103 - 想定する円卓たち
結局ノルちゃんはまともに取り合ってくれなかった。
まあ、別に信じてもらう必要はないので、結局その場は適当に流しつつも、やらかしてしまったことにどう対処するべきか、と考える。
ぶっちゃけると薬草が突然生えただけなので、ちょっとした奇怪な現象が起きたね、で済ませてもいいんだけど……。
「いやよくねえよ」
「ううん、今回に限れば本当にそれでいいんだよ」
「…………」
「だって、クイングリンと豊穣の石で薬草が作れる……ってことを知ってるのはごく一部でしょ。寮どころかこの学校でも、それこそあの図鑑を見れる立場の人くらい。各学長を除けば、マリージアさんと、よくてトーラーさん……かな。だから、『なんか妙なことが起きた』、で、『どうもこの寮だけらしい』ってわかっても、僕たちが原因だとはだれも思わないよ」
「『僕たち』って、俺も巻き添えかよ」
「死なばもろともってやつだよ」
「それを言うなら一蓮托生だし、それにしたって俺が言う方で、お前がいう類の言葉じゃねえからな」
文句を言いつつも、洋輔は首を軽く数回ふって、まあいいや、と納得してくれたようだった。
さすがは幼馴染。
僕がこの手の方向で『押し通す』と決めたら引かないことくらいはお見通しか。
「でもさ、佳苗。もう一人知ってそうな奴がいるけど、その辺は良いのか?」
「え、誰?」
「ニム」
あー……。
『ヒストリア』、か。
確かに、知っててもおかしくはない……。
「でも、ニムなら『ああ、またまたあの二人が何かやらかしたんだねえ。やれやれとは思うしどうかなあとも思うけれど、あの二人らしいと言えば二人らしいミスなんじゃないかな?』とか言って、あんまり深くは聞いてこないんじゃないかな?」
「……だと良いが」
そうであってほしいものだという願望の方が強いけどね……。
「実際問題さ」
「うん」
「放置するしかないんだよ。この状況でいそいそと回収に行ったら、この妙な現象の原因が僕たちだ、って一発でバレるし。錬金術を使ってどうにかするにしても、それは変わらない」
「まあな」
だからまあ、寮の周りに突然現れた薬草を不信に思ってるふりをしておくのが最適解だろう。
この失敗は糧にして、次に生かさないと。
そんなことを考えていると、
『ん……お二人さん。ご主人が呼んでるよ』
「えっと、カティアさんが? どこに?」
『どこにって、円卓に決まってるだろう。日も改まったし、第三回の円卓を開くということじゃないかな?』
「それもそうだな」
ようするに、あの薬草をどうにかする時間的余裕もないわけで。
しかたないよね。
「少しは悪びれろよ……」
洋輔はあきれた様子でそう言ってきたけど、まあ、無視。
さて、三回目の円卓ともなると、いい加減僕たちの場違い感にも皆が慣れてきたようで、特に奇異の視線が集まることもなかった。
まあ、
「カナエくん。……話は、聞いたけれど」
「何も言わないでください、イスカさん。反省はしています」
というやり取りはあったけど、深く聞かれる前に全員が集まってしまったので、第三回円卓が実施。
今回はあらかじめ、資料として六枚の紙がそれぞれの席に置かれていた。
ただし、僕たちが座っている九時の席には二セット。ありがたい心遣いだった。
「それでは、第三回円卓を始める。まずは一点目。手元の資料を確認してもらいたい。大迷宮踏破にあたり、大まかな動員人数の概算が出た」
一枚目によると、騎士は合計二千七百名。
これを三交代制で任に当たらせる、とかいてあるから、実質九百人ずつといったところ。
多いのか少ないのかまるで分らないというのが実情だけど、ノルちゃんの『へえ、奮発するねえ』というようなしぐさを見る限り、どうやら大規模な部類のようだ。
で、指揮系統とかもそこに書かれていて、二枚目には騎士に与えられる任務の概要が書かれている。
前線維持――つまり、制圧を終えた場所に拠点を構え、その拠点を維持することで、冒険者たちがいちいち外に脱出しなくても休息できるようにするようだ。
三枚目からは冒険者たちについてが書かれていて、初動隊として依頼は四百二十件出されるらしい。
四百二十というと、騎士と比べて妙に少なく感じるけど、これは人数じゃなくて件数。
一つのパーティが四人から六人、平均値で五人として考えると、その五倍だから二千人を超えている。
しかもこれは『初動隊』であって、規模に応じてどんどん増やす予定なんだとか。
そう考えると、最終的に大迷宮に挑むのは何人になるのやら、だ。『禊の楔』であれほどまでに数が要求された理由も、なんとなく理解したり。
でもって、依頼一件あたりの報酬についても記載があった。
この報酬については、国庫から捻出されるらしい。そのための補正予算がどうこうとか書いてある。
四枚目には特例として依頼を与えた冒険者について。
これは要するに、積極的に国側から依頼を受けてくれ、と打診した相手で、事実上この国のトップランカーということなのだろう。
その中には『ロード=ガーディアン』と、称号付きの人物が。
もしかしなくてもあの大盾を持ってたロードさんっぽい。この国でも有数、とかお母さんたちは言ってたし。
別に意外でもなんでもないか。むしろ納得したほうがここでは適切だろう。
で、ここに書かれている冒険者はたったの八人。
パーティ単位では書かれていないことを考えると、それぞれがパーティを引っ提げてくるのかもしれないし、こっちで合流して組み分けするのかもしれない――というか、その合わせ技かな。
どのみち、冒険者のやるべきことは冒険者が一番よくわかっているはずだし、そもそも僕たちが口出しするような事でもなかった。
次、五枚目には供給されるアイテムのリストとレート。
品質面ではポーション、エリクシル、賢者の石はそれぞれ一級品、毒消し薬と白露草は特級品。
レートはそれぞれ市場価格に消費税くらい加算されていて、ちょっと割高感がある。
が、それはあくまで購入に限った話。
迷宮踏破を志す者には例外なく『禊の楔』が渡されて、それと関連付けて賢者の石を除く各種回復アイテムの補給を要求できる。
補給代は金貨一枚で一セット、ポーションが五個、エリクシルが一個、毒消し薬は三個。
一度に補給の要求が可能なのは一人五セットまでと制限はつくけど、かなりのお得感がある……ように見えるが、実際にはこの金貨一枚で自由に使えるのはポーション一個だけ。それ以外は『レンタル』なので、基本的には返却しなければならない。
レンタル分を返却できない場合は、使用したとみなして前述された割高価格で支払いが必要だ。
支払い能力がない場合は依頼報酬から天引きされ、天引きできなくなった場合(つまり報酬分を先に使い果たしてしまった場合)、その人物に対する依頼は打ち切り。
以降の挑戦には報酬無し、かつ補給も無しで、実費購入に限られるそうだ。それでも挑戦したいならどうぞご勝手に、という感じがありありとしている。
最後に六枚目、管理責任について。
これはつまり、騎士と冒険者の間をどのように取り次ぐかとか、死者の扱い、生きてる人に対してもどのような待遇がされるかといった基本的な事はもちろん、補給品とされるものたちを誰がどこで供給して、どうやって運ぶのかという点にも記載があった。
で、僕と洋輔の名前がこの六枚目に若干ぼかされる形で書かれている。僕はポーションとかを作るからまだわかるけど、洋輔はなぜ?
と思ったら、緊急脱出を儀式ではなく大魔法として使った経緯から、らしい。要するに発動しなかったら僕たちの責任だからな、と。
ううむ、結構厳しいぞ。十二歳児、しかもこの世界では学校で教育もされていないこの状況の子供に何を期待しているのだろう、この世界の大人たちは。
「踏破計画について説明を補足する。踏破の段階は、次の三つ。第一段階、規模の把握――第一層はすべての通路、すべての部屋を調べつくし、迷宮の範囲を仮に把握する。この時、緊急脱出の範囲に変更が必要があればそれを行うこと。第二段階、迷宮範囲の確定――第一層の外周部と同等範囲にあたる第二層を踏破、これによって拡張型・拡縮型・真柱型の確認を行い、迷宮範囲を確定する。第三段階、測定に基づく踏破」
説明に合わせて、円卓の上に現れている図で拡張型、拡縮型、真柱型という三つの概念の概略図が表されていて、まあわかりやすいのかな。
拡張型は、下の層に行けば行くほど範囲が広がるタイプ。地面を頂点とした△の形が近い。
拡縮型はその逆、下に行けば行くほど範囲が狭まるタイプ。地面を底辺にした▽の形。
最後に真柱型というのがでてきたけど、これはその名の通り□の形。
「ここまでで質問は?」
「はい」
挙手して質問。
「えっと、例によって知識不足で申し訳ないんですけど。拡縮型と真柱型ならば、迷宮範囲の確定は前述の通りでできるでしょう。けれど、拡張型の場合はどう確定するんですか?」
「拡張型の場合、拡張される角度が決まっていてね。三十度、四十五度、七十度の三段階だ。……角度はわかるね?」
「はい」
「で、その三段階のどれかを調べれば、計算もできる。迷宮の階層には限界値があるから、その最大値で計算すればいい」
「なるほど」
僕はうなずき、それでもやっぱり疑問は疑問として残るわけで。
「その迷宮の限界値って、大迷宮にも適応できるんですか?」
「…………」
なぜ黙る、セキレイさん。
そこは断言してほしいのだけど。
「……うむ。まあ、そこが懸念事項ではあるのだよ。大迷宮には前例が一つしかない。その前例と照らし合わせて、今回の大迷宮はそれに匹敵するだろうとは考えられるが、どこまで参考にできるかと聞かれれば疑問符が付く。そもそも大迷宮が『極端に大きな迷宮』なのか、それとも『迷宮に似た性質の別の何か』なのかさえ、わかっていない」
「ということは、最悪の場合、拡張・拡縮・真柱のどれでもない可能性もある……?」
「……どれでもない、とは?」
「たとえば、五階層まで狭くなる拡縮型で、六階層は五階層、七階層と同じ広さ、七階層から拡張型みたいな。砂時計みたいな形になる可能性ですね。その逆に菱形みたいになる可能性とか」
「…………」
沈黙で返されてしまった。
つまり、否定はできない……ということだ。
「そのあたりはどう判断するか。悩みどころではあるな。一応、第二段階で仮に確定した後でも、マッピングは行うから、そこで妙であるならば改めて検討……だろうな」
ふうむ。
大雑把にでもなんか、ディティールがわかればそれが一番……、ディティール……?
地中透視みたいな。
いや、できたらとっくにやってるか、そんなの。
「ともあれ、円卓はもちろん、騎士と冒険者で連携を密に検証をしていこう。後世のためにも、まずは我々が目の前のこれをどうにかしなければならないのだから」
セキレイさんはそう場を締めた。うん、まあ、変に不安をあおっても仕方がない――今はできることをやるしかない。
「冒険者側からも一つ確認を。今日の昼をめどに、冒険者に対して以来が発表される。以降は手続きを終え次第、現地へ向かわせるが、設営はどの程度完了しているのだ?」
「今朝、この場に来る前の段階で、八百人規模の簡易宿泊施設が敷設完了しています。それを拡張し、直近七日以内には三千、当初目標はその数字です。必要があればさらに拡張は可能な設計にしてあります」
冒険者代表のホランドさんの問いかけに、騎士の調整役、トゥーリスさんがしれっと答える。
三千人規模の宿泊施設って、そんな短期間で作れるものなのだろうか……?
タープもなかったのに。
「首都から近いこともあり、食料面の供給も滞りはありませんから、即日受け入れが可能です。『禊の楔』などの支給品に関する手続きの処理もすでに準備は終わっています」
「ならば、明日には大迷宮の調査が可能だな」
「はい」
今日はさすがに無理ってことかな?
だとしても、二日三日でよくもまあいろいろと人を集めたものなんだろうけど。
「ポーションなどの支給品も、今日中にまとまった量を用意する。その後は必要量に合わせて供給を調整する形になるだろう。ただし、あまりにも迷宮が過酷である場合などについては、円卓での協議の上、供給を増やす可能性がある。錬金術師側との協議も必要になるがな」
その場合は事実上の値下げだ、とクァドさん。
死人は少ないに越したことがないし、反対するつもりはなかった。




