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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 迷宮踏破は誰のお仕事?
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111 - 迷宮踏破は誰のお仕事?

「魔王については、私の方で政府と調整を行い、正式に円卓で発表をします。しかしながら、勇者に関しては私たちも知らない事実をご存知の様子。ヒストリア殿。あなたが知る勇者について、もう少し詳しく教えていただけますか」

 カティアさんの問いかけに、ニムはうむ、と特に考えた様子もなく頷いた。

「それを説明するために来たようなものだしね、もちろんだ。繰り返すが、勇者とは『尋常ならざる力を持つ仲間としての授かりの御子』を導く旗手としての才能を持った英雄の中の英雄を指す言葉だ。その見分け方は比較的簡単でね、勇者は英雄としては少々異質な力を備えているのだよ。使い魔の契約はこの場に居るものならば知っているだろう? 知らないならば後で調べていただければわかるだろうからここでは説明しないよ。いきなり使い魔の契約が出てくるのはなぜかというと、だから、『異質な力』とはそこなのだよ。勇者は授かりの御子との間に、一種の精神的な共有スペースを持つ。意思疎通ができるようなものではないが、一部の感覚を共有できるのさ。そして感覚を限定的に共有できてしまうがゆえに、授かりの御子が持つというか、授かりの御子にしか持ちえないはずの特殊な才覚を、限定的にとはいえ再現しうる! そう、だから見分けは簡単だ。授かりの御子を探し、そしてその授かりの御子の『真似』ができるものこそが勇者に他ならない。さて、それらを踏まえて確認しよう。まず、現代においける授かりの御子はこの場にいる『カナエ・リバー』と『ヨーゼフ・ミュゼ』の二名だ。この点については異論あるまい?」

「あるけど」

「ある」

「当事者である君たちには聞いていない」

 ひどい言われようだ。

 そしてほかの皆に視線を向けても、皆は納得しているありさまだった。

 僕たちに味方は居ないらしい。

 まあ、僕たちとしても異論はあるけど、否定もしきれないんだよな。

 特に授かりの御子という言葉に聞き覚えはないけどその仲間っぽい『来たりの御子』とあの声は言っていた、もしかしたらそれが同等のものかもしれない。

 それに世界が違うかのごとき力というのも、もろに僕たちのそれが沿う。地球の記憶を持つがゆえに、僕と洋輔の価値観はこの世界のそれとは微妙にずれているだろうし……ね。

「さて、授かりの御子が特定できているならば、勇者の特定も簡単だ。ようするにこの二人の『真似』ができるものを見つければいい――ああ、わかっている。そうそう簡単にまねができるものを探すなど難しい、そういいたいのだろう? だがおそらく今回、この時代における勇者は、さほど苦労せずに見つけることができるはずだ」

「それはなぜです」

「吾輩は二つまでならば偶然だと考えている」

 うん?

 カティアさんの問いかけに、ニムの答えは妙だった。

「二つまでならば偶然だ――が、三つ重なれば何らかの作意がそこにはあると、吾輩はそう思うのだよ」

「つまり?」

「カナエ・リバー。ヨーゼフ・ミュゼ。吾輩。すでに『三つ』だ。勇者はおそらく吾輩たちと同世代……どころか同学年だろうね。もっとも、吾輩が見ている限り、吾輩たちが暮らしている寮にはそれらしき者はいなかったから、もう一つの寮の方だ。さて、ここで関連性に揺らぎが起きたと考えよう。つまり吾輩たち三名とは少し変わった特徴を、その四人目は持っている――のではないかな。もちろん、根底的な部分は勇者にふさわしい性能なのだろうが。つまり吾輩が想定する現世代の勇者は『二次試験突破組』かつ『女子』かつ『成績優良者』、ここまで絞り込むことができるのだ。それを踏まえたうえで観察をすれば、特定はそう難しくないだろう」

 なるほど……?

 ちょっと飛躍してる気もするけど、確かにありそうではある。

「ああ、いや」

 と。

 ニムに異議を唱えたのは洋輔だった。

「すまん。言い損ねていたが、心当たりならもういる」

「ほう。それは誰かな? 吾輩も知っている子だとは思うのだが、吾輩には確証がない。それをヨーゼフ・ミュゼ、君はほとんど確信しているようだし、『何か』を真似されたことがある、ということかい?」

「その通りだ」

 え?

「フユーシュ・セゾン。新入生の女子生徒、二次試験組のトップ通過をした彼女が、たぶん勇者だと思う。俺の魔法をいくつか模倣(パク)られたし、詠唱についても俺が二、三感覚を教えただけで、俺とほとんど同じ程度の時間で関連付けができるようになっていた。カナエの錬金術……については、そこまで模倣できるかどうかはわからないが」

「……フユーシュ・セゾンか。彼女は現代錬金術の授業を受けている。その場で、現代錬金術には成功しているが、普通の錬金術については特にそぶりを見せていないな」

 イスカさんが補足。

 へえ。フユーシュ・セゾンというと、あの時の……。

「……銀塊とか、錬金術用品を見学が始まる前から買ってたりするんですよね、フユーシュさん。偶然、僕は同じものを買い求めたことがありまして。あるいは彼女が錬金術を使えるのかな? とか、そんなことは思ってましたけど、確証はないです」

「銀塊を買っただけでその断定は難しいだろう。何かほかに気になったことがあるのではないかな?」

「さて? ……あの時、なんで僕、あの子が錬金術使えるのかなーって思ったんだろ」

 まあ、銀塊なんてものを求めるのは錬金術師か、そうでなければ鍛冶師くらいだからってところもあっただろうけど、あの時の僕はすんなりと、錬金術師を想像していた。

 シンパシーみたいな?

 いや、もっと確かな感覚だったと思う。

 もっと確かで、なにか決定的な印象が……あ。

「匂い?」

「うん?」

「いや、薬品系、特に薬草の匂いがした……んだと、思います。だから、錬金術師だと思ったのかも」

「なるほど」

 実際には、それだけではやはり錬金術師とは断定できない。

 ちょっと発想が飛んでしまっているのだけれど……まあ、初対面の相手への第一印象だ、こんなものだろう。

「断定するにはまだ早いが、しかしフユーシュ・セゾン。彼女が『そう』である可能性は高いね。となれば吾輩たちが取るべきは、まず彼女の確保だ。彼女が真に勇者であるならば、魔王と対峙させるにあたって状況を整えなければならないし、なにより吾輩たちと同年齢となると十二歳。迷宮探索は厳しいだろう――たとえ勇者であるとはいえど、しょせんは英雄の英雄程度。少し特別な力を持った人間にすぎないのだ、死ぬときは至極あっさりと死んでしまう。それでも魔王をどうにかできるとしたら、それはこの世ならざる力を行使する者の力を最大限に導ける勇者だけだ。ゆえに、そこにたどりつく前に死んでしまうようなか弱い勇者を、それでもそこにたどり着ける状況を作らねばならないのだよ」

「つまり、魔王の座すであろう場所までの道を開くのは冒険者と騎士の仕事、と」

「そう。迷宮踏破は君たちの仕事だ……が、焦る必要はないよ。急ぐ必要はあるが、そこまで事態が切迫しているわけではない。何はともあれ勇者であるかどうかの確認をしなければならないし、勇者であることが確認できても現時点での彼女はせいぜい『同年代ではずば抜けた力を持つ』程度だからね、その程度では魔王と戦う戦わない以前の問題だ。魔物との戦い方、とくに『生き残る』ために必要な様々な知識や技術を、彼女に、そしてその彼女と共するカナエ・リバー、ヨーゼフ・ミュゼに伝えねばならないのだから時間がかかる。どんなに急いても半年間、実際には一年くらいかな……勇者の準備を整えるのに、それだけ時間がかかるのだから、迷宮踏破はその前後に完了していればそれでいい。なあに、過去のい号大迷宮は何年もかかった大事業だが、それは治癒系道具の供給が全く追いつかなかったからだし、その時と今とでは技術力や魔法に対する理解力もそもそも違うのだ。一年あれば、よほど想定外の事態に陥らない限りは大丈夫だろう」

「その想定外が起きているのだが。魔王の登場という想定外が」

「ああ、それは気にしないでいい。……ふむ、そうだね。吾輩がどこまで言っていいものか……、まあ、ここは基礎的な部分だ、最低限この部分までは知らなければ話になるまい。そういう点は吾輩がしゃべってしまうよ。いいかい、魔王という存在は、『全ての敵』ではないのだ。かの存在は確かに人間にとって脅威だが、かの存在は特別人間を敵視していない――むしろ好いてすらいる。だから、魔王という存在はよほど直接的に喧嘩を仕掛けられない限りそれに対応することすらしない。取り合わないのだよ。だから、魔王が登場したところで遺跡の探索には問題は起きないよ。魔王相手に喧嘩を始めたいというならばそれは別だが、魔王をどうにかできるのは勇者だけだ。それを努々忘れてはならない――そしてそれさえ覚えていれば問題あるまい?」

 さあ、これでやるべきことは決まったよね、とニムは一方的に断定し、立ち上がる。

 なんだろう。なにか引っかかるんだけど……。

 咄嗟に突っ込みを入れることができずに、その間にニムはどんどん次の話題へと移ってしまう。

「吾輩はこれから授かりの御子、この二人を伴って勇者を訪ねてみる。そしてそこにいるのが真に勇者なのか、それとも勇者は別にいるのかを見極め、魔王に関する吾輩が持ちうるすべての情報を勇者たちに与え、そして魔王を『どうにか』する方法を考えさせる。迷宮制覇において最後の問題となる魔王は吾輩たちが請け負おう。だからこそ、そちらはそれまでの『露払い』、彼らが通る道を切り拓いてもらいたい。規模はでかいがそれだけだ、魔物は強いがそれだけだ。であるならば、必ずや成ると信じている――さて、異論なければこれで失礼したいが、セキレイ・コバル。どうだろうか?」


 結局、ニムのあの言葉が決定打となり、おおむねニムの言った通りに事が進むことになった。

 僕と洋輔にニム、そしてノルちゃんはもう一つの新入生用の寮へ直行し、他の面々は大迷宮踏破のための体勢を改めて整え、今後の事態に柔軟に動くことになっている――カティアさんを除いて。

「カティア・リーリはこの国の政府、つまり国をどのように動かすかという取り決めを行う重要な会議のメンバーでね。その中でも特に裁量は大きい方だが、最大の裁量を持つ者というわけでもない。それでも上の方の人間だ、魔王の真実も彼女は知っている。ま、それを他人に教えていいのかどうかは、彼女一人では決めることができないから、あの場ではああするしかなかったわけだが……」

 と。

 移動中、ニムが補足するようにつぶやいた。

「魔王には可能な限り速やかに『お引き取り』いただく、それがおそらく政府の結論になるだろう。だから実を言えば、君たちにもそして勇者にも、戦闘能力などはほとんどいらないのだよ。最低限でいい」

「どうしてだ? ……お引き取りいただくつっても、帰れと言ってはいそうですかって帰らねえだろ、魔王」

「ああ。……君たちには吾輩が真相を記した書を渡しているけど、そうか。この国に関連する範囲だけだったね」

 うん。

 もしかして何か、魔王って裏の事情があるのだろうか。

「どうせ『勇者』もそのことを知らないだろうからね、君たちにはその場で一緒に教えてあげよう。いやになるような真実がそこにはあるよ。でも、だからこそ、勇者という存在は必要なのだ。君たちという、授かりの御子もまたね。ふふふ、しかし……」

 ちなみに現在、移動中。

 僕は洋輔と並走していて、僕はノルちゃんを肩の上に、そして洋輔はニムを荷物のように担ぎ上げていた。

「吾輩は確かに運動が苦手だと言ったのだが、この扱いはどうなのかね? もうちょっとこう、吾輩にも人権を主張させていただきたいのだが」

「いや、だって急がないと見学始まるからな。あいつが今日、何の授業を見学しに行くかわからない以上、いそいで寮に張り込まねえと」

「そうだよ。朝一で逃すと、探すのすごく大変だし。……って、そういえばウィズはどうしたの?」

「ああ。ウィズならば今頃ぐっすり眠っているよ。昨日はずいぶんと夜更かしをしつつも勉強していたからねえ。ウィズが望むならば、ヒストリアにもなれるかもしれないよ。とはいえ、夜更かししたぶんだけ眠ってしまう点は、やはりまだまだ人の子だね。吾輩にせよ君たちにせよそれは変わらないが」

「まあね」

 目的地に到着し、雑談は打ち切り。

 僕たちはそのまま、寮の食堂へと向かった。

明日、28日はいつも通り終章を一括で掲載します(白黒昼迄夢現は124話で終結します)。

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