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浮遊力に取り憑かれたら何かと捗った  作者: みきもり拾二
◆第三章 最強従者に、俺はなる!
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【42】目覚め

 凪早(なぎはや)ハレヤは満面の笑みを浮かべて、飲めや歌えの大宴会の中にいた。


 大広間の上座に設けられた豪奢(ごうしゃ)な玉座に、どっかりと腰をかけている。


 次々と出される料理を頬張りながら、誰もが酒に酔いしれていた。そして単眼の巨人を一撃の下に葬り去った凪早ハレヤの活躍を、口々に褒め称えている。

 各国の王侯貴族が凪早ハレヤの前に進み出ては頭を下げ、その土地その土地の特産品を捧げていく。


「サンキュー。いいよいいね〜、苦しゅうないぞ〜」


 食べまくるうち、凪早ハレヤのお腹はパンパンに膨れていた。それでも空腹感が満たされない。


「もっと持ってこおおおおおおおおおおい!」


 大声を上げる凪早ハレヤに、周囲の者たちが笑い声を上げた。


 そんな凪早ハレヤを、半裸の女たちが取り囲んでいる。頬や胸、腕や足を、優しく愛撫するように撫で回している。

 たわわな胸を押し付けては、熱い吐息を吹きかける。うなじを舐め上げ、太ももの内側まで念入りに撫でつけてくる。


彌吼雷(ミクライ)さま、そろそろわたくしの寝屋に……」

「ダメ……あたしのお床へきていただくなのです」

「ここでも構わないの……見られるの、好きだから……」


 熱い吐息を耳たぶに吹きかけながら、妖艶に囁きかける女たち。


「えっへっへっ、身体がいくつあっても足りないよ〜〜」


 その様子を、部屋の隅で見守る目があった。炎のように赤く燃える目だ。

 ほくそ笑むようにして、凪早ハレヤを見守っている。


「お前、そんなとこに隠れてないで出てこいよ〜」


 いつもの明るい調子で呼びかける。しかし、影に隠れるようにして、目の主は動かない。耳障りな忍び笑いを漏らすだけだ。


「出てこいって言ってるだろ〜、俺の言うこと聞けないの?」


 イライラを募らせる凪早ハレヤをなだめるように、半裸の女たちが盃に酒をつぐ。

 凪早ハレヤは目の主が隠れる部屋の隅をチラチラと横目で見るが、沸き上がってくる感情が抑えきれそうにない。


「(どうしてみんな、こんなに笑っていられるのかな? あの忌々しい目に、飼われてるみたいな気分なのにさ〜)」


 そんなことを思う凪早ハレヤの前に、いつの間にか真っ黒なフード付きのローブを纏った少女が一人、進み出ていた。


「どこの国の人?」


 少女は手にした錫杖をシャランと鳴らし、そっとフードの影から凪早ハレヤを見上げた。


「わたしには、あなたが必要なの────」


 そっと差し伸べられた細くて白い手に、凪早ハレヤの全身がゾワゾワと総毛立った。たった一言で、凪早ハレヤの脳裏にすべてが蘇ってくる。


「おっとっと、いっけね。バカ騒ぎはもう終わり! かいさーーーん!!」


 凪早ハレヤは立ち上がると、手にしていた肉と酒を投げ捨てた。

 途端に周囲が真っ暗になる。


 赤く燃える目は苦々しげに眉間に皺を寄せると、黒い靄を渦巻いて、フワッと暗闇に霧散した。



 ◆



「凪早くん?」

「おわ〜〜〜ぁふっ、よく寝た!」

「まあ、何ですの? はしたない大あくびですこと」

「よかった……」


 安堵のこもった声でそう呟くと、蔦壁(つたかべ)ロココはぎゅっと凪早(なぎはや)ハレヤの手を握りしめて頬を寄せた。

 ふわっと心地よい温かな感触に、ジワッと熱い何かが広がる。


「んああ?……蔦壁、もしかして泣いてる?」


 凪早ハレヤの手の甲に頬を寄せていた蔦壁ロココがそっと顔を上げる。照れたように小さく微笑むと、目から溢れ出る涙をそっと指先で拭った。


「えへへ……安心したら、なんだか急に」

「……そっか、ごめんね。また蔦壁に心配かけちゃった」

「ううん、いいの」


 小さくフルフルと首を横に振ると、蔦壁ロココはニッコリ微笑んだ。


 その後ろで、不満気な表情を浮かべてミュエルが仁王立ちしていた。抱きしめるクマのぬいぐるみも、凪早ハレヤを睨みつけているようだった。


 どうやら、ミュリエルのベッドの上に寝かされているらしい。可愛いフリルがいっぱい付いた枕と掛け布団、それに天蓋が目についた。


「まったく。あたしのロココちゃんを心配させるだなんて……! 従者(アシスタント)としてあるまじき行為ですわよ」

「あっはは〜、ごめんごめん。後ろに目がついてれば気づい……」


 言いかけた凪早ハレヤが、急に訝しげな表情になる。


「ああああああっ!? そういえば!!!」


 突然、何かを思い出したかのように大声をあげると、凪早ハレヤはガバっと身を起こした。


「急に何ですの?」

「俺たち、戦闘の途中じゃなかった!? なんでミュリエルさんのところにいるわけ?」

「心優しいロココちゃんが、出来損ないの従者(アシスタント)のために、混沌創(こんとんそう)を癒やしにここまで連れてきてくださったに違いないでしょう?」

「で、ででで、でもだって! 戦闘の途中だよ? ま、まさか、負けたの俺たち!?」


 あまり見せたことのない凪早ハレヤの必死な様子に、蔦壁ロココは「大丈夫だから」と優しく諭すように声をかけ、ポンポンと肩を優しく叩いた。


「一時離脱……ううん、戦略的転身をしただけ。ちゃんと戦闘中のあの場所に戻れるから、安心して」

「ちゃんと戻れる……ほ、ホントに?」

「アナタ、ロココちゃんを疑っておりますの?」

「い、いや、そんなわけじゃないけどさ……ど、どうするのか全然わかんないし!」


 まったく落ち着かない様子の凪早ハレヤに、ミュリエルがさも楽しげにニヤッとする。抱きしめられたクマのぬいぐるみも、笑いをこらえているかのようだ。


髻華羽(ウズハ)さんに、また召喚ゲートを呼び出すようにお願いしておいたの。その反応はちゃんと出てたから、大丈夫」

「そ、そうなんだ?……でも、だったら、すぐにでも戻らないとダメなんじゃ?」

「ううん。その前に、凪早くんのレベルアップとか武器やスキルのパワーアップとか、いろいろ準備をしたいの」

「じゅ、準備って……そんな悠長にしてる場合じゃなくない?」


 目をきょときょとさせる凪早ハレヤに、ミュリエルは得意気に「フンッ」と鼻息をついて、腰に手を当てた。片腕に引っ掛けられたクマのぬいぐるみも、勝ち誇ったようにキリリとしている。


「んふふ。これこそあたしたち異世界ウォーカーが、悪魔を封殺できる優位点なのですわよ」


 頷く蔦壁ロココと、誇らしげなミュリエルの顔を見比べながら、凪早ハレヤは呆けるしか無かった。






目が覚めたラミュリエルさんの部屋~、ってポカーンですわ。

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