暴風、災い運びて
「ガッハッハッハッ!おおっ!情報通り獣人どもがウジャウジャいやがるぜっ!それもレア種な人狼族ときたもんだっ!こりゃ狩りがいがあるぜっ!!」
炎に巻かれた集落の中を堂々と闊歩する身の丈3メートル近くある武装した巨漢の男。
緑色のザンバラ髪の片側スキンヘッドに魔術的紋様の刺青を頭と顔半分に入れ、背中に巨大な大剣を装備し、凶悪で軽薄そうな眼差しで戸惑う人狼族の村人たちをニヤニヤ眺める。
「ジャフ、あんまり殺すんじゃないよ。魔術師の旦那に叱られちまうからね」
巨漢の男の隣に燃えるような赤い髪のポニーテールをした身体中に魔術的紋様の刺青を施したほとんど紐のような胸先と股間を僅かにプレートで覆っただけの鎧?をグラマラスな豊満な肉体に身に付けた美女が男を窘める。
冷酷そうな切れ長の目で裸同然な丸出しの腰に鞭を装備し、チラリとこちらに戸惑いながらも何人か武器を持ち身構える獣人たちを見やる。
「ガッハッハッハッ!分かってるとも、ビビィ。前は殺しすぎて報酬を半分減らされたからなぁ。手加減するぜっ!」
笑いながら筋肉の盛り上がった太い首と丸太のような腕をゴキゴキ鳴らすジャフと呼ばれた男。
「獣人ども、下手に抵抗したら容赦無くアタシの鞭で縊り殺してやるからね。大人しく言うこと……って、ヤル気満々ね」
ビビィと呼ばれた女が武器を持つ獣人たちを面倒そうに見て嘆息する。
「き、貴様ら人間かっ!?ここに何をしに来たっ!ここは我ら誇り高き人狼族の集落と知っての狼藉かっ!!」
獣人の男たちが手に槍や手斧を装備して間合いを測る。
人狼族の戦士である彼らは女子供が逃げる時間を稼ぐためにわざと問う。
「ガッハッハッハッ!誇り高いだと?低俗な犬っころどもが。お前ら獣人など俺ら人間様の飯のタネでしかないんだぜ。大人しく従って奴隷になるならば、殺しはせん」
見上げるような巨漢の男ジャフが口をゆがませ心底馬鹿にしたように答える。
「ジャフ。いちいち獣どもと話す必要は無いよ。人狼族は他の獣人と違ってエルフ並みに知恵があるからね。仲間が逃げる時間を稼ごうとしてるのさ」
「おお?そうなのか。確かにオスばっかりだな。まあオスは戦奴隷でも魔法の実験材料にもなるが、売るならやはりメスが高いからな。捕まえるなら女子供に限る」
武装した人狼たちに囲まれているが、まるで気にすることなく世間話のように会話する2人。
「……奴隷だと……? ……やはり貴様ら人間は度し難いほどに下賤で愚かな生物だ……その腐った魂、神々に捧げるまでもなく無に還してやろうっ!」
槍や手斧を持つ人狼たちが瞬時に2人の人間に飛びかかり襲い掛かる。
決して油断や慢心は無い。
この人間たちが手練れだということは戦士の本能で理解出来る。
故に一気に初手から全力で相手がまだ本気でない内に始末するのだ。
鋭い槍の矛先が貫こうと、斧の刃が切り込もうと迫る中、巨漢の男が不敵に口元を歪ませる。
「イキがいいのはいいことだ」
空間に亀裂が走った。
いつのまにか背中に担いでいた大剣を手に持つ巨漢の男。
途端、空中で武器を構えた人狼の男たちが木っ端微塵にいくつもの細かな肉片となって地面に真っ赤にばら撒かれた。
「ジャフ……殺すなって言ったでしょ……」
赤髪ポニーテールの女がやれやれとかぶりを振る。
「おっと!つい力が入っちまった。すまんすまん」
巨漢の男が頭の片側スキンヘッドの部分ををペシリッと叩き、軽く苦笑いする。
続けて第二波の攻撃にと残っていた人狼たちが驚愕してたたらを踏む。
何が起きたのか分からなかったのだ。
同胞たちが一瞬で斃されたことしか分からなかった。
「くっ!怯むなっ!我ら勇猛なる人狼の一族っ!敵に臆する事なく挑む神代の戦士っ!!」
仲間を失った動揺を排し、すぐ様強靭な精神力で戦士の顔を取り戻す人狼たち。
裂帛の気合いと仲間の仇と怒りに殺気を秘めて四方から距離を素早く詰めて人間たちに挑みいく。
「……今ので力の差が理解できなかったのかしら?これだからケダモノは嫌いなのよね」
赤髪ポニーテールの女が腰に下げた鞭をシュルリと解き、鞭打を放つと空中に赤々と灼熱の焔が舞い広がり踊る。
「ぐわあああああああああぁぁぁっ!!!」
「ぎゃあああああああああぁぁぁっ!!!
人狼の男たちがことごとく燃立ち火達磨になり、地面に転がりのたうち回りやがて動かなくなり黒い消し炭になった。
「おいおい。お前も殺してるじゃないか、ビビィ」
「いいのよ、言葉より態度で示した方が時にはいい時もあるの」
辺りに生き物が焼け焦げた鼻をつく異臭が漂う。
「さあ、アンタたちもこうなりたくなかったら言うこと聞くことね。じゃないと、もっとたくさん死ぬことになるわ」
赤髪ポニーテールの女が冷酷な瞳で睨め付け、手に持つ鞭をバシィッンッとしならせる。
武器を構えた人狼たちが悲壮感を顔を滲ませる。
今戦った戦士たちは集落の中でも優れた者たちだった。
それをいとも容易くあっという間に屠る人間たちに対して得体の知れぬ恐怖を懐かせるには充分だった。
戦ったら確実に殺される。
隠れて身を震わせていた女子供も、抵抗する気でいた戦えない者も圧倒的な力の差を見せられて絶望的な重々しい空気がジワリと滲む。
このまま殺されるぐらいなら……
諦めが心を支配しようと重くのし掛かかろうと………
「我ら誇り高き神々の落とし子。一切の心揺らぎなく一切の心曇りなく、ただただ我らの敵を粛々と一切合切有象無象を打つ刃の一片となる」
突如、空虚を切り裂く轟音の波が大気を震わし燦めく剛刃とともに飛来する。
「ぬおっ!?むうううぅんんっ!!!」
巨漢の男ジャフがすかさず大剣で切り払い打ち弾く。
甲高い金属音で弾かれ宙空をグルグル廻るそれは巨大な両刃の斧。
そして弾かれた戦斧をガシィッ!と筋骨隆々な腕で鷲掴んだのは、灰色の鬣に隻眼褐色の長身の美女。
「……儂の村で好き勝手しやがって人間が。貴様ら生きて帰れると思うなよ?」
人狼族族長カルエラがギロリと紅い眼光を怒りに沸々と滾らせ、巨大な両刃戦斧を振り上げ構えた。




