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白黒昼迄夢現  作者: 朝霞ちさめ
第五章 迷宮踏破は誰のお仕事?
109/125

109 - 見えないところで起きる事

 夢を。

 見たんだ。

 四回目の円卓会議が開かれたのは、なんやかんや、大迷宮が発見されてから五日後のことだった。

 すでに学校では授業見学が再開されてはいたけれど、予定より二日間、見学期間は延長されるらしい。

 で、僕たちや各学年の総代といった例外を除くと、第三学年までには『近くで迷宮が発見された』ということが伝えられるだけで、それ以上の情報は与えられないらしい。

 まあ、変に首を突っ込まれても困るということなのだろう。

 で、セントラルアルターに到着した僕たちは、いつものように本人確認を終えると、いつもとは違って騎士さんが何かを僕たちに差し出してきた。

 何か――それは、黒いスカーフである。

「そのスカーフを体のどこかにつけて出席するように、と、セキレイ様が」

「……そうですか。わかりました」

 僕はスタンダードに首に巻いて、洋輔は腕にスカーフを巻いていた。

 ノルちゃんは……、まあ厳密には出席者ではないのか。なら別にいいや。

 少しもたつきながらも議場に入ると、議場にはすでに七割ほどがそろっていた。

 まあ、最後じゃないだけましだけど、僕たちが一番若いというか幼いわけで、その点も考えると本当は最初に来ないといけないんだろうなあ。

 寮が遠いのが問題だけど。

 で、議場にそろっている面々は、身体のどこかしらに黒いスカーフを巻いていた。

 ふむ……。僕たちだけじゃないのか。

 でも黒いスカーフって、なんか印象はいまいちよくないよね。

 どっちかというと喪服を連想させてしまう。あるいは……それが目的なのか。

 すぐに人は集まり、あれよあれよと円卓の十三人がそろったのを受けて、

「それでは、これより第四回、円卓を開始する」

 と、セキレイさんが仕切りの声を上げた。

「まず、喪章をつけてもらっていることからもわかるように、昨日、由々しき事態が大迷宮内部で発生した。この件について、ホランド殿から報告がある」

「冒険者代表として、ホランド・アウリアより報告する。昨日午後六時十一分頃、『禊の楔』が十四個、同時に赤色点灯した」

 …………。

 赤色点灯……つまり、禊の楔が働いた。

 あれの効果は、関連付けを行った人が死んだときに赤く光る、だから……え?

 じゃあ、十四人一気に死んだってこと?

「そしてその後、赤色点灯が急激に増加。……六時十一分から、二十分にかけてのおよそ十分間で、赤色点灯が確認された『禊の楔』は計百十六。これは当時、大迷宮内部に居た冒険者の数と一致する」

 はい……?

 えっと……ちょっとまてよ。

 十四人一気に死んだ。いや、これも大概わかんないけど、でもまあ、大迷宮なのだ。即死性の強い罠もあったのかもしれない。

 けど……え?

 百十六個が点灯した?

「全滅……?」

 思わず口に出してしまった僕のその失言に、しかしホランドさんは頷く。

「そう。全滅だ。その時間帯に大迷宮に挑んでいたすべての者が死亡した。あの中で、何かが起きた――それは間違いないのだが、それが何なのかまでは断定しかねる。死体の回収もできておらんでな」

 どこかやさぐれた様子で、ホランドさんは言う。

 ……無理もないだろう、百十六人。

 パーティごと、全滅って……。

「ということだ。……『ヒストリア』殿、該当する時間帯、特に何か特別なことが起きたということは?」

「ありません。その時間帯に限らず昨日は、特段、大迷宮内部については……。ヨーゼフ・ミュゼ殿、魔力に何らかのゆらぎのようなものは観測しましたか?」

「……魔導師として答えさせてもらうが、魔力のゆらぎのようなものは観測していない。ただ、大魔法に類する魔法の発動はあったはずだ。厳密な時間までは特定できないが、日が沈んだころだから、時間的には午後の六時過ぎ。関連性は否定できないけど、積極的にそれが原因だとも断定はできないな」

 ふうむ……僕には全く分からなかったけど。

「あまりに唐突。まだ第一層の探索さえ、初期段階。まさかこんな状況で、これほどの被害が出るとは。何かの間違いであってほしいが……」

「現実は現実。起きてしまっているのだ、受け入れるしかない――我々がするべきは、今回の真相追及だろう」

 円卓の皆がそれぞれの形で同意を示すと、では具体的にはどのように真相を追求するのかという話題に。

 この話題はすぐに終わった。

 というのも、

「現時点では考えられる可能性が多すぎる。もう少し絞り込みができる状況にならなければ議論の余地もない」

 というホランドさんの言葉がすべてである。

 ただし、

「大迷宮に何らかの、極めて悪意と殺意に満ちた罠があることは確かだ。それを踏まえて、冒険者にはより強く注意をさせるしかないだろうな……」

 とも。

 …………。

 んー。

「でも、死因が毒だとしたら僕の責任ですね……納品している毒消し薬は全部特級品であることを確認していますけど」

「……いや、その件については君の責任ではない。およそ毒消しで得られる最高品質のものを君は常に提供してくれているからな。……問題は、むしろ冒険者側にある」

 うん?

 なんで?

「どういうことですか?」

「……普通、特級品の毒消し薬などというものは使い勝手が悪いのだ。効果が高すぎる――そこまで高い効果である必要がない。それならば、多少品質が落ちても回数を使える方が……となるのだ」

「……まさか、薄めて使ってると?」

「…………」

 沈黙で答えられてしまった。

 まあ、そういう使い方も別におかしくはないんだけど、全員が全員……、それが冒険者の慣習だったのか?

 だとしたら確かに僕の責任じゃあない、けど……。

「まだ、毒死と決まったわけでもない。だから、まだ君が責任を感じる場合ではないし、もし毒による死亡だったとしても、君が作る毒消し薬は最高峰だ。それを悪く言うものは居ない」

「……そうですか」

 それでもなんだか責任を感じるなあ。

「その点の払拭のためにも、とりあえず、死体をいくつか引き上げて検死する必要があるだろう。設備の方は?」

「仮施設の隅に用意しています。収容数は十体と少なめですが」

「では、第一階層の探索を中断させて、死体の回収を優先させます」

 やみくもに進んでまた全滅されてはかなわない、とホランドさんは首を振りながらそう言うと、他の面々もうなずいた。

 んー……。

「検死は騎士が行えるが、どうする。国立学校側から人員は出すか、カティア殿」

「そうですね。その方がいいでしょう。……三人ほどギルド『モラトリアム』を通して送りますので、そちらで管理してください」

「承知した」

 これで一通り話題が終わったと判断されたらしく、結局、第四回の円卓はこれで解散となった。

 解散後も、僕はちょっとだけ椅子に座ったまま考えて。

「どうした。行くぞ、カナエ」

「……たとえどんなに薄められていたとしても、僕の毒消し薬が効果を出さなかったならば僕の責任でもあるんだよね」

「あのさ。ホランドさんも言ってたけど、使い方を護らなかった方が悪いんだ。お前は悪くない」

「それは……そうだけど。でも」

 なんか引っかかるんだよなあ。

 まあ、これは時間が解決してくれるだろう、とは思うけれど。

 僕はそんなことを考えながらも議場を離れた。


 ……のだが、第五回の円卓はそれから三時間もしないうちに開かれていた。

 五体の死体回収に成功し、検死が始まったためである。

 で、その検死結果の速報として出てきたのは、次の三つ。

 一つ目、死体には共通して、焼け焦げたような傷があったが、迷宮内部に火の手が上がった形跡は無し。

 二つ目、鎧を着ていた者は、その鎧の下が特に強く焦げていた。

 三つ目、やけど以外に目立った外傷はない。

 感電か、それとも急激な温度の変化か。

 前者にせよ後者にせよ、防ぎようがないな、コレ。

「緊急脱出ができなかった原因は、検死では不明か」

 ヴィクトリアさんがつぶやくと、円卓の大半がそれに頷いた。

 あれ?

 ちなみに頷かなかったのは僕と洋輔、あとは冒険者代表ホランドさんと次席ヒストリアことノートリアスさんである。

「……ふむ。妙な組み合わせで、心当たりを持ったな」

 ホランドさんが苦笑を浮かべつつ言う。確かに……。

 少し考えれば、この場合は推測できる。

「熱にせよ感電にせよ、喉がやられたんでしょうね。どっちかはわかりませんが」

「熱、のほうだろうな。感電だとしたら、ほとんど同時に全員が死んでないとおかしい」

 それもそうか。

「迷宮に火の手が上がった形跡は無し……とはいえ、迷宮自体が熱を持った可能性が残っていますし、そういう『事例』はいくつかあります。もっとも、それは罠を踏んだ時、迷宮の防衛機構としてそれは発動しているのですが」

「だとすると、冒険者の誰かが罠を踏んだ。その罠が悪質で、下手をすると迷宮丸ごとに効果を及ぼすものであり、その結果、迷宮内の温度が急激に上昇した……か」

「瞬間的なものだったのか、それともある程度時間が続いたのか、ってところも気になりますよね」

「それと、今回限りの罠だったのか、それともまた発動する可能性があるのか。そもそも本当に罠だったのか、それとも大迷宮が持つ特性のようなものなのか」

 うん、と先ほどの『妙な取り合わせ』としての四人が、それぞれ言って今度はうなずく。

 まあ、考える人を増やすべきだ。

「僭越ながら、魔導師として俺が説明します。まず、その冒険者たちが緊急脱出をできなかった理由は、おそらく単純明快です。『詠唱できなかった』、ということ」

「詠唱できない?」

「緊急脱出の魔法は、誰にでも使えるような単純化を施す――にあたって、『詠唱』の技術を取り入れています。今回そこでその魔法を発動するキーワードは『エスケイプ』に指定していて、この単語を効果が有効化された範囲内で発声することで、その魔法はシステマチックに発動する。逆に言えば、それを発声できなければ魔法の発動はかなり厳しい。無理と断言はしませんが、魔導師でも厳しいかと。そして今回、冒険者たちを襲ったのは、推定ですが、『高熱』。一瞬で喉が焼けるほどの……ね。喉が完全に焼かれていないとしても、肺までやられていた可能性はある。そうなると呼吸するのも辛い。これは推定でさえない推測ですが、即死した六名が罠を踏んだ六名で、おそらく極めて高い高熱によって即死した。その熱が逃げたか分散したか、ともかく連鎖的に迷宮内部に熱が伝わった。他の場所にいた冒険者たちは即死こそしなかったけれど、喉・気管・肺などがやられた。だからエスケイプを使うことができず、とにかく最低限の治癒を試みた。その熱が瞬間的なものならば、その後改めてエスケイプをしているでしょうから、おそらくある程度の時間を伴うものだったのではないでしょうか。ポーションやエリクシルを使い果たしてもなお、回復魔法などでなんとか喉などを癒していたけれど、結局は魔力が尽きた。今わかってる情報から強引に導き出すなら、こんなところかと」

 耐熱系の魔法もないわけじゃないけれど、高等魔法ですからね、と洋輔は補足する。

「そしてその上で、冒険者代表として説明を追加しよう。迷宮で発見される罠には三種類ある。一つ目、単発式。一度発動したら二度と発動しないタイプの罠で、迷宮で発見される罠はこれが最も多い。二つ目、再現式。その罠が発動する条件を満たす限り、何度でも発動するタイプの罠。発見される度合いは少ないが、多くの場合、致死性の罠だ。三つ目、条件式。厳密には罠ではなく迷宮そのものが持つ特性(ギミック)とでもいうべきか。何らかの条件が満たされたときに場所を問わずに発動する現象……このタイプの罠はまず滅多に確認されるものではないが、大迷宮ともなればいくつかはあってもおかしくない。もっとも、条件式かつ致死性の罠は聞いたことがないがね」

 つまり、単発式の罠か、あるいは再現式の罠である可能性が高い。

 単発式ならば大丈夫だけど、再現式だとまた、同じようなことが起きる可能性がある――という、警告か。

「イスカ殿。木霊札(こだまふ)は調達できるか?」

「……私には作れないな。だが、弟子の何人かが作れる。そこに確認を取りたいので、十五分ほど時間をもらいたい。よろしいか?」

 イスカさんの提案は異議無しで通され、第四回にして円卓は初めての休憩時間をとることに。

「マリージア。それと、カナエくん。隣室に」

「はい」

「わかりました」

 そして当然、イスカさんに呼ばれたのは、僕とマリージアさんだった。

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