46、四肢義体
目が覚めると目の前にいつくもの光が差していた。
テレビでよく見た手術台に備え付けられている複眼のライトだ。
体の痛みはなく自由に動かすことが出来そうだ。
だが、以前のように肩に感じる義手の重みや腰に感じる義足の重みが無い。
もしかすると頭以外の部位が全て無くなってしまったのだろうか。
そんなはずはない、最後にキラーを倒した時は右足が切れて一条によって意識を失う事が出来ている。
三半規管は生きているようで、今が横に寝ている状態だという事はわかる。
だが、後頭部に頭の重みを感じないのはなぜだろうか。
俺は起き上がり辺りを見回した。
なんとなく見覚えのある景色だったがどこで見たのかは思い出せない。
周りにはガラスケースの中にいくつもの容器が入っていて赤い塊のようなものが乗っている。
奥には天井に届くほど大きなガラス容器があるが中には何も入っていない。
これから何かを入れる予定のものなのだろう。
立ち上がり目に見える範囲で自分の体を見ると見える所は全て義体だ。
顔を触ってみるが手の感触が無いためどうなっているのかもわからなかった。
今のままでは映画に出てくる機械ロボットそのものにしか見えないだろうと衣類を探したがどこにも見当たらない。
仕方なく部屋を出て事情を知る人間を探すことにした。
扉を開けると壁にいくつもの穴がある通路を通り外へ出る。
そこはかつてマツダサイクロン(仮)が置かれていた倉庫のような場所だった。
今まで手術していた場所はこんな所にあったのかと関心しながら倉庫を出ると一条や斎藤と何度か話をした研究室がある。
摩りガラスの窓からは日が差しているので時間帯はまだ夜ではなさそうだ。
研究室からでて階段を上がり二階にあるいつも目が覚める病室を覗くが誰もいない。
今度は渡り廊下を通り赤石がいるはずの執務室に入るが赤石の姿はなく家具一式も無い、作戦室にも宿直のオペレータの姿すらない。
一体今度はどんな夢なのだろう。
外に出るといつもの道を通って自宅へ向かったが、先程の戦闘で壁に穴が開いたまま修理された様子はない。
財布もカードも持っていなかったが両足義足ならもしかすると三階まで飛び上がる事が出来るのではないかと踏み込むと案の定三階の高さまで飛び上がる事が出来た。
リビングに入ると俺が倒れていた所は赤黒い染みが出来ていて大量に出血した後が伺える。
腐った足が残されていない所を見ると足も本体も回収されているのだろう。
寝室にはキラーが殺害した外国の兵士が腐りきっていて骨が所々に覗かせている。
腐乱臭がしそうだったが何も感じない。
あの出来事がそのままの状態なのであればキッチンに一条が投げ捨てた毛布が落ちているだろうと思ったが見当たらない。
これはいよいよ妙な事になったと部屋中を物色していると洗面所に行ったところで衝撃的なものを見る。
ある程度予想はしていたが胴体から頭のてっぺんまで全てが義体になっている。
義体というよりは明らかにロボットであり、銀色に塗りなおされた人体模型が鏡に映っている。
予想していたとはいえ元の自分が見る影もない姿に大きくため息をつく。
正確にはため息をつく動作をしただけで息など出てもいないのだろう。
このままでは外を歩くとしても目立つだろうとクローゼットから白いシャツにモスグリーンの下穿きを穿いて外に出た。
近くに駅に行くと人間はまだある程度活動しているようでいくらかの人がいるようだ。
駅の改札まで行くと財布を持っていない事に気付くが駅員が何も言わずに改札横の柵を開いて中に誘導する。
遠慮せずに電車に乗るが誰もが目を合わせようとしない。
当然だろう、自分が異形なのは自覚している。
すると隣の車両から見覚えのある異形の者が現れた。
キラーだった。
誰もが悲鳴を上げる事なく、キラーに目をやるものもいない。
今まではキラーが発生すると見な叫び声をあげ散っていたものだが誰もが黙っている。
それどころかキラーまでもが誰に手をかける様子もない。
これは最後の一体なのだろうか。
これを討伐したら最後に俺の精神が破壊されて意識が無くなるのだろうか。
どうせ全身機械なのだからとキラーに向き直し、そのまますぐに拳を振るう。
しかしどうした事だろうか。
俺の拳はキラーに受け止められ以前のように上半身を飛ばすことが出来なかった。
以前一条が言っていたDNA情報によってキラーの動きが押さえられるという事なのであれば全身機械の今はキラーの動きを押さえることが出来ないのだろう。
こちらの攻撃を皮切りにキラーからも激しい攻撃が繰り出されるがギリギリ避けられる。
多少当たったとしても痛みが無いお陰で直ぐに体制を立て直す事が出来るがキラーの動きが早くこのままではやられてしまうだろう。
人のいない扉の前まで後退すると扉を突き破って勢いよく外に飛び出した。
丈夫な体のお陰で難なく着地することも出来、キラーの影も無い。
自分の領域を持っていて遠くまで追ってくる事が無いのだろう。
丁度人気のない電車の車庫のような広い空間に降り立つ事が出来たがそこにはさらに複数のキラーが待ち構えていた。
この数を相手にしては確実に破壊されるだろう。
すると奥から一人、女の影が現れた、どれか一体の背中に背負われていたのだろう。
その女はキラーの中央に立ち、服装はいかにも古臭い統治時代の支配者といった装いで肩章の着いた長い外套に野戦帽、軍服にヒールの高いロングブーツの組み合わせだ。
サングラスをかけているが背丈はかなり低い方だろう。
口元を見る限り中年の女性といった所だろうか。
砂利が敷き詰められた線路の中、おぼつかない足取りで数歩前に出ると
「やれ」
と一言だけ。
すると周りのキラーが鞭のようなものを一斉に振り回し四肢を全て捉えられる。
殺されるという訳ではなさそうだ。
そう思った矢先、鞭だと思っていたワイヤーから強力な電気が流れてきた。
痛覚はないがそれぞれのワイヤーが放電しているのでそれなりの電力だろう。
俺は声も上げる事も出来ずに意識を失った。
目が覚めると何度もみた病室の天井だった。
隣には一条が寝ていて、まだ胴の辺りは生身のままなのだろう、一条の手の温かさを感じることが出来る。
額が汗ばんでいるのを感じられるので頭部もまだ生身のままだ。
やはり夢だった。
以前までは自分がキラーである事を裏付けるような夢だったが今回は本当にただの夢だったのかもしれない。
一条の腕をそっと下ろしベッドに腰掛けるとやはり両足が義足に変わっていた。




