どうせなら温かいごはんが食べたい!
馬車に揺られて数時間。傾いて来た日に赤みが差して来た頃、街に入った。
学園へと向かう馬車を何台か見掛けたので、荷物と剣を確認し、コンコンと御者に合図をして馬車を停めてもらう。
「さて、また走りますか」
帯剣して、行き同様に街を走り抜ける。
暖色に染まる街。しんとした静かな早朝にはなかった、活気と人の声と雑踏。仕事帰りのような人々がどこかへと歩いて行く。家々で夕食を作っているのか、あちこちからいい匂いが漂って来る。
大通りを走る馬車。ちらほらと、学園生徒らしき少年が歩いているのも見えた。
のんびり歩いていると、夕食を食いっぱぐれるんだけど大丈夫かな?
まぁ、街中で夕食を食べてから学園に戻るという手もあるけどね。
更に強者になると、夕食どころか、街で一泊してから朝に学園に戻るという人もいるらしい。まぁ、最悪、授業開始時間までに間に合えばいいから、ギリOKなことらしいけど。
元々は、夜中に戻って来て、学園まで辿り着けなかった人がいたから街での一泊が黙認されていたのだとか。現在は……わざと学園に戻らない不良生徒がいるとかで、なるべく街で一泊はしないようにして、学園まで戻ることが推奨されているが。
お堅い校風でも、やはりはみ出し者というのは存在するのか……と、なぜか感心してしまった。まぁ、まだそのはみ出し者の生徒とやらにはお目に掛かったことはないけどね。
・・・うん? もしかしたら、レザンがはみ出し者扱いされてたり・・・?
まさか、ね・・・?
学園に近付くにつれ、馬車が増えて来ました。というか、既に渋滞を起こしているようです。
もう夕方だというのに、連なって行く何台もの馬車。交通整理の方々、お疲れ様です。
きっと、あの人達は今日は遅くまで帰れませんね。徹夜をする人もいることでしょう。事件、事故が無いことを祈っておきます。
――――学園まであと数百メートル。
というところで、ずらりと何十台もの馬車が詰まっていました。ここから学園に到着するまでが、ひたすら長いこと掛かるんでしょうねぇ。
こういうのを見ると、徒歩でよかったと切に思います。歩けばたったの数分で着く距離が、渋滞で数時間にもなるんですから。
男子生徒なら兎も角、短距離だとはいえ、日暮れのこの時間に女子生徒が外を歩くのは非常に危険ですからね。まぁ、護衛を連れてぞろぞろ練り歩くという手もなくもないですが。
さすがに、そういう方々は……あ、いましたね。
『馬車から校門までの道乗りのエスコート、護衛の貸し出し致します』という幟を持って歩いている方々を発見。
おそらくは商家出身と見られる男子生徒でしょうか? が、先頭に立って護衛の人達を引き連れ、渋滞で進まない馬車へとノックして回っています。随分と商魂逞しいことですね。
明確に、高位貴族の物である馬車へは呼ばれない限り、絶対に向かわない方がいいと思いますが……まぁ、裕福な平民や、ギリギリ下位の伯爵位くらいまでなら、どうにかいけるかもしれません。
ああ、騎士の兄弟を護衛にと貸出して、顔と恩を売るパターンもあるんですか。下位貴族も考えますねぇ? 物凄~~く運がよければ、逆玉の輿という可能性もあるかもしれませんね。かなり薄い希望だと思いますが。
そういう努力と駆け引きの現場を見ているのも、そこそこ楽しかったんですが――――
学園に到着です。腰に佩いていた剣を外し、布に包んでから手に持ち、守衛さんに学生証を提示して、校門を潜ります。
戻って来ましたねぇ。さて、男子寮へ行きますか。
ラウンジで待ち受けていた職員に剣を預ける手続きをして、部屋へと戻る。
汗を流してから、お待ちかねの夕食♪
ふぅ……間に合ってよかった~!
結構走ったからなぁ。さすがに夕食抜きはつらい。
一応、非常食とおやつは部屋に常備してるけど、どうせなら温かいごはんが食べたい!
と、大盛りにしてもらった夕ごはんを食べていて。そろそろ食べ終わる頃、
「なぁ、知ってるか? 昨日の早朝のことを。馬車が来なくて困っている女子生徒を置き去りにして、自分だけさっさと帰省した奴がいるらしい」
「それはまた酷い話だ。それが本当なら、紳士の風上にも置けない」
「最低な奴だ。君もそう思わないか?」
近くに来た見知らぬ男子達に、いきなり声を掛けられました。
「はい?」
食べていたパンを飲み込み、首を傾げると、
「やはり、君もそう思うか」
「どうも、女子生徒を置き去りにしたというその男が、一年生にいるらしい」
「嘆かわしい話だとは思わないか?」
大仰に残念がって見せているが、その表情には全く隠し切れていない愉悦が滲んでいる。
表情も取り繕えないとは。まだまだですねぇ。
ちなみに、わたしは同意もしていないし。
まぁ、見るからに相手にするのはめんどくさそうだ。それに、昨日の早朝にそんなことがあったとは知らなかったなぁ。うん。きっと、わたしが行った後のことに違いない。
「そうですか。それはまた、大変な思いをした方がいたようですね。無事に家まで帰れたのならいいのですけど・・・」
と、憂い顔を作って溜め息を吐き、
「では、わたしはこれで失礼」
空の器を手に立ち上がる。
変なのに絡まれるのは嫌だからさっさと部屋に戻りますか。う~ん、もう一個くらいパンを食べたかったなぁ。残念!
「待て!」
「お前、あれだろう? いつも、デカくて目付きの悪い一年と一緒にいる女顔の奴」
「今日はデカいのは見掛けないがな」
ニヤニヤと笑う彼ら。目付きの悪いデカい一年というのは、レザンのことかな? 確かに、一年で百八十越えの奴はデカい。
まぁ、今日はレザンの方がまだ帰っていないか、既に夕食を済ませているか(奴のことは特に興味も無いけど)で、久々に一人ごはんを堪能させてもらってたんだけど・・・『女顔の奴』呼ばわりは、ちょっとイラッと来るな。
「人違いでは?」
うん。わたしの他にも、所謂女性的な顔立ちと言われる顔をしている人はいる。
だから、わたしのことだとは限らない。
「少し顔を貸してもらおうか」
全く、人の話を聞かない奴だな?
わたしはこれから……部屋に戻って、今さっき食べ損ねたパンの代わりにお菓子を摘みながら、ごろごろまったりして、明日の準備をしてから眠るという大事な予定がびっしり詰まっているというのに。
こんな、見るからに輩のような連中に構っている暇は……ハッ! 今、食堂にいる他の生徒達にサッと目を逸らされた。
よもや、これが……この学園のはみ出し者と呼ばれる存在なのだろうか?
この先輩達がねぇ?
「・・・」
「聞いてるのかっ!?」
「お前が、あのデカい奴に虐められているのは知っている」
「大人しく付いて来いよ」
その誤解、まだ解けていなかったのか。
仕方ないなぁ。全く・・・
読んでくださり、ありがとうございました。
ごろごろまったりしてから眠るという、大事な予定がびっしり。(笑)




