3. 王様だからって人格者とは限らないよね
軍人さんに丁寧かつ強制的に馬車に乗せられて3日目。私は王都に来た。
外観からおしゃれなお店と綺麗に着飾った人々。どこもかしこも洗練されている。私の町もそれなりに活気があったほうだけど、王都はさらに賑やかで華やかだった。初めての王都をこんな形で来たくなかったけれどね!!
まさに光の溢れる場所だった。
王城に着くと、すぐに身なりを整えさせられた。それ以上こすったら擦り切れてペラペラになってしまいそうなほどごしごし洗われた。数人に押さえつけられて。やっと終わったかと思ったら今度は化粧を施された。色々塗りたくられて気持ち悪さを必死にこらえた。最後に青空のように美しい色の上質なドレスを着せられたが、気分はどんどん曇っていくばかりだ。
(ああ、これからどうなるんだろう)
身なりを整えさせられていたときはそのときで大変だったのだが、いざ終わって何もない時間になると不安しか浮かんでこなかった。
闇の国なんて、自分には関係ない話だと思っていた。大人たちが、言うことを聞かない子どもに対して脅し文句として『悪い子は闇の国に連れて行くよ!』とよく言っていた。私は悪い子だったのだろうか。
確かに薬の調合間違って地下室爆破したり、怒った拍子につい人を風の魔法で吹き飛ばしちゃったりしたけれど!!……闇の国に連れて行かれるほどひどくはない、よね?
「陛下、リリア殿を連れて参りました」
しばらくして、私は王の間に連れて行かれた。陛下の手前であるので深く頭を下げた。体全体が心臓になったみたいに鼓動が嫌なくらい耳に響く。すべてを放り投げて逃げ出したい気持ちを必死に押し込んだ。
「おもてを上げよ」
威厳ある声をかけられ、やけに重く感じる顔をゆっくりと上げた。
光の国では、陛下はもちろん王族は滅多なことでは国民の前へとでてこない。陛下の言葉はすべて宰相様から国民へ告げられるのだ。だから、大抵の国民は国王の顔を知らずに生涯を終える。そんな中、初めて間見えた陛下の印象は……。
若い!!
美しいプラチナブロンドの髪に形の良い唇。サファイアをはめたような目は吸い込まれてしまいそうなほど綺麗だ。おとぎ話の王子さまにそっくり。本当に王族の方だけれど。
「リリアちゃんごめんね、いきなり連れてきちゃって。びっくりしちゃったでしょ?」
思った以上に軽かった。フレンドリーにお話をされた姿に、私はびっくりして思わず近くにいた警備の方をちらりと見てしまった。そしたらすごい勢いで顔ごとをそらされた。察しろってことですか。さっきの緊張感は何だったのだろうか。ちょっと拍子抜けした。
「ややこしいことはナシにしてさっそく本題に入るね。話は最初に聞いてるかもしれないけれど、君を花嫁にしたいと闇の国の魔王が申し出てきたんだ」
きた。
「はじめに、リリアちゃんが魔王の所有物だった鷹が光の国に迷いこんで弱っていたところを助けたらしいんだけど身に覚えある?」
「…………はい」
『鷹』、『弱っていたところを助けた』──ものすごく身に覚えがあるお話ですね。まさか。私ははっとした。
「その可憐で心優しい姿に感激して、花嫁として迎えたいっていう話なんだよ」
まさかの魔王の所有物!!あの鷹何してくれたんだ!?今度会ったらまた風の魔法ではりつけの刑にしてやる!私は心の中で憤慨した。
「僕としては、だ。うら若き乙女が顔も知らない男、しかも闇の国へ嫁がせるなんて心苦しいんだよね。魔王はよくてもあちらの国民は僕ら光の国のことをよく思ってないし」
陛下……!!なんとお優しい。軽いなんて思ってごめんなさい!
「だけどね、」
ここで話は終わりではなかった。
「断るとものすごく面倒なことになるんだよね。……ここ数十年、光の国と闇の国は微妙な均衡を保ってきた。もし断ったら戦火の厄介な火種になるかもしれない」
え……?
「戦争ってさ、いつもきっかけはささいなことなんだよ」
まるで天気の話をしているような軽さだった。陛下は笑みを一層深くした。その顔は本当に綺麗で、状況も忘れて見惚れるところだったのだが。
「わかるよね?」
陛下は笑みをたたえていた。しかし、美しいサファイアの瞳は笑っていなかった。背筋に何か冷たいものを感じる。そしてどうしてか命の危険も……。
「魔王のところへ嫁いでくれる?」
「……………………はい」
怖い!!そんなこと言われたら『はい』以外言えない!それにこれ、誘導尋問じゃないかな!?私が恐る恐る答えると、重い空気がやわらかくなった。
「よかったー。断られたらどうしようと思ってたんだ。これでひと安心だね!……もっと色々考えていたんだけど」
最後の低いつぶやきは聞かなかったことにした。世の中知らないほうが幸せなことってけっこうあるよね!
「リリアちゃんが闇の国へ嫁ぐのは、明後日。見送りは国境までしかできない。急な話でごめんね。でもあまり大事にしたくないから早めにしたいんだ」
陛下は申し訳なさそうな顔をしていた。
「知っている人がいない闇の国に嫁ぐのはとっても心細いと思う。だから、ある条件を魔王に出した」
「条件、ですか」
なんだろう?陛下は懐をごそごそとさぐっていた。
「じゃ~ん!」
見せてくれたのは一つの便箋だった。
「僕との手紙のやり取りを許可させたんだ。大丈夫!ものすっっっごく強力な光の魔法をかけてのぞき見なんかできなくするから!!心置きなく文通できるよ!」
これで寂しくなんかないよ!君は一人なんかじゃない!!なんて無邪気に笑っていらっしゃるけど、陛下?情けのかけどころがおかしいですよね?というか、陛下が文通したいだけじゃないですか!?
「だからさ、本当に困ったことがあったら書いてね」
陛下は綺麗な顔で笑っていたが、何を考えているのかは最後までさっぱりわからなかった。




