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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
終章 勇しき者
115/125

115 - いざや世界の最果てへ

 ――かくして、運命は終末に向けて加速する。

 学校生活は半年が過ぎていた。

 この時点で円卓は三十七回開かれていて、大迷宮の踏破はかなり進んでいた。その速度は、当初の想定をはるかに上回っていたほどだ。

 回復アイテムがほぼ無尽蔵に用意できたから、ということらしい。

 そういう意味で、僕の貢献度はそこそこあったようだ。

 が、僕よりも貢献度が高かったのは洋輔の方。

 いくつかの階層では魔法を用いた悪辣な罠があったのだ――まあ、その代表例が第一階層だったのだけど。

 そういった罠としての魔法を解除する魔法を組み上げた洋輔は、それが功績として認められたらしい。

 僕たちが殆ど無心にそういうことをできたのは、やはり僕たちがずっと考え事をしていたからだと思う。

 この国の置かれている状況。

 この国の基本的な価値観。

 魔法、錬金術、戦闘について……そして、倫理的なことも含めて。

 僕たちはここで、安全な場所で、準備をするだけだった。

 けれど実際には、犠牲が無いわけではない。

 相応の犠牲は出ている。

 犠牲は……死者は居る。

 僕たちはそれを実感できないだけ。

 数字で知らされるだけだから、現実を知らないから、ふわっとした感覚でしかそれを受け取れていないのだ。

 そう。

 僕たちはここが安全な場所だと考えている。

 けれど、他の皆にとってはここも、危険な場所なのかもしれない。

 で――三十八回円卓会議。

 その冒頭で話されたのは、暫定的な踏破の完了報告である。

 僕たちはそれに対して、フゥの参列許可を求め、それらは承認された。

 そして、勇者としてのフゥの見解を円卓は承認。

 世界を癒すべく――授かりの御子、僕と洋輔を『消費』すること。

 その消費を行うためのリスクやコストが必要であること。

 そのコストとして『ウィンザー・バル』と『ヤムナ・シヴェル』を用いることなどがその場であっさりと決まった。

 これによって、僕と洋輔、ウィズにヤムナという四人の命が、少なくとも元通りではなくなることが、異論もなく決まったのである。

「とはいえ、です。私はどうも、確かに勇者らしいのですが、しかし私にはそんなことできませんよ。特別な場所にいかなければならないようですが、それはどこなのです、ヒストリア」

「大迷宮最深部――現時点において魔王が座すその場所だ。魔王との対峙は勇者一行たる君たちだけで行わなければならない。そしてそこで魔王をどうにかしつつ、君は授かりの御子を使うのだよ」

「迷宮の最深部、ですか。そこが世界の最果てと?」

「あるいは世界の中心かな?」

 ニムはおどけてそう答える。

 世界の最果て。

 世界の中心。

 それはなんだか、逆の印象を受けるのだが。

「ともあれ、そこにつけばおのずと理解できるだろうさ。あるいは向こうが――魔王が、教えてくれる可能性もある」

 すでにこの場、円卓に居る者たちは、魔王の真相を知っている。

 結局、それが話されたのは第八回の円卓だったっけ。

 『魔王は、そして魔物でさえも、必ずしも敵ではない』という認識があったからこそ、この速度で探索が進んだろう。

「では、勇者の突入はいつごろに?」

「すぐにでも。時間的余裕があるとは限りませんし、『最深部』についてすぐに全部ができるとは限らないです。時間的制約がどこにあるのかもわからない上、冒険者さんや騎士さんの『戦線維持』にも負担はあるわけですから、一刻も早く解決しなければなりません」

 フゥはそう言って一歩下がる。

 そこには、ウィンザー・バル、ヤムナ・シヴェルがすでにいた――器として、使われることを承知の上で。

「さてと。それでは、ヨーゼフくん、カナエくん。すぐに出発しますよ。最後まで、お供願います。それと、ヒストリア」

「なにかな」

「あなたも一緒に来ますか? 記録、するんでしょう?」

「おや、いいのかい?」

 構いませんよ、とフゥは言う。

「途中で死んでもしりませんけれど」

 守る気はないらしい。

 やれやれ、とニムは首を振りつつ、しかし立ち上がる。

 僕と洋輔も、立ち上がって。

 最後に、一礼をした。

「……ああ、そうだ」

 円卓を離れる直前、僕は円卓を滑らせるようにイスカさんに、一つのスティックを投げ渡す。

「僕たちの部屋の鍵です。……僕たちが帰ってきたら、返してくださいね」

「もちろんだ」

 これで普通に帰ってこれたら、それはそれで間抜けだけど。

 でもまあ。

 その時は、バカにされるけれど、笑うことはできるだろうから。

「では皆さん。行きましょう。ろ号大迷宮……その、最深部へと」


 フユーシュ・セゾン、勇者。

 カナエ・リバー、錬金術師。

 ヨーゼフ・ミュゼ、魔導戦士。

 ヤムナ・シヴェル、魔法戦士。

 ウィンザー・バル、弓騎士。

 ニムバス・トゥーべス、魔法使い。

 以上六名――とても歪な編成のパーティこそが、僕が、カナエ・リバーが初めて組んだパーティであり、ことがうまく行けばこれが最後のパーティになる。

 ノルちゃんとはすでに別れを済ませた。

 事実上、ラストダンジョンへの突入ということもあって、準備は入念に。

 ゲーム的には、特にアイテムの持ち込み制限とかはない。RPGのそれに近い。

 のだけど、現実的には持てる量にどうしても限界があるんだよね。

 どんなに工夫してリュックの容量を増やしたところで、やっぱり限度はある。

 となると現地調達できそうなものはそれに頼ることにするしかなくて、うーん。でもまあ、他人に持ってもらうのもアレだし、仕方がない。

「さて、そろそろ出発、なんだけど。……えっと。そうね。カナエ。あなた、それ持っていくの?」

「うん」

「そう……」

 しらーっとした視線がヤムナとウィズから飛んできた。

 尚、洋輔はもはや慣れっこで、フゥとしては特に思うところがないらしい。

 ニムに至っては笑いをかみ殺している。

「これでもかなり減らしたんだけど」

 ちなみに背負っているリュックは登山とかで使えるタイプ。結構入ったけど出し入れには不便だったりする。

 頻繁に使うかもしれないものは別途、ショルダーバッグやウェストポーチに入れておいた。

 よって、今回僕が持ち込むのは次の道具。

 薬草十二個、ポーション二個、各種エッセンシアが二個ずつ(カプ・リキッドとクイングリンを除く)、各種エッセンシア凝固体が三個ずつ(金の魔石と豊穣の石を除く)、カプ・リキッドは十二個、金の魔石が六個、クイングリンは三十個、豊穣の石は二個。各種エッセンシア陰陽凝固体は原則一個ずつ、ただし『青+黒』の陰陽凝固体は無し。あれはちょっと危険すぎる。で、エッセンシア作成キット(ようするにエッセンシアのマテリアルを纏めて袋に入れたもの)三十六個、火薬五十グラム、銀塊百七十グラム、錬金で作った血液を小分けにしたものが三十六個、木材の破片が少々、紐、糸、網、中和緩衝剤が十個、鏡の破片とガラス片が少々、宝石が四個ほど。ここまではショルダーバッグとウェストポーチの中にしまってある内容だ。

 背負っている登山用リュックに入れてあるのは、圧縮薬草(薬草を百個ひとまとめにしてブロック状にしたもの、錬金圧縮術という技術らしいけど適当に薬草を錬金したら作れた)が二個、宝石が三十九個、ガラス瓶が三つ、錬金術で作った血液の予備が合わせて五百ミリリットル、木材、金属材、石材が適当な量と、紐、糸、網などの特異マテリアル一式、紙、ペン、インク、念のため冷凍した食材の入ったクーラーボックス(六人だと七日分)、飲料水が二リットルといった程度。

 やっぱり少ないな。

 で、装備品はというと、対象に害意があるかどうかを調べる色別の指輪(予備)、ポーションと毒消し薬に対応した表しの指輪(予備)、特に効果のないネックレス、掛けている伊達メガネは『表しの眼鏡』……の改良版。鎧は重さを本来の三十分の一倍にする形で作った鋼製のプレートで、着用しても重さはほとんどなし。ただし、ベルトに仕込んだ『白+透明』の陰陽凝固体の効果で『身に着けているものの重さをゼロにする』というものが発動しているため、実は鎧の重さはいじる必要がなかったというオチがついてしまった。行き当たりばったりで用意するのも問題だ。

 武器については装備無し。そもそも戦えないし。一応護身術の授業を半年受けたので、最低限身を護るくらいはできるけど、変に攻撃手段を持つよりかは回避に徹した方がマシとの判断だ。どうしても攻撃が必要なシーンであれば、火薬を使って戦うことになる。

 ……ちなみにこの火薬の購入許可は三か月前くらいに申請したらあっさりと降りたのでいろいろと作ってみたのだけど、まあ、うん。

 お母さんが爆弾魔と言われている所以がわかった気がする、とだけ言っておこう。

 いや、ちゃんと直したからね?

 とまあそんな言い訳はさておいて、『表しの眼鏡』の改良について。

 まず、眼鏡を通して見れる情報が変化した。錬金術のマテリアルとして認識したものの品質値が見える、のは変わらず、魔力を流すことで例のベクトラベル視界を獲得できる感じ。結構便利。とはいえ、眼鏡をかけ始めたのは半年前からだということもあって、いまだに違和感が。鼻が重たいし。コンタクトレンズとかのほうがいいのかなあ。でもあれってどうやって作るんだろう。だいたい目に入れるの怖いし……。うーむ。まあ、この辺りはいつか解決できればいいなあとは思ってたけど、すでにラストダンジョン。ちょっともやもやが残ってるけど、ま、使えるからいいや。

 せっかくなので洋輔の装備も確認しておくと、鎧は僕のものと全く同じ。これは赤いエッセンシアの凝固体、『重の奇石』の効果で、『完成品が二つになる』というものをつかって材料をちょっと節約したからだったり。冷静に考えると質量保存のなんたらが崩れているけど、まあ、今更だ。

 武器は僕が作った例のナイフ、に改良を七度加えたもので、魔力を流している間に限り重力が三百倍かかるようになっている。つまり、洋輔の意思で重さをある程度制御できる形になっているわけだ。それ以外にも、アルさんからもらった大剣を持っていて、メインウェポンはむしろそちらになる。ただしそっちもちょっと改造済みというか、魔力を流すと熱を帯びるようになっている。流す魔力を調整すれば温度もある程度調整できるので使い勝手はいいんだけど……まあ、見た目はもらった時と変わってないし。うん。

 その他に洋輔が装備しているのは、ホルダー付きのベルト。右側にはポーション四つ、エリクシル八つ。左側には賢者の石、揮毒の石、金の魔石、崩しの石。あ、崩しの石というのは無色透明のエッセンシア、アネスティージャの凝固体で、魔力を流すことで周囲にいる任意の生き物の動きを止めることができる。アネスティージャそれ自体は超即効性の麻酔薬で、患部に塗るだけで感覚を消し、経口投与すれば全身麻酔になる。麻酔の効果は塗った場合は二時間、経口投与した場合は六時間ほど続くけど、『薬』だからか毒消しやエリクシル、ポワソンイクサルでは消せなかった。

 こんなものだろうか。

 ちなみに僕が作成した類の武器や防具、ベルトもだけど、それらには全部自動修復機能を付けておいた。店頭で買おうとしたらいったいいくらになるかわかったもんじゃないけど、まあ、作ってしまえばコストはほとんどかからないわけで。

 こんなところだろうか?

 一応、他の皆についても軽く触れておこう。

 ウィズは弓と革鎧の弓型装備の基本形。矢はとりあえず二十四本もっているそうだ。ただし、魔力の矢を用いることが基本だから、残弾数はあまり心配が要らない、らしい。

 ニムは指揮棒のような杖と本を持っていて、防具は無し。割り切りは良いけど……。本人曰く戦闘はてんで苦手で、魔法が通じなかったらお手上げだから守ってくれ、とのこと。僕と大体同じか。

 ヤムナは片手剣に盾を持つタイプの魔法戦士で、鎧はそこそこ重そうなものを装備。片手剣は主に使うものと予備の二本で、いざとなったら二刀流とかもできるそうだ。

 最後にフゥだけど、フゥは大剣を両手で振り回すタイプの魔法戦士……、に、なるのかな。ベクトラベルをコピった、というのはどうも真実らしく、重さを攻撃力に転嫁する洋輔のアレと同じことをできるようだ。一方で、防具は革鎧。回避型かと思ったら、身体の周りに防衛魔法を常に纏っているんだとか。なにそれ怖い。

 まあ。

 そんなわけで。

「いざ、突入しましょう」

 フゥの言葉で、僕らは大迷宮へと踏み込んだ。

 目的を、果たすために。

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