8. その果実は甘いのか
私はしばらくの間、自室謹慎を言い渡された。
それはそうだよね。勝手に外にでちゃったもの。それに屋敷に太陽の光を入れてしまった。本当だったらこんなものでは済まされないはずだ。温情措置であることは分かった。
薬の調合はできなくなってしまったが、私の部屋に鷹がよく来るようになった。以前よりも退屈ではなくなったので、まぁ、良しとしよう。
陛下からのお手紙も、頻繁にくるようになったからね!!
最初は堅い文章でお返事を出していた私だったけれど、次第に面どう…いや陛下と打ち解けていき、気軽に手紙を書くようになった。最後の追伸に何が書かれているのかいつもドキドキしてるよ!私がなんて返信してるかは私の名誉のために黙っておくけどね!!
「これ、お願いね」
陛下への手紙を書き終えた後、いつものように鷹に渡した。私と鷹は随分仲良くなった。今じゃ私の心の友だ。……鷹本人はどう思っているのか知らないけれど。
私が鷹の背中を一撫でした後、窓の外へ飛んでいってしまった。はやく帰ってこないかなぁ。今行ってしまったばかりだというのに、寂しさが胸をよぎった。
(気分を入れ替えて本でも読もうかな)
窓を閉めて、本棚へ向かおうとしていたときだった。
「光の国から来た娘ってあなたのことなの?」
「──!?」
突然ノックもなしに大きな音を立ててドアが開いた。これは、大波乱の予感がする。
「わたくしはセレナ。オルベン地方を統括している魔王よ」
「……リリアです」
セバスチャンさんが自室に紅茶を持ってきた後、彼女──セレナさんは言った。色々聞きたいことはあった。でもその前に、
「魔王?」
「そうよ。あぁ、光の国から来たから分からないのね。闇の国には統括している地方ごとに魔王がいるのよ」
魔王さまって複数いるんだ!!カルチャーショックを受けた。
セレナは長い黒髪に赤い唇、気の強そうな目じりを持った美少女だった。なんで闇の国の人はこんなに色っぽい人が多いんだろう。私と同い年ぐらいに見えるのに。
「あなたが魔王の花嫁ねぇ」
「………」
上から下までじろじろと観察される。……お願いだから、胸で視線を止めるのだけはやめて。傷つくから。
「まどろっこしいことは嫌いなの。だから単刀直入に言うわ」
セレナさんの意志の強い黒い瞳と目が合う。
「──あなたを外へ出してあげましょうか?」
私は驚きで言葉も出なかった。
セレナさんの話はこうだ。彼女と魔王は幼馴染で、婚約者候補だった。ありきたりだけれど、まんざらでもなかったらしく受け入れていたらしい。ところが、いきなり魔王さまが光の国から娘を花嫁にしようと、強引に屋敷に連れてきた。
「……私は彼を愛しているの」
紅茶を飲みながら彼女は言った。
「時が来ればここの魔王と結ばれる、ずっとそう思っていたわ。……なのに」
急に私が現れた、と。その鋭い瞳に思わず身がすくんだ。魔王さま何やってるの!?お相手いるじゃないですか!!私よりも美人で自信ありそうで胸もあって……あれ、視界がにじんできた。
「あなたのことを調べさせてもらったわ」
あらやだ怖い。何を調べられたというのだろう。
「あなた、薬屋の孫なんですって?……しかも回復魔法が使えない」
よくご存知ですね。でも、最後の言葉は必要なかったんじゃないかなぁ?やめて、いたい。
「だから必死で勉強をしていて、医学校へ通う予定だった……私がその夢を叶えてあげるわ」
「えっ?」
へ?今なんとおっしゃいましたか!?
「あなた、嫌々ながらここへ嫁いできたのでしょう?しかも敵対している闇の国に。私が後ろ盾になって、医学校へ入学させてあげる」
なんですって!?これはまたとないチャンスなのでは……?
「ほとぼりがさめるまで、闇の国の医学校へ通えばいいわ。卒業した後、光の国へ返してあげる。そこで薬屋を継ぐなりなんなりすればいいじゃない」
私はあなたがここにいてもらったら困る、あなたはここから出て光の国へ戻りたい。利害が一致していると思わない?
セレナさんはにっこりわらった。なにそれ。とても素敵な提案ですね!でも一つだけ不安があった。
「でも、もしばれてしまったら」
「私は魔王よ?そんなヘマはしないわ」
彼女は自信たっぷりに言った。私の不安、なくなりましたね。魔王ってすごい!!でもあれ?魔王さまも魔王じゃなかったっけ?
「……いいわ。よく考えてちょうだい。次来たときに返事をもらうから」
セレナさんは席を立った。部屋から出る直前に
「断ったらどうなるかも………よく考えなさいね」
怖い!私何されるの!?彼女はやはり魔王だった。
光の国のこと、陛下のこと、薬屋のこと、おじいちゃんのこと……魔王さまのこと。色んな思いや考えが、頭の中をよぎる。
「……どうしよう」
途方もない小さな呟きが、部屋に落ちた。
結局。
私はその甘い誘惑から逃れることなどできなかった。セレナさんは満足げに微笑んでいる。
「よろしくお願いします」
私は差し出されたその手をとった。
「交渉成立ね」
だいたい→
魔法+学校=魔法学校
この物語→
魔法+学校=医学校=!?
次回あたりから、学園編になります!
あれ?この物語ほとんど魔法使ってないですね。




