【46】もしかして!
「……とりあえず試しちゃう? 紅梨沙理さんが持ってた『吸血器』が、地下牢に戻ればあるはずだよね〜?」
凪早ハレヤの言葉に、蔦壁ロココとミュリエルがチラリと視線を交わした。
「おおお? なになに? なんで二人で目配せしてんの?」
二人の顔を見比べる凪早ハレヤに、ミュリエルはツンと澄まし顔をして紅茶をすすり、蔦壁ロココは困ったように眉を潜めた。
「……実はね、ここに持ってきてるの」
「えええっ? ここに持ってきたって……『吸血器』を?」
「うん」
「なんでまた〜?」
「『吸血器』には、それを呼び出した主である悪魔の情報が内包されておりますのよ」
「それを調べれば、討伐のための対策も練りやすいかな、と思って」
「おおおお、そうなのか! さっすが我が麗しの黒髪姫!」
「昨夜、ハレヤが寝てる間に、その事も調べていましたの」
「あっはは〜、ごめんごめんご。で、弱点とか分かったの?」
「弱点、ってほどではないけど、話に聞いていた通り、炎系の魔術を得意とする悪魔みたい」
「雷、水、氷の精霊魔術で対抗するのが良さそう、というわけですわ」
「そっかそっか! じゃあちょうどいいね!」
凪早ハレヤはグッと拳を握ると、力強い眼差しで蔦壁ロココを見据えた。
「蔦壁とミュリエルさんの二人がいれば、魔人が現れてもなんとかなるってことだよね? だったらやっぱり今すぐここで、『吸血器』を俺にぶっ刺して、魔人の『紅瞳玉石』の抜き取りを試してみない?」
元気よく言い放つ凪早ハレヤに対して、蔦壁ロココとミュリエルの表情は固かった。
「悪魔と『吸血器』の存在する異世界が違いますから、『吸血器』を刺しても悪魔の『念芯』には接続できない可能性がありますわ」
「えええ、そうなの?」
「仮に『念芯』に接続できたとしても、失敗すれば霊魂を丸ごと抜き取られちゃうから……霊魂状態になる方法と、『紅瞳玉石』を抜き出す方法がわからないのはやっぱり危険。今はまだ、やらない方がいいと思う」
「先程も申し上げましたけれど、悪魔の甘言にそそのかされる輩ですもの。自業自得と割り切って、悪魔を倒してしまう方がリスクも少なくて簡単ですわ」
「ええええ、それはそうだけどさ〜〜」
凪早ハレヤはテーブルに頬杖をつくと、プックリと頬を膨らませた。
「空理布さんや紅梨沙理さん、それに周辺国の偉い人達をこのまま見殺しにしちゃったら、混乱が残るだけでホントの意味でのバグ修復になんないって昨日も言ってたじゃ〜〜ん」
そう言って不満気に、蔦壁ロココの灰色の瞳を伺う。
「ねえ、凪早くん」
「んああ? なに〜?」
「凪早くんは、『吸血器』で刺された時、どういう状態になったか覚えてない? さっき、身体が勝手に動いた、って言ってたけど」
「俺が刺された時……んああ……」
凪早ハレヤはその時の出来事に思いを巡らせた。
「そういえば、『あ、死んだ』と思ったわりに、意識がやけにはっきりしてたっけ。身体はいうこと利かないんだけど、周りの景色とかはっきり見えてたよ。それで……
あああああああああああああああっっ!!!!」
ガタン、と音を立てて椅子から立ち上がる。
「まーた、そんな大声を……今度はなんですの?」
「赤い宝玉! 真っ白な空間で、真っ白な人がいっぱいいて、赤い宝玉が飛び回ってた!!!」
叫ぶ凪早ハレヤに、蔦壁ロココもミュリエルも、顔をしかめただけだった。
◆
「……つまりハレヤは、霊魂状態になって悪魔の『念芯』の中に吸い込まれていた、と言いたいわけですのね?」
「だってそうとしか思えないじゃん!」
二人に説明し終えてなお、興奮冷めやらぬといった様子の凪早ハレヤだが、ミュリエルはドライな態度を崩さなかった。その横で、蔦壁ロココは視線を落とし、顎に手を当てて思案げだ。
「黄緑色の丸い光……それって、バグ玉みたいだよね」
「そうそう!」
「その回りを一回り大きな球形の鉄格子が囲んでいた」
「うん!」
「……それって、バグ玉制御かも」
「そうだ、それだああああああああ! さっすが我が麗しの黒髪姫!」
「では、突進してきた赤い宝玉を弾き飛ばしたという青白い電撃はなんですの?」
「ええと……」
ミュリエルからの鋭い指摘に、凪早ハレヤが頭を掻く。
「あの時、わたしがマスター権限を発動してたの」
蔦壁ロココが視線を上げて、ミュリエルを見る。
「マスター権限を? ハレヤの身体をロココちゃんが操ろうとしたわけですの?」
「うん。悪魔に操られて、フルバレットブーストを撃とうとしたから、それを止めようと思って」
「そうだよ、それだそれだそれだあああ!! 全部、キレイに話が繋がるじゃん!」
ミュリエルは「フン」と鼻息をつくと、目を閉じて腕組みをした。
「すべてはハレヤの証言に基いての推測にすぎませんわ。その記憶が万が一、悪魔の罠だったら……」
ミュリエルの言葉に、勢いづいていた凪早ハレヤも冷水を浴びせられたように肩を落とした。ゆっくりと腰を下ろすと、ポリポリと頭を掻いた。
「悪魔の罠、か……そんな可能性もあるかもしれないね〜」
「仮に、ハレヤの記憶が正しいものだったとして、どうやって『紅瞳玉石』を捕獲し、抜き出すおつもりですの?」
「んああ……あ〜〜……そだね」
ミュリエルはそっとこめかみに手を当てると、ゆっくりと首を横に振った。
「ロココちゃん、今のままではあたしはその作戦に賛同することなど到底できませんわ。もう少し考える時間をいただかないと」
「うん……」
頷く蔦壁ロココだが、その表情はどこか腑に落ちない様子だった。
「何か気になることでもありますの?」
しばらく考えを巡らせた後、蔦壁ロココは顔を上げてミュリエルを見つめた。
「マスター権限を発動した時に凪早くんが霊魂状態になるかどうか、今、試してみたいの」
蔦壁ロココの言葉に凪早ハレヤは「おおお」と声をあげ、ミュリエルは「ふむ〜〜」と口をへの字に曲げて視線を逸らした。
さて、どういう結果になるでしょうね?




