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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆最終章 そして伝説に、俺はなる!
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【81】穢れた霊魂

「どこまで行っても真っ暗だ〜」


 いつの間にか、飛び出してきたはずの白い世界も見えなくなっていた。深淵の暗闇の中で、上も下もわからない。右を向いても左を向いても、果てしなく続く闇ばかり。


 そんな闇の中で、フワフワとした感覚だけが、凪早(なぎはや)ハレヤを包み込んでいた。どうも、『鬼蜻蜒(おにやんま)』のスキルが適用されていない感じだ。


 暗闇の中でも、自分の身体だけは見ることが出来る。確認してみたところ、あの霊魂状態の白い肌が、ほとんど真っ赤に染まっている。白い肌が残っているのは、手のひらと爪先ぐらいだ。


「髪の毛の先っちょも、まだ白いや」


 なんてことを呑気に呟く。


「しかし、この硬っいのなんだろな〜? 紅瞳玉石(レッドアイアダマント)みたいだけど」


 赤い肌のところどころに、ルビーのようにキラキラとした硬い部分が、鱗のように浮き出ていた。


「ふ〜〜ん! 困ったな〜。とりあえず、霊魂状態が治らないのは、な〜ぜなんだぜ〜?」


 首を傾げた時、頭上で渦巻く混沌が「フアアア〜〜〜アァ……」とあくびのような声を上げた。


「なんだよ〜。暇を持て余しちゃうぜ〜、って感じ?」


 思わず苦笑しながらも、一人じゃないことに安心感を覚えていた。そしてまた、なんとなく、前へ前へと進んでいく。



 ────そうして、どれほどの時間が経っただろうか?



「……あれれ?」


 頭の中で、「ゴォ〜〜〜ン」と響き渡る低い鐘の音が聞こえた気がした。


 キョロキョロと辺りを見回してみる。


 すると、かすかな光を感じる場所があった。


「おおお? なんだろな〜?」


 凪早ハレヤに分かろうはずもない。ともかく今は悩んでいても仕方がないと、光の見える方へと泳いでいった。


 徐々に近づいていくと、それは白い靄の塊のようだった。さほど大きくはない。


「手のひらサイズ〜」


 言いながら、凪早ハレヤはその白い靄の塊を、そっと両手ですくい上げてみた。


 瞬間、頭上からサッと光が差し込んで、「ゴーンゴーン、カランカラン……」と、教会の鐘のような音が鳴り響いた。


「およよ?」


 見上げると、白い雲から、幾筋もの光が差し込んでいた。暗闇の支配する空間に、凪早ハレヤの周囲だけが、スポットライトのように照らし出されていた。


「我が使徒たる少年よ────」


 年老いた男のような声が、頭上の雲の間からジワッと響いてくる。荘厳な趣だが、どこか優しい響きに満ち溢れている。


「そなたの霊魂は、紅瞳玉石(レッドアイアダマント)(けが)されておる。汝をこのまま外界へ出すわけにも行くまいて────」


「えええ、どういうこと〜?」


「まあ、そういうことじゃ────」


「答えになってないじゃ〜ん」


 肩をすくめる凪早ハレヤに、声の主が「フフフ」と笑った。


「元の世界に、戻りたいようじゃな────」


「そりゃあもう、当然でしょ! だって、魔人と戦ってる最中だよ?」


「ほう────?」


 老人の声が尋ね返してきた時、周囲の暗闇にフワフワと映像が浮かび上がってきた。


 どこかの、板の間のようだった。そこに、人が集まっている。その人の集まりの真ん中に、二つの身体が横たえられていた。


「おおお、俺だ! その横は……竜になった紅梨沙理(グリサリ)さんだね!」


 よく見れば、周りの人々は、見慣れた顔ぶれだった。


空風円(アフマド)さんに霧冷陽(ムサビ)さん! 胤泥螺(インディラ)さんと髻華羽(ウズハ)もいる! 真茱鈴(マジュリン)流那鈴(ルナリン)の横の生首は……午羅雲(ゴラクモ)さん!? サンリッドさんとスクワイアーさん、それにミュリエルさんも! 車椅子の人は……もしかして空理布(アリフ)さん? ちゃんと十痣鬼(とあざおに)から解放されたのかな〜? みんな、包帯だらけだけど、もう戦いは終わった、ってこと?」


「あの者たちは、そなたのことを大切に思っているようじゃ────」


「んああ、そうだろね〜。えへへ、参ったな〜、人気者になっちゃったんだよね」


 頭を掻く凪早ハレヤの目に、蔦壁(つたかべ)ロココの姿が飛び込んできた。凪早ハレヤの頭を膝に乗せ、優しくおでこを撫でている。


「おおお、蔦壁の膝枕だ!……って、蔦壁……泣いてるの?」


 凪早ハレヤの心の奥が、チクリと痛む。


 ジッと見つめるうち、やがて映像がゆっくりと遠のいていく。


「もうちょっと見せてくれてもよくない?」


 チラッと頭上を見上げる凪早ハレヤに、声の主がゆっくりと答えた。


「そうもいかぬ。そろそろ、少年の処遇を決めねばな────」


「そうなんだ?」


「今のままでは、少年は、このまま闇に飲まれるじゃろう────」


「ええええ、マジで? ヤバイじゃん」


「よく聞き、よく考えよ。そして、どうするかは、少年が決めるが良いぞ────」


 老人の声がひとつ咳払いすると、頭上から差し込む光がゆっくりと弱まった。



「ひとつは、(けが)れた霊魂をこのまま闇に浄化すること────

  つまり、死という名の解放じゃ────


 もうひとつは、我らがアークに加わること────

  つまり、生という名の束縛じゃの────


 よ〜くよ〜く、考えるが良いぞ────」


「えええ!? その二つだけ? じゃあもう、決まってるじゃん」


 そう言ったあとで、凪早ハレヤは首を傾げた。


「でもさ、アークって何?」


「ふふふふ……じっくり考え、答えを出すのじゃ────」


「あ〜、教えてくれないってことね。いっじわるぅ〜」


 ボヤく凪早ハレヤの頭上で、混沌がまたあくびをした。

 周囲に、再び映像が浮かび上がる。竜の姿のまま、身動ぎをしない紅梨沙理。そして……。


「『……凪早くん、いやだよ……せっかく落ち着ける場所になったのに……』」


 つと、蔦壁ロココの声が聞こえた気がした。凪早ハレヤは、「ほうっ」と一つ息を吐き出した。


「そういえば、絶対に戻ってくるって約束してたっけ……」


 クイッと視線を上げて、光射す方を仰ぎ見る。


「決意は変わらぬようじゃな────」


「うん、そうみたいだね。俺は────アークに加わるよ!」


 ビッと親指を立てて言い放つ。頭上から差し込む光が、緩やかにその頬を撫で上げた。


「良い判断じゃ……だが少年よ、アークに加わるには、ひとつ条件がある────」


「えええっ、なになに?」


「そなたがアークに加わるということは即ち、新しき法則が一つ生まれるということじゃ────」


「……んああ〜?」


「そなたにはすでにその資格がある。胸の内に秘めたる新しき法則を唱えるがよいぞ────」


「そんなの、あったっけ〜?」


 突然の話に、凪早ハレヤは身体ごと首を傾げるしか無かった。


「では今一度、問おう、少年よ────

 我らがアークに加わるや否や────」


「ええっと! 束縛されても仕方ないや! 俺はアークに加わり、生きて帰る!!」


 ゴーンゴーンと響く鐘の音。


「新たなアークの下僕(しもべ)よ、そなたが司る新しき法則を唱えるがよい────」


「ええっと……」


 考えを巡らせる凪早ハレヤの目に、竜の姿の紅梨沙理(グリサリ)がフワリと映る。


「『奪還器(リヴァーサー)』で鬼獣や鬼人を元に戻せるようにする!!!」


 頭上で黒い渦が渦巻いて、金切り声のような嬌声をあげる。

 「ゴーンゴーンゴーン」と鐘が鳴り響いたあと、フッと周囲が闇に閉ざされた。


「……少年よ、どうやらそれは受け入れられぬようじゃ。すでに存在するアークに、不具合が生じるとな────」


「えええ!? ダメってこと〜?」


「そういうことじゃ……。じゃが、ひとつだけ提案を良いかな────?」


「なになに?」


「『奪われし霊魂は、「奪還器(リヴァーサー)」により、アークに属する』ではどうであろう────?」


「えーっと……それって……」


「結果的には、そなたが思い描いている事と同じ現象となろう────」


「あっはは〜、そういうこと? だったらお安いご用じゃん! サンキュー!」


「では、今一度……

 新たなアークの下僕(しもべ)よ、そなたが司る新しき法則を唱えるがよい────」


「────奪われし霊魂は、『奪還器(リヴァーサー)』により、アークに属する!!」


 凪早ハレヤが高らかに宣言すると、頭上の混沌が「ホア~~~ファアアァァァァ~~~」と喜びに満ちた声を上げた。周囲は真っ白に光に満ち溢れ、「カランコロンカラン」と華やかな鐘の音が湧き上がる。


 やがて頭上で歓喜の歌を奏でる黒い渦が、スイッと蠢いて、凪早ハレヤの背中に取り付いた。瞬間、バサリと音を立てて、黒い渦は大きな白翼へと姿を変えた。

 身体のあちこちに浮き出ていた紅瞳玉石(レッドアイアドマンと)の鱗が、すうっと凪早ハレヤの体の中へと沈み込んでいく。すると真っ赤に染まっていた肌も、見る見るうちに白さを取り戻していった。


 凪早ハレヤが真っ白な身体を取り戻したその時、白い雲の間から、白く輝く天使の輪がゆっくりと、凪早ハレヤの頭の上に降りてきた。


「えええ!? な、なにこれ!? なんだか天使みたいなんですけど!」


「我らがアークに新たな機能が加わった。少年よ、末永く、そなたの見出した法則とともに歩むがよいぞ────」


 声が徐々に遠ざかる。


「ちょ、ちょっと待って! こ、こんなカッコじゃ家に戻れないよ! 妹に失笑されちゃうし、学校にも行けないじゃん!!」


 慌てた様子の凪早ハレヤに、笑い声が上がる。


「右手の紋様により、必要なときは、仮の姿となるがよいぞ────」


 見ると、右手の甲から手首にかけて、青い十字架の紋様が浮かび上がっていた。

 それをタップすると、瞬時に白い翼と天使の輪が消えた。


「おおお! サンキュー! 異世界ウォーカーのステータススクリーンみたいだね!」


 ビッと親指を立てる凪早ハレヤを、ゆっくりと、暗い世界が飲み込んでいった────。





……ハレヤが天使に?

いやいやいやwwwおかしいってwwwwwwww

何かの冗談でしょ?w

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