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倒れた王

まだ、日が昇って間もない頃、セルビアは城の廊下を駆け抜けていた。

決して褒められた行為ではないが、今のセルビアはそんなことを気にも留めず、全速力と言っても過言ではない速度で磨かれた廊下を走り抜ける。

廊下を歩いていた他の人々は呆気に取られて、慌てて進路を譲り、それを見送った。


セルビアは扉を破る勢いで王の部屋に駆け込んだ。

後ろから制止する声も無視してセルビアは部屋を突っ切り、王の寝室へと入る。


息を荒くしたまま部屋に入ってきたセルビアに、最初に声をかけたのはレーナだった。

「セルビアさん」

「レーナ様。一体、何が…」

部屋にいるのはレーナとシーカー、銀髪銀目の真紅の制服を纏った壮年の男だけだ。


セルビアの目が本来の部屋を主を探し、彷徨う。その視線がある一点で止まった。



その部屋の主である王は、寝台で寝かせられていた。

苦しげに息を吐き、眉間に皺を寄せて鈍痛に耐えているかのようにも見える。

その様はまさに重病人以外の何物でもない。


「そんな…」

セルビアは寝台に近寄って枕元で跪いた。


「陛下…」

それだけ言い、セルビアは王の手を握り、頭を垂れる。

「どうして…。陛下…」

悲しげに呟かれた呟きは小さい。どこか途方に暮れたようにも感じられる声音だった。


その体勢のまま、セルビアはレーナに話しかけた。

「…レーナ様、陛下はいつ?」

「今朝です。朝に侍従が来た時には、もうこうなっていたと…」

「そう、ですか」

苦しげな王を見つめて、セルビアは唇を歪めた。


三日前に会った時は疲れも見えたが、それでも元気そうだったのに。

原因が分からない病には、どんな名医でも手が打てない。王の病状はまさにそれだ。




その時。

セルビアの体を悪寒が駆け抜けた。王に触れている手を伝って、目には見えない重い何かが全身に絡みついてくる。


慌てて手を離すと、その感覚はすぐに消えた。ほんの一瞬のはずなのに、まるで魔力を使いきった時のように体が震える。

まとわりつくような寒気を感じて、セルビアは思わず腕を摩った。


「セルビアさん?」

「あ…、はい」

後ろにいたレーナに声をかけられ、我に返ったセルビアは急いで立ち上がる。

セルビアがレーナの傍に寄った直後、廊下から騒がしい音が響いてきた。




「お父様!」

セルビアと同じように慌ただしく部屋に入ってきたのは、15、6に見える少女だった。


刺繍や飾り玉をふんだんに使った豪奢な衣装を着て、結い上げた黒髪に煌びやかな簪を挿している。

髪と同色の瞳は困惑で揺れており、その目が寝かせられている王と寝台の隣で立っている王子を見る。

少女は王ではなく王子の方へと駆け寄ると、涙目で話しかけた。


「お兄様!お父様が…!」

「サラ、落ち着いて。父上はお眠りになっているんだから静かにね」


レーナはそんな二人を見ながら、セルビアに小さく耳打ちした。

「あの子はサラ・ディア・ライトワイツ。私の妹です」


セルビアはそう言われて、レーナの異母姉妹を観察した。

顔立ちは極々普通で、母親似なことが窺えた。髪も目の色も王に似ておらず、正直、外見だけならシーカーと兄妹とは思えない。


その服装も金をつぎ込んだという感じを受ける、品性が感じられないものだった。

着飾った様子からは『王族らしい王族』という印象を受ける。

労働も荒事にも無縁の生活をし、裕福な暮らしを何の疑問も持たずに享受しているといったところだろう。



兄の胸でさめざめと泣いていたサラが、レーナを見て顔を歪めた。

その顔があまりにも醜悪だったので、セルビアがほとんど反射でレーナを庇おうとしたが、レーナはそれを押し止め、自分が前に出る。


「なぜ、あなたのような者がここにいるのです!?」

金切り声を発したサラを、レーナは窘める。

「サラ、少し声を落として…」

「あなたが指図しないで!」

病人の前で大声は出すものではない、という常識が欠けているとしか思えないほどの金切り声だ。



「サラ王女、どうかお静かに」

そんなサラを圧したのは、今まで静かに控えていた男だった。

じわりと押さえつけるような声でサラを静かにさせた男はレーナに目を向けた。


「伯父様、騒がしくして申し訳ありません」

「お気になさらず」



レーナの一言で、セルビアは男が誰なのかを悟った。


トマ・スワノーフ。

レーナの母の兄であり、国軍1番隊隊長。そして、国内屈指の力を持つ公爵家の現当主でもある。

60に近い年齢のはずだが、衰えなど微塵も感じさせない佇まいだ。

銀髪銀目の冷たい風貌と軍人特有の厳しく律された空気のせいで、どこか冷ややかな印象を受ける。



「セルビアさん、ここは外に出ましょう。そろそろ他の方々も来るかもしれませんし」

それが口実なのは、セルビアにも分かった。

相変わらず、サラはレーナを親の(かたき)のように睨みつけており、シーカーは落ち着きのない視線をあちこちに飛ばしている。父親が倒れて気が動転しているのだろう。


ここはレーナがいなくなった方が話が治まる。

セルビアもそう判断して、レーナと共に王の部屋を退出した。





「………よし」

レーナを塔まで送り届けたセルビアは、王の部屋が見える位置にまで移動していた。

少し距離はあるものの、王の部屋の窓は確認できる。


大きく深呼吸したセルビアは、周りに人がいないことを確かめて、朗々と呪を唱えた。


『魔を映す目は神に許されし者のみが持つ物。我はそれを許されし者なり。今ここに神の目を顕現させたまえ』

それは目には見えぬものを見る為の魔術。


セルビアの瞳の色がめぐるましく変わっていく。赤、青、黄、黒、白。

顔は苦痛で歪み、額には汗が浮かぶ。汗は顎を伝って流れ落ち、床に染みをつくった。

「ぐっ…!」

呻きがセルビアの口から漏れた。


セルビアの視界が大きく歪む。ぐにゃりと景色は曲がり、色は混じり合い、混沌の様相を呈する。

王の部屋の窓をセルビアの目が捉えた。



何かが空から下りてきて、王の部屋に窓から入り込んでいる。

それは黒い紐のように見えた。黒い何かは王の部屋を覆いつくすかのように広がっている。

その正体を見極めようと注視したセルビアに、猛烈な痛みが襲いかかった。


頭に釘が何本も打たれ、全身を切り刻まれる。絶叫を上げたくなるほどの痛みの奔流がmセルビアの体に流れ込む。

もちろん、それは錯覚だ。現実にはなにも起こっていない。


セルビアは直感で理解した。この痛みはあの紐が与えているものだ。

それほど黒い紐には邪悪な意思が宿り、それを見たセルビアに余波が痛みとなって表れているのだ。




魔術を発動させて10秒ほどで、セルビアは目を閉じた。

崩れ落ちそうになる体を、壁に寄り掛かることでどうにか保たせる。

一気に受けた苦痛のせいで、精神が疲れきっていた。体には何一つとして傷がついていないのに、床に倒れてしまいたいほど、消耗していた。


それでも、セルビアは壁伝いに歩き出した。何度倒れそうになっても、必死で歩を進める。

幸運なことに誰ともすれ違わず、セルビアは自室にたどり着いた。



寝台にうつ伏せで倒れ込んだセルビアは、枕に顔を埋める。


セルビアが王に魔獣退治の報告をしたのが三日前。それからセルビアは王に一度も会っていない。

王が倒れたと聞いたのが今日の早朝。そこで初めて会った二人の男女、第二王女と1番隊隊長。




めぐるましく変わる状況に、セルビアは大きく息を吐いた。

しかし、震える手足を叱咤して立ち上がる。

疲れ切った体を引きずるようにして、部屋を横切る。



あの悪寒と重い何か。

敏感な自分のみが感じ取れるあの感覚。

そして、見えないものを見せる魔術を使って見た『黒い紐』。


そこまで考えて、セルビアは部屋にある衣装棚に手を伸ばした。

衣装棚から目的の物を取り出して、身につける。


手早く仕度を整えたセルビアは、その勢いのまま、部屋をとび出した。

その細い体に力を与えているのは、強い意思だ。


あんなものを放っておくわけにはいかない。王が苦しんでいるのも、きっとあれのせいなのだから。

その一念だけで、セルビアは動き出す。

ただ、王のためだけに。








セルビアは城を抜け出し、城下町を訪れた。


昔の旅人姿の戻ったセルビアは、多種多様な人々に紛れるようにして進む。

城から出た時に着ていた侍女の服はすでに脱いでおり、どう見ても、流れ者といった風体だ。


表通りから外れるようにして細い路地に入ると、背中に注がれる視線が更に強くなった。

この手の視線はよく知っている。


尾行されているのだ。しかも、複数に。

複数の人間の監視を受けるというのは、気分がいいものではない。

それとは分からぬようにため息を吐き、セルビアは唐突に駆け出した。


纏っている外套で顔を隠しながら、いくつもの道を曲がり、建物の隙間をすり抜ける。

(…しつこいな)

不規則なセルビアの動きに付いてくる曲者は何人もいた。しかし、あくまでセルビアに近づかずに遠巻きに観察している。

その人数で協力して、セルビアの動きを徹底的に監視するつもりだろう。


このままでは埒があかないと考えて、セルビアは急に方向を変え、高い建物の間に入り込んだ。


そして、小さく呪を唱える。

『空を飛ぶことは出来ないが、地を蹴ることは出来る』


魔術の力を借りて跳び上がったセルビアは、たった一度の跳躍で屋根の端に手をかけた。

そのまま腕の力を使って、屋根の上に体を持ち上げる。


「…ふう」

一息ついたセルビアは、下の路地を慎重に覗きこんだ。

消えた女を探して、何人もの男が右往左往している。それを見ながら、セルビアは屋根の上で笑いを噛み殺した。


ようやく追手を撒けそうだ、と安心しかけたその時。





「お嬢さん、大丈夫かい?」

唐突に後ろから声が聞こえた。


後ろをとられたセルビアは、半ば反射で刀を抜きながら振り返る。

無防備に背中を晒すということは、戦士にとって死を意味するからだ。

ほとんど無意識の内に体を回転させ、後ろの人物に斬撃を加えようとする。


「ほお」

感嘆の一言を後ろの人物が発したことを、セルビアはかろうじて聞き取ったが、それでも剣速は緩めずに、低い姿勢のままで振り切ろうとした。


「まあ、そう慌てなさんな」

何気なく突き出された木の棒が鈍い音を立てて、鋭い一閃を止めた。


これにはセルビアが戦慄した。

力を使っていないとはいえ、魔刀である白緋の一撃がただの木の棒で防がれたのだ。

それに追い打ちをかけるように、後ろの人物が目を丸くして言葉を放った。

「お前さんが持ってるのは魔剣かい?その若さにしてはよく使いこなしてるなあ」



セルビアは姿勢を低くしたまま、屋根の上の先客を睨んだ。


30半ばの男だ。

最初に目につくのが肌の色だ。南国出身特有の黒い肌をしている。短く刈り上げた髪は栗色で、瞳は金色。

整った顔立ちには精悍さと力強さがある。


あぐらをかいた姿勢から立ち上がった男の動きを見て、セルビアは緊張の度合いを高めた。

足が長く、背も高い。傾斜のある屋根の上でもぐらつきすらしないのは、動きに無駄がないせいだ。

引き締まった体は大柄で筋肉に覆われているが、鈍重な雰囲気は一切ない。いざとなれば、誰よりも素早く動けるだろう。


無理だ、とセルビアは直感した。

目の前にいる男は、自分とは技量の桁が違う。どうあがいても勝ち目がないほどの力の差があることが肌で感じ取れた。

それほど圧倒的な力を、この男は持っている。


「あいつの占いも捨てたもんじゃないな。『屋根の上に星が上がってくる』ってのを聞いた時は何だそれ、と思ったが…。中々言い得て妙だ」

男はひとしきり訳が分からないことを呟いていたが、セルビアを見て、にやりと笑った。


「俺はラグンという。少々、顔を貸していただけるか?お嬢さん」

セルビアは潔く頷いて、姿勢を正した。




ラグンと名乗った男が連れてきたのは、ダレバの中心に位置する広場だった。

石畳の上では子供が駆け回り、噴水は清らかな水をたたえている。


「いやー、この国はよく治められてるな」

そう言いながら、ラグンは噴水の(へり)に腰かけた。セルビアも少し離れて、そこに座る。


「さてと。厄介な連中に見つかる前に話は終わらせるか」

「その前にあなたは一体何者ですか?何故、私に接触を?」

ラグンはニヤリと笑った。


「そこは気にするな。今のあんたにはそんなことより、やらなきゃいけないことがあるだろう?セルビア・ハースさん」


セルビアは瞠目した。予想外の返事に動揺が隠しきれていない。

ラグンは笑ったまま、言葉を続ける。

「こっちにも色々と手はあるんだよ。まあ、あんまり褒められる手でもないけどな」



こうして無防備に座っているように見えてその実、ラグンに隙はまったくない。

セルビアはこの『ラグン』という男のことを何も知らない。しかし、相手はセルビアの事情を詳しく把握している。

これでは駆け引きなど出来るはずもない。

セルビアに出来ることは、ただこの男の話を聞くことだけだった。



「まず、俺の目的は至極簡単だ。今、この国の王様には厄介極まりないものが取り憑いてる。俺はそれを祓うためにあんたに声をかけた」

「!あなたにはあれが見えるんですか?」

「おう、くっきりはっきり見えるぜ。あんたも見るかい?」


セルビアが返事をする前に、ラグンは片目を閉じた。そのままの状態で口を開く。

『対の目は閉じられた。見るべき者に見るべき物を見せ給え』


セルビアの視界がいきなり変わる。それと同時に周りの音が遠くなった。


見えたのは王城だった。窓の位置や動き回る人もはっきり見える。

城だけを拡大したかのような視界。

しかし、セルビアはそれに驚くよりも先にあるものに見入っていた。


それは手のように見えた。無数の黒い手が王城を取り囲み、蠢いている。

空中を漂いながら、時折何かを掴もうとするかのように指を動かす。

その手がある一点に集中していた。


王の部屋だ。

窓も壁もすり抜け、何本もの手がその部屋へと殺到している。


その光景を見たセルビアは片手で口を覆い、吐き気に耐える。

黒い手のあまりの禍々しさに吐き気を覚えたのだ。




「さすが元名持ちだな。普通だったら、もう吐いてるぞ」

ラグンの声が近くで聞こえたと思った瞬間、唐突に視界が切り替わる。


セルビアは口元を押さえたまま、周りを見渡した。

広い広場には、平和で賑やかな雰囲気しかない。白昼夢のような体験にセルビアは一瞬、呆気に取られる。


「一体、あれは…」

呻くようにして、声を絞りだしたセルビアにラグンは冷静に返す。

「俺にだって、よくは分からん。あれは知ろうとしてはいけないものだからな」


『知ろうとしてはいけないもの』

その意味はセルビアにも分かった。

あれは邪悪すぎる代物だ。近づき過ぎれば、自分があの手に引きずり込まれかねない。


「あれは俺の視界をお嬢さんに、ちょっとばかし覗かせただけだ。普通の人間なら、一瞬で泣き叫ぶぞ。お嬢さんはああいうものに耐性があるらしい」

笑いながら言うラグンに、セルビアは畏怖の視線を向けた。


今もラグンの視線は王城に向けられている。その金色の目を細めたまま、ラグンは言葉を続けた。

「俺としても、あんなもんがこの世にあっちゃ困るんでね。厄介事は早めに終わらせるに限る」

あの黒い手を眺めながら談笑出来るラグンをセルビアは素直に尊敬した。



ラグンは手元にある木の棒を回した。決して小さくないそれが、風切り音をたてて回る。


「さて、ここで本題だ。俺はあれを断ちたい。お嬢さんは王を救いたい。目的は違えど、やる事は同じだ。ここは手を組むのが、一番だと思うんだが?」

得体の知れない男からの提案に、セルビアは押し黙った。


本来なら一蹴すべき提案だが、セルビアには断れない事情がある。


なぜなら、あれはセルビアの手には負えない問題だからだ。かといって、軍人や文官は問題外だし、上手く説明できる気すらしない。

なにせ、天才と呼ばれたセルビアでさえ気付けない魔術が、城全体にかけられているのだ。

神話の世界ならありえたのかもしれないが、残念ながら今の時代では、一笑にふされるのが落ちだろう。


「何故、私を誘うんですか?あれが見えるような方なら、助力などいらないはずです」

「おいおい、これは俺の親切心って奴だ。素直に受け取っておいた方がいいと思うぞ」


にやにやと笑いながらそう嘯いたラグンは、隣に座るセルビアにぐいっと顔を近づけた。

「で、どうする?」








日が落ちて、辺りが闇に包まれる時刻。

ラグンとセルビアは城の郊外にある、一つの町を歩いていた。



「よっ、と」

建物の隙間を音も無く移動しながら、二人は一つの館の裏に回る。

他の家より大きいそれはひっそりと静まりかえっており、窓に人影はない。


「ここだな。お嬢さん」

ラグンの呼びかけに、セルビアは無言で頷いた。


セルビアは結局、ラグンの誘いに乗った。

自らの手には負えないが、傍観しているだけというのも気分が悪かったのだ。


(…にしても)

柵と生け垣の間から館を窺うラグンを、セルビアは盗み見る。

ラグンの歩き方や気配の殺し方は、セルビアのそれよりも上手い。今も物音一つたてずに、館の造りを観察している。


共に行動していても、この男が何者か、セルビアにはまったく分からない。

あの手を魔術も使わずに素で見れるような才能に、セルビアはただ圧倒されていた。

彼女は学術院で天才とまで呼ばれた人間だ。だからこそ、その力がどれほどの物かを感じ取れた。


一人で物思いにふけっているセルビアを見て、ラグンが喉の奥で笑った。

「考え過ぎると老けるぞ、お嬢さん」

「私は22歳です。お嬢さんは止めて下さい」

さすがに20を過ぎてお嬢さん呼ばわりはきつい。


そんなセルビアの気持ちを知ってか知らずか、ラグンは唇に笑みの名残をとどめたまま言った。


「俺にとっちゃ、20歳も30歳も『お嬢さん』で充分なんだがなあ」

セルビアは見た目が30代のラグンに少しだけ怪訝な顔を向けた。


それを振り払うかのようにラグンは立ち上がる。

「さて、お嬢さん。ちょっとばかし、囮をやってほしいんだが」

それを聞いたセルビアの顔が戦士のそれになった。高揚感と緊張が混じり合った表情は猛々しいが、実に美しい。

ヴァイツと手合わせをした時のように研ぎ澄まされた空気が、セルビアの体を取り巻いた。


ラグンが作戦を告げると、セルビアは銀色の瞳を光らせて頷く。

顔に好戦的な笑みを浮かべるセルビアを見て、ラグンは苦笑を漏らす。


そんな笑みには気付かず、セルビアは館を取り囲む柵に手をかけ、よじ登り始めていた。


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