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43、最後の一つ前

 一条と初めて体を重ねてから暫くの間訓練を行ってから自宅に帰り、晩御飯の支度をしながら一条の帰りを待つ日々が続いた。


殆ど毎日二人で晩御飯を食べて寝るまでの間の殆どをベッドで過ごす。


今日も寝起きの悪い一条をベッドに寝かせたまま朝食を作っている。


訓練の方も順調で義足を上手く使って大塚の攻撃は全て避けられるようになった。


俺が上達したせいで面白くなさそうにしている大塚を見るのも楽しみになっている。


キラーの方も一日に一回だけ海外のどこかで発生している程度で国内は落ち着いていた。


あれから繁華街に出ないようにしているし、人との接触も避けて食材を買う時も全てデリバリーで運んでもらっている。


もし次にキラーが発生した時、自分自身が発生源だとわかっている以上放っておくことはできないだろう。


それまでの間少しでも人らしい生活をしておこうと決めている。


何が人らしいのかもわからないが、怒りに支配されて生活をしている事が通常の生活ではない事もわかっているつもりだ。


朝食を作り終えると二人分をダイニングテーブルに並べ、一条を起こしに行く。


寝ぼけているのか裸のままで寝室から出てくるのでバスローブを羽織らせ紐を結んでやる。


これも毎朝の日課になりつつある。


「おはようございます」


「おはようございます」


お互い人との会話に慣れずに大人になったせいか敬語が全く抜けずにいるが、これも俺達の形と割り切って直す気もなかった。


テレビは付けずに日の光をゆっくりと眺めながら静かに朝食を摂る。


テレビのニュースも怒りの発生源になる可能性があるのであれから一度も付けていない。


「ところで、もうそろそろ出来上がりそうですか?」


「まだです。患者さんが足りません」


一条に予めお願いしていたキラー討伐後に必ず失う四肢の作成の進捗を聞く。


患者が足りないという事はそれ以外は既にできているという事だろう。


二人で話し合ったわけではないが右足用の義足が出来た時に再びキラーを発生させて討伐を行おうと思っていた。


一条もそれを感付いているようで制作の進捗を聞いても曖昧な答えで返される。


今日完成の答えを聞けたという事は一条の方にも答えが出たのだろう。


「もしかして、赤ちゃんできました?」


「まだです。でも生理がずっと来ていません」


半分目を閉じたままフォークでハムエッグを小さく千切りながら答えるが義足の時と違い口元がわずかに笑っている。


恐らく妊娠出来た事も間違いないだろう。


これで万が一次で頭が吹き飛んだとしても思い残すことは無い。


ただ、一条と一緒に子供の成長を見守りたかった。


「一子さん」


「なんです?急に名前で呼んだりして」


一条はハムエッグを咀嚼しながらぶっきらぼうに答える。


今まで名前で呼ぶことが殆ど無かったので明らかに警戒されている。


ただ、警戒するのに相応しい事を言うつもりなので丁度良かった。


「結婚しましょう」


「え、朝から急になにを・・・」


「形にこだわる気はなかったんですが、子供が出来たのなら万が一俺が死んだときに遺産を受け取ってもらいたいからです」


「なるほど、それは助かります。軍の給料も大した事ないですからね」


俺が死ぬかもしれないという事を否定して貰えなかった事を寂しく思いながら断わられなかった事を安心した。


「じゃあ今度紙取ってきますね」


「わかりました、お願いします」


あとは婚姻届けにサインをして提出してしまえばすぐにでもキラー討伐を実行することが出来るだろう。


食事が終わると食器洗浄機に食器を片付けスイッチを押すと着替え終わった一条を送り出し、部屋の片づけを済ますと役所に行くために部屋を出た。



 商業区に着くと駅から少し離れた所にある区役所に向かった。


今日はただ紙を貰うだけなので直ぐに用事を済ますと再び駅前に戻る。


もしかすると今後会えないかもしれないと思い、途中で銀行に寄って一日の限度額いっぱいを引き出してからファンキーな店主のいる理髪店に向かう。


「こんにちわ」


「お!兄ちゃん!頑張ってるねぇ!」


頑張っている、というのはキラーが討伐される度に拡散される動画の事を言っているのだろう。


前回は討伐に時間がかかった為俺の姿がかなりはっきり映っていたようだ。


暫く来ていなかったので伸び切った髪を前回と同じ髪形に注文し、店主と雑談を交わす。


普段人と多く会話する事はないがこの店主とは不思議と会話することが出来た。


これまでに3体のキラーを討伐した事、その度に手術で長期間寝たきりになっていた事、今度結婚する事等を聞いてもらった。


両手と左足の義手を見せたり硬い金属を簡単に折り曲げて見せたりと時間を忘れて話し込んだ。


「よしできた!これで前と同じ髪形だ!」


「え?前より少しパーマがきつくないです?」


「同じだよ!同じ道具使ってるんだから!髪が伸びちまったから前の感じを忘れちまってるんだろう」


「そうですか、そうかもしれませんね、ありがとうございます!」


店主に礼を言うと先程めいっぱい引き出した現金を封筒ごと渡した。


「おい、どうしちまったんだよ?」


急に店主が神妙な面持になる。


「もしかしたら暫く来れないかもしれないのでかっこいい髪形にしてもらったお礼ですよ」


「まさか、死ぬ気じゃねぇだろうな?」


「死にませんよ、今度は全身機械になっているかもしれないので髪も無くなっているかもしれませんね」


「冗談じゃねぇ、死にに行く奴の金なんて受け取れねぇ」


そういうと店主が封筒を押し付けてくる。


「違いますよ、そんなんじゃないんですよ。最初ここに来た時、ありがとうって言ってもらえたのが凄く助かったのでそのお礼です。折れそうな気持を繋いでくれたお礼なので本当はこんなものじゃ足りない位です」


そう言って店主の腕を押し戻すと店主は少し黙ってから腕の力を抜いていった。


「わかった、足りないってんならまた必ずここに来てまた髪切らせてくれよ!」


そう言って手を握り次の来店を約束し、店を出た。

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