第10話 そうだね、キモいね
部屋で夕食を終えた俺は、ヘイゼルに身支度を整えられ聖女様の部屋に向かう。と言っても隣だが。そして夜の身支度なのだが。
ヘイゼルがノックをして声をかけると部屋の戸が内側から開けられる。奥のベッドには寝間着姿の聖女様がいる。ヘイゼルは何も言わずにお辞儀をして俺を送り出した。
えっ、ついてきてよこわいよ。
ベッド際のテーブルには果物に焼き菓子、それから杯がひと組置いてある。
「あのう」
「立ってないで座ったら?」
ぽんぽんとベッドを叩く。
「はい……」
俺はおそるおそるベッドの隅の方に座る。
「どうしてそんな畏まってるの? 彼が気になる?」
聖女様は従者を顎で刺す
「大丈夫大丈夫。あの人ならいきなり始めちゃっても何にも言わないから」
何を始めるんですかねぇ、この人は。
「これは独り言ですが、その場合、貴女は聖女ではなくなり、私は無事、解任され自由の身となります」
従者さんがすました顔で言う。
「えっ、聖女ってそこまで?」
「ルシャちゃんはドコ聖女よ。ルイビーズの聖女の貞淑はそんなもんよ」
「え、多分だけど地母神様」
「じゃあ祝福を受けたトコの差ね。私は北の国で祝福を受けたから同じタレントでも条件が違うの」
「へぇ……そうなんですか」
「さっきも聞いたけどどうしてそんな畏まってるの? わかってるのよね?」
「何がでしょう」
「鑑定よ。ついてるでしょ?」
「鑑定はその……賢者の祝福が一緒に付いてこなかったって言うか。魔女だけついてきたっていうか。ていうか何で知ってるの?」
「鑑定って賢者についてるんだ。ってゆーか何よそれ! ちゃんとついてないと証明できないじゃない!」
何を言ってるんだこの子は。
「よくわかんないけど女神様関係の方?」
「はぇ? 遥よ。彼女だったのにもう忘れちゃったの?」
「なん……だって……」
今、ハルカと言ったぞ。いや、転生しているとは聞いていた。聞いていたが何故ここで出会って、さも当たり前のように俺を助けているんだ。そして当然のようにこっちが知ってるという前提で話している。
「やや、顔とか全然違うからわかんないし」
「あー、そっか。転生だもんね」
「それはハルから聞いた」
「川瀬君に会ったんだ。私、王都で生まれたけど小さい頃に売られちゃって、まだ会えてなかったの」
「よく生きてたね……酷い目にあわなかった?」
「そこは大丈夫だったかな」
「――まあ、とにかく分かれと言われても……」
「何でよ。運命的なもの、好きだったでしょ? どうしようもないくらいロマンティストだったでしょ? 私は13年かけて探して巡り合えたのよ」
「そうか。そうだったんだ……」
「素敵だって思わなかった?」
「思った」
「よかった」
「でも、そんなことのために転生したの?」
「そんなことなんかじゃないよ。大好きな幼馴染が胸にこ~んな穴開けて苦しんでたんだもの」
彼女はあの白い空間でのことを言っているのだろう。
「あと!」
「――あとその、……あんたが変なこと言ってたから」
「ああ、変なこと言ってたね。ハルとアオにも聞かれたとか。ごめんね」
「――ちゃ、ちゃんと、しょ、処女だよって」
「そっか」
なんか変な理屈だけど彼女らしいと思った。転生して生まれ変わったから処女。そのためだけに転生。その事実だけで俺を守ってくれる。胸でつっかえていたものが綺麗に消えてしまった。こんなこと、おかしくて笑った。
「だから……、ちょっと! 笑わないでよ! 鑑定無いなら意味ないし!」
「そんなことで俺に鑑定つけてくれたんだ」
「そうだよ」
「俺が処女厨だから神様が付けたんだと思ってた」
「えっ、それはさすがにキモい」
「そうだね、キモいね」
俺はまた笑った。
◇◇◇◇◇
その後、俺はこっちに来てからの話をした。とても鑑定が役立って、それだけが頼りだったこと。おかげで生き残ることができたこと。
「人のプライバシー覗けるなら大抵のことは鑑定できちゃうんだなって思ったよ」
「私は別に他人のを見せたいわけじゃなかったけどね」
「今は女性の鑑定はしないようにしてる」
「えらいえらい。成長したね」
「まあそうだね」
「それで? ルシャちゃんとはどうなの?」
「いや、実を言うとアリアって子が心に決めた子だったんだけど――」
「えっ、二股してんの?」
「やや、ちがくて――」
話が長くなるがと前置きしたうえで、二人との関係を話すと、ハルカはしぶしぶ納得した。
「あと実を言うとキリカとリーメって子もいて」
一応、それぞれについては説明した。あとついでにミシカとヨウカのことも。
「なにそれハーレムじゃない。うわ、処女厨がハメを外すとこうなるのね」
「幻滅した?」
「どうかな。恋は自由だって思ってるから。私は」
「俺のことはともかく、ハルのことはいいのかよ」
「川瀬君? そうだね、その恋は破れたからもういいかな」
「こっち来てだれかいい人いた? 例えばそこの人は?」
「あの人はあれが役目の人だから。聖女を護るって神様に誓ったんだって」
「でもずっと一緒なんでしょ?」
「そうだね。小さい頃から護ってもらってた――けど、そういうのじゃないかな」
「そうなんです?」
従者の人に聞くが答えない。
「寝室で寝ずの番するときは何も言わないし、見ても見ぬふり。たぶん目の前で裸になって着替えても無視すると思う」
「えっ、そんなことしてたの?」
「しないわよ!」
「――嫉妬した?」
「ちょっと」
「欲張りだね」
◇◇◇◇◇
ハルやアオの話もする。そしてその中で出てきた騎士団長。
「それがこの騎士団長ってわけ。それが何故か俺とい……ぐぷぅ……げぷ」
油断していた。込み上げるものに俺はベッドから床に崩れこんだ。ハルカが気遣って擦ってくれる。
「よしよし。これは呪いだね。放っておいても次の新月か満月には解けるけど。問題は入れ替わりの方だよね?」
俺はうんとは言えなかった。
「答えられないんだ。文字にも書けない」
「そういう呪いみたいだね。入れ替わりの方は魔法の道具の影響下って書いてある」
「何とかならない?」
「なる……と思うけど、元の体の傍に行かないと危険かも。あとできたら魔法の道具も近くにある方がいいと思う」
「呪いが切れる前に殺されないようにしないとなあ。それと……」
「女の子たちが心配だね……」
そう。それがいちばんの心配事だ。
「元が婚約者いるのに女騎士に手を出したり、従者に男と偽って女の子侍らせたり、その上で聖女のルシャに手を出したりしてたような男だから」
「何かあっても彼女たち、許せる?」
ハルカは真剣な目をして言う。
「昔とは違うよ。大丈夫」
「なら協力してあげる」
「ハルカが居てくれたら百人力だ」
「筋肉馬鹿みたいに言わないでよ」
「どうしてそうなるかな」
俺は笑う。つい先日の森の中の出来事が嘘のようだ。今も決して良い状況とは言えないが、この強気の幼馴染は俺を安心させてくれた。
感想たいへんありがたいです。
完結したので設定予想・展開予想は自由に書いてくださって構いません。




