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【書籍化】迷宮見廻りバズ・ニンジャ  作者: ヤマモトユウ(スケ)
一之巻:横暴腹黒幼馴染配信者からクビにされた裏方モブ忍者が、ギャルのサムライに拾われて真の居場所を見つける話。

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第68話 上杉姫虎の帰還



『かわ。はいらないの?』


 伊賀の奥里にある、山間の川辺に、二つの小さな人影があります。

 私はその光景を、ぼうっと眺めていました。

 ――ああ。これは、幼い日の思い出です。

 男の子が、女の子に問いかけたところのようです。


『……こわいもん。また、おぼれちゃう』


 女の子が応じます。

 走馬灯でしょうか。懐かしいですね。

 女の子は、川遊びの最中に溺れて、水が怖くなってしまって。水に入れなくなった時期が、あったのです。


 呼吸のできない水の中。暗くて冷たい、川の底。男の子が助けてくれなかったら、ずっとあの暗くて冷たいところで沈んでいたんじゃないか。そう思うと、水が恐ろしくて……。

 でも。


『だいじょうぶだよ。また、ぼくがたすけてあげるから』


 男の子が、そう言って微笑みました。

 この頃はまだ、心を冷静に保つ修行が始まる前で、表情が豊かでしたね。


『……ほんと? たすけて、くれる?』

『うん。にんじゃは、こまっているひとを、みすてないんだ』


 そう。

 ただただ純粋な忍者への憧れだけを胸に抱いて、男の子は言うのです。


『だからね、ひめこちゃんがおぼれていたら、なんどだって、ぼくがたすけにいくよ。それが、にんじゃだもん』


 男の子がそう言った直後、風景が遠のきます。

 ものすごい勢いで、私はどこかに引っ張り上げられて――。


「――返してもらう!」


 男の子は、そう言いました。



 ●



 ダンジョンクリアに伴って、私達は外部に排出されました。

 ダイブドレスの魔術的防護が働いたのか、溺死寸前だったはずなのに、ぼんやりと意識はあって、場所が東京地下の廃線路の上だとわかります。


 すぐに、ダンジョン入り口を固めていた警官隊や公社職員によって、私達は保護されました。私は救急搬送されるらしいです。当然ですね。呼吸のできない暗闇に呑まれて、溺れていたわけですから。


「姫虎! 姫虎、しっかりしろ! 姫虎!」


 段蔵が、ストレッチャーに乗せられた私の顔を覗き込んでいます。忍者修行の賜物か、表情はいつも通りですけれど……、心配してくれているのだと、いまならわかります。

 だったら、応えないと。鉛みたいに重たい手を持ち上げて、なんとか、段蔵の頬に触れます。全身全霊の力を用いて、唇を抉じ開けると、かさついた声がこぼれ落ちました。


「やっぱり、段蔵は……」


 彼の横には、ものすごく心配そうな顔の女の子が、ひとり。忍者とは正反対で、なにも隠す気がなさそうです。年下なんですっけ。顔も体も傷だらけで、おなかには血が滲んでいます。

 ろくに会話もしていない私のために、命懸けで戦ってくれた、心優しい女の子。嫉妬しちゃうくらい、いい女ってやつです。


「……ううん、あなたたち、ふたりは――」


 ああ……、やっぱり好きだなぁ。このふたり。

 シンプルに、そんな気持ちが湧いてきます。そりゃあ、恋敵だと思っていますし、泥棒猫なのは間違いないですし、クラスが一緒でも絶対にお話ししないタイプのギャルですけれど。


 でも、それはそれとして、『迷宮見廻組』が私の推し(・・)であることは、確実なのです。だって、こんなにもお人好しで格好いい二人組、好きにならないほうがおかしいでしょう?


「――私の、ヒーローです、ね」


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