2. 鷹を助けたら魔王さまから求婚をされました
町で唯一の薬屋兼医者の孫なのに治癒魔法を使えないと分かったとき、町の大人たちはもちろん、私も絶望した。知恵熱出すくらいものすごく悩んだけれど、単純な私の頭では3日が限界だった。そして決意したのだ。
治癒魔法が使えなくても医者になってやる……!
治癒魔法が使える者は優先的に医学校に入学できる。だが、魔法が使えることが入学の絶対条件ではない。とても狭き門だが、一般人向けの試験だってある。
私は陽気でやさしい大好きなこの町のために、魔法がなくても薬屋兼医者になることを決心したのだ。
そうと決まれば話は早い。私は必死に勉強をし始めた。昼はおじいちゃんの手伝いがてら薬草の勉強を、夜は遅くまで医学についての本をかじった。医学校は試験の難しさはもちろんだが、一般人が通うには莫大なお金がかかる。うちにそんなお金はない。だからうんと勉強して特待生として受からなければ道は閉ざされるのだ。
猛勉強し始めた私を懲りずにまたからかってきた男の子たちを、今度は風を使って壁にはりつけながらも勉強するという、すさまじい執念を私は見せた。自分は風の魔法が使えると自覚した後だったから、コントロールは完璧だった。……後でおじいちゃんにものすごく怒られたけど。
それはさておき。
すべてのはじまりは、雪解けがはじまりもうすぐ春が近づいてくる頃だった。
そのときの私はあとひと月で16歳になるという頃であり、ぎっくり腰になったおじいちゃんに言われて薬草を山へ採りにいったのだ。
「あれ、何だろう。……鳥?」
山道の途中でなにか見慣れないものがあると感じていたら、大きな木の下に大きな鳥が寝そべっていた。
「鳥なのに木の下に?……あれ、けがしてる」
近くでよく見てみると血を流しており、ぐったりとしていた。とりあえず手当てしないと!と謎の使命感に駆られた私は、傷をみようとさらに近づいた。
「シャー!!」
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
その瞬間、いきなり鳥は大きな翼をはためかせ、威嚇をし始めた。……初めての私の患者(仮)だということで浮かれていたのを察知したかもしれない。
「あぁびっくりした。──えぃ!」
暴れられると治療がしにくいので、お得意の魔法で鳥を木にはりつけた。
「きずが少し深いね。……ちょっとしみるけど、我慢してね」
「キェー!キェー!!」
鳥はバタバタと羽を動かそうと暴れたけれど、私は容赦なく薬をぶっかけた。さらに抵抗するので、魔法を強化しつつ治療を進める。しばらくは抵抗していたのだがあきらめたのか、次第におとなしくなった。
「いい子。あと少しだからもうすこし待ってね」
「………」
予想外だったから応急処置程度しか手当てはできなかったが、最後に包帯を巻いて処置を終えた。
「……これでよしっと。君は鷹なのかな。鳥の中でも大きいし。明日も来るからね。逃げちゃダメだよ」
人間の言葉なんてわからないと思うけれど、心配だったのでそう言ってしまった。
「今の季節はまだ寒いよね。そうだ!これをあげる。」
私は、自分の身に着けていたストールを鷹にかけてあげた。鷹はというと、静かな目でこちらを見ていた。
「またね」
「………」
さてと、私は薬草を見つけないと。私は山の奥に入って行った。
次の日。
いないと思いつつももしかしたらということで、昨日鷹と出会った場所に向かった。
「逃げたかな?……あれ」
あたりを見渡してみると、少し離れたところに鷹は身をよせていた。傷の手当をしたが、今度はもう暴れることなくおとなしく治療を受けていた。
「君、本当に大きいな。…ぎゅってしちゃダメ?」
「シャー!!!」
鳥特有のもこもこに興味を惹かれてそう言ったのだが、急に威嚇し始めた。治療以外では撫でようとしたら必死に嫌がる。過度なおさわりは禁止なようだ。こうして、私と鷹の謎の交流が始まったのだった。
鷹とあまり親しくなることはできなかった(近づきすぎると威嚇される)が、傷は順調に治っていった。そして──。
「いない」
数週間が経ったある日のこと。鷹の姿はどこにも見当たらなかった。もうほとんど傷は治りかけていた。自由に飛んでいってしまったかもしれない。喜ばしいことだとは思うけど、少し寂しい。
(お別れくらい言いたかったのにな)
あきらめてその場を立ち去ろうとしたそのときだった。
「……!?わっ」
パサァ、と上から何かが落ちてきた。よく見ると、それはそれは見事な美しい花かんむりだった。
「きれい……!」
思わず上を見上げると、あの鷹が空高く私の頭の上をぐるぐると飛んでいた。これはもしかして、私へのお礼?
「ありがとう!!」
聞こえるように大きな声でお礼を言うと、鷹は一鳴きした後空高く飛んでいってしまった。
「元気でね……」
あんなに飛べるのなら、もう大丈夫だ。私は空を見上げながら安心した。ひとかけらの淡い気持ちが、胸中に染みていく。ほんのすこし、さみしさを交えながら──。
いつもと変わらない日常が訪れ、日々が過ぎていく。
再び思い出したのは、鷹とお別れをして数か月が経った頃だった。私はいつものように、地下室で薬の調合の手伝いをしていたのだ。
「……何やら騒がしいな」
ここは地下室である。しかし外の声が聞こえるなんてよほどの騒ぎである。しばらくすると、家のドアを大きく叩く音が聞こえた。
「儂がでる。お前はそこで待っておれ」
「うん」
おじいちゃんはちょっと強ばった顔をしており、そう言うと上の階へと上がっていった。
どうしよう。待てって言われたら行きたくなる。おじいちゃんのいいつけと好奇心が天秤ではかられた。……陰からのぞくくらいだったら、ばれないよね?私はこっそり階段を上がった。好奇心には勝てませんでした。ごめんね、おじいちゃん。
「……何事じゃ」
おじいちゃんがゆっくりドアを開けるのが見えた。ドアの先には、軍服をきた男の人たちがいた。どうして軍人さんが!?こんな王都のはずれに来るなんて、よほどのことがあったのだろうか。
「リリア殿はいらっしゃるか」
「……リリアは儂の孫じゃが」
私?
知らず知らずのうちになにかしでかしちゃった!?必死に心当たりを探していたとき、軍人さんは高らかに宣言した。
「かの国の魔王が、リリア殿を花嫁に迎えたいそうだ。リリア殿には我々と一緒に王都へ同行願いたい」
魔王の……花嫁?
花嫁ってお嫁さんのことだよね?しかも魔王ってあの闇の国の魔王ってこと!?
ええええええ!!どうしてこうなっちゃったの!?




