1.朝とお勉強
二章になります。ルナとシリアの一ヶ月間になります。
どうぞ、お付き合い頂ければありがたいです。
鳥の綺麗な囀りにシリアは穏やかに目を覚ました。最高級のベッドはその名に恥じず彼女に最高の快眠をもたらしたようである。
「ふあ、ああっ……!」
ベッドから身を起こして大きく身体を伸ばすと、縮んだ身体が解放されるように伸び、その気持ちよさにシリアは声を上げる。
「ん、う……」
そしてシリアの声と動きが伝わったのか、隣で寝ていたルナはゆっくりと目を開けるとむくりと起き上がった。
「ん、あ、おはよう、ございます……」
寝惚け眼を軽く擦りながらルナはふらふらと曖昧に挨拶をする。それにシリアも挨拶を返して、二人は二日目の朝を迎えた。
「よく、眠れましたか……?」
「うん、こんなに良く眠れたのは初めてかも」
「そうですか……それは、よかったです。ふわ、あ」
ルナはとても眠そうだった。意外と朝は弱いのだろうかと、シリアはうつらうつらと頭を揺らしている彼女を不思議な思いで見ていた。
「うー……」
「うわ、っと」
そのまま揺れていたルナは、ゆっくりと倒れる塔のように身体を傾けると、シリアの大腿付近に沈み込んだ。
そして、それを枕にしてしまったのか再び静かになってしまう。
「ルナ、起きないと……」
「もうちょっと、このまま……」
既に太陽は朝を伝える位置に昇っている。
困ったなぁ、とシリアは思いながらも、その反面気持ちよさそうに寝ているルナを可愛らしくも思い、眠りを誘発するような感じで頭を軽く撫でていた。サラサラの金髪を指の間に滑らすと気持ちが良い。
心地よく寝ている彼女を無理矢理起こす理由もない。しばらくはこのままでいいかな。とシリアが思ったそのタイミングでちょうどよく部屋にノックの音が聞こえた。
「おはようございます。ユーベルです。もう起きていらっしゃいますか?」
その声は執事長兼メイドのユーベルであった。シリアは声を出して返事をしようとしたが、それだとルナを起こすことになると気づき、どうしようかと迷っていた。
「失礼します」
「あ……」
すると、ユーベルは音を立てず静かに部屋に入ってきた。寝ていれば声を掛けるつもりだったのだろうか、ベッドの上で身を起こしているシリアを見て少しだけ驚いたようだった。
「おや、起きてらっしゃいましたか。朝食の準備が出来ましたので呼びに参ったのですが」
彼女は水差しを入れ替えると、ベッドに近づきシリアを枕に寝ているルナを揺り動かした。
「お嬢様、朝ですよ」
「ん、んん……」
「ほら、起きてください」
ユーベルは意外と容赦がない。ルナのお世話人でもあった彼女は、そう言う面では厳しい所を見せるらしい。
「ん、あ、ユーベル……?なんで……?」
「朝食の用意が出来たので起こしに来たんです。シリア様も困っていますからそろそろ起きてください」
「シリア……?」
ルナはその名前を聞いて初めてピクリと反応すると、その顔をゆっくり上げた。
そして、下から見上げるようにシリアと目を合わす。
「…………」
そして、自分が彼女を枕にしていたことを徐々に悟ったのか、恥ずかしいという感情が湧くと同時に少しずつその顔に赤みがさしていく。
「あ、えっと、おはよう」
一応、先程と同じように挨拶をしたシリアに対して、ルナは恥ずかしさから顔を伏せて、蚊の鳴く様な声で「おはようございます……」と返してきた。
「さ、水差しは変えましたから、準備が出来たら食堂に来てくださいね」
ユーベルはさっぱりとそう告げると、一度頭を下げて部屋から退出していった。
そして、その部屋は再び彼女らだけになる。
「起きよっか」
「そ、そうですね。あの、す、すいません。私、寝起き少し悪くって、えっと……」
「あ、いや、いいよ。それどころか年相応らしくてちょっと安心したかも」
「……シリアは少し意地悪ですね」
そう言って見上げながら頬を膨らますルナであったが、その姿もまた、年相応で可愛らしいものだった。
*****
「いただきます」
「いただきます!」
朝食を前にいたシリアのテンションは最高潮に達していた。
朝食の内容はパンにスクランブルエッグ、サラダにスープとシンプルであったが、その質は見た目だけでも最高だと判別できる物だった。
流石にルナやユーベルが傍にいるためにがっつくような作法は出来なかったが、それなりの勢いで食べていく。
それと比べるとルナはゆっくりと上品に口に運んでいた。その途中でユーベルに声を掛ける。
「では、お兄様とお父様はもう出たんですね?」
「はい。帰宅するのは夕方頃になるようです」
食堂に彼女らが到着した時、ジエンとカエンの姿はなかった。ルナがそのことを聞くと、彼らは既に朝食を済ませているということであった。
そして彼らは朝から出掛けていた。その行き先は昔から交流のある貴族の家らしく、何でも要件は『明日の調整』らしい。
それにシリアは疑問符を浮かべていたが、ルナは嬉しそうにしていた。
「じゃあ、今日はシリアとゆっくりできますね」
ルナはそう言って微笑むと、シリアも合わせるように微笑む。
しかし
「その件ですが、今日一日、シリア様には少しお勉強して頂きます」
「へっ?」
ユーベルの一言で、二人きりの時間はばっさりと切られてしまった。
*****
「お疲れ様でした。そろそろ昼食にしましょうか」
ユーベルはそう言うと教鞭を置いて、食事を用意すると言って部屋から出て行った。
書斎に連れてこられたシリアは午後までの数時間、ユーベルによる授業を受けていた。
その授業内容は歴史。ルナと婚姻を結んだ以上グリード家についても、そして勿論この国についても成り立ちから知る必要がある、というのはユーベルの言葉だ。
「大丈夫ですか?」
机に突っ伏しているシリアの頭から煙が出ていたため、心配そうにルナはそこを優しく撫でていた。彼女は参加する意味はなかったのだが、予定もなく暇だったので興味本位から授業を受けたのである。
時々、シリアが分かりづらかった部分を補足してくれたりと、それはある意味で第二の先生のような役目になったいたが。
「うぅ、でも必要なことなら学ぶよ。うん……」
頭を冷やすようにグラスに注がれた水を飲んだシリアは学んだことを思い出していた。
この国の名前がブレナークという名前で今まで存在してきたこと。今日までの何百年の間、グリード家の血筋の者が引き継いできたこと。
内乱や革命の火。他国との戦争、魔物との戦い。この国の歴史は簡単に語れるほど軽くはないということ。
「あんまり無理しないでくださいね。少しずつ知っていけばいいんですし」
「うん、ありがと」
ちょうど、そのタイミングでユーベルが帰ってきた。
「お待たせしました。今日は天気も良いので城の庭で食べましょうか。庭の方で準備するよう手配しておきましたので」
そう言って、彼女は外へシリアとルナを誘う。勿論拒む様な理由もないし、普段使わない分野に頭の体力を使ったため空腹であった彼女は勢いよく二つ返事でそれを了承した。
その様子に苦笑するルナと共にシリアは城の庭に向かっていく。そこで第二の授業を受けることになるとは知らずに。
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