9. 願いの代償
「あなたが行く、医学校について説明するわ」
セレナさんが説明を始めた。
「学園の名前はソテダウス。全寮制で男女共学。私たち闇の国の民は回復魔法が使えないから、あなたが回復魔法を使えなくても問題ないわよ。基本的に、魔法の使用は禁止されているわ」
「基本的に?」
「医学校は医学を学ぶ為の学校で魔法学校ではないもの。魔法の許可があったら、生徒をまとめるのに困難だわ。──だから」
校則では禁止されているけど、生徒間ではどうかしらね?……今、恐ろしいことを聞いた気がする。
「闇の国の民は光の民より魔法の力が強いと聞くわ。あなたがどれくらいの魔力の持ち主かは分からないけど。目立つ行動は控えなさい。標的にされるわよ」
うわぁぁぁぁ。き、肝に銘じとこう。
「この屋敷でのあなたの行いを聞いてみたところ、おそらく無理そうだけどね。まぁ、自力で頑張りなさい。そこまで面倒は見きれないわ」
セレナさんが意地悪そうにニヤリとした。日頃の行い?え、まさかメイド騒動知ってるの!?うわぁ、お恥ずかしい。
「闇の魔法は校則どころか全面的に禁止だから、そこについては心配ないわ。バレたら退学どころでは済まなくなるから」
闇の国の特徴は、ずばり国民が闇の魔法が使えることだ。禁止されているなんて初めて知った。何かあるのだろうか?
「後はこの屋敷を抜け出す方法ね」
彼女はそう言うと、懐からナイフを取り出した。
「!!!」
あまりの驚きに、逃げ出すひまもなかった。ザシュッッッ──。刃物のよく切れる音がした。
ハラリ。
気が付くと私の金髪が、目の前にあった。
「整えてあげるわ。こちらへ来なさい」
「自分でできるので大丈夫です!」
今何が起こった!?てか私の髪!!怖すぎてセレナさんのもとへ近づけない。
「ごめんなさいね、見事な金髪なのに。でも必要なのよ」
まぁ見てなさい。
セレナさんは私の髪を一房取り除いた後、今度は彼女の指に刃物を走らせた。血が滴り、私の髪に落ちる。
『盟約に従い、その者の姿を現せ。我が血と名のもとに』
セレナさんが呪文を唱えると、私の髪の毛はみるみるうちに彼女の血を吸って、だんだん人の形をし始めた。
「!!!」
これは私だ。
最初私の髪だったものが、私の顔をしていた。
「これをベッドに寝かせておけば大丈夫。そしてこの髪は、私が持っておくわね」
「どうしてですか?」
「保険のためよ」
「え?」
「さっきの魔法を、見ていたでしょう?私はあなたの髪があればあなたに対してなんでもできるわ」
そう、なんでもね。
セレナは薄く笑った。
「あなたが何か変なことをしても、私は報復できるのよ。……覚えておくといいわ」
あれ、これヤバくない?もしかして選択間違った!?
「まぁ、あなたが光の国へ帰るときには返してあげる。最後にこれを飲みなさい」
差し出されたのは小さな瓶に入った液体だった。怪しい。液体っていうだけでちょっと毒を連想してしまう。薬屋の孫の性か。でももう信じるしかないよね。女は度胸!!
私は覚悟を決めて瓶を受け取り、一息にあおった。
「………」
あれ、何も味がしない?不思議に思い瓶を眺めていたが、つま先からだんだん冷えていき、視界が揺らめきだし意識が遠のいていった──
「……危ない子」
リリアの一連の行動を冷めた目で見ていた。
(私は闇の国の魔王なのよ?)
この瓶の中身が劇薬だったら、彼女はどうしていただろうか。しかも、自分の一部が他人の手に渡る危険性を理解できていない。実際に見せて、ご丁寧にも説明してあげたというのに。
「絶対にこの子、学園で何かやらかすわ」
これからの学園の騒動が目に浮かぶ。
人を疑うことを知らない単純で純粋な、光の国の少女。なんと愚かしいことか──。
(でも、だからでしょうね)
ここの魔王も、この屋敷の使用人も——そして、私も。彼女の持つ『ひかり』に心を奪われてしまったのは。
「今ならよく分かるわ」
次回から学園編です
ここまでよんでいただきありがとうございます!




