第9話 変な女
真っ白な長い髪の女性が従者を連れてやってきた。女性は赤い瞳の透き通るような肌で。小柄だが幻想的な美しさを持っていた。異世界人って感覚。
従者は青い鎧を身に着けていた。火の入れ具合で青い鎧が作れるとこちらの世界で聞いたが、とても技術が要るのだろう。そういう鎧は極めて高額だ。おそらく、本人も名のある者だろう。
ヘイゼルがまだベッドから起き上がれない俺の前に椅子を二つ用意する。
「さてっと、どうしてあんなところで死にかけていたの? 教えてくれるかな?」
「え……」
「聖女様! 言葉遣いが!」
ヘイゼルに至っては唖然としている。イメージぶち壊しだ。
「いいじゃない。どうせ外では喋れないような事情でしょ?」
「他言無用だ」
従者は俺たちに釘を刺す。
「お、俺はその……エイリュースという王国の元騎士団長……だと思います」
「ほんとにぃ? エイリュースって本名? 何歳?」
なんだこいつ。ズれてない?
「ご本名です。エイリュース・ユーラス・フォル・ドバル様です」
「そんな名前だった確か」
ヘイゼルの言葉にうっかり本音を漏らすと、聖女様と従者は疑いの眼差しを俺に向ける。
「お年は22です」
「えっ、そんな若いんだ」
ますます微妙な空気になる。
「なるほど、だいたい事情はわかった」
えっ、わかったの? 今ので? いや、従者さんも口を開けてるぞ。
「あなたが王国の元騎士団長で、命を狙われ追われていたことは既に聞いてます――」
聖女様は居住まいを正す。
「――ですので、私はあなたをお助けします」
「「「え!?」」」
いやちょっと話早くない? 従者さんも驚いてるよほら。
「お待ちください。貴女様には北のルイビーズの聖女というお立場があるのですよ」
「知らないよそんなの。勝手に祀り上げたんじゃない。それにルイビーズの祭司様も、――あまねく世界に癒しを――と仰られました。そのための周遊ではございませんか」
「(なんかこの聖女様変わってない?)」
変な女以上の感想が無い。
「(ちょっと不思議な方ですね)」
俺たちが囁きあっていると
「ちょっとそこ、二人で仲良く内緒話しない! で、返事は?」
「えっ」
「あなたをお助けします」
「あ、どうも」
「どうもじゃない」
「ありがとうございます」
「よろしい」
助かったはいいが、妙なのと知り合ってしまった。
◇◇◇◇◇
俺たちは移動中の聖女様に助けられたようだ。そしてここは北の辺境領で著名な大店の屋敷だそうだ。聖女様と聞いて部屋を貸してくれたらしい。それにしても豪華な部屋だな。さすが聖女様だ。王都でのルシャの扱いがすごいのも納得できる。
聖女様は再び《癒しの祈り》を施してくれる。完全回復とは言わないが、かなり体調は良くなった。
「《蘇生》はしばらくは体がまともに動かないのでそのつもりで」
「ありがとうございます。ところで、俺……騎士団長の話をどこかで?」
「ん?」
「や、助けてくれるというからには騎士団長と何か関りがあるのかなと」
「ないよ、そんなの」
「えぇ……」
従者さんを見るが無言で首を振る。よかった。仲間がいた。おかしいのは俺じゃない。
「ね、ところでルシャって誰? 王都の聖女って聞いたけど」
「婚約者……みたいな」
「えっ、どっちの?」
「どっちの??」
「う~ん、まあいいや。夜に寝室に来なさい。そこで話しましょ」
「「「ええ!?」」」
とんでもないことを言いやがった聖女様は、従者にいろいろ小言を言われてるが気にした様子もない。それどころかあなた居なくていいよとか言ってる。
聖女様はその後、町の人々を癒すからと出て行ってしまった。
ヘイゼルに聞くと、助けてくれたときはもっと落ち着いた神秘的な雰囲気の人だったという。そして崖から落ちた直後に通りかかったせいで、追っ手も追撃できなかったようだ。何か、豊穣神の介入のようなものを感じる。
とにかく、両足と首が折れ、背中から腕から裂傷だらけの俺を事情も聞かずに蘇生させてくれたのだそうだ。ヘイゼルにはまた泣かれた。彼女は擦り傷ひとつ無かったそうだ。さすが俺(の魔女の祝福)。
感想たいへんありがたいです。
完結したので設定予想・展開予想は自由に書いてくださって構いません。




