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嵐の前の5

 






 テント型住居内に小さく灯る簡素なランタンがひとつ。


 獣の毛皮を広げた敷物の上に薄い狩衣を着た少女が横になって寝ている。


「……ん……あ……」


 苦しげに寝返りを打つと、白銀色の腰まである長い髪がサラサラと流れて甘い香りが辺りに漂い鼻腔をくすぐる。


 美しい少女だ。


 酒に酔って白い頬を赤く染めて、獣耳をピクピク震わせ、可憐な唇から紡がれる吐息には少し酒の匂いが混じっている。


「……………………」


 その横になって酔い潰れ寝ている美少女の上に金糸の鬣を持つ細くも逞しい身体つきの端整な顔立ちの青年が覆い被さるようにして少女の顔を覗きこむ。


 この女神もかくやというべき麗美なる乙女は、たいそう酒に弱く、一滴でも含めばたちまち酩酊してしまうのは幼馴染である青年は知っていた。


 どういうわけか、自分から酒を一気飲みするという無茶なことを先程行い、この有り様だった。


 戸惑った青年ザイファはひとまず、ぶっ倒れた少女を自分の住居に運んで介抱していたのだが。


「………はあ、はあ、はあ……」


 少女の細いしなやかな体の上に組み伏せるように覆うザイファは荒い息を連打し、金の瞳を爛々と不気味に輝かせていた。


 この少女は一度酒に酔ってしまえば、並大抵のことでは起きないことを知っている。


 多少強引なことを行ったとしても。


「……ヴェネ……俺は……お前が……」


 鋭い犬歯を剥きつつザイファは、顔をしかめて聴こえない少女に囁く。


 今ならこの少女を好きに出来る。


 夢にまで見た麗しい少女が、自分の想い人が、目の前で無防備に、その魅力的な肉体を晒している。


 今まで何人もの女衆たちが、自分と添い遂げようと甘く囁き豊満な媚肉を晒して誘惑してきた。


 他の男衆ならば迷うことなく誘いに乗っただろう。


 自分も女たちの甘美な誘いに頷いてしまいそうなときが幾度となくあった。


 だがそのたびに脳裏に過ぎるのは、いつも快活に華が咲いたように笑う白銀の乙女の顔。


 誘惑に甘んじて女を抱くのは、さぞかし心地良いのだろう。


 甘くむせ返る匂いを放つ女たちの肉体に溺れてしまえば、こんな狂おしい気持ちに苦しむことも無くなるかもしれない。


 それでも――――


 この自分の体の下に組み伏せる白い頬を酒の酔いで朱色に咲かせた少女を想うと、出来ない。


「……はあ、はあ、はあ……」


 欲しい。


 この少女が。


 今ならば何をしても起きないだろう。


 やってしまえばいい。好きなように思う様に。


 普段から思っていた淫らな妄想を実行出来る。


 自分の身に起きたことを知ったとき彼女は嘆くだろうか。怒るだろうか、哀しむだろうか。


 彼女が本気になれば俺は半殺しか、いや、殺されたって構わない。


「……ヴェネ……」


 やれ。犯せ。貪れ。蹂躙しろ。徹底的に。肉体の隅から隅まで、雄の匂いを、自分の匂いを刷り込ませろ。


 なんなら孕ませてしまえばいい。


 途中で起きたって構うものか。孕むまで何度も……


「……あふぅ……」


 少女の酒の匂いが混じった甘い吐息に乾いた喉を鳴らし、震える手が寝息を立てる少女の乱れて捲れた狩衣から覗く上下する白い膨らみに伸びて……その着衣を掴み、ゆっくりと………







 元の位置に戻した。



「………何をしているんだ……俺は……」


 ザイファは大きく息を吐いて少女の身体の上から退いて横に腰掛けた。


 違う。


 俺はこんなことがしたいわけじゃ……いや、したくないといえば嘘だ。


 今すぐにでもこの少女を自分のモノにしたい衝動が身体の内側から轟々と湧き上がる。


 たが、それをしてしまったら何かが壊れてしまうような……それが何かは分からないが……


 少なくとも自分と少女の関係は変わるだろう。


 良くも悪くも。


「……はあああぁ〜〜〜〜っ。何で俺は、お前のことがこんなにも気になるんだ?お前はこんな気持ちになったことはあるのか?ヴェネ?」


 ザイファは苦笑いしながら、むにゃむにゃと呑気に寝息を立てる少女の頰を撫でる。


「……俺に根性が無いだけか。だが、今は待ってくれ。いずれ想いは伝える。その結果はどうあれ、俺はお前を必ず守る。例えこの命を失っても……」


 頰を撫でると銀色の尻尾がパタパタと横に振られてくすぐったそうに微笑み微睡む少女。


 その時、途轍もない爆発音と大地を揺るがす振動が襲いきた。


「な、何だっ!?」


 それは森を抜けた先の集落の入り口辺りから起こった。









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