だから内緒にしておきたかったのにっ!!
誤字直しました。ありがとうございました。
おばあ様の後に付いて行くと――――
ほっこり上がる湯気に、ふわりと香る紅茶の匂い。
テーブルに並べられたのはクッキー、スコーン、サンドウィッチ。どれも美味しそうだ。
「いただきます」
「どうぞ、お食べなさいな」
早速手を伸ばすわたしに、笑みを含む声。
そして、ハムサンドを食べているときだった。
「あ、ズルいですよおばあ様! 僕もネイトとお茶したいです。交ぜてください」
バタバタと足音がして、セディーが現れた。
「ふふっ、どうぞ」
「ありがとうございます♪おはよう、ネイト。よく寝てたみたいだね」
ごくんとサンドウィッチを飲み込んでから、席に着いたセディーに返事を返す。
「おはよう、セディー」
「うん。学園はどんな感じかな? もう慣れた?」
「そうだなぁ・・・」
学園の規則がユルくて驚いたこと。教師も生徒もみんなが穏やかなこと。喧嘩が殆ど起きなくて平和なこと。騎士学校時代の知り合いがいて驚いたことなどを話した。
「騎士学校時代の知り合いって?」
「ああ、レザン・クロフトって騎士学校時代の同級生で、三年間ずっと首席だった奴がね」
「クロフトは確か、軍人の家系じゃなかったかしら?」
「ええ。レザンのお父上の命令だそうで。軍閥以外の知り合いを作れって言われたらしくて、学園に来てたんですよ」
「あらあら、それはまた大変そうだこと」
「そうですねぇ。レザンは、学園では結構浮いているみたいですから」
比較的血の気の多い野郎共の多かった騎士学校時代のノリだと、おっとりした子息令嬢達の多い学園では、そりゃあ浮く。
浮き捲りだ。入学初期に絡まれて、無自覚に返り討ちにして以来、同級生間ではヤバい奴認定されてるし。アイツ、長身三白眼の強面な顔だし。笑えば爽やかな顔になるんだけど・・・
面白ければ笑うだろうけど、常に愛想笑いができるような性格でもないし、脳筋だからなぁ。
そして、同級生の友人はまだできていないらしく、休憩時間にはわたしにやたら絡んで来る。その絡み方が、ちょっとウザい。
「でも、乗馬クラブに入部してからは、他に友人ができたみたいでなによりです」
「っ、乗馬クラブって、ネイトも入ったの?」
ぎょっとしたようなセディー。
「? うん。入れば、好きなときに乗馬ができるって聞いたからね」
「ぁ~……そっか、入ったんだ……」
「どうかしたの?」
「いや、どうって言うか……その……」
珍しくセディーの渋い顔。
「ふふっ、実はね、ネイト。セディーも、乗馬クラブに入っていたのよ」
クスクスと笑うおばあ様。
「おばあ様!」
声を上げるセディーにちょっと驚いた。
「? セディー?」
ぱちぱちと瞬いてセディーを見詰めると、
「・・・ああもうっ、いいですよ。人からバラされるくらいなら、自分で言いますから!」
セディーはムッとしたように言葉を続けた。
「僕も・・・乗馬クラブに入っていたけど、全然乗馬が上達しなかったんだよ」
そっぽを向いたその白い頬が、赤くなっている。どうやら恥ずかしいらしい。セディーのこんな顔は、初めて見た。ちょっと、可愛いかもしれない。
「ふふっ……」
「ああっ、ネイトに笑われたっ!? だから内緒にしておきたかったのにっ!!」
がくりとへこんだ顔をするセディー。
「いや、ごめんセディー。ただ、セディーにも練習してもできないことがあるんだなぁって思って」
「もう、なに言ってるのかな? そんなの当たり前でしょ、ネイト」
ツンと拗ねたセディーが可愛い。ああ、セディーにもまだ子供っぽいところがあったんだと思って、なんだか安心して・・・嬉しくなる。いつもいつも、セディーはわたしには余裕の笑顔ばかり見せていたから。
実家にいた頃のセディーは、いつだってわたしを気遣って心配させないよう、大人びた笑顔を作って、「大丈夫だよ」って言ってばかりだった。両親に対しては、常に冷ややかな微笑みを纏って対応していた。
そんなセディーが、わたしの前でおばあ様に子供扱いされて、恥ずかしがって、落ち込んで、顔を赤らめて拗ねた顔を見せている。
それが、こんなにも嬉しい。
「いつもは、どの子に乗っていたの?」
「・・・一番大人しくて、のんびりした子だよ。乗馬初心者の女子生徒がよく乗っている子」
ぼそぼそと呟くような答え。
「あの子じゃないと、他の馬はあんまり僕を乗せてくれないから・・・」
「そうなの?」
「僕のことはもういいでしょ!」
そんなことはないんだけどな?
セディーの学生時代の話を聞くのも新鮮で面白いし。今度乗馬するときに、一番のんびりした子を探して乗ってみようかな?
「それより、ネイトはレザンって子の他に友達はできたの?」
思いっきり話を逸らす気だ。まぁいいけど。
友達は・・・なんだかんだレザンの野郎が絡んで来るせいで、わたしまで若干同級生に遠巻きにされている気がするからなぁ。あくまでも、若干の遠巻きだ。レザンのようにあからさまに避けられる程ではない。
まぁ、乗馬クラブではその限りじゃないけど。今は同級生達と仲良くというよりは、学年を越えたお付き合いの方が多いかもしれないな。学年が違うと、レザンの噂も届いてないみたいだし。同級生達みたいに怖がられてもいないから。
う~ん。同級生に遠巻きにされているなんて、話せないよなぁ。心配はなるべくさせたくないし。
「ああ、そう言えば、ライアン・フィッセル先輩がわたしによくしてくれたよ。セディーにお世話になったからって。テストの前に勉強を見てもらったんだ」
「へぇ、ライアン君が・・・」
? なんだか、セディーの声が急にトーンダウンした気がしたけど・・・
「セディー?」
今一瞬、不機嫌そうに見えたような・・・?
「それじゃあ、僕がネイトの勉強を見てあげるね」
にっこりといつもの笑顔。
「え?」
気のせい、かな?
「ライアン君よりも、僕の方がネイトに教えるのは絶対上手いから」
「いや、セディー? なんでいきなり勉強? わたし、一応自分でするけど」
教科書なんかは持って来てないけど、セディーのお古はあるから予習復習は自分でできる。
「自分でするの? ・・・ネイトは、僕に勉強を教わるのは嫌?」
しゅんと悲しげに伏せられるブラウンの瞳。いやいや、そんな顔をされても・・・
「そんなことはないけど、セディーだって忙しいでしょ?」
次期侯爵になる為の勉強とか。父を追い落とす為の、三年間の期限だとか。セディーがすっごく優秀なのはちゃんと判ってるけど・・・
「わたしに構ってって大丈夫なの? わたし、セディーの邪魔はしたくないよ」
「全然平気。問題無いよ」
読んでくださり、ありがとうございました。




