天神 -天族について-⑥
「ふむ・・・この程度では現れんか。」
彼は一瞬で数十の『天族』を同時に屠った事など全く興味が無いらしい。ウォンスでさえ完全に無視して辺りを探す姿には怒りと驚愕が込み上げてきた。
どうする?ここは戦うべきか?
今までにない相手を前に本能でさえ迷ってしまうと割と短絡的な思考を持つ彼でさえ体は動かなかった。いや、そもそも『天族』はまだまだ未熟なのだ。
殺された同族達とは激高を呼び込む程深い仲でも絆もない。本能に従うのであれば生物として己の命を護る為に今からでも必死に逃げるべきだろう。
だがセイラムから与えられた将軍という位は彼の中で既に芽生えている。『天族』の繁栄と防衛、そして将来訪れるかもしれない本当の危機を乗り越える為に自分がしなければならない事はもう決まっていたのだ。
「ふんっ!!!!」
ばきぃぃんんっ!!!
感情や本能のほぼ全てを戦いに費やしていた彼らに恐怖心の入り込む余地はほとんどない。それでもウォンスの脳裏には殴りかかってから不透明な未来が過ってしまう。
彼の拳は小さな山など瞬時に吹き飛ばし、大地に刺されば大きな穴も開くのだ。それがソ=ノ=フォウドの頬に突き刺さったとなれば頭が跡形もなく吹き飛んでもおかしくはなかった。
なのに相手は全くの痛痒を感じていない。『天族』を意のままに操っていた『神族』とは戦力としてもここまで差が出るものなのか?
「仕方ない。もう少し殺して回るか。」
それどころかさらりと恐ろしい言葉を漏らしたのでウォンスは慌てて拳を引っ込めるが既に遅かったらしい。奴の炎によって手指が無くなったのを確認する前に見えない速さで蹴りを入れられると大きな体は激しく吹き飛んだ。
どっごぉぉぉんんんっっ!!!
「・・・・・っ?!」
脇腹に刺さったのもあるだろう。体が上下に千切れる事はなかったものの内臓は風船が割れたかのように損傷する。一瞬で体内が血で満たされるとそれは唯一の出口である口から吐血として滝のように噴出した。
更に激しい失血は意識すら刈り取ってくる。元々戦う本能を強く刻み込まれている為痛みへの耐性は高いのだが体の機能が低下しているのも相まって体は思い通りに動いてくれない。
「おお。私の蹴りを喰らってまだ命があるのか。貴様、『天族』の中では少しだけ強い部類みたいだな?」
そんな状態の中、地べたに這いつくばるウォンスの前には涼しい顔を下ソ=ノ=フォウドが冷たい双眸で見下ろしている。セイラムと戦った時ですらここまで差はなかった。
つまりこいつを放置するのはとても危険なのだ。
その答えだけでウォンスは無意識ながら筋肉と能力を全開放して何とか立ち上がる。彼は他の『天族』と違い、回復能力がとても高いのだ。故に多少の傷であれば日を跨がずとも元に戻るし、だからこそ酒や女と言った回復と相性のよい物への快楽に身を投じていた訳だ。
「なるほど。その傷の治りが早い能力によって生き長らえた訳か。だがそれだけというのもつまらんな。いや、所詮『天族』はその程度か。」
「へっ・・・いちいち癪に障る野郎だ、なぁ?!」
何とかこいつを倒せないだろうか。でないと『天族』が、仲間が危険に晒されてしまう。無意識と意地でなんとか左の拳を突き放つと今度は対象を捉える事なく体ごと突き抜けた。
「私は炎の神だ。貴様ら下等生物が触れる事など叶わんよ。」
気が付けば彼の体に触れた部分が大量の炎に包まれている。その延焼能力は自然のものと違い、いくらウォンスの回復能力が発動しようとも押し勝つ事はなかった。
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