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44、マツダのDNA

 基地に出勤した一条は毎朝作戦室に行く習慣になっている。


出勤したら研究室に閉じこもらずにまず皆が出勤するまで作戦室で待機し、挨拶を済ませてから研究室に行くよう赤石に言われているからで、そうでもしなければいつ来ていつ帰ったのか誰もわからないという事があったからだった。


朝9時になり全員の出勤を確認すると一条は研究室に向かう。


先程あいさつした斎藤が既に作業台で妙な機械の組み立てを行っている。


特に興味が内容で一条は声をかける様子もない。


そのまま奥へ進むと広めな倉庫があり組み立て途中のドローンが置いてある。


マツダ専用のドローンは既に発射用設備に搬入済みなのでいつでも使用できる。


現在は10人まで乗れる分隊用のドローンの作成を行っている。


このドローンも斎藤に一任している為これにも特に興味がない。


さらに奥の扉に入るとエアシャワーと消毒液の霧を浴びる通路を通りひと際明るい部屋に入る。


机の上は綺麗に整っており、所々にあるガラスケースの中には試験管やシャーレが並んでおり、それぞれに赤い塊のようなものが入っている。


一条は一通りガラスケースの中を確認すると奥のひと際大きなガラスケースに向かう。


ガラスケースには<MK,ZERO>という看板が掲げられ、その隣にある同じ大きさのガラスケースには<MK,ONE>という看板が掲げられている。


MK,ZEROの方には人間の両腕、片足が本来人に付いていたであろう位置に固定され培養液の中に固定されている。


それぞれの断面からは管が伸びており、それぞれの部位が繋げられている。


また、頭の位置には頭部のような大きさの機械の塊が固定されている。


MK,ONEの方には人型の塊が入っているが皮膚などは無く、人というよりは人体模型のような見栄えだ。


その隣の小さいケースには何も入っておらずMK,ICHIという看板が掲げられているだけだ。


MK,ICHIの看板を指で撫でて部屋の中央にある長椅子に横たわると自らの股間に細い管のようなものを差し込んでいった。



 赤石、斎藤の二人はミーティングルームに集まっていた。


一条と三人でキラーの対策を話し合う予定になっていたからだ。


「斎藤君、一条君を見かけましたか?」


「はい、先程奥の培養室に入って行ったようですが、それから出てきた様子はありませんね」


「朝ならいつもの事ですが、出勤後に送れる事などなかったのに。心配ですね、斎藤君、様子を見てきてもらえますか?」


「了解です」


斎藤が立ち上がるとミーティングルームの扉が開いた。


一条が入って来るが額に汗を浮かべ元々白い肌が真っ青になっている。


「一条君!?」


赤石が走って駆け寄り今にも倒れそうな一条を支えて近くの席に座らせた。


「何があったんですか?」


一条は赤石の肩に手を置き、少しだけ笑みを浮かべる。


「ちょっと重めの生理が来ただけなので気にしないでください」


「ですが、、、」


赤石は斎藤と一度目を合わせるが斎藤もどうしたらいいかわからないという表情をしている。


「さっき薬を飲んだばかりなのでもうすぐ落ち着きます。例の件、始めましょう」


赤石の肩に置いた手でそのまま赤石の遠ざけると一条はテーブルに向かって座り直す。


一度こうなると何を言っても動かない事を知っているので赤石も渋々教壇の席に着いた。


「では、体調が悪くなったらすぐに知らせてください」


一条が黙って頷くと座ったまま発言をした。


「資料はありません、当初の予定通り既に一定量、マツダさんの細胞を培養できています。これを薄型のガラスケースに入れたものをリストバンド化して配布する事も可能です」


「生産工場についてもこちらで手配済みです。ガラス詰めする化学工場とそれをリストバンド化する生産工場も既に生産準備を整えています」


一条と斎藤がそれぞれの進捗状況を報告する。


「素晴らしい。さすがですね。すぐにでも計画を進行しましょう。一条君、マツダさんの許可を貰ってこれそうですか?」


「私が今までマツダさんからノーを貰った事がありましたか?」


一条は額に汗を滲ませたまま前屈みになりながら自信に満ちた表情を赤石に返した。



 ミーティングを終えた一条はマツダに許可を貰うのが大事な仕事だからと言い早々に基地からマツダの部屋に向かった。


「これは外回りの営業のようなもの、出勤時間外には絶対にこの話はしない」


そう言い切って強引に帰ってきたのだ。


マンションに着いた一条はいつも通りセキュリティを抜け三階のマツダの部屋に向かう。


昼の時間はとっくに過ぎていてそろそろ晩御飯を作り始めてもよさそうな時間帯だ。


一条はよろよろと揺れながらソファーへ辿り着き顔からソファーに倒れこんだ。


鞄はリビングに入ってすぐの床に投げ捨ててしまっていて携帯電話を取りに行く気力も残っていなかった。



 マツダが美容室で店主と別れ商業区へ出たついでに銀行の窓口に寄って追加の現金を引き出し、食料品の買い込みをしてタクシーを拾い自宅へと向かった。


いつもは電車で通った道だったが、荷物も多くなった為少し奮発した形だ。


本来義手を晒したままタクシーに乗って住所がバレる事を避けなければならないのだろうがそこまで考えが回っていなかったのだろう。


マンションの前に着くと紙幣を一枚渡し、荷物も多いからとお釣りをもらわずに部屋に向かった。


中に入ると床に転がっていたバッグに躓きそうになりながらリビングに着く。


ソファーにはうつ伏せで寝ている一条がいる。


寝ているとわかったのは呼吸が苦しいからなのか寝息がひと際大きかったからだ。


マツダは買い込んだ食材を冷蔵庫の前に置き一条を仰向けになるよう転がして寝室から毛布を一つ持ってきてやる。


体調が悪くなり早退してきたのだろうか、元々白い肌は青ざめていた。


これは体力の付くものを作ってあげなければと


「よし」


と一声上げるとキッチンに向かい晩御飯の支度をした。



 一条が目を覚ますと先程そのまま倒れこんだはずが毛布を掛けられている。


恐らくマツダが帰って来ているのだろうと起き上がり周りを見渡すとキッチンで調理中のマツダが立っている。


上体を起こしたせいでお腹辺りに痛みが走り


「いっ」


と声が漏れる。


するとマツダが一条に気付き


「おはようございます」


と、声をかけた。


一条も


「おはようございます」


と声を出すが腹の痛みに声が霞んだ。


「体調が悪いんですか?」


とコップに水を入れてマツダが一条のそばに行くと


「実は、流産してしまったので、とてもお腹が痛いです」


一条がコップを受け取り水を喉に流し込む。


マツダが直ぐに空になったコップを受け取ると


「まだ、赤ちゃんが欲しいですか?欲しいなら、頑張りましょうね」


一条の頭を優しくなでながら微笑みかける。


「うん、頑張る」


一条も微笑んで頷くと、マツダはキッチンへ戻る。


「今日は食事できそうですか?」


キッチンからマツダが声をかけると一条は再び横になり


「食べます、沢山食べます。お肉がいいです」


少し元気な声で答えた。


「もうすぐ出来上がります、用意が出来たらよびますね」


お皿を出しながらマツダも明るく答えた。



 テーブルには一条の希望通りステーキと盛り合わせ、スープとサラダが並べられているが今日はワインではなく水だった。


体調が悪そうだからとお酒を控えようとマツダの提案だ。


余程腹が減っていたのか一条は勢いよくステーキを平らげるとマツダのステーキにも目をやり半分も分けてもらう。


マツダも元々大食いではない上に最近では生体の体積が減ったせいであまり空腹を感じなくなっている。


殆どの料理を一条が平らげるとマツダも食事を終え食器を洗浄機に詰め込みスイッチを入れた。


マツダはソファーに移動した一条にコーヒーを渡すと一枚の紙をソファーテーブルに置く。


「婚姻届け、持ってきました」


「はい」


一条は黙って紙を見つめる。


「あまり乗り気ではないみたいですね」


反応の薄い一条にマツダも苦笑いを浮かべる。


「そうじゃないんですけど、こういった形式に縛られるというのがあまり性に合わない気がします」


一条は申し訳なさそうな声でマツダの方を見た。


「やっぱり、俺も形式に縛られたくないので一条さんもそうだと思いましたよ」


「じゃあ?」


一条が怪訝な顔でマツダを見る。


「今日銀行に寄って来たのですが、その時、婚姻関係ではない人にでも遺言を残しておけば全額財産贈与が出来るようなんですよ!」


「そう言われてみればそうですね」


嬉しそうに話すマツダに一条も閃いたような嬉しそうな顔をする。


「なので、この紙は書かなくても大丈夫そうです、それで、いいですよね?」


「良いです、流石マツダさん、よくやりました」


一条は笑顔でマツダを称賛した。


話が一区切りついた所でお互いまだ湯気の立つコーヒーをゆっくり口に運ぶ。


「ところでマツダさん」


「なんです?」


「キラー対策にマツダさんの協力が欲しいのですが」


既に協力を惜しんでいないマツダは少し首をかしげる。


「正確にはマツダさんのDNAを全世界にばら撒かせて欲しいのでその許可を貰いたいです」


「え?世界中で子作りしろという事です?」


一条の真意がわからないマツダは適当な返事をする。


「違います!そんなことをしたら切り落としますよ!」


キツイ返しにマツダも苦笑いになる。


「前回<魔剣>を持っていたお陰で大塚さんが命を落とさずに済んでいます。恐らくほんの僅かに付着していたマツダさんの汗などのDNAがキラーを抑制しているものと思われます」


一条の言葉に発生源であるマツダにも心当たりがあり黙って頷いた。


「そこで、以前失った四肢を保存しておき、DNAを培養して小さなガラスに詰め込んで腕輪として皆に着用してもらう計画があります」


「腕と足、保存してあったんですね」


マツダが少し困ったように答える。


「キラーを始めて討伐出来た人の腕ですからそのまま破棄するだなんて出来ませんでした。あと、私の科学者としての直観で保存しておきました」


「その腕輪があれば俺のようにキラーに襲われずに済むという事なら是非進めてください」


マツダにも自分のせいでキラーに殺害される人の事を放っておけない気持ちがあるのでその腕輪で被害が無くなるのならば是非進めて欲しい内容だった。


「ただ、マツダさんの様に襲われなくなるのは恐らく不可能だと思います。多分大塚さんの様に着用していた部分だけ破損させられる事にはなるはずです」


「それでも、死者が出るよりはましです。俺からもお願いします」


こうして軍の計画が進み日本中の運送業等屋外を動く業種の人を優先に腕輪の配布が始まる事となった。


明日は日曜日なので定休日です。

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