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「さて。シャーリー嬢。今回は我が伯爵家が大変な失礼をした。このまま婚約関係を続けるのは君にとって辛いに違いない。後で使者を送って、正式に婚約破棄を申し込もう」



勿論自分の有責で、と朗らかに笑うその目は獲物をいたぶるような獣の瞳によく似ていて、悔しさに噛んだ唇に血が滲んだ。

私はこの屋敷に乗り込むと決めた時、同時に覚悟もしていた。

あの暴漢・・は間違いなく伯爵家の男。

ならば、小手先の誤魔化しをしたところで間違いなく私は罪を被せられる事になるだろう。

そして、運良く見逃されたところで、貴族を殺したという事実は一生私を強請る種となる。

婚約破棄すら、次の一手なのだろう。

行く末が処刑台なら、私を殺す為に策を練った相手のところに乗り込むのも同じ事。

ーーならば。



「貴方に責があるとしたら、お義父様の懐中時計を暴漢に盗まれ、管理不行届ゆえに屋敷を不当に使われていた事くらいですわ」



この男から、離れてはならない。



「ただ、不運が重なってしまっただけなのです。だからそのような悲しい事は仰らないで?私は大丈夫です」



この狂った男に縋り付き、縋り付き、いつか情で絡め取るしかーー私に生きる道は、ないのだ。






私がどんな覚悟で自分の前に立っているのかを正確に理解したように、青年は一瞬目を瞠り、それからくつくつと笑った。

徐に膝をつき、私の手を取り口付けると、捕食者の瞳のまま微笑んだ。



「シャーリー。僕は君の勇敢で聡明なところはとても好ましい。僕の怠慢(・・・・)によって君に与えてしまった苦痛は、僕が一生かけて償っていきたい。どうか僕と結婚してくれないか」



少女なら誰もが夢見るプロポーズの言葉。

伝統に従うならば、次に続くのは愛を捧げられる理由。

女は、生涯それを磨き続けて行く。

容姿、心根、才覚。

遠い日に夢見た言葉達。けれども私に求められるものはそんなものではないだろう。



「伯爵様はどうして私を望んでくださるの?」

「シャーリー・ウッドという存在を、愛したいんだ」



そう。この青年が求めるのは、私。

屈服させられた、王族の血を引く従順な私。

次のお愉しみの母体。

王を産む、器。



「今日ここに誓おう。僕は君だけを愛するよ。君はこの国で最高の女性だ。君以外に手を出す意味なんてないんだよ」



穏やかな笑みで告げる宣言に、背筋が冷えると同時に安堵した。

この男は、この愉快犯は、今この時を持って王家を手に入れる。

脈々と続く王の血筋。

二人の間に子が出来るまでは、何があっても私に害を為さないだろう。

子孫が、血筋がどんな風に穢されようが貶められようがどうでもいい。

私は、今、生きてさえいられるなら何でも良い。

いつかはこの男も私の命を狙うだろうがーーー少なくとも、それは今ではない。





王家の落胤、シャーリー・ウッド。

この大層な看板にも負けない、王家特有の蜂蜜色の髪と澄んだ空色の瞳を持つ美貌の少女は、にっこりと笑いながら男のプロポーズを受けた。

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