懐かしい感覚ですね。
「全然平気。問題無いよ」
にっこりと微笑むセディー。
「でも・・・」
「ふふっ、もう仕方ない子ね。そうじゃなくて、ネイトと一緒に過ごしたいんだ、ってちゃんと素直に言えばいいことでしょ」
クスリと優しい瞳で笑うおばあ様に、つぅっと逸らされるブラウン。その耳まで赤くなっている。どうやら図星だったらしい。
セディーも、おばあ様には勝てないみたいだ。
「ネイトも、別にセディーに遠慮なんかしなくていいですよ。どうせセディーは、ネイトに構いたくて仕方ないんですから。セディーと遊びたいなら、遊びたいと仰いなさい」
勿論、わたしもおばあ様には勝てませんが。
「っ……僕と、一緒に、いてくれる?」
さっきの、「勉強を見てあげる」と言ったのとは全然違って、どこか自信がなさそうに、ぽつりとわたしを伺うようなおどおどした声。
「うん。セディーがいいなら、だけど」
「ほら、最初から素直に言えばよかったでしょ?」
おばあ様が得意げに言う。
「・・・はい」
やっぱり、おばあ様は強いですね。さすがです。
「ネヴィラ、セディー! わたしを除け者にしてネイトと三人だけでお茶会とは何事だ!」
またしてもバタバタと足音がして、今度は低く渋い声が響きました。
「あら、お帰りなさいあなた」
「お帰りなさい、お祖父様」
「ただいま。いや、それよりネヴィラ、わたしを除け者にするのは酷いではないか」
むすっとした顔でおばあ様とセディーに文句を言い、わたしへ向き直るお祖父様。
「帰って来たようだな、ネイト」
「はい、ただいまです。お祖父様」
目を細めながら、わしゃわしゃと頭を撫でるお祖父様に挨拶を返します。
「ハハハっ、髪がぐしゃぐしゃになってしまったな。すまんすまん」
懐かしい感覚ですね。
騎士学校で外泊許可をもぎ取ってこっちに帰って来たときにも、こんな風にお祖父様は慌ただしく帰って来て、できるだけ長くわたしと過ごそうとしてくれたんですよね。
頭も、結構な頻度でぐしゃぐしゃにされますが。
「いえ」
すまんとは言っていますが、お祖父様が悪びれもしないのもいつものことなので、髪紐を解いて手櫛で整えてまた結び直します。
ぶっちゃけお祖父様って、わたしの顔がかなり好きみたいなんですよねぇ。わたし、おばあ様の若い頃にそっくりらしいので。
ちなみに、お祖父様とおばあ様はある意味、恋愛結婚らしいです。
それは、今から数十年前。お祖父様がまだ十代の少年だった頃のこと。
隣国で行われた演奏会パーティーに偶々参加したとき、会場で数名の貴族子息達に囲まれて困っている可憐な令嬢を見掛けたのがお二人の出逢いだそうです。
その令嬢を助けようと思って動こうとしたら、カツカツとハイヒールを鳴らしながら別の令嬢がやって来て、「邪魔よ。見苦しいことこの上ないわ、お退きなさい」と、自分の持っていた扇子でバシっ! と、中心人物らしき子息の顔を打ち据えて張り倒し、颯爽と令嬢を助けて去ってしまったのだそうです。
ちなみに、令息を張り倒した少女へ文句を言い掛けた他の取り巻きの少年達は、その年下の少女の蔑むような睨みと扇子を振る仕種とに恐れをなしたのか、青い顔でさっと道を開けたらしい。
お祖父様は、驚愕と衝撃と共に、当時の初々しくも凛として勇ましく美しいおばあ様の姿(お祖父様談)に一目惚れをして、おばあ様とそのご家族(当時のクロシェン伯爵)を追い掛けて、頑張って口説き落として婚約を結んで、こちらに来てもらったのだとか。
うら若き少女だったおばあ様もおばあ様(当時十二歳)で、爵位が上なのに内気で控え目なお友達のお嬢さんを守る為とは言え、爵位が下のアホ令息を扇子で張り倒して周囲の令息達をドン引きさせてしまい、「やってしまったっ!? けど、後悔はしていないわ」と胸を張って父(当時のクロシェン伯爵)に怒られる覚悟をしていたところに、なんだか悪くなさそうな見知らぬ貴族子息(当時のお祖父様十五歳)がいきなり求婚して来たので、かなり驚いたと言っていましたね。
なので、とりあえずは口約束で仮婚約して、「十代後半になっても良さげな男が国内にいなければ結婚してもいいかな?」と思って受けたそうです。
婚約の申し込みで慌ただしくなり、そのどさくさで家族からのお説教も回避できたので「ラッキー♪」と、おばあ様はお祖父様に好印象を抱いたのだとか。
そして、「もし結婚生活が嫌になれば、隣国から実家に帰って来ればいいのよ!」と、軽く考えていたのだとか。あ、これはお祖父様には言っちゃいけない内緒の話なんだそうですが……
困っていたお友達を助ける為、扇子で年上の少年を張り倒したおばあ様は、その後貴族令嬢達に「格好いいですわ、ネヴィラ様素敵!」と、とても人気を博したのだとか。
お祖父様の一目惚れと、おばあ様側は打算で受けた婚約という、お二人の認識と温度差が少々アレな感じですが、おばあ様は短期間の里帰りなら兎も角、長期間実家に帰ることもなく――――
お二人は今も仲睦まじいですからね。
……あと、実はおばあ様の尻に敷かれているような気がしますが、お祖父様は幸せそうですし。いいと思いますよ。わたしは。
「全く、慌ただしいことですね。今お茶を用意させますよ。ほら、座って待っていらしたら?」
「そうしよう」
おばあ様に頷いたお祖父様が着席しました。
「で、どうなんだ? 学園では上手くやれているのか?」
「ええ。多分、大丈夫だと思います」
「そうか」
うんうんと頷くお祖父様。
「学園では好きに過ごして構わないが、あまり羽目を外すのはいかんぞ。成績は下位クラスに落ちなければそれでいいからな。無理して上位クラスに入らずともいい。とは言え、変な輩と付き合うのはいかんな。その辺りには気を配りなさい」
「はい、お祖父様」
「そんなに心配しなくても、ネイトなら大丈夫ですよ」
「そうですよ、お祖父様」
お祖父様も交えてお茶をしていたら、夕食の時間になり、料理が運ばれて来て、そのまま夕食の席となりました。
「今日はネイトの好きな物を用意したから、たくさん食べなさい」
テーブルに並ぶのはご馳走です。
「旦那様はああ言うけど、無理して食べることはないですからね」
「はい、おばあ様」
まぁ、軽食を食べながらお茶して、そのまま夕食ですからね。
「今日のデザートはベリーのタルトなんだって。後で夜食に貰おうかな」
やっぱり、どう考えても、両親よりもお祖父様とおばあ様の方がセディーとわたしの家族ですよねぇ。
両親とは、こんな風に和気藹々と過ごしたことは一度も無いし。
まぁ、今更両親と家族のように過ごしたいとも思わないけど。
読んでくださり、ありがとうございました。
お祖父様登場。そして、おばあ様の馴れ初め話でした。(笑)




