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優勝したら賞品はお姫様でした  作者: 熊煮
第一章:いきなり妻と言われても!
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9.新婚初夜

 なんでこんなに落ち着かないんだろう。とシリアは自分の胸に手を置いてじっくりと考えてみた。


 しかし、返ってくるのは早鐘を鳴らす心臓の音だけ。


「ううううぅ……」


 低く唸りながらもその主な原因である豪華なベッドに目を向けた。造りは立派であり、マットレスもその上から掛けられる布団も間違いなく新品で、最高の寝心地を提供するためにシリアを待ち構えている。


「ううぅ」


 残念ながらいくら呻いたところでその状況は何も変わらない。そして同じベッドに寝ることになるはずのルナは、今は部屋にいなかった。


「お風呂に入きましょうか」


 夕食を終えてからしばらくして、ルナはそう言うとシリアを入浴に誘った。そこでシリアは、昼にのぼせるほど入ったからと笑って断ったが、その真実は一緒に入る勇気がなかったからだ。そういう面では妙にへたれる彼女であった。


 ルナはそうですか、と少し寂しそうな表情を作り、シリアに多大な罪悪感を覚えさせながらも浴場に向かった。


 そして、今は待ちの時間である。


「ルナにあんな顔させるし、待つのは待つので辛いし……行けばよかった」


 後悔先に立たず、シリアは誰もいないことを良いことに、どうしようもないその気持ちをソファーにぶつけるように倒れ込む。そして、そのまま天井を向く様に寝そべった。


「眩しいなぁ」


 シャンデリアの輝きに目を眩ませられたシリアは、さっきのルナと同様に手を掲げてギュッと力を込めてみた。


「消えろー、消えろー」


 当たり前だが、部屋は明るいまま変わることはなかった。


 そんな風に現実逃避を楽しんでいた彼女であったが、運命の時間は確実にやってくる。


「ただいま戻りましたー、って何やってるんですか?」


 手をシャンデリアに向けた姿勢のまま固まっているシリアに、浴場から帰ってきたルナは怪訝な表情で声を掛ける。


 シリアはその掲げた手を振ってお帰りと返事をした。


「お疲れですよね、昼寝しちゃいましたけど今日はもうベッドに入りましょうか」


 きたっ、とシリアは思った。思うだけで何かするわけではない。


「そ、ソウダネ」


 結局、棒読みに返事をしてシリアはソファーから身を起こした。そしてその瞬間、ふと思った。思いついた。


(あれ?私、このソファーで寝ればいいんじゃない?)


 上質なソファーは寝転がる分に全く問題はない。シリア一人なら余裕だ。彼女は天啓を閃いたような気持ちでルナに提案をする。


「あのさ、ルナ!私今日はこのソ」


「だめですよ?」


「ファへ?」


 だが、言い切る前に切り落とされた。ルナは満面の笑みでシリアを見ていた。


「一緒に、寝るんですよ?」


「は、はひ……」


 有無を言わさない何故か迫力を感じる笑顔にシリアは尻ごみして頷かざるを得なかった。ルナはそんな彼女を見て呆れたようにため息をつく。


「もう、一緒にって約束したじゃないですか」


「そ、そうだけど。いざその時になると、何か緊張しちゃって」


「そんな緊張するものでしょうか……?」


 するよ!とシリアは心の中だけで叫ぶ。そもそも知り合ったその日に寝床を同じにすること事態普通じゃない。


 それも相手はルナという美少女だ。さらにいえばシリアにとって嫁である。意識すればするほど萎縮は重なっていく。


(別に何もするつもりはないけど……)


 シリアも15歳、年頃の少女だ。婚姻を結んだもの同士がすることを知らないわけではない。


 殆ど男性に囲まれる環境下で生きてきた彼女は当然ながら、その連中が好んでいる厭らしい話が嫌でも耳に入ってきたし、中にはまだ年端もいかないシリアに迫ってきた男もいる。


 勿論それは返り討ちにしたが、そういうわけでシリアは割と深いところまでそういう大人の知識を持っていた。実践経験は一もないが。


(何でこんなに緊張してるの……)


 果たして無事に眠ることは出来るのか。シリアの戦いが始まろうとしていた。




「さ、どうぞ」


 先にベッドに入ったルナは掛けられた布団の半分を捲り、シリアを誘った。


「お、お邪魔、します……」


 これ以上ごね続けて時間稼ぎをする意味はない。そう悟ったシリアは遂に観念して覚悟を決めた。


 シリアは片膝をベッドに乗せる。柔らかいベッドがその重みで沈み込む。きっと身体を投げ入れれば包み込む様な幸福感が待っているだろう。


 だが、ルナがいる。よくよく確認していなかったが、彼女は入浴後に寝る用の服装に着替えていた。


「どうしたんですか?」


 それは薄い桃色のネグリジェ。シリアよりは年下でまだ子供の年齢だというはずなのに、お風呂に入ったせいかほんのりと赤い顔、それに艶のある金髪が加わり、一気に官能の香りを溢れ出していた。


 シリアの目線からそう見えているだけの可能性もあったが。


「昼寝しちゃいましたから、すぐ寝れるでしょうか」


「ね、寝れるよ、うん」


 片膝を乗せた状態から、身体全体をベッドの上に移動させるとそのままゆっくりと横になった。


「うあ、凄い……」


 シリアを包み込むようにベッドはゆっくりと身体に合わせ沈む。こんな柔らかいベッドがこの世にあることを彼女は知らなかった。


「ふあ、ああ」


 隣でルナは口を覆いながら欠伸をしていた。やはり疲れていたのだろうかその目は少し眠たげだ。


「今日は疲れたね……」


「そうですね……色々、ありましたから」


 シリアはベッドに入るまで石のように固くなっていたが、いざそうなってしまえばベッドは最高級だし、何か良い匂いもするし、それに眠気まで相まってその緊張感は無くなっていた。


「シリア」


「ん……どうしたの?」


 ゴソゴソとルナはゆっくりとシリアの方に身体を向ける。元々枕が隣り合っていたぐらい近かったので、そうするだけでもかなりの至近距離になる。


「その、今日のこと……ちゃんとお礼をしてなかったと思いまして」


 シリアは身体を横に向けて申し訳なさそうにしているルナに微笑んだ。


「お礼なんていいよ。だって私達夫婦なんでしょ?だったら助け合うのは当然だよ」


「ですが……」


「それにあの場に乱入して場を荒らしたんだから、どちらかといえば私が謝らないといけないんじゃないかな」


「そ、そんなことないです!」


 ベッドに寝たまま、ルナはそう言うとシリアに抱き着く様に迫った。


「る、ルナ?」


 ぎゅっと抱き着く様に詰め寄られて流石にシリアは慌てる。ルナの少女特有の柔らかく温かい感触が伝わり、顔が僅かに熱を持つのを感じた。


「嬉しかったんです。シリアの都合も考えずに婚姻を結ぶという話を無理矢理決めたのに、あの場に駆けつけてくれたことが」


 ルナはそのままシリアの胸に顔をゆっくりと埋める。


「シリアに聞きたいことがあるんです」


「え?」


 唐突にそう聞かれシリアは呆気に取られたが、ルナは間髪いれずにとんでもないことを聞いた。


「シリアは……女の子が好きですか?」


「ぶっ!?」


 何を言うのかと思っていたシリアは、予想外過ぎるその質問に思わず驚愕し勢いよく噴き出した。


「なな、なにをっ!?」


 慌てて密着しているルナを引き離そうとしたがベッドに寝そべっている状態では上手く動けなく、距離も開かない。


「私、一ヶ月の間だけでも婚姻を結びましょうって言いましたよね」


「そ、そうだね。それが、何か?」


「そのことについて、というより今回の婚姻から全てのことについてシリアには何か引っかかっているんでしょう?」


「それは、まぁ……でも、話したくないことなら別に──」


 それこそダブルベッド騒動の時に、ルナは一ヶ月の間だけ何も言わずに信じて欲しいということを言った。やはり何かの意を含んでいるということなのだろうが、それは今は何も話せないということも示している。


 シリアはそれを無理矢理聞こうとは思わない。こちらも一ヶ月間は贅沢の極みをさせて貰うという野望もある。


 しかし、ルナはそれでは気が収まらないというのだ。


「私だってまだ子供ですが、その……そういうのを知らないわけではありません」


「ちょ、ちょっと、ルナ?」


「だから、シリアが望むなら私何でも──」


「わああああっ、ストップ、ストップ!」


 本当は恥ずかしいに違いない。ルナは顔を真っ赤にしながら着ていたネグリジェの胸元に手を掛け、そのまま一思いに脱ごうとした。そしてそれを今までにないほど慌てながらシリアは止めていた。


「だ、大丈夫だから!そんな身体でどうこうとかしなくていいから!」


「で、ですが……」


「ね、お願いだから。お願いだから落ち着いて……」


「……す、すいません」


 シリアの必死の懇願で、頭が少し冷静になったのか、ルナはさらに顔を赤くすると恥ずかしそうに少し乱れた衣服を正した。


「いつか話してくれればいいからさ、それまではゆっくり仲良くなっていこうよ。もう夫婦だけどさ」


 そう言って笑うシリアにルナは一瞬キョトンとしたが、すぐに破顔一笑した。


「シリア、私貴女に会えて本当に良かったです、本当に」


 ルナはそう言うと先程とは違い、ゆっくりとシリアの胸元に丸まる様な姿勢で密着した。


 シリアに妹はいない。でも、もしもいるとしたらこんな感じだろうかとその小さな背中に彼女はゆっくりとあやす様に手を置いた。


 ルナはその感触に一瞬ピクリと震え身体を少しだけ硬くしたが、しばらくして慣れたのかその力を抜いてシリアの手を享受していた。


 そして甘えるような寝惚け声でボソッと呟いた。


「なんだか、お母様と寝ていた時のことを思い出します……」


「そっか……って、ん?」


 そういえば、と思う。今日、この王城ではルナの父であるジエンと兄であるカエンとしか会っていない。そういえば母という人物には会っていないはずだ。


「え、ルナのお母さんって……ルナ?」


「すぅ、すぅ……」


 シリアの腕の中から静かな寝息が聞こえてくる。ルナは心地よさそうにあっさりと夢の世界に旅立っていた。


「まだまだ、知らないことばっかり、か」


 ルナとは今日一日で随分と親密になったと思っていたシリアだったが、まだ何も知らないことを実感した。


「まぁ、でも、それは明日から……でもいいか……」


 一つずつ知っていけばいい。ルナの事も、この国の事も。そしてこの一ヶ月をルナの為に捧げればいい。


 そう思ってシリアもゆっくりと目を閉じた。彼女らの部屋に静かな寝息が一つ増えるのはすぐだった。




 シリアとルナの運命を変える一ヶ月間が今日、始まった。

ブックマークや感想、評価本当にありがとうございます!


私事ですが、仕事が忙しいため次の掲載は明後日の6月4日になります。

すみませんが、よろしくお願いいたします。

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