第18話 見知った顔
大賢者様は行方の分からない俺たちを心配して《千里眼》の魔法で追ってくれたらしい。目標の周辺に居る生物の目を借りる魔法らしいが、視界を得るための霊を飛ばしたのをリーメに掴まったみたい。ちなみに、普通は人間には入らないとか。
そして大賢者様から届かなかった手紙の内容のひとつに、勇者同士が諍いをおこし、アオという勇者はまだ王城に居るという情報があった。ハルが同じクラスの川瀬 晴ならアオのことも知っている。ハルの双子の妹の川瀬 蒼だ。どっちも美形だが、アオはカッコイイ大和撫子って感じの子ってことは知ってる。もちろんコミュ障だから話したことない。
ハル――川瀬は中性的な顔立ちで勉強も運動もこなすし、人柄もよくて男子からも女子からも人気があったと思う。嫌な奴じゃない。高校から一緒になって、当時は世の中にはこんなやつもいるんだなくらいにしか思ってなかったが、今から考えたら幼馴染が俺よりも好きになるのはごく自然なことだろう……。
とにかく、今は先にやるべきことがある。俺はエルフから得た情報を大賢者様に話した。国の方針か大臣の方針かはわからないが、今のやり方は間違ってると俺は思う――そう伝えた。
今回のことで権力のある貴族たちはそう単純でないことはよくわかったし、俺たちではどうにもできないこともあるとわかっていたが、これは200年も続いた愚策だとはっきり言ってやりたかった。何より、そんなくだらないことのために恋人の仲が裂かれるのに納得いかないと、思いの丈をぶちまけた。
大賢者様は多くを語らなかったが、いま魔王領と呼ばれている地帯には、確かに昔、人が住んでいた町がいくつもあって、魔鉱を産出していたという。ただ、今記録に残るのは魔王との闘いの歴史ばかりで、古い時代の情報が無いと言っていた。
◇◇◇◇◇
「まずは町の勇者一行を説得してみよう。騎士団長はともかく、ハル……川瀬なら説得に応じるかもしれないし、アリアたちに接触できたらなんとかなるかもしれない」
「わかった」
大賢者様との会話を終えるとリーメは無事元に戻った。まずは街に戻ろう。
「アリアデルは危ないからここに居た方がいい。食べ物を残しておくから」
「たべものはいらないよ? なくても木があるからおなかはすかない。どこにいくの?」
「ここを出て町に戻ろうと思う」
「アリアデルがいないとつぎのつぎのつぎのひまでかかるよ?」
「なん……だって……」
アリアデルは《森林渡り》の魔法を使ってエルフの抜け道を抜けてきたらしい。しかも既に三日経っているということが分かった。
すごい――リーメは言う……いや、すごいはすごいんだが、どうするよ。向こうはもう町を出発してるかもしれないが、他に道はない。戻ったら三日後かもしれないが、入り口まで戻ろう。
◇◇◇◇◇
途中、野営を挟んでアリアデルの木まで戻った。確かに少し時間の感覚がおかしい気がする。
「アリアデルはここに居て。誰か来るようなら森に逃げてね。他の人間は危険だと思うから」
入口の傍まで来ると、大規模な人間の集団の足跡が見つかる。まだ新しいが引き返した足跡の方が多い。
「ユーキ、あれ」
リーメの指差した先には、よろよろとこちらに向かって歩いてきている兵士。声をかけて駆け寄る。
「勇者一行はどうした? 撤退したのか?」
問うと兵士は、撤退じゃない、敗走だ――という。――昨日、隊は散り散りで勇者達は最前線で戦っていた。その後、軍を逃がすために最後まで残っていたはずだが行方はわからない――。兵士は負傷しているようだが、しつこく聞いて聞き出した。
俺は駆け出した。アリアたちはどうなった? 一日は時間が経っている。こんな場所で一日も持つのか? 目の前が真っ暗になるかのような感覚の中、ぬかるみに取られてもつれる足を進ませた。
「乗れ」
狼を召喚したリーメが言う。感覚が鈍るなか、必死で首に掴まった。
◇◇◇◇◇
途中、顔も知らぬ兵士や装備のない連中と何人かすれ違う。人狼にまたがった俺に驚くが、勇者一行を探していると言うと返答は返ってきた。その中でひとつ、『窪地の巨石に逃げ込んだ者たちが居る』という話が得られた。
◇◇◇◇◇
ぬかるみに沿ってリーメは走る。途中、休憩を挟みながら夕暮れまで走り、ようやくその窪地まで着く。窪地と言うよりは湖、もしくはクレーターと言った方が近いかもしれない。クレーター内には巨木が無く、開けていて中央は丸い湖になっているように見える。
あちこちに巨石が散らばっているが、広い岸辺に沿って右回りに続く足跡の先、砦のように積み重なる巨石の塊がある。
「あれだろうか?」
「なにか普通じゃない場所だ」
リーメの言う通りだ。だが、まずはあそこまで行こう。
◇◇◇◇◇
目的地が見えたため速度を落としたリーメ。この辺りは既に兵士は見当たらなかった。装備は散らばっているが死体のようなものは見えない。
徐々に巨石に近づいていくとその巨大さがわかる。もとが巨木だったのはわかるが、それが折り重なったような状態だ。
さらに近づくと、人が出入りできるくらいの入口のような加工や階段状の加工まで見え始める。
急にリーメが速度を上げる。
「何かいる」
同時に周辺の地面がもぞもぞ動き始め、持ち上がってくる。リーメの走る先の足場も危うくなり、彼女は跳ねるように地面を蹴ってバランスを取って走る。
「こっちだ!」
巨石の大きく開いた入口で手を振る人影。俺たちの背後では何か巨大なものがドスンドスンと地面を打っている。確かめる余裕もなく入口に向かって走り込むと、同時に真後ろから衝撃が走り、泥が浴びせられる。
「大丈夫か? 怪我は? どこか痛いところは無いか?」
手を差し伸べた男は、少し大人びて体もできていたが、見知った顔だった。
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