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4. 故国を離れて

 色んな思いが浮かんでは消える。何もせずに無為に過ごしていたら、明後日なんてすぐだった。突然王都に連れて行かれたので、花嫁道具としていくつか用意してもらったもの以外に私の荷物なんてなかった。持っていきたいものはあるかと聞かれたけれど、思いつかなくて首を振った。何かを持っていったら、余計に苦しくなりそうだったから。


 光の国を離れる──。


 自分のことなのにどこか他人事に思えてくる。言われるままに馬車に乗ろうかとしたときだった。


「リリア!!」


 よく聞いたことがある声がした。


「……おじい、ちゃん?」


 町をでて、一週間も経っていない。それなのにどうして、こんなにも懐かしく感じるのだろうか。


「ごめんね。本当は最後の時間は家族と過ごせたほうがいいと思って一緒に呼んでいたんだ。でも君のおじいちゃんがものすごく抵抗をするから……あたりまえだけどね」


 陛下が目を伏せて言った。おじいちゃんは兵のひとに押さえられていた。


「わしの、儂の孫を連れていかないでくれ。儂から孫をとらないでくれ…………!」


 いつも物静かなおじいちゃんが、苦しそうな声で必死に叫んでいた。私は思わずその場から駆けだそうとした。そんな私の腕を静かに取ったのは陛下だった。陛下は首を横に振り、私はその動作で悟った。


 ああ、おじいちゃん……!急に色んな思いが胸をよぎる。視界がゆがんで、頬にあたたかものが伝った。


 寡黙かもくでちょっと頑固だったおじいちゃん。でも、いつもやさしく見守ってくれていて、大切なことはすべておじいちゃんから学んだ。両親もおばあちゃんももういない。たった2人だけの家族だったのに。


「おじいちゃん!!」

「リリア!!」


 馬車がゆっくりと動きだした。おじいちゃんを見るのはきっとこれが最後だ。私は目に焼き付けるようにおじいちゃんを見た。


 おじいちゃんはずっと私の名前をよんでいたがおじいちゃんの姿はだんだんと小さくなり、そして見えなくなってしまった。


 馬車が揺れる。


 馬車の後ろの窓を両手で押さえながら私は静かに泣いた。

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