悪徳商人、黄金の卵を見つける
新作。
代表作品である「教会騎士アルトの物語」の、更新が著しく遅くなるので箸休めにこちらの作品を楽しんでいただけたらと思います。こちらは、1日1回の更新となります。
曇天模様の空から、体温を奪うような雨が降り始めた。その中を小太りの中年男が、腹回りの贅肉を揺らしながら従者と一緒に走る。
「ぜぇ、ぜぇ。まったく、大臣は話が長いわ。さっさと賄賂を受け取ればいいものを――商売じゃなければ奴隷小屋に放り込んでおる!」
「旦那様、滅多な事をおっしゃらないでください。聞かれたら、俺まで打ち首じゃないですか!」
トラヴィオ商会会頭【トラビィオ・グリモール】は、従者【ジーオル】の保身の言葉に舌打ちをする。世間では『良き商人』と称えられるが、本来の彼を知る者は眉を寄せるような事をする商人として有名だ。いわゆる、悪徳商人。
「まぁいい。これで軍需物資の方はワシが取り仕切れる。戦争も近いんだ、大儲けするぞ!」
他国の商人と結託して、この王国を襲う戦争の未来にトラビィオはほくそ笑む。自慢の紫生地の高級ローブに染みる泥は、王国の末路を思わせた。
店への近道と、路地裏を走ると不思議な気配を感じて立ち止まる。本来なら警戒して逃げるが、トラビィオの心を騒がせる何かがあった。そして、少年期から苦労して今の地位まで上り詰めた商人の勘が告げた――儲かるぞ、と。
「旦那様、子供がいます!」
周囲を探して見つけたのは、ボロ布と化した服を着た少年だった。少年は、鼻を押さえるほどの異臭を放ち、息は荒く、体が冷え切っている。
「そんな死にかけ、捨て置け。他にないのか?」
「……一度、眼鏡で観てください。無ければ、このままにしますから」
ジーオルの懇願に不快感を表しながら、懐から金縁の眼鏡を取り出す。審美眼を高める魔法が掛けられた、グリモール家の秘宝だ。
「――お前が、正しかったな。そいつを助けてやれ」
ジーオルは嬉しそうに笑い、先に店へと走る。
魔法の眼鏡越しに見た少年は、目を細めるほどの輝きを放っていた。
◇
少年は、パチリと目を開いた。暖炉の熱が部屋を満たし、寝心地の良いベッドと自分に重ねられた毛布が、少年を温める。
汚れた体は、村で暮らしていた頃より綺麗になっている。魔法で燃やされた家から聞こえた悲鳴や、後ろから迫って来る騎兵の槍。そして、冷たくなった家族の亡骸が全て夢だったかのように思えた。むせび泣いていると、青年が入って来た。
「起きたか。具合はどうだ?」
見覚えのない男に少年の緊張が高まり、体が震える。青年は両手を上げ、大丈夫だと伝える。
「うちの店の裏で、君が倒れていたから保護したんだ。名前は?」
「……ユリウス」
「男らしい格好良い名前だ。俺は、ジーオル。トラビィオ商会の従業員。よろしくな、ユリウス」
大きな手がユリウスの輝くような金髪を優しく乱した。頭の上に乗る手の温かさに、堪えていた涙を溢れさせた。
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