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名前を失う異世界物語  作者: きなこもち
1章・生存競争
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隠れ家にて

足が痛くて通常のペースで歩けない僕がルーアンに肩を貸してもらいながら辿り着いたのは、小川の側の木々に隠れた洞窟だった。

なるほど。水もあるし、ここなら誰にも見つからずに生きていけるだろう。

「ここが私の隠れ家よ。さ、寝床に横になって。水で冷やしてあげます」

ルーアンは持っていた木の棒を岩の隙間に差し込んで、『灯火』をつけた。いちいち唱えなくても魔法は使えるみたいだ。

「もう一人分の寝床はあるの?」

分かっていても、男として食い下がらない訳にはいかない。

「あるわけないでしょ!私はずっと、一人ぼっちだったんだから!フン、ちょうどいいわ、隠れ家の守りが手薄だと思っていたのよ。交代で見張りをしましょう!今晩は私がやるから、怪我人は大人しく寝てなさいよね!」

そう言い残して、本当にその場を去ってしまった。

見れば外は夜。『今晩の見張り』とやらを始めるなら確かに今だろう。

だがこの世界のことや、ここで自分が何をすればいいのかを知らない身にしてみれば、独り以上の暇な時間もない、と思っていたが、

「やっほー☆アタマの中からこんにちは☆アタシの声、聞こえます?」

本当に頭の中から聞こえるからギョッとした。

なんだ、と思っていると

「何だってそりゃ、アナタが開けた本の妖精ですよ!ヴィヴィっていいます、よろしくネ☆」

「魔本の妖精!?そんなのいんの?」

「ええ、そりゃあこの世界に飛ばしたのアタシですから、最低限のマネジメントぐらい出来ませんと☆アレですよアレ、魔法少女をサポートするマスコットキャラ的なアレ!それぐらい、魔本にかかればセルフでカバー出来るってワケです☆」

「えっ、飛ばしたって、じゃあ」

「帰れませんよ?そういう設定ですから☆」

「は?」

「だって言われてホイホイ帰してたんじゃ、どんどん現実世界での魔本の価値が低くなって、気がついたら○OOK・○FFで80円で売られてたりするんですよ!そしたらガンガンたらい回しにされて、さすがのアタシも干からびちゃいますよ☆」

「はぁ──────────────っ!?」

2度目の叫びが、隠れ家の洞窟にこだました。

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