げた後、彼もまた巨大な渦潮に飲み込まれるとイェ=イレィの近くに叩きつけられる。その勢いは自分の時より凄まじかったが『悪魔族』の王だからだろうか。
「やれやれ、犬と狼の区別すらつかんとは。『神族』というのはどこまでいっても愚かという事か。」
何事も無いようにすぐ体を起こしたので未だ立ち上がれなかったイェ=イレィの方が驚愕の表情を浮かべていた。
「・・・そもそもあたしはイェ=イレィに用事があるの!!あんたみたいな下等生物に付き合ってる暇はないの!!」
「だがこいつを見殺しにするとクレイスやヴァッツが悲しんでしまうだろう。私は彼らに恩義を感じているのでな。」
理由はともかくフロウは本気で助太刀してくれるらしい。ならば自分も転がっている場合ではない。痛み以上に動かない体を無理矢理起こして平然を装うとソ=ノ=フォウドも何かを察したのか、イラの隣で髪を赤く燃やし始めた。
「じゃあこっちも2人だ。海に沈むか灰になるか、好きな方を選ぶといいよ。」
不味い。もし自身の力が十全だったとしてもどちらにも勝てないだろう。であればここは何とかフロウだけでも逃がすしかない。
『悪魔族』如きに庇われた事で危機感よりも苛立ちを覚えたイェ=イレィは杖を構えると同時に銀の鷹を飛ばす。そして自身の周囲にあった木々を急激に成長させて大きな自然の壁を作って見せたのだが意図は伝わらなかったらしい。
「おいイェ=イレィよ。これは少し邪魔ではないか?それともこれ以上周囲に被害が及ばないよう囲ってしまおうと考えているのか?」
「鈍いわねぇ?!あいつらは私の敵なんだからあなたはさっさと逃げなさいという意味よ?!わかった?!」
言葉を使うと相手にも知られてしまう為、銀の鷹を使って合図を送ろうとしたのも無に帰してしまった。ただ相手も無理にフロウと戦う理由は無いのだからこの場を立ち去っても後を追う事はないだろう。
「しかし既に奴らはこの世界の敵対者だ。それを黙って見過ごす程私は甘くないぞ?」
ところが彼の中で『神族』の3人は明確な敵だと認識しているようだ。3倍くらいだろうか?みるみる体を大きして今度は鋭くも早い前足で相手に襲い掛かると海の太陽の姿が一瞬で形を失う。
ただその形はすぐ元に戻る。彼らの本体が海や太陽で出来ているので致命傷を与える事はほぼ不可能なのだ。
「・・・ソ=ノ=フォウド。あの野良犬、さっさと丸焼きにしてあげて?」
「・・・だな。」
益々不味い。慈悲とは対極に位置する『神族』達の機嫌を損ねればどうなるか。
同族である自身が良くわかっているイェ=イレィは何とか環境を利用して相手の攻撃を防ごうと模索するがそれら全てが炎に包まれたのをみて脳裏に失望が過った。
・・・・・かっ!!!
だが彼女も、ソ=ノ=フォウド達も『悪魔』という存在を全く理解していなかったらしい。昔から必ず対極として描かれてきた彼らの存在は相対する『神』に匹敵する力を持っている事を。
フロウは炎の海など全く気にする様子も見せずに大きな口を開くと青白い光が線となって放たれる。
その速さと太さと意外性に彼らも反応できなかったのだろう。まとめて一緒に喰らうと2人は先程までの余裕などない悲鳴を上げつつ中空で悶え苦しみ始めるのだった。
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