その品性は推して知るべし、ですか。
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翌日は案の定、全身筋肉痛で苦しんだ。
ギシギシと軋み、火照って熱を持つ身体。
特に、腕から肩に掛けては、ちょっとでも動かすと捥げそうなくらいの痛みと怠さを伴う。
「っ……ぐぅ……」
こんなに酷い筋肉痛は久々だ。
ちょっと泣きそうになりながら痛みを堪えてストレッチ。それから身支度を整え、階段をよたよたと移動して食堂へ向かう。
身体が重くて怠い。
筋肉痛、めっちゃツラいっ!?
ぷるぷるする腕で頑張って食事をし、部屋に戻って爆睡して――――
翌日は、少しマシになった。
けどやっぱり、思った通りに土日が完全に潰れてしまった。
クソっ・・・レザンの脳筋野郎め!
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月曜。
土日よりは幾分ましになったが、本調子には戻らず、身体からはまだ少しの怠さと痛みが取れない。
気怠さを感じながら午前の授業を受け、昼休み。食堂へ向かう途中で――――
「貴様っ、家を通じて文句を言うとは卑怯だぞっ!?」
「両親から疎まれているクセにっ」
どことなく見覚えのない気がしないでもない、多分先輩であろう怒りの形相をした男子生徒二人組に、いきなり絡まれた。
「? ぇ~と、失礼ですがどちら様でしょうか?」
早くごはん食べたいんだけどなぁ……
「巫山戯ているのか貴様はっ!?」
「いい加減にしろっ!!」
え? なにこの人達、いきなり絡んで来て人を怒鳴り付けるとか怖いんですけど・・・って、なんだか既視感があるような?
「すいません、人違いだと思います」
まあでも、変な輩に関わりたくないのは当然として。今はまだ体調も戻ってないし、相手するような気力も無い。面倒だと思いながらやんわりと言って離れようとしたら、
「先輩の方とは違って出来損ないのクセして」
「家族から疎まれているから、隣国に留学させられたんだろ? ハウウェル弟」
・・・ふむ。これは――――あれだな。兄弟よりもなにかが劣っていて、隣国に留学していたことのあるハウウェルさんが、この場にもう一人いない限りは、わたしのことだろうな。
「なにを言っているんですかあなた達はっ!?」
と、そこへ激昂した声が割り込んだ。
「下級生を相手に、謂われのない誹謗中傷はやめなさいっ!!」
青ざめた顔で、わたしへ絡んで来た相手を叱責したのはライアンさん。卒業後にセディーの秘書にと声掛けされていて、その縁かわたしの面倒を見てくれている三年上位クラスの先輩。
庇ってもらったところ悪いのですが、微妙に事実のような具体的な話がアホ共の口から出て来ているのが気になりますねぇ。
「ハッ、フィッセル子爵家の次男じゃないか」
「ああ、家を継げないからハウウェル先輩に媚びる為、出来損ないの弟のお守りまでするとはな」
「全く、恐れ入ることだ」
「どうせソイツは家族に疎まれている弟だ。お守りしてやっても、なんの得にもならないだろうさ」
どうやらわたしは、この二人の中では『家族に疎まれていて、セディーにも嫌われている』という設定のようだ。
あの、弟に甘いセディーがわたしを嫌っている、だなんてどこ情報なんだか?
「誰が、そのようなことを……」
さっきよりも血の気の引いた蒼白な顔で二人を見やるライアンさん。なんだか、今にも倒れそうな風情なんだけど……大丈夫でしょうか?
「ハウウェル夫人が言っていたそうだ」
「兄の健康を奪って生まれたクセに、成績の良くない、女みたいな顔の出来損ない。だから、祖父母にも疎まれて、目障りだと隣国に追いやられた弟なんだと」
「へぇ……」
ハウウェル夫人、か……成る程。
わたしが家族に疎まれているという情報を流したのは、母でしたか。ということは、この人達は母と付き合いのある家の子弟、または縁者と見て間違いないでしょうねぇ。
まぁ、確かにわたしは両親には疎まれていますね。セディーや祖父母にまで疎まれていたとは、初耳な話ですが……
所詮は母経由の情報ですし。存分に妄想込みの話と言ったところでしょうか。
あれだけわたしを心配してくれるお祖父様とおばあ様、セディーがわたしを嫌っていたとしたら、舞台俳優顔負けの物凄い演技力だと思いますね。
それに、おばあ様が見切りを付けた母と未だに……かはわかりませんが、兎も角、お付き合いをしているような性質のよくない人達の縁者ですし。その品性は推して知るべし、ですか。
仕方ありませんねぇ。相手をするつもりは無かったんですけどね。全く・・・
「……先輩方はご存知ないかもしませんが……実はわたし、ハウウェル侯爵の孫なんですよ?」
読んでくださり、ありがとうございました。
面倒な先輩達、三度登場。全く覚えられてないけど。(笑)




